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新ジャンル「幼女980円(税)」SSまとめ@wiki

うたう幼女4

最終更新:2008年04月04日 03:50

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159 :SS@ミク :2008/03/18(火) 15:11:11.78 ID:zWDxXRs0

因みにこの二人の浴衣を誂えたのが誰かというと……って、もはや説明するまでもねーわな。
お察しの通り、我らがばっちゃんである。

演奏会の後やたらとテンションの上がったこの人は、いよいよ本格的にミクを気に入ってしまったらしい。

やれ浴衣を着せてみたり、やれプレゼントと称してボロいカセットウォークマンを進呈してみたり、
かと思えば見るからにどこかに仕舞い込んで放置していたっぽい、
できれば火など点けないで永久にそのまま埋もれさせておきたかったと思わせる花火を
引っ張り出してきたり、ついでにスイカを振舞ってみたりと
何か知らんが大忙しである。 そんな興奮するとポックリ逝っちまうぞ。

160 :SS@ミク :2008/03/18(火) 15:11:59.70 ID:zWDxXRs0
まぁ、とりあえずGJとは言っておこうか。…最初の一項目だけはな。
カセットウォークマンという名の過去の遺物なんかもらっても、
どうせ俺の部屋で無造作に転がってるだけの運命をたどるであろうことを断言しておくぜ。

……などと俺の思考がイイ感じに果て無き大宇宙のさなかを漂い始めたとこらへんで、
不意にタマくんの声で現実に引き戻された。

「ねぇ、ちょっと良いかな。あなただけに言っておきたいことがあるんだ。
その…ミクちゃんのことで。不快に感じたら、聴かなかったことにしてくれても構わないから」

161 :SS@ミク :2008/03/18(火) 15:13:27.77 ID:zWDxXRs0
口調は穏やかだったが、その声にはなにやら強い意志を感じる。
どうしたどうした、君らしくない。

「聞こうじゃないか。言ってみな。幼男女のことだろ」

「うん。それじゃ…ええと、何から話せば良いかな。

まず、そもそも僕らは前提として、人間に造られた存在なんだ。
大きな枠で捕らえてしまえば、『ロボット』と括ってしまえるかもしれない。
でも…やっぱり、違うんだよ。 
姿も、身体を構成する物質も、心も、むしろ極端に人間に近い存在なんだよ。」

「そんなこと、百も承知してるさ。現に俺はミクも、君だって同じ人間と思って接してるぞ」

「うん…そう言ってもらえると嬉しいよ。ところで、それを踏まえた上で聞くけど
もし人間に生命を造る技術があったとして、それで新たな生命体を生み出すとき、
もっとも注意すべきことはなんだと思う?」
162 :SS@ミク :2008/03/18(火) 15:15:12.49 ID:zWDxXRs0

俺は肩をすくめてみせる。

「悪いが、俺は君ほど頭が良くないんだ。問答は良いから、掻い摘んで分かりやすい説明をたのむぜ」

「わかった。じゃ言うね。正解は、『生態系を狂わさないこと』さ。
そのために、人類に比べて段違いに劣った生物を造り出すことはできない。
……ほら、生態系ピラミッドのどこか一つの層が狂ったら、めぐりめぐって
人類も存亡の危機を迎えるって聞いたことない?
まして、人間を越える生物なんてもっての外だよね。ピラミッドの頂点が代わってしまう。

そんな消去法で、人類は『人と同層に位置する、但しほんの少し格下な生命体』を生み出した。
…そのためには、成長という概念を排除してしまうのが手っ取り早かった」


先ほどから少年は微笑を絶やしていない。
だがそれと並立して何か別の感情が読みとれる気がするのは、俺の思い過ごしだろうか?

