445 名前: SS@空色 投稿日: 2010/07/04(日)
*
Chapter 001 × 罪の意識が目覚めるまでのカウントダウン
“幼女”を拾った。
当然人間ではなく、最近流行りだした人工知能タイプのガイノイドだ。
ゴミ置き場に粗大ゴミとして捨てられていただけある。
当然人間ではなく、最近流行りだした人工知能タイプのガイノイドだ。
ゴミ置き場に粗大ゴミとして捨てられていただけある。
その娘の声帯は破損していた。
人間と同じ姿、同じ知能を持つものをこんな風に表現するのは少々気が引けるが、
その娘は
『欠陥品』だった。
今日から彼女をぼくの傍に置こうと思う。
ぼくが拾った616年モデルの旧型ガイノイド。
彼女の名前は――
ぼくが拾った616年モデルの旧型ガイノイド。
彼女の名前は――
446 名前: SS@空色 投稿日: 2010/07/04(日) 12:09:49.44 ID:7FW4Rz60
[ 悪魔のアリス ]
椅子に半強制的に縛り付けられた黒髪の幼女は、おびえた瞳で青年を見つめていた。
青年が持つその手には幾つかの工具、そして少女の喉奥に潜んでいたはずの一昔前に出来た時代遅れな人工声帯。
徐々に距離を詰めて歩み寄ってくる見知らぬ男に、わなわなと震えたが拘束された体では逃げ出すことも出来なかった。
青年が持つその手には幾つかの工具、そして少女の喉奥に潜んでいたはずの一昔前に出来た時代遅れな人工声帯。
徐々に距離を詰めて歩み寄ってくる見知らぬ男に、わなわなと震えたが拘束された体では逃げ出すことも出来なかった。
「……そんなに怯えなくても良いじゃないか。さて、声は出せるかい?」
椅子の隣にひっそりと佇むテーブルの上に、青年が持っていた工具と声帯が放り出される。
ぶつかり合う音が少しばかり室内に響いて、空気中に消えると、PCファンの音だけがサーっと鼓膜を揺らした。
無残に転がる自分の声帯に、暫し視線をくれていると、幼女の不安に答えるかのように苦笑しながら青年は言う。
「新しい人工声帯を取り付けたから、今日からは声が出せるようになったんだよ」
その言葉に、喉元を締め付ける違和感に気づき、包帯が巻かれているのだとやっと察した。
目を瞬かせながら小さく声を零すけれど、震える口元から這い出てくるのは歪な音のような声だ。
ぶつかり合う音が少しばかり室内に響いて、空気中に消えると、PCファンの音だけがサーっと鼓膜を揺らした。
無残に転がる自分の声帯に、暫し視線をくれていると、幼女の不安に答えるかのように苦笑しながら青年は言う。
「新しい人工声帯を取り付けたから、今日からは声が出せるようになったんだよ」
その言葉に、喉元を締め付ける違和感に気づき、包帯が巻かれているのだとやっと察した。
目を瞬かせながら小さく声を零すけれど、震える口元から這い出てくるのは歪な音のような声だ。
「おや、随分と長い間声を出していなかったみたいだね。それとも新しい声帯に慣れてないだけかな?
とりあえず両方とぼくは考えておくけれど――」
とりあえず両方とぼくは考えておくけれど――」
そう言って、半ば無理やりに幼女のおとがいを掴む。
喉元を凝視しながら新しい声帯の様子を確認し、違和感はなさそうだと判断すると満足げに顎から一度手を離した。
きめ細やかな人工の肌を指先でくすぐり、喉元、下顎を通っていき、米神を伝って頭頂部へ触れると、微かに笑みを浮かべながら幼女の頭を撫でる。
掌を離して、幼女の足元へと跪き、視線を低くすると静かな声で喋り始めた。
喉元を凝視しながら新しい声帯の様子を確認し、違和感はなさそうだと判断すると満足げに顎から一度手を離した。
きめ細やかな人工の肌を指先でくすぐり、喉元、下顎を通っていき、米神を伝って頭頂部へ触れると、微かに笑みを浮かべながら幼女の頭を撫でる。
掌を離して、幼女の足元へと跪き、視線を低くすると静かな声で喋り始めた。
「それでは初めまして。きみは616年製造モデル“CZ-s001h”の旧型ガイノイドだね?
