ハチの容態が悪化した。
一度は落ち着いたと思われた高熱が、再び振り返してきたらしい。
「すぐに病院に向かいます!」
そう言って俺は携帯を切った。すぐに手紙を持って書斎を飛び出す。
俺がハチの所へ行ったからといって何が変わるという訳ではない。
それでも、側に付いていてやりたいと思った。大切なヒトだから。
お屋敷を飛び出すとき前庭の花壇が目に入った。
ワスレナグサ。
ハチが好きな花。“ご主人さま”が好きだったという花。
「…………っ!?」
ビリッと頭の中に電流が走った気がした。
自分でもなぜだか解らない。
この花をハチの所に持って行かなくてはならない。そんな気がした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《ハチの見る夢》
「ご主人…さま?」
「来ちゃだめだ!これ以上“こちら側”に近付いたら…」
「ご主人さまぁぁあぁっ!」ガバッ!
「ハチ!だめだ!」
「うわぁあぁん!ご主人さまぁ…ご主人さまぁ…!」
みしり、とせかいがゆがむ。
「…しまった…!」
「ご主人さまぁ…会いたかったよぉ…」
パキィン!!
靄に包まれた世界は歪み。
辺りには紅蓮の炎が燃え広がった……。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ハチの病室には何人もの看護士が、慌ただしく出入りしていた。
「男くん!遅かったじゃないか!!」
「す、すみません…!」
老医師の口調が厳しいのは余裕が無いせいで、腹を立てている訳ではないのだろう。
それでも余りの迫力に押され謝ってしまう。
「先生…ハチの容態は…!?」
「余り良いとは言えないね。熱が下がらないどころか、上がり続けている…。解熱剤も全く効果がないんだ」
「そんな…!」
「このまま熱が上がり続けるとハチくんの命に関わる。ただでさえハチくんの身体は衰弱しているのだから…!」
「な、なんとかならないんですか…!?」
「全力は尽くす。だが…覚悟だけはしておいてくれ…」
老医師の表情にさす影が俺の不安を掻き立てる。
「先生!患者の心拍数が弱くなっています!」
「すぐ行く!男くんは病室から出て待っていてくれ。ハチくんをここで死なせはしないから…!」
「待って下さい!本当に大丈夫なんですか?!ハチは…」
まだ話を聞こうと身を乗り出すが、看護士が二人俺の肩を掴んで病室から引きずり出した……。
418 名前: SS@ハチ公 投稿日: 2008/03/25(火) 22:38:29.37 ID:Nr7bBoAO
~忠幼女ハチ・もう一つのミライ~2
一度は落ち着いたと思われた高熱が、再び振り返してきたらしい。
「すぐに病院に向かいます!」
そう言って俺は携帯を切った。すぐに手紙を持って書斎を飛び出す。
俺がハチの所へ行ったからといって何が変わるという訳ではない。
それでも、側に付いていてやりたいと思った。大切なヒトだから。
お屋敷を飛び出すとき前庭の花壇が目に入った。
ワスレナグサ。
ハチが好きな花。“ご主人さま”が好きだったという花。
「…………っ!?」
ビリッと頭の中に電流が走った気がした。
自分でもなぜだか解らない。
この花をハチの所に持って行かなくてはならない。そんな気がした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《ハチの見る夢》
「ご主人…さま?」
「来ちゃだめだ!これ以上“こちら側”に近付いたら…」
「ご主人さまぁぁあぁっ!」ガバッ!
「ハチ!だめだ!」
「うわぁあぁん!ご主人さまぁ…ご主人さまぁ…!」
みしり、とせかいがゆがむ。
「…しまった…!」
「ご主人さまぁ…会いたかったよぉ…」
パキィン!!