「人間のレプリカから、成長を欠落させた存在――それが僕らだ」

163 :SS@ミク :2008/03/18(火) 15:16:28.06 ID:zWDxXRs0
「…成長?」

「そう。あるいは、学習能力とも言い換えられるね。つまり、内面の成長さ。
例えば製造した段階で人類を下回っていても、時が経つにつれて色々なことを吸収して、
いずれ人類を越えてしまったら洒落にならないでしょ。
だから僕らは、製造段階でインプットされた事以外のことを行えない。

えぇっと、そうだなぁ……わかりやすく言うと、生まれながらに料理のできない幼女は、ずっとできない。
練習して、できるようにもならない。だって、そのように設定されているから。

同様に、『音楽という概念』、『夢を見る能力』、『人間に逆らう思考』、これらは
生きる上では不必要な機能だから、まずインプットされない。つまり



―うたう幼女なんて、存在するはずが無いんだよ」


164 :SS@ミク :2008/03/18(火) 15:25:44.19 ID:zWDxXRs0

しばしの間、俺はあっけにとられた。
傍から見れば、えらいアホ面だったろうと思う。

「…いや、でも、ほら、実際うたっていたじゃないか」
「音楽という概念が無い僕たちは、ある音の羅列を聞いてそのとおりに発声するなどという真似できない」
「じゃあミクにはその、何だ―『インプット』されていたんだろ」

「なるほど、そういう幼女もいるのかもね。
でもその場合、あらかじめ設定された何曲かをただ再生するという機能に過ぎないはずだよ。
…丁度CDを再生するだけの、ステレオのようにね。
そしてそれは歌ではなく、ブツブツの音の並びにしかならないはずさ。
でもミクちゃんの発した音は、あまりに人間のそれに似すぎている。
…そして歌った曲は、彼女があなたと暮らすようになってから新しく覚えたものだよね」


165 :SS@ミク :2008/03/18(火) 15:27:36.81 ID:zWDxXRs0
不意に、ミクがイヤホンをしている様子を思い浮かべる。
それはもはや俺にとって、あまりに見慣れた光景だった。
ミクは家事をする時など以外は、いつもそうしている。

ああ、そうだ。あの家においてCD鑑賞は、彼女の唯一の娯楽だった。
そして突発的に記憶が蘇る。
…そういえば昨日の夜、ミクは悪夢でうなされていなかった。


「もう分かってもらえたかな」

停止して動き出そうとしない脳裏を、穏やかな声が通過する。

「彼女はおそらく世界に一人の、成長する幼女だ。
一般に流通している僕らより、もう一歩あなたたちに近い存在だよ。」


166 :SS@ミク :2008/03/18(火) 15:28:42.29 ID:zWDxXRs0

その後タマくんは「不快にさせてしまったね」と、何度も謝った。
「それでもこの先あなたに課せられるであろう負担を考えると、言わずにはいられなかった」、と。

逆に俺は、この聡明な少年に礼をいった。彼は俺たちのことを思って
情報を提供してくれたのだ。文句など、一つもあるはずがない。

それに俺はもう決めたんだ。どんなことがあろうとミクを幸せにすると。
…本人を前に宣言してしまったくらいだしな。


167 :SS@ミク :2008/03/18(火) 15:31:24.30 ID:zWDxXRs0

顔を上げると、見るも眩しい二人が目に入った。
肌にまとわりつくような残暑の中、彼女たちは一片の曇りもない笑顔で、ひなびた花火に興じている。
どんな美術館の名画なんかよりも平和を感じさせるその光景は、俺に終わらない幸福を予感させた。

この夏が終わって。
ここから帰って。
やがて、雪の季節を迎えても。

この二人がそばにいる限り、それはずっと続いて終わらないのだと信じた。

朝起きると、ミクがいる。かったるい講義を受け終え、一日分の疲労を持ち帰る。
そうして部屋の戸を開ければ、そこにはもはや毎日といって良いくらい先輩がいて、
ミクと何やら楽しそうに夕飯の支度をしている。それも途方も無く見慣れた光景だ。
くだらない話をしながら三人夕飯を食べ、また寝て、起きて、同じ一日が始まって。