そしてきみの名前は“アリス”で当たってるかな。失礼だと思ったけどきみが付けてたネックレスに書かれていたから拝見させて貰ったんだ」
そしてきみの名前は“アリス”で当たってるかな。失礼だと思ったけどきみが付けてたネックレスに書かれていたから拝見させて貰ったんだ」
再度「どうかな?」と問いかけるが、暫し微動だにしない沈黙が続いた。
漸くこくりと頷いた彼女に、間違いではなかったと安堵の溜息を漏らすと、胸を撫で下ろした。
「それじゃ、アリス」名前を呼びながら彼女を椅子に縛り付ける拘束具を一つ一つ丁寧に外していく。
漸くこくりと頷いた彼女に、間違いではなかったと安堵の溜息を漏らすと、胸を撫で下ろした。
「それじゃ、アリス」名前を呼びながら彼女を椅子に縛り付ける拘束具を一つ一つ丁寧に外していく。
447 名前: SS@空色 投稿日: 2010/07/04(日) 12:11:40.69 ID:7FW4Rz60
パチン。パチン。金具が外れていく音がPCファンの音に重なっていく。
段々と締め付けが薄くなっていく拘束具を、アリスは凝視しながら次の言葉を無言で待った。
段々と締め付けが薄くなっていく拘束具を、アリスは凝視しながら次の言葉を無言で待った。
「きみを買ったマスターの居場所は分かるかな」
返答を待ったがいつまで経っても何もない。
青年がちらりと視線をくれてやるが、徐々に外れていく拘束具を凝視しているだけで何のモーションもない。
「頷くか首を振るか、そのモーションだけでも良いから悪いけど答え辛くても答えて」
少なくとも正規の主人にはきちんと報せなくてはいけないから。
言葉が進んでいくほどに表情がむっつりとしていくアリスに、言い聞かせるように「ね?」と押しを入れる。
拘束を緩めていく手を止めて、無言で彼女を凝視しながら返答を待つと、居心地が悪そうに彼女は首を左右に振った。
青年がちらりと視線をくれてやるが、徐々に外れていく拘束具を凝視しているだけで何のモーションもない。
「頷くか首を振るか、そのモーションだけでも良いから悪いけど答え辛くても答えて」
少なくとも正規の主人にはきちんと報せなくてはいけないから。
言葉が進んでいくほどに表情がむっつりとしていくアリスに、言い聞かせるように「ね?」と押しを入れる。
拘束を緩めていく手を止めて、無言で彼女を凝視しながら返答を待つと、居心地が悪そうに彼女は首を左右に振った。
「うん、うん。そうか。それじゃ、行く所は?」
これはすぐに返答が来た。
静かに首を左右に振られる。否定のノーだ。
静かに首を左右に振られる。否定のノーだ。
「そうだな……ならぼくのところへおいで。
ぼくがきみを養ってあげる。最低条件として、家族と仲良くしてくれれば何をしていても良いよ」
ぼくがきみを養ってあげる。最低条件として、家族と仲良くしてくれれば何をしていても良いよ」
犯罪だとかそんなのは流石に遠慮願いたい所だけど。
目を丸くさせて無言で驚くアリスに「どうかな?」と再度問いかけた。
止めていた手を動かし始め、また金具が外れていく音と衣擦れの音が重なっていく。
パチリ。最後の金具を外してアリスの拘束は全て解けた。拘束具を見つめたまま俯いているアリスの顔を覗き込み、視線を合わせる。
しかし間もなくすぐに視線を反らされ、怪訝そうに眉を顰めて返事を待っていると漸く彼女は顔を上げ、戸惑いつつもこくりと一つ頷いた。
目を丸くさせて無言で驚くアリスに「どうかな?」と再度問いかけた。
止めていた手を動かし始め、また金具が外れていく音と衣擦れの音が重なっていく。
パチリ。最後の金具を外してアリスの拘束は全て解けた。拘束具を見つめたまま俯いているアリスの顔を覗き込み、視線を合わせる。
しかし間もなくすぐに視線を反らされ、怪訝そうに眉を顰めて返事を待っていると漸く彼女は顔を上げ、戸惑いつつもこくりと一つ頷いた。
「……宜しい。それじゃ、今日からきみはぼくらの家族だ。
ぼくの名前は真琴。我が家には他に、飼い犬のアレクと弟の真人、それに病気で療養中の母さんがいる。
あとで紹介するよ。少なくとも、皆良い奴だからどうか仲良くしてやってくれ」
ぼくの名前は真琴。我が家には他に、飼い犬のアレクと弟の真人、それに病気で療養中の母さんがいる。
あとで紹介するよ。少なくとも、皆良い奴だからどうか仲良くしてやってくれ」
青年はアリスの返答に嬉しそうに笑みを浮かべると、
最後に彼女の肩を軽く叩き、テーブルの上へと無造作に放られたそれらを手に持って離れていった。
拘束具も外れて身軽になった“作り物”の体。時折喉奥から漏れ出てくる、小さな声。
最後に彼女の肩を軽く叩き、テーブルの上へと無造作に放られたそれらを手に持って離れていった。
拘束具も外れて身軽になった“作り物”の体。時折喉奥から漏れ出てくる、小さな声。
アリスは、唯一喉元を締め付ける包帯越しに、声を出す度震える喉を掌で感じながら呆然としていた。
――何がともあれ、嬉々とした気分で胸が詰まりそうだ。久々に発することの出来た自分の声に、緩みがちな口元を掌で隠した。
新しい声。廃棄されるはずだった私を助けてくれた案外良い人そうな青年。
――何がともあれ、嬉々とした気分で胸が詰まりそうだ。久々に発することの出来た自分の声に、緩みがちな口元を掌で隠した。
新しい声。廃棄されるはずだった私を助けてくれた案外良い人そうな青年。
少しだけ、ここでの生活が楽しみだと期待した。