靄に包まれた世界は歪み。
辺りには紅蓮の炎が燃え広がった……。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ハチの病室には何人もの看護士が、慌ただしく出入りしていた。
「男くん!遅かったじゃないか!!」
「す、すみません…!」
老医師の口調が厳しいのは余裕が無いせいで、腹を立てている訳ではないのだろう。
それでも余りの迫力に押され謝ってしまう。
「先生…ハチの容態は…!?」
「余り良いとは言えないね。熱が下がらないどころか、上がり続けている…。解熱剤も全く効果がないんだ」
「そんな…!」
「このまま熱が上がり続けるとハチくんの命に関わる。ただでさえハチくんの身体は衰弱しているのだから…!」
「な、なんとかならないんですか…!?」
「全力は尽くす。だが…覚悟だけはしておいてくれ…」
老医師の表情にさす影が俺の不安を掻き立てる。
「先生!患者の心拍数が弱くなっています!」
「すぐ行く!男くんは病室から出て待っていてくれ。ハチくんをここで死なせはしないから…!」
「待って下さい!本当に大丈夫なんですか?!ハチは…」
まだ話を聞こうと身を乗り出すが、看護士が二人俺の肩を掴んで病室から引きずり出した……。
418 名前: SS@ハチ公 投稿日: 2008/03/25(火) 22:38:29.37 ID:Nr7bBoAO
~忠幼女ハチ・もう一つのミライ~2
《焼け爛れる夢のセカイ》
あつい。あついよ。
ごしゅじんさまはどこ?
髪が焼ける。皮膚が焼ける。灼熱の風が身体中を撫で回す。
わたしをたすけてくれるのは、だれ?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
どれくらい時間が経っただろうか。
俺は病室の扉の横に座り込みただ虚空を見つめていた。
ハチが死ぬかもしれない。その事実は余りにも現実味にかけ、とても受け入れられるものではなかった。
ハチに真実を伝え、ハチと共に生きることを誓った――その矢先。
「そりゃあ、あんまりだぜ…神様よぅ…」
神様とやらは、ハチの僅かな命の灯を情け容赦なく吹き消してしまうつもりなのか。
だとしたら神様は相当の悪党か、ドSだろうな。
「畜生……」
俺は自分の無力さを呪った。この状況でハチの側についていてやる事も出来ない自分を。
まだハチの記憶を取り戻すことも、ハチに俺の気持ちを伝えることも出来てないのに…
「畜生っ…!」
ガツン!
やり場のない混沌とした感情を吐き出すように、俺は壁を殴り付けた。
「畜生…畜生ぉ…ちくしょぉぉ……うぅぅ…」
悔しかった。ハチを救うことのできない自分が、悔しかった…。
「うぉぉ…!」
再び壁を殴り付けようと拳を振りかぶる。
そのとき、ガラリと病室の扉が開いた……。
あつい。あついよ。
ごしゅじんさまはどこ?
髪が焼ける。皮膚が焼ける。灼熱の風が身体中を撫で回す。
わたしをたすけてくれるのは、だれ?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
どれくらい時間が経っただろうか。
俺は病室の扉の横に座り込みただ虚空を見つめていた。
ハチが死ぬかもしれない。その事実は余りにも現実味にかけ、とても受け入れられるものではなかった。
ハチに真実を伝え、ハチと共に生きることを誓った――その矢先。
「そりゃあ、あんまりだぜ…神様よぅ…」
神様とやらは、ハチの僅かな命の灯を情け容赦なく吹き消してしまうつもりなのか。
だとしたら神様は相当の悪党か、ドSだろうな。
「畜生……」
俺は自分の無力さを呪った。この状況でハチの側についていてやる事も出来ない自分を。
まだハチの記憶を取り戻すことも、ハチに俺の気持ちを伝えることも出来てないのに…
「畜生っ…!」
ガツン!
