326 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/09/08(月) 20:37:15.49 ID:HHvrSo20
タイトル「終わる人と終わらない幼女」
タイトル「終わる人と終わらない幼女」
どうやら、私は、死ぬ。と言う定め。らしい。
らしいというのは、私が、悪性腫瘍物……
要するにガンに遣られているからだ。
何処の部位? と、言われてしまえば全身。といえばいいのだろうか?
肝臓。肺。骨髄。血液……まぁ、本当に全身だ。
要するにガンに遣られているからだ。
何処の部位? と、言われてしまえば全身。といえばいいのだろうか?
肝臓。肺。骨髄。血液……まぁ、本当に全身だ。
医者の言うには、余命は不明だが、一年は生きれないだろうと言う。
とりあえず、抗癌剤と鎮痛剤を処方してくれた。
もう来るつもりが無い事を話すと、医者は沈痛な面持ちになってしまった。
山ほどの抗癌剤と鎮痛剤。とりあえず、これが何時まで持つのか。
不思議と死ぬという事柄に恐怖は無い。
対岸の火事と言うものだろうか? 実感が湧かないのだ。
とりあえず、抗癌剤と鎮痛剤を処方してくれた。
もう来るつもりが無い事を話すと、医者は沈痛な面持ちになってしまった。
山ほどの抗癌剤と鎮痛剤。とりあえず、これが何時まで持つのか。
不思議と死ぬという事柄に恐怖は無い。
対岸の火事と言うものだろうか? 実感が湧かないのだ。
他の癌の病者は、何かしらの恐怖を抱くのかもしれない。
だが、私は本当にその恐怖が湧かないし抱きもしない。
異常なのかもしれない。もしくは、もう諦めがついてしまったのかもしれない。
だが、私は本当にその恐怖が湧かないし抱きもしない。
異常なのかもしれない。もしくは、もう諦めがついてしまったのかもしれない。
セブンスターのメンソールを吸う。
既に犯された肺をさらに汚す紫煙。
その紫煙は、口から吐かれ風に吹き飛ばされ消えた。
327 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/09/08(月) 20:38:22.36 ID:HHvrSo20
親は、遠く離れた場所に居る。
上京組と言えば分かるだろうか?
私の故郷は、冬になれば雪が積もりその雪を利用した祭りがある場所だ。
今となっては、帰りたくても帰れない故郷。
そんな無駄な事を考えていたら。母親が作ってくれた親子丼が食べたくなった。
既に犯された肺をさらに汚す紫煙。
その紫煙は、口から吐かれ風に吹き飛ばされ消えた。
327 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/09/08(月) 20:38:22.36 ID:HHvrSo20
親は、遠く離れた場所に居る。
上京組と言えば分かるだろうか?
私の故郷は、冬になれば雪が積もりその雪を利用した祭りがある場所だ。
今となっては、帰りたくても帰れない故郷。
そんな無駄な事を考えていたら。母親が作ってくれた親子丼が食べたくなった。
「其処の兄ちゃん」
不意に声をかけられる。
声の主は、サングラスを掛け無精ひげを生やした男だった。
多分、湿気たタバコを口に咥え、静かに紫煙を揺らしていた。
声の主は、サングラスを掛け無精ひげを生やした男だった。
多分、湿気たタバコを口に咥え、静かに紫煙を揺らしていた。
「幼女いらねぇか?」
幼女? と、よくよく見れば、男の横に目に包帯を巻いた襤褸切れの様なシャツを着た幼女が居た。
「どうせ、ひろいもんだ。安くするぜ?」
拾い物と言って置いて、売る根性に私は、苦笑をしてしまった。
そんな私の様子に、男はポリポリと頬を掻く。
そんな私の様子に、男はポリポリと頬を掻く。
「九百八十円税込みでどうだ?」
正規の店で売っている訳でもないのに税込みとはどう言う事なんだと……今度は、笑ってしまった。
この男なりの冗談なのだろう、丁度財布の中にあった九百八十円を男に手渡す。
空っぽになった財布を見て、あぁ、金をおろさないとな。などと、思った。
328 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/09/08(月) 20:43:47.02 ID:HHvrSo20