168 :SS@ミク :2008/03/18(火) 15:33:37.16 ID:zWDxXRs0

それで、良かった。
ただそれだけで、どうしようもなく幸せだった。

そんな変わらぬ日々をすごし、そしてこれからもずっと続いていくのだと思っていた。
……そう、思っていたのに。


日常が変化を見せるのは、いつだってあまりに急過ぎる。
それは十月にさしかかって間もない、ある日のことだった。

ここまでの俺の人生にそんな大層な事件があったでもないし、
ただ平凡な一庶民なりの慎ましい人生だが、
それでも後に振り向けば、きっと間違いなく『人生で一番幸せだった』。


そう思える夏が、終わった。

271 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/03/21(金) 03:40:57.84 ID:NQUEyRs0

「前見にいった桜、もう葉っぱぜんぶ落ちちゃったかな」

何気なくミクが呟く。
さぁどうかね、などと生返事しつつ、俺は目の前の作業に意識を集中させる。

その日、俺は珍しく家にいた。

大学が開校記念日とやらで休校であり、それにあわせてバイトのスケジュールの方もオフにしておいた。
にもかかわらず、勢いに任せて「いつもミクに任せっきりだしな。久しぶりに俺が夕飯つくるよ」
などと格好つけたせいで、今現在台所にて一人奮闘中の身である。

あの夏の小旅行から特に変わったこともなく、至極平和に二ヶ月ちょいの月日が経過していた。
早いもので、暦の上では十一月である。


272 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/03/21(金) 03:42:35.71 ID:NQUEyRs0

それはひとまずそこら辺に置いとくとして。

さて、開校記念日なんてもんはその学校にゆかりのない者にしてみれば単なる平日なわけで、
それは在校していた過去を持つ先輩といえど同様である。

よって、彼女も今頃は例のペットショップに勤務中のはずだ。
とはいえ例によって本日も帰りに寄るとの旨を承っているので、あと三十分もすれば
いつもの輝くばかりの笑顔でご登場なさるだろう。

ピンポーン。

ほら、噂をすればだ。
俺は逐一電話口でインターホンに出ることもせず、一片の疑いもなしにドアを開けた。

「おじゃましまーす。えへ、また来ちゃいました!」

そんな朗らかな挨拶が返ってくることを、言うまでもなく期待していた。

273 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/03/21(金) 03:43:06.51 ID:NQUEyRs0
……しかしそんな予想と裏腹に、そこに立っていたのは全くもって知らない人たちであった。
大人の男が一、二…五人。 見た限り皆同じような年齢で、三十から四十代であろうことが伺えるが、
何やら五人とも顔色が悪い。
全員がネクタイの上に土色の作業衣ともコートともいえない上着を着用しており、
胸元にはコンビニのバイトでするようなネームプレートをつけている。

「あ…えと、ご用件は?」

面食らったあまり俺が少しの間をもって聞くと、その集団のうち一人が代表するかのように口を開いた。

「…やっとお目にかかれました。あなたがミクちゃんの飼い主の方ですね?」


274 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/03/21(金) 03:43:41.40 ID:NQUEyRs0
「…飼い主?ミクって、なんですかね。犬か何かでしょうか」

「幼女です。あなたならご存知のはずですが」

「生憎ですけど、知りませんよ。何かの間違いでしょう。他を当たってください。」

そう言い捨てるとドアをすばやく閉め、背中向きによりかかった。
…身体中が嫌な汗でびっしょり濡れている。
まずい。この状況はまずい。


275 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/03/21(金) 03:44:31.64 ID:NQUEyRs0
実は例の企業からの電話は先輩と初めて会った、あの日あれっきりではなかった。

少なくとも週に一回は電話がかかってくる状態は、その日から
ばあちゃんの家に滞在している間さえ続いていて、その数字列がディスプレイに表示されるたびに
俺はことごとく無視を決め込んでいた。
最近無くなっていたからもう諦めたとばかり思っていたが…畜生、抜かった。
家へ直接来るなんて、考えてもなかった。