やり場のない混沌とした感情を吐き出すように、俺は壁を殴り付けた。
「畜生…畜生ぉ…ちくしょぉぉ……うぅぅ…」
悔しかった。ハチを救うことのできない自分が、悔しかった…。
「うぉぉ…!」
再び壁を殴り付けようと拳を振りかぶる。
そのとき、ガラリと病室の扉が開いた……。
558 名前: SS@ハチ公 投稿日: 2008/03/28(金) 22:36:26.50 ID:01YbwwAO
~忠幼女ハチ・もう一つのミライ~3
~忠幼女ハチ・もう一つのミライ~3
「男くん…もう入ってもいいよ」
老医師の表情には疲労の色が強く現れていた。
「先生…ハチは……」
老医師は静かに目を伏せる。
「やるだけのことはやったよ。しかし、一向に熱は下がらない。このままではハチくんの身体はもたないだろうね…」
「ぅう…」
老医師は淡々と続ける。
「やはり、幼女用の薬はハチくんには効かないみたいなんだよ」
「そんなことってあるんですか…?」
「あるよ。個体によって薬剤の効果が強くなったり弱くなったりすることは他の動物でも珍しくない」
「何か…他の手はないんですか!?」
このままハチが弱っていくのを指をくわえて見てる訳にはいかない。
「ある、と言えば…ある。リスクは大きいが…ハチくんに人間の薬を投与するんだ」
「それで治るんですか!?」
「まぁ、待ちなさい。幼女に人間用の薬を投与すると死んでしまうよ。幼女と人間は違うからね」
「じゃあ…どうするんですか!?」
「前にも言ったね。人間と幼女は非常に近いが別の生物だ、と」
「はい。何かすれば幼女と人間の間で子供もつくれるとか…」
「そう、まさにそれだよ。ある“処置”を施せば幼女は限りなく人間に近付く」
「“処置”?」
うむ、と老医師は頷く。
「幼女と人間の一番の違いは成長するかしないかだというのは知っているね」
「はい」
「つまり幼女が成長できるように手術するんだ。……脳を、ね」
「………っ!?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《崩れ落ちたセカイとワタシ》
辺りは漆黒の闇に包まれている。
その闇に紅蓮の炎の名残が燻り点々と紅い染みを創っていた。
そのセカイで小さな少女は顔を伏せ座り込む。
――ひとりぼっち。まっくら。だれもいない。
そのとき闇の中に小さな灯が燈る。
――だれ?わたしをたすけにきてくれたの?
『男さん!』
――……?
『ワスレナグサって知ってますか?』
――なんだろう?わたし、よばれてる…?
『花言葉はですねー…』
――…いかなくちゃ。
少女は歩きだす。闇に燈る小さな灯の下へと…。
559 名前: SS@ハチ公 投稿日: 2008/03/28(金) 22:37:36.16 ID:01YbwwAO
~忠幼女ハチ・もう一つのミライ~4
老医師の表情には疲労の色が強く現れていた。
「先生…ハチは……」
老医師は静かに目を伏せる。
「やるだけのことはやったよ。しかし、一向に熱は下がらない。このままではハチくんの身体はもたないだろうね…」
「ぅう…」
老医師は淡々と続ける。
「やはり、幼女用の薬はハチくんには効かないみたいなんだよ」
「そんなことってあるんですか…?」
「あるよ。個体によって薬剤の効果が強くなったり弱くなったりすることは他の動物でも珍しくない」
「何か…他の手はないんですか!?」
このままハチが弱っていくのを指をくわえて見てる訳にはいかない。
「ある、と言えば…ある。リスクは大きいが…ハチくんに人間の薬を投与するんだ」
「それで治るんですか!?」
「まぁ、待ちなさい。幼女に人間用の薬を投与すると死んでしまうよ。幼女と人間は違うからね」
「じゃあ…どうするんですか!?」
「前にも言ったね。人間と幼女は非常に近いが別の生物だ、と」
「はい。何かすれば幼女と人間の間で子供もつくれるとか…」
「そう、まさにそれだよ。ある“処置”を施せば幼女は限りなく人間に近付く」
「“処置”?」
うむ、と老医師は頷く。
「幼女と人間の一番の違いは成長するかしないかだというのは知っているね」
「はい」
「つまり幼女が成長できるように手術するんだ。……脳を、ね」
「………っ!?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《崩れ落ちたセカイとワタシ》
辺りは漆黒の闇に包まれている。
その闇に紅蓮の炎の名残が燻り点々と紅い染みを創っていた。
そのセカイで小さな少女は顔を伏せ座り込む。
――ひとりぼっち。まっくら。だれもいない。
そのとき闇の中に小さな灯が燈る。
――だれ?わたしをたすけにきてくれたの?
『男さん!』
――……?
『ワスレナグサって知ってますか?』
――なんだろう?わたし、よばれてる…?