「コレでまともな煙草が吸えるわ。あんがとよ、兄ちゃん」
この男なりの冗談なのだろう、丁度財布の中にあった九百八十円を男に手渡す。
空っぽになった財布を見て、あぁ、金をおろさないとな。などと、思った。
328 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/09/08(月) 20:43:47.02 ID:HHvrSo20
「コレでまともな煙草が吸えるわ。あんがとよ、兄ちゃん」
そう言うと男は、さっさとその場から立ち去っていった。
目に包帯を巻いた幼女は、男が立ち去った事すら気が付かないのか、ただその場にジッと立っている。
私は、煙草を踏み消した後で、その幼女を見やる。
目に包帯を巻いた幼女は、男が立ち去った事すら気が付かないのか、ただその場にジッと立っている。
私は、煙草を踏み消した後で、その幼女を見やる。
「少しの間。私がお前と共に居る事になるが……問題ないだろう?」
「……貴方が、私のカダヤ? 私は欠陥を抱えているけど。いいの?」
「欠陥? なぁに……私の方が、君より欠陥品なのさ」
「……わからない。貴方の顔が見えないけど。よろしくね。私のカダヤ」
「とりあえず、君の名前何?」
「さぁ? 既に亡くなってしまったから、貴方が私の真名<マナ>を頂戴」
「真名とは、また古い……じゃぁ……そうだなねぇ……」
「どんな名前でも、私は文句ないわ。カダヤが真名をくれるのなら」
「蜩。でいいかな。ま、女の子らしくない名前だけどね」
「それで、いいわ。私は、貴方と共に」
「本当に、少しの間だろうけどよろしく? 蜩」
「えぇ。よろしくね。私の歌雫夜<カダヤ>」
「……貴方が、私のカダヤ? 私は欠陥を抱えているけど。いいの?」
「欠陥? なぁに……私の方が、君より欠陥品なのさ」
「……わからない。貴方の顔が見えないけど。よろしくね。私のカダヤ」
「とりあえず、君の名前何?」
「さぁ? 既に亡くなってしまったから、貴方が私の真名<マナ>を頂戴」
「真名とは、また古い……じゃぁ……そうだなねぇ……」
「どんな名前でも、私は文句ないわ。カダヤが真名をくれるのなら」
「蜩。でいいかな。ま、女の子らしくない名前だけどね」
「それで、いいわ。私は、貴方と共に」
「本当に、少しの間だろうけどよろしく? 蜩」
「えぇ。よろしくね。私の歌雫夜<カダヤ>」
339 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/09/09(火) 19:18:37.03 ID:koE/xwM0
終わる人と終わらない幼女 続き
終わる人と終わらない幼女 続き
私と蜩は、お隣さんの家にお邪魔していた。
切っ掛けは、なんだっただろうか?
そのお隣さんの名前は、各務さん。
幼女を二人養っているサラリーマンだ。
切っ掛けは、なんだっただろうか?
そのお隣さんの名前は、各務さん。
幼女を二人養っているサラリーマンだ。
その幼女二人の名前は、面倒くさがりな各務さんの性格が反映されたのか。
月見うどんに天麩羅うどんと……どう見ても同名の食べ物の名前なのだ。
名前の由来を一応聞いてみれば、出会った時に食べたうどんから。だと言う。
月見うどんに天麩羅うどんと……どう見ても同名の食べ物の名前なのだ。
名前の由来を一応聞いてみれば、出会った時に食べたうどんから。だと言う。
「私のカダヤ」
「なんだい。蜩」
「此処は、賑やかね。楽しいわ」
「なんだい。蜩」
「此処は、賑やかね。楽しいわ」
それは、よかった。と、蜩の頭にポンッと手を置く。
それを見た月見うどんと天麩羅うどんが、私にも蜩さんみたいにしてください!
と、各務さんに詰め寄っている。そんな各務さんは、非常に面倒くさい表情を浮かべた。
やれやれ。しょうがねぇなぁ。と、二人の頭に手を伸ばそうとして……
インターフォンが鳴り、その手は空振りし、そのまま各務さんは玄関へと歩いていってしまった。
月見うどんは、残念そうに、天麩羅うどんは、タイミング悪すぎですよぉ! と、吼えるのだった。
それを見た月見うどんと天麩羅うどんが、私にも蜩さんみたいにしてください!