冷静さを失った頭でなんとかこの状況から逃れるべく考えを巡らしていると、
閉ざされた扉のむこうから「ふう」とため息交じりの声。


「ですがね、お客さん。我々も今日の内になんとかミクちゃんを連れて帰らなければならないんですよ。」


276 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/03/21(金) 03:45:52.98 ID:NQUEyRs0
瞬間、自分の身に何が起きたのか把握できなかった。
それほど唐突に、背中がとびら越しに凄まじい力で押された。

大の大人五人の力を前に、俺一人分の体重など無意味に等しい。
そのまま、目に映る景色がぐるりと逆転する。
俺は成す術も無く、なだれ込まれる形で奴らの下敷きになった。

「お兄さんっ!?」

―見上げると、様子を見に来たミクが驚きに目を見開いて立ちすくんでいる。

なんとかこの状況から脱出を図ろうとする―が、奴らの中の二人がしっかりと馬乗りになり、
俺の顔面やら腕やらあらんかぎりの力で地に押し付けている。どうにもならない。

やがて残りの三人が立ち上がり、恐怖の表情を浮かべたままのミクへ向きなおした。

「…こっちへ来るんじゃない!!」

頭の中が真っ白で、自分で何を叫んでいるのかわからない。

「逃げろ、ミク!!」


277 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/03/21(金) 03:46:43.90 ID:NQUEyRs0

その声を合図に、硬直していたミクが身を翻し部屋の奥へ退行する。しかし…

覆いかぶさる二つの体の下で滅茶苦茶にもがきながら、俺は思う。
…この狭い部屋で大人三人を相手に逃げ切るなど、どう考えても不可能だ。

そして、とうとう―

俺の視界にミクが細い腕をつかまれ、逃れようと必死にもがいている光景が映し出される。
その表情に浮かぶのは、俺が未だかつて見たことが無いほどの恐怖の色。

「やめて!やめて! どうして!? お兄さん!? お兄さん!?」


その声を耳にした瞬間、一気に頭に血が上昇する。


「お前ら、ミクに触るなあぁっ!!」


278 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/03/21(金) 03:48:36.57 ID:NQUEyRs0
身体を起こそうとするが、依然俺を地に押し付ける力は緩まない。
…何が「いざという時も俺がそばにいれば」、だ。
その『いざという時』、俺はこんなに無力じゃないか。


…やめてくれ。お願いだ、もうやめてくれ。
ミクを、返してくれ。
このままだと全て終わってしまう。
今まで大事に重ねてきたものが、全て壊れてしまうんだよ。
きっと失われたら二度とは取り戻せない、何かが。

その時だった。



「―――きゃあああっッ!!!!  誰か―――――!!!!!!!!」


建物中に響き渡るような、大声だった。
しかし、声の主はミクではない。俺の背後だ。

振り向くと玄関には恐怖と驚愕の混じったような表情を浮かべた先輩が、立っていた。


279 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/03/21(金) 03:49:55.36 ID:NQUEyRs0
彼女は叫ぶ前からある程度事態を把握していたようだった。

恐怖のためか唇が震えているが、涙を浮かべたその瞳は、
今やライオンの母親が我が子を守るかのような怒りの目だ。

各階のろうかに一本ずつ設置されている非常用の消火器を手にとり
ノズルをはずすと、一切の躊躇いもなく室内に向けて噴射する。

わずか数秒で室内が白い煙で満たされる。
比較的近い位置にいた、俺に跨る二人には直撃だ。

奴ら全員の注意がそちらへ逸れた隙に、腕が一本だけ束縛から逃れた。
手当たりしだい這わせると、何かが手に触れる。――ミクのCDウォークマンだ。

手にとり一人の顔目がけ、思い切り投げつけた。


280 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/03/21(金) 03:51:12.30 ID:NQUEyRs0