『花言葉はですねー…』
――…いかなくちゃ。
少女は歩きだす。闇に燈る小さな灯の下へと…。
559 名前: SS@ハチ公 投稿日: 2008/03/28(金) 22:37:36.16 ID:01YbwwAO
~忠幼女ハチ・もう一つのミライ~4
病室は静寂に包まれていた。聞こえるのは、ハチの小さな寝息だけだ。
窓から差し込む月の光がハチの寝顔を青白く照らしていた。
「…………」
俺はまず屋敷で摘んできたワスレナグサを、コップを花瓶がわりにしてサイドテーブルに飾った。
それから椅子を引っ張り出し、ベッドの横に陣取るとハチの手を取った。
まだ熱が引いていないせいかハチの手は、熱かった。
「……ハチ、どうしようか…?」
俺は先程の老医師の言葉を思い返した――。
窓から差し込む月の光がハチの寝顔を青白く照らしていた。
「…………」
俺はまず屋敷で摘んできたワスレナグサを、コップを花瓶がわりにしてサイドテーブルに飾った。
それから椅子を引っ張り出し、ベッドの横に陣取るとハチの手を取った。
まだ熱が引いていないせいかハチの手は、熱かった。
「……ハチ、どうしようか…?」
俺は先程の老医師の言葉を思い返した――。
『手術は大変な危険を伴う。成功率も高いとは言い難い』
『手術が失敗すれば命に関わるよ』
『それにハチくんの老化した身体で手術に堪えられるかどうか…』
『それでも手術が成功すれば人間の薬が使えるようになる』
『それと、人間に近付くことにより幼女の寿命が延びる事例も確認されているんだ』
『もしこの手術をしないでこのまま熱が下がらなければハチくんはもう…』
『手術が失敗すれば命に関わるよ』
『それにハチくんの老化した身体で手術に堪えられるかどうか…』
『それでも手術が成功すれば人間の薬が使えるようになる』
『それと、人間に近付くことにより幼女の寿命が延びる事例も確認されているんだ』
『もしこの手術をしないでこのまま熱が下がらなければハチくんはもう…』
「このまま残り僅かな命を生きるのか、その僅かな命を賭けて確率の低い賭にでるのか」
俺は…俺には決められない。
俺はハチの手をギュッと握り締める。
「ハチ…どうしよう……」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《だいすきなヒト。たいせつなヒト。》
暖かい光のなか――。
『よろしくな、ハチ』
わたしはしっている。このヒトをしっている。
『うんめぇぇっ!?ハチ、マジで料理上手だなぁ!』
だいすきなヒト。あたたかくて。やさしくて。
『メイド万歳ーーーーっ!!!』
ちょっとかわってるけど。
『おう、まかせろ』
まっすぐで、たのもしい。
わたしは…わたしは…。
――ハチ。
――ご主人さま?
たいせつなヒト。あたたかくて。やさしくて。
――行くんだね?男くんのところに。
――ご主人さま、私は……
ちょっとたよりないけど。
――僕には構わなくていいよ。ハチは男くんが好きなんだろう?
――……はい。
まっすぐで、いつもわたしのことを…。
俺は…俺には決められない。
俺はハチの手をギュッと握り締める。
「ハチ…どうしよう……」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《だいすきなヒト。たいせつなヒト。》
暖かい光のなか――。
『よろしくな、ハチ』
わたしはしっている。このヒトをしっている。
『うんめぇぇっ!?ハチ、マジで料理上手だなぁ!』
だいすきなヒト。あたたかくて。やさしくて。
『メイド万歳ーーーーっ!!!』
ちょっとかわってるけど。
『おう、まかせろ』
まっすぐで、たのもしい。
わたしは…わたしは…。
――ハチ。
――ご主人さま?
たいせつなヒト。あたたかくて。やさしくて。
――行くんだね?男くんのところに。
――ご主人さま、私は……
ちょっとたよりないけど。
――僕には構わなくていいよ。ハチは男くんが好きなんだろう?
――……はい。
まっすぐで、いつもわたしのことを…。
560 名前: SS@ハチ公 投稿日: 2008/03/28(金) 22:38:49.23 ID:01YbwwAO
~忠幼女ハチ・もう一つのミライ~5
~忠幼女ハチ・もう一つのミライ~5
《還るバショ》
――彼も待っているよ。君の事を。
――ご主人さまも…一緒に行けませんか?