と、各務さんに詰め寄っている。そんな各務さんは、非常に面倒くさい表情を浮かべた。
やれやれ。しょうがねぇなぁ。と、二人の頭に手を伸ばそうとして……
インターフォンが鳴り、その手は空振りし、そのまま各務さんは玄関へと歩いていってしまった。
月見うどんは、残念そうに、天麩羅うどんは、タイミング悪すぎですよぉ! と、吼えるのだった。
しばらくして戻ってきた各務さんの後ろには、さらにお隣さんの耶蛇さんとその友人の阿座霞さん。
その二人と共に住む幼女と幼男……ミス・フランベルジュとシゼル君の四人。
340 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/09/09(火) 19:19:08.29 ID:koE/xwM0
その二人と共に住む幼女と幼男……ミス・フランベルジュとシゼル君の四人。
340 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/09/09(火) 19:19:08.29 ID:koE/xwM0
「やぁ~。を、君も幼女を購入したんだ」
えぇ、九百八十円税込みで……と、私が答えると耶蛇さんは、ブッと噴出した。
私は、怪訝な表情を浮かべていたのだろう。耶蛇さんは、いや。僕も君と同じ値段でミス・フランをね~。と笑った。
私と耶蛇さんの話を聞いていた各務さんが、月見うどんと天麩羅うどんを一度見た後で
私は、怪訝な表情を浮かべていたのだろう。耶蛇さんは、いや。僕も君と同じ値段でミス・フランをね~。と笑った。
私と耶蛇さんの話を聞いていた各務さんが、月見うどんと天麩羅うどんを一度見た後で
「そういや。こいつらも九百八十円税込みだ。まぁ……俺が食ったうどんとこいつらが食ったうどんの金額なんだがな」
何かと縁があるな。その数字。と、各務さんは今度こそ月見うどんと天麩羅うどんの頭にポンッと手を置いた。
「あ、そういえば。阿座霞は、シゼル君をどうや」
「拾った。それ以上でもそれ以下でもないっ!」
「拾った。それ以上でもそれ以下でもないっ!」
耶蛇さんが、言い終わる前にそれを遮る様に腕を組んでそう告げる阿座霞さん。
そんな他愛の無い雑談を繰り広げる面々。
ふと、蜩を見れば、口はしに笑みを浮かべているのだった。
341 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/09/09(火) 19:19:38.49 ID:koE/xwM0
そんな他愛の無い雑談を繰り広げる面々。
ふと、蜩を見れば、口はしに笑みを浮かべているのだった。
341 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/09/09(火) 19:19:38.49 ID:koE/xwM0
「ちょ!? 耶蛇さんや! アンタんとこのフランを電子レンジに近づけるなぁ!?」
「ぬぁ?! ちょ!? フラン!?」
「……大丈夫。生卵ヲ。突ッ込ンダ。ダケ」
「ぬぁ?! ちょ!? フラン!?」
「……大丈夫。生卵ヲ。突ッ込ンダ。ダケ」
既にスイッチが入って動いている電子レンジ。
そして電子レンジの中でくるくる回る生卵。
・・・・・・結果。爆発。
そして電子レンジの中でくるくる回る生卵。
・・・・・・結果。爆発。
「耶蛇さぁああん!!! 俺の安月給でやっと購入した電子レンジをぉおお!!」
「え?! 僕のせい!?」
「お前らうるせぇ!!」
「え?! 僕のせい!?」
「お前らうるせぇ!!」
「ねぇ。私の歌雫夜」
「なんだい。蜩」
「面白いわね」
「あぁ。見てて飽きないな」
「ねぇ。私の歌雫夜」
「なんだい?」
「こんな日々がずっと続けば楽しいわね」
「そうだろうなぁ……」
「なんだい。蜩」
「面白いわね」
「あぁ。見てて飽きないな」
「ねぇ。私の歌雫夜」
「なんだい?」
「こんな日々がずっと続けば楽しいわね」
「そうだろうなぁ……」
でも、それは、無理なんだよ。蜩。
405 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/09/12(金) 01:19:16.03 ID:CRjmtX60
終わる人と終わらない幼女 弐
終わる人と終わらない幼女 弐
日に日に深刻となる体を蝕む癌。それを抑える為に抗癌剤を飲む。
結果的に言うなれば。私の髪は抗癌剤の副作用により抜け丸坊主になってしまった。
元々目付きの悪い私が、スキンヘッドになってしまえば何処のヤクザモノだと言われてしまってもしょうがない。
しかしながら、この姿を蜩が見れなくて良かった。などと、思ってしまったのはしょうがないと思う。
蜩の目が、光を映さない事を不謹慎ながら助かった。などと思ってしまった。
結果的に言うなれば。私の髪は抗癌剤の副作用により抜け丸坊主になってしまった。
元々目付きの悪い私が、スキンヘッドになってしまえば何処のヤクザモノだと言われてしまってもしょうがない。