「うわぁああ!!」と呻き声を上げ、一瞬押さえる力が弱まった。
……行くなら、今しかない。

渾身の力でやつらを振り解き、部屋の奥へ走る。
「ミクを、助ける」。頭の中は、もはやそれしか無かった。

―失われた視界の隅で突然の煙幕に戸惑う奥の三人を捕らえるや否や、
ミクを強引に払いのけ、体ごと突進した。


281 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/03/21(金) 03:52:56.87 ID:NQUEyRs0

倒れこむと同時に、白煙が微かにうすれた気がした。さっきから、消火器の噴射音が聞こえない。
まさか――と倒れ込んだ体勢のまま確認すると、手前の二人に消火器を投げつけたらしい先輩が
こちらへと駆けてくる。


そのままうずくまるミクの元へかけ寄って…
差し伸べた腕を引き寄せ…
そして抱きしめた。


だめになってしまいそうだった全てが、再び動き出した。
俺のミクを、とりもどした。


282 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/03/21(金) 03:53:58.70 ID:NQUEyRs0
視界が暗転したのは、その直後だった。
背の高い二つの影が戸口で何か叫んでいるのを、俺は霞む視界で最後の光景としてとらえた。
その声が、どんどん遠くなってゆく――それにかわって蘇るのは、あの夏の日のミクの歌声―そして――。


俺は意識を失った。

368 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/03/24(月) 17:39:29.93 ID:ew/ofQE0
次に意識がもどったとき、俺は知らない部屋にいた。

机と椅子だけというだだっ広い空間に、窓が一つだけぽっかり空いている。
生活観のかけらも見出せない、なんとも殺風景な部屋だった。
ミクも、先輩も、作業着の男たちもいなかった。


…あの後、どうなったんだろう。
俺はしばしの間孤独と脱力感とに向き合った。
今更自分からこの部屋を出るのも、なんだかひどく億劫だ。
ただひたすら受身となり第三者の行動を待機した。

やがて、気だるい静寂を打ち破るようにアルミ張りの扉が開いた。
入ってきた男の服装で、俺は自分の運び込まれた場所を悟った。
どうやら、全く最悪の状況というわけではないらしい。

ここは警察署だ。

その男は意識を取り戻した俺に気付いたらしく、一度退室し、
そして、おそらく彼の上司と思われる恰幅の良い男を引き連れて再び戻ってきた。

二人によって、俺は現状況の説明を施された。


369 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/03/24(月) 17:40:34.12 ID:ew/ofQE0


…先輩は、よく頭の回る人だった。
部屋に近づき何やら不審な気配に気づいた彼女は、早急に110番へ通報した。
そのまま暫く、中の様子を伺っていたという。

俺が取り押さえられても、奴らの手がミクに触れても、
彼女は冷静さを失わずに自分の出る機会を伺っていた。
彼女は今自分がすべきことは、『警察が来るまでの時間稼ぎ』であることを把握していた。
そして些かパニックに陥りつつも、緊急事態に強いられたその役目を見事にやってのけたのだ。

…正直、先輩が来るのがもう少し遅かったらと考えるとぞっとする。
俺が意識を失った直後という速やかさで警察の仲裁が得られたことは、すべて彼女の功績だ。


あとは公共の場での暴動ということでその場にいた全員が事情徴収に署に連行され、
俺はひとまず意識の回復を待つことにして放置、現在に至る―ということらしい。


370 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/03/24(月) 17:41:42.79 ID:ew/ofQE0

そこまで説明すると、上司っぽい方が口を開いた。

「まあ、なんだ、双方とも、事情は一通り聞かせてもらったよ。
とりあえず、不法侵入、強制連行未遂に関しては百パーセントあちらさんが悪い。
その件については○×本社も絡んで法的な処分は受けてもらうということで、話はついた。
お前さんたちの暴力も、正当防衛ということで一切咎められん。安心しな」


今ひとつ、話の内容が頭に入ってこない。
まだ夢の中のような気さえする。意識がふわふわと、心許なかった。
しかしそんな俺を他所に、その警官は話を続けた。


「しかし、ここからが厄介だ。その点で非は認めるとはいえ、また別のことであちらさんにも言い分があるらしい。
そこで――あんたには、これを書いてもらわねばならん。」

机の上に、一枚の紙が広げられた。

「…なんですか、これ」

「見てのとおり、おまえさんの幼女を企業に引き渡すという同意書だ」


371 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/03/24(月) 17:43:03.92 ID:ew/ofQE0