――僕は行けない。“こちら側”の住人だから。
――そう…ですか。
ふと、何かが薫る。
――ワスレナグサ…?
――男くんが君を呼んでいるんだよ。
わたしはあるきだす。だいすきなヒトのもとへ。ヒカリのまんなかへ。
――ご主人さま……!
――さよなら、ハチ。幸福になるんだよ。
――彼も待っているよ。君の事を。
――ご主人さまも…一緒に行けませんか?
――僕は行けない。“こちら側”の住人だから。
――そう…ですか。
ふと、何かが薫る。
――ワスレナグサ…?
――男くんが君を呼んでいるんだよ。
わたしはあるきだす。だいすきなヒトのもとへ。ヒカリのまんなかへ。
――ご主人さま……!
――さよなら、ハチ。幸福になるんだよ。
光の中から温かくて大きな手が現れる。
わたしはてを、にぎりしめる。
――ご主人さま!やっぱり、一緒に……!
――駄目だよ。僕が行けば、君が“こちら側”に残ることになる。
ヒカリがどんどんつよくなる。
――ご主人さまぁあぁぁっ!!
――ハ・。君は生きる・だ。君の“・生”を。
――ご主人さま!ご主人さまぁっ…!
――そして…僕・こと・ワスレナ・で・。僕も・を・ワスレナ・から・・・…
ヒカリ。まっしろ。わたしをみたす――。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ギュッ、と俺の手が握り返された。
「…目、醒めたのか…?」
返事はない。
「…ぅうぅ…」
ハチは泣いていた。俺の手を握り締めて、泣いていた。
「男さん、私…生きたいです…。死にたく、ないです…!」
「……ハチ…お前、記憶が…!?」
「死んでしまったご主人さまの分も、幸福になりたい。私は…私は…!」
俺は泣きじゃくるハチをそっと抱きしめる。
「…うん。俺が、幸福にする。ハチを幸福にするから」
「はい…!はい…!」
涙でグシャグシャの顔を俺の胸に埋めて、ハチは何度も頷く。
あまりにも華奢で、今にも壊れてしまいそうなハチの肩を俺はいつまでも抱きしめていた。
薄暗い病室の中、青白い月のヒカリに照らされたワスレナグサだけが、俺達を見守っていた…。
561 名前: SS@ハチ公 投稿日: 2008/03/28(金) 22:39:05.42 ID:01YbwwAO
~忠幼女ハチ・もう一つのミライ~EPILOGUE1
――ご主人さま!やっぱり、一緒に……!
――駄目だよ。僕が行けば、君が“こちら側”に残ることになる。
ヒカリがどんどんつよくなる。
――ご主人さまぁあぁぁっ!!
――ハ・。君は生きる・だ。君の“・生”を。
――ご主人さま!ご主人さまぁっ…!
――そして…僕・こと・ワスレナ・で・。僕も・を・ワスレナ・から・・・…
ヒカリ。まっしろ。わたしをみたす――。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ギュッ、と俺の手が握り返された。
「…目、醒めたのか…?」
返事はない。
「…ぅうぅ…」
ハチは泣いていた。俺の手を握り締めて、泣いていた。
「男さん、私…生きたいです…。死にたく、ないです…!」
「……ハチ…お前、記憶が…!?」
「死んでしまったご主人さまの分も、幸福になりたい。私は…私は…!」
俺は泣きじゃくるハチをそっと抱きしめる。
「…うん。俺が、幸福にする。ハチを幸福にするから」
「はい…!はい…!」
涙でグシャグシャの顔を俺の胸に埋めて、ハチは何度も頷く。
あまりにも華奢で、今にも壊れてしまいそうなハチの肩を俺はいつまでも抱きしめていた。
薄暗い病室の中、青白い月のヒカリに照らされたワスレナグサだけが、俺達を見守っていた…。
561 名前: SS@ハチ公 投稿日: 2008/03/28(金) 22:39:05.42 ID:01YbwwAO
~忠幼女ハチ・もう一つのミライ~EPILOGUE1