しかしながら、この姿を蜩が見れなくて良かった。などと、思ってしまったのはしょうがないと思う。
蜩の目が、光を映さない事を不謹慎ながら助かった。などと思ってしまった。
結局死ぬならば、別に抗癌剤を飲まないでもよかったのか? などと思ってしまった。
私と蜩は、なんて事の無い毎日を歩んでいた。
今まで勤めてきた会社は、既に辞め。一応、退職金支払い期間働いていたので雀の涙ほどの退職金を貰ったし
もう使わない家具やゲーム機器やらも売り払い金に換えた。
そして、加入していた保険会社からも金は貰った。
死亡保険とは別で、死亡保険に関しては親の元へ振り込まれる用に手続きをしてもらっている。
今まで勤めてきた会社は、既に辞め。一応、退職金支払い期間働いていたので雀の涙ほどの退職金を貰ったし
もう使わない家具やゲーム機器やらも売り払い金に換えた。
そして、加入していた保険会社からも金は貰った。
死亡保険とは別で、死亡保険に関しては親の元へ振り込まれる用に手続きをしてもらっている。
親孝行できなかった私が、唯一出来たのだろう最初で最後の親孝行で親不孝。
きっと、親はふざけるな! と、怒るんだろうな……などと思う。
きっと、親はふざけるな! と、怒るんだろうな……などと思う。
私が、三人兄弟の長男として、親に孝行できたのはきっと、本当にこれが最初だろう。
何せ私は、何時も親に迷惑ばかりかけてしまった記憶しか持っていなかった。
一番でかい親不孝は、専門学校を途中で辞めてしまった事。と、その後だ。
高い金を支払ってくれた親。保証人になってくれた伯父さん。
専門学校に行く事を応援して卒業を期待してくれた人達を裏切ったのだから、最大の不孝だろう。
それに、親には専門学校へ入学させてもらう際に二百万程度の借金を負わせてしまってもいる。
一応、奨学金は中退した時期までの分を私が自分で支払いつい最近支払いが終わっている。
新着レス 2008/09/12(金) 01:36
406 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/09/12(金) 01:20:28.58 ID:CRjmtX60
どちらにしろ……私は、地元にいられなくなって上京という形で私は地元から逃げた。
その時にも親に金銭類でさらに迷惑をかけた。迷惑の掛けっぱなしだった。
他人に迷惑を掛けっぱなしのろくでもない人生だな。と、今更ながらに思う。
何せ私は、何時も親に迷惑ばかりかけてしまった記憶しか持っていなかった。
一番でかい親不孝は、専門学校を途中で辞めてしまった事。と、その後だ。
高い金を支払ってくれた親。保証人になってくれた伯父さん。
専門学校に行く事を応援して卒業を期待してくれた人達を裏切ったのだから、最大の不孝だろう。
それに、親には専門学校へ入学させてもらう際に二百万程度の借金を負わせてしまってもいる。
一応、奨学金は中退した時期までの分を私が自分で支払いつい最近支払いが終わっている。
新着レス 2008/09/12(金) 01:36
406 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/09/12(金) 01:20:28.58 ID:CRjmtX60
どちらにしろ……私は、地元にいられなくなって上京という形で私は地元から逃げた。
その時にも親に金銭類でさらに迷惑をかけた。迷惑の掛けっぱなしだった。
他人に迷惑を掛けっぱなしのろくでもない人生だな。と、今更ながらに思う。
その事を上京する前に親に率直に尋ねた事がある。
親は、苦笑を浮かべてもう済んだ事。気にしてない。と、言った。
でも、それが、何かしらの恐怖になった。言葉に出来ない形を持たない恐怖。
それは、今でも私の胸の中にある。
親は、苦笑を浮かべてもう済んだ事。気にしてない。と、言った。
でも、それが、何かしらの恐怖になった。言葉に出来ない形を持たない恐怖。
それは、今でも私の胸の中にある。
きっと、死ぬまでその恐怖は、もしかしたら、死んだ後も……
夏から秋への変わり目。
風は、涼しくも肌寒なる頃。
ニット帽を被った一人の男と目部に包帯を巻いた一人の幼女は、葉の端が紅葉し始めた林道を淡々と歩いていた。
手と手をつないで歩く二人は、親と子の様で、恋人同士の様でもあった。
でも、その二人の背は、木枯しの様に見えて、溶け行く雪の様でもあった。
もし、誰かがよく見たなら気づいただろう。
男と幼女の繋ぐ手。小さな手を握る男の手が、その手首が細すぎる事に。
風は、涼しくも肌寒なる頃。
ニット帽を被った一人の男と目部に包帯を巻いた一人の幼女は、葉の端が紅葉し始めた林道を淡々と歩いていた。
手と手をつないで歩く二人は、親と子の様で、恋人同士の様でもあった。
でも、その二人の背は、木枯しの様に見えて、溶け行く雪の様でもあった。
もし、誰かがよく見たなら気づいただろう。
男と幼女の繋ぐ手。小さな手を握る男の手が、その手首が細すぎる事に。
「蜩。風が気持ち良いな」
「そうね。少し、肌寒い風ね。もう、秋が来訪するのね」