「…待ってくださいよ。こんなの、おかしいでしょう」


「あんたの言うことも分かる。だがな、わかってくれ。
このご時勢において幼女というのは、たぶん一番慎重に扱わにゃならん項目だ。
あの幼女をほっとくと、生態系が狂いかねん。下手すると人類が危険、
などと言われたら、回収に協力せんわけにはいかんのだ。

…ま、なんせ幼女だ。今まで暮らしてきた愛着もあるだろう。
テレビや電子レンジのように、ポンと手渡すようにいかんことも分かる。
だがおまえさんと全国民の被害を比べて、どちらを取るかという話だ。
悪いがひとつ、何も言わずにサインしてくれ。」


「…しないと言ったら、どうなりますか」

「しないかぎり、おまえさんをこの部屋から出すわけにいかん。…つまり、そういうことだ。」


俺は目の前に置かれた紙きれを、もう一度眺めた。



端に転がったペンを手に取り、殆ど無意識に項目を埋め始めた。


539 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/03/28(金) 03:39:02.78 ID:PXvKVaY0
371より



簡単な選択だった。
俺が部屋を出られないということは、これに署名しない限りミクに会えないということだ。

突然日常をぶち破る事件に巻きこまれて、彼女はどんなに怯えているだろう。
俺が意識を失っている時間、どうしようもなく心細い時間を過ごしたに違いない。


ただ単純に、ミクに会いたいと思った。

大丈夫だと、言ってやりたかった。
その最も手っ取り早い手段がこれだというなら、従わない理由は無かった。



俺が書かれた項目を全て埋め終えるのを見届けると、警官は紙を自分の手に取り、
もういちど上から下まで確認してから懐にしまった。

「お前さんが物分りの良い人間で助かったよ。ほら、ついてきな。
連れの彼女さんと幼女なら、事務の応接用のソファに座ってるはずだ。
どちらも、ずいぶん心配していたみたいだからな。顔を見せてやるといい」


540 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/03/28(金) 03:39:37.33 ID:PXvKVaY0

「…あぁ、気が付いたんですね。もう大丈夫?」

俺を先輩の穏やかな声がむかえてくれた。

ひどく疲れていたが、それだけで随分ほっとした自分がいた。
先輩の声は、もはや俺にとっては日頃から慣れ親しんだ日常の断片だからな。

「平気です。たぶん少し頭に血が上りすぎただけなんで。…はは、情けないっすよね。
さきほどはありがとうございました。」

「いえいえ、そんなこと良いんですよー、いまさら。 
そんなことよりね、ほら。ミクちゃんに声かけてあげてくださいよ。
…といっても待ちくたびれてこのとおり、寝ちゃってますけど」

言葉の通り、ミクは彼女の膝枕ですよすよと寝息をたてていた。
俺はその頭に手を置く。細い柔らかな黒髪が、指にさらさらと気持ちよかった。

…そういやいつだったか、こうしてミクの頭を撫でたな。
たしか彼女が家にやってきた、その日。
たった半年ほどのことなのに、ずいぶん遠く昔のことのように感じる。
あの頃はこんな事態になるなど、思ってもみなかった…と、
そんなこと俺じゃなくても予想つかなかったろうけど。


541 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/03/28(金) 03:40:12.29 ID:PXvKVaY0

俺は先輩と向かい合うソファに腰を下ろした。

むこうではさきほどの警官が、今度は作業衣の男たちから事情を聞きだしていた。
どうやら今署内では、人手が足りてないらしい。

窓から外を眺めると、もう夜だった。
壁にかかった時計の針は、八時を指している。
こんな辺鄙な街で警察がらみの事件など、おそらく滅多に無いことに違いない。
今回の○×企業のミクの回収手段は、やはりそれほど常識を逸した行動だったのだ。