《帰宅》
○月○日
肉屋にて
「いらっしゃいませっ♪」
「よっ!リヴ」
「あーっ!男さん!お帰りなさ~い!おばちゃん、みんな~!男さん来たよ!」
ドタドタドタ…
「あん?お、本当だ」
「どうも、男さん」
「男、お土産くれでぷ~♪」
「よぉタン、テール、ハム。お前らに土産はないぞ?」
「ガビーンでぷ!」
「おやおや、ようやく帰ったのかい?“社長さん”?」プカー
「あ、おばちゃん!これお土産です!」
「あら、ありがとうね。出張はこれで一段落かい?」
「そうですね。一通り仕事は片付いたんで、少しは休めそうです」
「あんまり無理するんじゃないよ。で、何を買うんだい?」
「メンチカツ3つ下さい。出張の後はこれを買って帰らないとエイトの奴が怒るんですよね」
「エイトくんはよく分かってるねぇ。ウチのメンチは日本一だから。はい、おまけして980円だよ」
「どうも。それじゃ、帰りますね!」
「はいよ。奥さんとエイトくんに宜しく言っておいてね」
「男さん、さよならー!」
「二度と来るなよー!」
「男さん、ご機嫌よう」
「ぷぅ~…お土産~…」
562 名前: SS@ハチ公 投稿日: 2008/03/28(金) 22:40:01.02 ID:01YbwwAO
~忠幼女ハチ・もう一つのミライ~EPILOGUE2
○月○日
肉屋にて
「いらっしゃいませっ♪」
「よっ!リヴ」
「あーっ!男さん!お帰りなさ~い!おばちゃん、みんな~!男さん来たよ!」
ドタドタドタ…
「あん?お、本当だ」
「どうも、男さん」
「男、お土産くれでぷ~♪」
「よぉタン、テール、ハム。お前らに土産はないぞ?」
「ガビーンでぷ!」
「おやおや、ようやく帰ったのかい?“社長さん”?」プカー
「あ、おばちゃん!これお土産です!」
「あら、ありがとうね。出張はこれで一段落かい?」
「そうですね。一通り仕事は片付いたんで、少しは休めそうです」
「あんまり無理するんじゃないよ。で、何を買うんだい?」
「メンチカツ3つ下さい。出張の後はこれを買って帰らないとエイトの奴が怒るんですよね」
「エイトくんはよく分かってるねぇ。ウチのメンチは日本一だから。はい、おまけして980円だよ」
「どうも。それじゃ、帰りますね!」
「はいよ。奥さんとエイトくんに宜しく言っておいてね」
「男さん、さよならー!」
「二度と来るなよー!」
「男さん、ご機嫌よう」
「ぷぅ~…お土産~…」
562 名前: SS@ハチ公 投稿日: 2008/03/28(金) 22:40:01.02 ID:01YbwwAO
~忠幼女ハチ・もう一つのミライ~EPILOGUE2
やたらと豪勢な造りの門を潜り、前庭を抜ける小道を歩く。
彫刻やら噴水やらを横目に行くと、これまた豪勢なお屋敷の扉に辿りついた。
すると、手を触れてもないのに勝手に扉が開いた。
扉が開いた原因は、その扉の隙間から飛び出してきた少年だった。
「パパ~!お帰りなさ~い!」
「エイト~!いい子にしてたか?」
俺は飛びついてきたエイトを一度抱きしめる。
そして、母親譲りの明るい茶色で、俺譲りのくせっ毛のある頭をワシワシと撫でる。
「うん!僕、いい子にしてたよ!」
「そうかそうか。偉いぞ~!」
「えへへ//…あ!パパ、メンチカツ買ってきてくれた?」
「買ってきたぞ~!…でも商店街は近いからいつでも買えるだろうに」
「パパも一緒に食べないと、仲間外れは可哀相でしょ?」
「くぅ~!可愛い奴め!!」
グワシグワシと更に激しく撫で回す。
「うわわ!?痛いよ~!」
「わはは、すまんすまん!」
「もぅ!パパは加減を知らないんだから~!」
「あんまりモーモー言ってると牛になるぞ~?」
「も~っ!ふざけないでよ~!」
こんな風に我が愛しの息子とイチャついているとまた扉が開いた。
彫刻やら噴水やらを横目に行くと、これまた豪勢なお屋敷の扉に辿りついた。