「そうね。少し、肌寒い風ね。もう、秋が来訪するのね」
風が通り抜け、木々の葉が波立ち小さな小気味良い音が鳴る。
二人はしばらくの間林道を歩き、林道の所何処に設置してあった木製のベンチに腰をかけた。
少し、遠出しただけで疲れる。なんて……と、男は、空を仰ぎ見て呟いた。
407 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/09/12(金) 01:20:59.49 ID:CRjmtX60
二人はしばらくの間林道を歩き、林道の所何処に設置してあった木製のベンチに腰をかけた。
少し、遠出しただけで疲れる。なんて……と、男は、空を仰ぎ見て呟いた。
407 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/09/12(金) 01:20:59.49 ID:CRjmtX60
「私も疲れたわ。こんなに歩いたの初めてよ。私のカダヤ」
蜩と呼ばれた幼女は、その可愛らしい小さな口に笑みを浮かべてそう告げる。
男は、なんとなくその細くなった手で、そっと蜩の頬に触れる。
蜩の肌は、サラサラとしていて何時間触っても飽きない。かもしれないな。などと、思う男。
そして、その手は、蜩の眼部を覆う無粋な包帯に触れる。
男は、なんとなくその細くなった手で、そっと蜩の頬に触れる。
蜩の肌は、サラサラとしていて何時間触っても飽きない。かもしれないな。などと、思う男。
そして、その手は、蜩の眼部を覆う無粋な包帯に触れる。
「蜩。お前は、空を見てみたいと思わないか?」
「空? そうね。私は見てみたいわ。空と言わず様々なモノを……そして私のカダヤの顔も見てみたいわ」
「空? そうね。私は見てみたいわ。空と言わず様々なモノを……そして私のカダヤの顔も見てみたいわ」
顔? 不細工も良い所だ。と、蜩に言葉に苦笑を乗せて告げる。
そんな男の言葉に、それでも。と、言葉をつむぐ。
そんな男の言葉に、それでも。と、言葉をつむぐ。
「私のカダヤなのだから。見たいの。絶対にね」
「見る以前の問題だがね。お前は」
「見る以前の問題だがね。お前は」
蜩の頬に触れた手を外し、その手を空に向かって伸ばす。
嫌にも視界に入るその細い手を見て。強い風が吹けば折れそうだ。などと思う。
あと、何時まで、生きれる? 明確で確かな答えは、誰からも返って来ない。
嫌にも視界に入るその細い手を見て。強い風が吹けば折れそうだ。などと思う。
あと、何時まで、生きれる? 明確で確かな答えは、誰からも返って来ない。
しばらくの間、男と蜩は何かを話す訳でもなくそのベンチで腰をかけて淡々と過ぎてゆく時間の経過に身を任せていた。
林道を歩いてゆく様々な人々。
何かに急いでる様なサラリーマン。学校帰りなのか、何か楽しげに雑談しながら歩く女子高校生達。
親と手を繋いで歩く子ども。元気一杯に走りかけぬける子ども。
林道を歩いてゆく様々な人々。
何かに急いでる様なサラリーマン。学校帰りなのか、何か楽しげに雑談しながら歩く女子高校生達。
親と手を繋いで歩く子ども。元気一杯に走りかけぬける子ども。
ザァッと、一陣の風が吹く。
……人の気配。いや、人の存在が全て消えてしまったかの様に思えた。
様々な色のあるはずの風景は、まるで、灰色一色の世界に変貌してしまう。
それと同時に、男は自分に襲い来た苦痛に息を殺した。
陸上選手の様に走った訳でもないのに、その全身には決して気持ちの良いとは言えない汗が、浮き出て流れる。
408 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/09/12(金) 01:21:39.87 ID:CRjmtX60
……人の気配。いや、人の存在が全て消えてしまったかの様に思えた。
様々な色のあるはずの風景は、まるで、灰色一色の世界に変貌してしまう。
それと同時に、男は自分に襲い来た苦痛に息を殺した。
陸上選手の様に走った訳でもないのに、その全身には決して気持ちの良いとは言えない汗が、浮き出て流れる。
408 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/09/12(金) 01:21:39.87 ID:CRjmtX60
傍から見れば、いきなり変な表情を浮かべ汗をびっしりかく変な男としてしか見られないだろう。
苦痛に苦しむ男の隣で、蜩は、どうにも出来ないと悟っているのか……下唇を噛締めながら俯いていた。
目の見えない自分には、男が苦しむ音しか聞こえない。薬を渡したくても何処に何があるかすら分からない。
誰かに声をかけて助けてもらいたい。でも、人が発する様々な騒音に自分の声は余りに無力だ。
蜩は、もう何度目か分からない無力の実感に更に項垂れてしまった。
苦痛に苦しむ男の隣で、蜩は、どうにも出来ないと悟っているのか……下唇を噛締めながら俯いていた。
目の見えない自分には、男が苦しむ音しか聞こえない。薬を渡したくても何処に何があるかすら分からない。