すると、手を触れてもないのに勝手に扉が開いた。
扉が開いた原因は、その扉の隙間から飛び出してきた少年だった。
「パパ~!お帰りなさ~い!」
「エイト~!いい子にしてたか?」
俺は飛びついてきたエイトを一度抱きしめる。
そして、母親譲りの明るい茶色で、俺譲りのくせっ毛のある頭をワシワシと撫でる。
「うん!僕、いい子にしてたよ!」
「そうかそうか。偉いぞ~!」
「えへへ//…あ!パパ、メンチカツ買ってきてくれた?」
「買ってきたぞ~!…でも商店街は近いからいつでも買えるだろうに」
「パパも一緒に食べないと、仲間外れは可哀相でしょ?」
「くぅ~!可愛い奴め!!」
グワシグワシと更に激しく撫で回す。
「うわわ!?痛いよ~!」
「わはは、すまんすまん!」
「もぅ!パパは加減を知らないんだから~!」
「あんまりモーモー言ってると牛になるぞ~?」
「も~っ!ふざけないでよ~!」
こんな風に我が愛しの息子とイチャついているとまた扉が開いた。
563 名前: SS@ハチ公 投稿日: 2008/03/28(金) 22:40:52.28 ID:01YbwwAO
~忠幼女ハチ・もう一つのミライ~EPILOGUE3
~忠幼女ハチ・もう一つのミライ~EPILOGUE3
出てきたのは小柄でほっそりとした若い女性。
その年齢には不釣り合いな純白の長い髪の毛を、腰の辺りで鈴の付いた赤いリボンで纏めている。
「お帰りなさい、あなた」
「ただいま、ハチ」
ハチの髪の毛は頭部の手術で一度剃られた後、再び生えて来た時に何故か真っ白になっていた。理由は…よく解らない。
しかし、それ以外の異常は特に無くハチは人間として成長し始めた。
当時、俺の腰までしかなかった彼女の背丈は今では肩まで届く程になっていた。
「もうお昼ご飯の準備ができてますよ」
「ちょうど良かった!俺もう腹ぺこなんだよ!」
「ママ~!パパの買ってきてくれたメンチも食べよー?」
「ふふ、そうね。じゃ、お皿を用意しなくちゃ」
「なぁ、メニューはなんだ?」
「あなたの大好きなミートソーススパゲティーですよ。今日は天気がいいからサロンで食べましょうか?」
「お、いいアイディアだな!ほらエイト行くぞ!」
「はぁーい!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
バタンと扉が閉まって、楽しそうな笑い声が遠ざかって行く……。
春。暖かい陽射しが庭を照らす。
きっと今年も、綺麗なワスレナグサが花壇いっぱいに咲き誇るだろう――。
その年齢には不釣り合いな純白の長い髪の毛を、腰の辺りで鈴の付いた赤いリボンで纏めている。
「お帰りなさい、あなた」
「ただいま、ハチ」
ハチの髪の毛は頭部の手術で一度剃られた後、再び生えて来た時に何故か真っ白になっていた。理由は…よく解らない。
しかし、それ以外の異常は特に無くハチは人間として成長し始めた。
当時、俺の腰までしかなかった彼女の背丈は今では肩まで届く程になっていた。
「もうお昼ご飯の準備ができてますよ」
「ちょうど良かった!俺もう腹ぺこなんだよ!」
「ママ~!パパの買ってきてくれたメンチも食べよー?」
「ふふ、そうね。じゃ、お皿を用意しなくちゃ」
「なぁ、メニューはなんだ?」
「あなたの大好きなミートソーススパゲティーですよ。今日は天気がいいからサロンで食べましょうか?」
「お、いいアイディアだな!ほらエイト行くぞ!」
「はぁーい!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
バタンと扉が閉まって、楽しそうな笑い声が遠ざかって行く……。
春。暖かい陽射しが庭を照らす。
きっと今年も、綺麗なワスレナグサが花壇いっぱいに咲き誇るだろう――。
~忠幼女ハチ・もう一つのミライ~ ―完―