誰かに声をかけて助けてもらいたい。でも、人が発する様々な騒音に自分の声は余りに無力だ。
蜩は、もう何度目か分からない無力の実感に更に項垂れてしまった。
その間にも男は、苦痛に苦しんで吐いたが、何とかポケットに突っ込んであった鎮痛剤の錠剤を取り出し
苦痛に震える手で、錠剤をケースから取り出し零さぬ様に数判らぬ錠剤を握り締めた。
そして、大口を開けて両手で、その錠剤を勢いをつけて口の中に放り込んだ。
水が欲しかったが、贅沢は言ってられなかった。何とか錠剤を飲み込む。
錠剤が喉に引っかかり中々飲み込めないが、何度か嚥下を繰り返す事で完全に飲み込む。
苦痛に震える手で、錠剤をケースから取り出し零さぬ様に数判らぬ錠剤を握り締めた。
そして、大口を開けて両手で、その錠剤を勢いをつけて口の中に放り込んだ。
水が欲しかったが、贅沢は言ってられなかった。何とか錠剤を飲み込む。
錠剤が喉に引っかかり中々飲み込めないが、何度か嚥下を繰り返す事で完全に飲み込む。
鎮痛剤を飲んだからと言って直ぐに痛みが治まる訳ではない。
完全に痛みが治まるまで、男は苦痛に苛まれる。そして、咳を切れば血が通路を汚し広がる。
血と言ってもそんな量が出た訳ではない。
息が荒い。痛みが引くにはまだまだ時間がかかる。
もしかしたら、このまま死ぬのか? と、苦痛でぐちゃぐちゃになった頭の片隅でそんな事をポツリと思う。
しばらくすれば、息が整ってくる。それと同時に痛みも和らいできた。
完全に痛みが治まるまで、男は苦痛に苛まれる。そして、咳を切れば血が通路を汚し広がる。
血と言ってもそんな量が出た訳ではない。
息が荒い。痛みが引くにはまだまだ時間がかかる。
もしかしたら、このまま死ぬのか? と、苦痛でぐちゃぐちゃになった頭の片隅でそんな事をポツリと思う。
しばらくすれば、息が整ってくる。それと同時に痛みも和らいできた。
409 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/09/12(金) 01:24:00.03 ID:CRjmtX60
「大丈夫なの? 私のカダヤ……」
「………今の所、死んでは、いない。な………」
「………今の所、死んでは、いない。な………」
そう告げた後、深呼吸を一度して男は、立ち上がる。
そして、いまだ座っている蜩の手をとり立ち上がらせた。
そして、いまだ座っている蜩の手をとり立ち上がらせた。
「帰ろう……また、今度。出掛けよう……」
「……無理も無茶もしないで。私のカダヤ……」
「まだ、お迎えは……来ないらしい。まだ、大丈夫なんだろう」
「……無理も無茶もしないで。私のカダヤ……」
「まだ、お迎えは……来ないらしい。まだ、大丈夫なんだろう」
弱弱しくそう告げ、男は歩き始めた。男が歩き始めたなら蜩も歩き始めなければならない。
二人は、ゆっくりとその場から歩き去る。
残ったのは、ベンチの目の前に吐き捨てられた既に変色しはじめた血のみ。
二人は、ゆっくりとその場から歩き去る。
残ったのは、ベンチの目の前に吐き捨てられた既に変色しはじめた血のみ。
何時の日か二人が、林道を歩きこのベンチに座る事は、二度と………無い。
結局の所。私は、悲劇の主人公であると、全ての不幸を背負っているのだと、勝手に決め付けた。
でも、別の私が、私よりも悲劇な人達は腐るほどいるのだと、冷静に淡々と告げる。
そんなのは、最初から判っている。しかし、自分の世界と言う中で、私は絶対的に悲劇の主人公だった。
他の人の事など知らなかった。どうでもいいのだ。既に死の階段を激走している私には。
とりあえず、悲劇の主人公ぶりたいのだ……ナニカの物語の主人公になりたいのだ。
さしづめ……ヒロインは蜩だろうか?
お前、馬鹿だろ。と、別の私が淡々と私に言うのだった……
でも、別の私が、私よりも悲劇な人達は腐るほどいるのだと、冷静に淡々と告げる。
そんなのは、最初から判っている。しかし、自分の世界と言う中で、私は絶対的に悲劇の主人公だった。
他の人の事など知らなかった。どうでもいいのだ。既に死の階段を激走している私には。
とりあえず、悲劇の主人公ぶりたいのだ……ナニカの物語の主人公になりたいのだ。
さしづめ……ヒロインは蜩だろうか?
お前、馬鹿だろ。と、別の私が淡々と私に言うのだった……
496 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/09/15(月) 05:23:38.02 ID:TbudWgc0
終わる人と終わらない幼女 終
終わる人と終わらない幼女 終
人間は、死ねば何になるのだろうか?
物言わぬ肉塊に成り果てて腐り行くだけだろうか?
一説には、魂が天国と地獄のどちらかに行くのだと言う。
一説には、魂は輪廻転生と言う環の中に入り浄化され再び生まれるのだという。
もし、天国か地獄に行くのならば、私は、地獄へ行くだろう。
もし、生まれ変われるならば……蝉になりたい。
結局、人間が死ねば何になるのかはわからない。
物言わぬ肉塊に成り果てて腐り行くだけだろうか?
一説には、魂が天国と地獄のどちらかに行くのだと言う。
一説には、魂は輪廻転生と言う環の中に入り浄化され再び生まれるのだという。
もし、天国か地獄に行くのならば、私は、地獄へ行くだろう。
もし、生まれ変われるならば……蝉になりたい。
結局、人間が死ねば何になるのかはわからない。
結果として男は、もう死に体だった。
ベットから起き上がる事も辛く、時折吐き出されるのは、鮮血。
その血を処理する事も出来ない故に、ベットはもう血染めといってよかった。
その血を浴びてしまった蜩も、全身とは言わないまでも、その手は男の血でぬれていた。
血の処理をするだけの、体力も無かった。
何とか、体を動かして出来るのは、水を飲む事と必要最低限の食事を取る事ぐらい。
ベットから起き上がる事も辛く、時折吐き出されるのは、鮮血。
その血を処理する事も出来ない故に、ベットはもう血染めといってよかった。
その血を浴びてしまった蜩も、全身とは言わないまでも、その手は男の血でぬれていた。
血の処理をするだけの、体力も無かった。
何とか、体を動かして出来るのは、水を飲む事と必要最低限の食事を取る事ぐらい。
その必要最低限の食事も、カロリーメイトやウィダーインゼリー等の簡易的な食事ともいえない食事。
何せ、普通の食事は、喉に通りかかっただけで吐き出してしまう。
さらに、蜩は目が見えないので、目が見えなくとも取れる食事となると手軽な上記二つらしかなかった。
そんなもので、十分な栄養なんて取れる訳もない。
さらには、胃の消化能力の低下を招き、気が付けばちゃんとした食事なんて食べれない体になっている。
何せ、普通の食事は、喉に通りかかっただけで吐き出してしまう。
さらに、蜩は目が見えないので、目が見えなくとも取れる食事となると手軽な上記二つらしかなかった。
そんなもので、十分な栄養なんて取れる訳もない。
さらには、胃の消化能力の低下を招き、気が付けばちゃんとした食事なんて食べれない体になっている。
497 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/09/15(月) 05:24:20.29 ID:TbudWgc0
「はっ……骨と皮だけとは、まさにその通りだな」
己の手を見て男は、笑うように告げる。
そして、己の傍らに居る蜩を見やる。出合った当初。まだ普通の食事を取れた頃と比べ……
やはり蜩も男と同じ様に痩せていた。
ただ、幼女と言う存在ゆえなのか、男のように骨と皮だけと言う訳ではない。
ただ、丸みが少なくなっただけと言うべきなのだろう。
それを見て、男は、少々己が不甲斐無く思えた。
そして、己の傍らに居る蜩を見やる。出合った当初。まだ普通の食事を取れた頃と比べ……
やはり蜩も男と同じ様に痩せていた。
ただ、幼女と言う存在ゆえなのか、男のように骨と皮だけと言う訳ではない。
ただ、丸みが少なくなっただけと言うべきなのだろう。
それを見て、男は、少々己が不甲斐無く思えた。
「蜩。なぁ。蜩よ」
「何かしら? 私の歌雫夜」
「私の砂時計は、もう直ぐ終わるらしい」
「何かしら? 私の歌雫夜」
「私の砂時計は、もう直ぐ終わるらしい」
砂時計。それは、そのまま寿命を差す言葉。
男は、言葉遊びが好きだ。キザったらしいまでに言葉遊びが好きだから……
だから、己の寿命を砂時計にして例えて告げた。
男は、言葉遊びが好きだ。キザったらしいまでに言葉遊びが好きだから……
だから、己の寿命を砂時計にして例えて告げた。
「人間とは、そう言うモノね。何時しか終わってしまうわ。
ただ、砂時計と違うわね……」
ただ、砂時計と違うわね……」
だって、引っ繰り返せばまた砂が落ちるのだから。と、蜩は口はしに笑みを浮かべてそう告げる。
「砂時計じゃなく。蝋燭か、コップに注がれた水。と、例えればよかったかもしれんね」
「燃え尽きれば終わり。蒸発してしまえば無くなる。と、言う事なら。そうね。私の歌雫夜」
「燃え尽きれば終わり。蒸発してしまえば無くなる。と、言う事なら。そうね。私の歌雫夜」
嗚咽を一つ。口から血が吐き出され布団を汚す。汚して染込んで変色し始める。
か細い呼吸音が、男の口から漏れて部屋に響いてそして消えた。
498 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/09/15(月) 05:24:59.76 ID:TbudWgc0
か細い呼吸音が、男の口から漏れて部屋に響いてそして消えた。
498 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/09/15(月) 05:24:59.76 ID:TbudWgc0
「蜩。前も聞いた事なんだが」
「何かしら?」
「お前は、目が見える様になりたいか?」
「見たいわね。空を草木を他愛の無い全てを」
「何かしら?」
「お前は、目が見える様になりたいか?」
「見たいわね。空を草木を他愛の無い全てを」
そして、私の歌雫夜の顔を。
「見えればいいのにな」
「そうね」
「そうね」
男は、震える腕を伸ばし蜩の目を覆う包帯に手をかける。
しっかりと覆っているはずの包帯が、力の入らない男の手によってあっさりと解かれる。
それに呼応してか、しかと閉じられていた瞼が、ゆっくりと開く。
白濁した瞳が、其処にあった。
しっかりと覆っているはずの包帯が、力の入らない男の手によってあっさりと解かれる。
それに呼応してか、しかと閉じられていた瞼が、ゆっくりと開く。
白濁した瞳が、其処にあった。
「見えれば。いいな」
「そうね」
「そうね」
力なく男の手は、布団の上に落ちる。どうやら、蜩の包帯を取る事が、現在の限界だった様だ。
「私が、死んだら。蜩。お前はどうなる?」
「……また、野良になるか。消えるか。ね」
「……また、野良になるか。消えるか。ね」
消える? 消えるとはどう言う事だ? と、男は考える。
それを察したのか蜩は、口を開く。
それを察したのか蜩は、口を開く。
「私達幼女は、死と言う概念は無いの。どちらかと言うと消失するのが正しいわ。
私達幼女は、様々な人々の思いから生まれて姿かたちを持つの……」
私達幼女は、様々な人々の思いから生まれて姿かたちを持つの……」
そんな夢物語の様な概念。信じられない。
499 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/09/15(月) 05:25:29.38 ID:TbudWgc0
「私達は、主が決まるまで様々な人の思いを糧に生きるわ。
でも、主が決まってしまえば、その主だけからの思いを糧に生きるの……
食べ物を食べるという概念すら、主の思いで形になるのよ」
でも、主が決まってしまえば、その主だけからの思いを糧に生きるの……
食べ物を食べるという概念すら、主の思いで形になるのよ」
蜩の言っている事は、夢物語の様な概念。御伽噺の様な概念。
到底信じられる様な事じゃない。
到底信じられる様な事じゃない。
「だから、貴方が、私の歌雫夜が、願えば、私は、貴方が死んだ後も生きるわ。
でも、それは永遠ではないの。やがて貴方の思いは風化し、結局私は消えてしまう。
私の亡骸は残るでしょう。でも私と言う存在は、確実に消えて世界から居なくなる」
でも、それは永遠ではないの。やがて貴方の思いは風化し、結局私は消えてしまう。
私の亡骸は残るでしょう。でも私と言う存在は、確実に消えて世界から居なくなる」
よくわからない。それは、人間と一緒と言う事じゃないのか?
「貴方が私が生きる事を望み、私が風化するまでの間に私が新しい主を見つけたならば
私は、またその主の思いを糧に生きる事が出来るでしょうね。
でも、それは、私が望まないわ。私は、私の為に、私の歌雫夜の為に居ると決めているのだから」
500 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/09/15(月) 05:25:58.11 ID:TbudWgc0
私は、またその主の思いを糧に生きる事が出来るでしょうね。
でも、それは、私が望まないわ。私は、私の為に、私の歌雫夜の為に居ると決めているのだから」
500 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/09/15(月) 05:25:58.11 ID:TbudWgc0
「願いと言う概念。それの塊が私達幼女。
だから、願って? 私の目が見える事を……そうすれば、きっと私の目は見える様になるわ」
だから、願って? 私の目が見える事を……そうすれば、きっと私の目は見える様になるわ」
願えば夢は叶う。それと、一緒か……
「私は、見たいわ。貴方の顔を……私の大切な歌雫夜の顔を」
ならば、願おうじゃないか。お前の目が見える事を
その白濁した瞳が、綺麗な色をした瞳になる事を
その白濁した瞳が、綺麗な色をした瞳になる事を
「ありがとう。私の歌雫夜……」
血を吐く。激痛が走る。意識が、
「貴方の顔ちゃんと見れたわ」
遠のいた。
501 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/09/15(月) 05:26:21.03 ID:TbudWgc0
男が死んだ。
男の傍らに居ただろう幼女の存在が、消えた。
でも、男の手には、汚れた包帯が掴まれていた。
其処に確かに居た、幼女の存在を知らしめるように。
男の傍らに居ただろう幼女の存在が、消えた。
でも、男の手には、汚れた包帯が掴まれていた。
其処に確かに居た、幼女の存在を知らしめるように。
男の死は、死後一ヶ月後に判明した。
音信不通になった男を心配し、男の故郷から男を尋ねに来た初老の夫婦らによって。
ただ、男の死体は、腐敗してはおらず……
まるで、ただ眠っている様に見えたと、初老の夫婦は言う。
音信不通になった男を心配し、男の故郷から男を尋ねに来た初老の夫婦らによって。
ただ、男の死体は、腐敗してはおらず……
まるで、ただ眠っている様に見えたと、初老の夫婦は言う。
でも、男は確かに死んでしまった。
蜩と言う名の蝉を持つ幼女と共に。
蜩と言う名の蝉を持つ幼女と共に。
「蜩。手を繋ごうか」
「えぇ。手を繋ぎましょう。私の歌雫夜」
「えぇ。手を繋ぎましょう。私の歌雫夜」
END