…どうしてそこまで貪欲に、企業はミクの身柄を求めるのだろう。
生態系を狂わしかねない異端な幼女だって、
それはあいつが望んだことじゃない。人間の勝手にしたことじゃないか。


542 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/03/28(金) 03:40:52.50 ID:PXvKVaY0

…それに、おそらく企業はそのためにミクを手に入れようとしているんじゃない。
ミクを引き渡して、その後すぐに処分するなど考えられない。

俺には、妙な確信があった。


彼女は既存のものより一歩人間に近い幼女だと、いつかタマくんは言った。
今後も『幼女』という商品は、○×企業にとっては核となるビジネスであり続けるだろう。
その企業にしてみれば、どういうわけか生まれてしまった未来型の幼女、
つまりミクの存在は、この上なく魅力的であるに違いない。

ミクを調査して研究すれば、奴らのビジネスにも大きな発展が見込めるはずだ。
そしてそれは、ミクのような人間に近い幼女の生産―すなわち莫大な利潤に直結する。

…しかし、それではミクはどうなる?
それこそいつか先輩がいったように、実験材料(モルモット)として、企業に扱われる。
おそらく様々な実験と称して、死ぬまで身体を苛め抜かれる。

俺が書類にサインしてしまった以上、もはやその未来は必然……


543 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/03/28(金) 03:43:10.58 ID:PXvKVaY0

「…ミクが何をしたっていうんだよ…」

頭の中で考えていたつもりが、いつしか声となっていた。


「…ミクが何か罪を犯したのか…?」

「全てお前らが好き勝手したことじゃないのかよ」

「ふざけんなよ、お前らの企業は人間相手にもこんなことすんのか?」

「ミクは幼女だけどな、人間なんだよ。夢を見るし、たまに逆らってくるし、綺麗な声で歌ったりもするんだ」

声はだんだん、大きくなっていたらしい。
先輩が気付き、やがて向こうにいる警官と企業の社員もこちらに注目し始めている。
異常を察知した二人の警察官がじりじりと俺に詰め寄り始めている。だが、知ったことか。


「ミクが何を悪いことをしたのか、言ってみろ!こいつは毎日、幸せに生きてきただけだ。
どうしてそれがだめなんだよ。 どうして殺されなきゃいけないんだ?
ミクが何をした! なぁ!? ミクが何をしたんだよ!!」


544 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/03/28(金) 03:47:44.30 ID:PXvKVaY0
二人の警官が、立ち上がろうとする俺の脇に掴みかかった。
だが俺はその警察官に叫んでるわけでも、奥の五人に叫んでるわけでもなかった。
ただやり場の無い怒りが、疑問が、悲哀が。噴出してどうしようもなかった。

…強いて言えばミクがこのようにならなければならなかった運命を、嘆いていた。


こんな明るくて優しい女の子はそれこそ普通の女の子らしく、
幼女でなく人間として生まれ、健やかに生きていって欲しかった。

俺みたいなろくでなしとも会わず、人間の思考を以って保健所に入れられる惨めさも経験せず、
幼女だからと自分を無意識に卑下することも、眠りの中で罪の意識に苛まれることも、無しに。 


「幸せにするって約束したんだよ!でも、どうしろっていうんだ!
なぁ、俺はこれからどうすれば、こいつを幸せにできるんだ!?」


545 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/03/28(金) 03:50:51.14 ID:PXvKVaY0

作業衣の五人は、皆バツの悪そうに目を伏せている。

目の前の先輩はただ、涙を溜めた大きな瞳ににほんの少しだけ哀れみを含ませ、俺を見ていた。
その膝のミクは、顔はむこうに向けて見えないが、寝たふりをしているのだろう。


俺のことを馬鹿な男とでも感じているのだろうか。

それとも、泣いているのだろうか。

717 :SS@ミク :2008/04/02(水) 01:22:49.43 ID:nUrcoqA0

それからほどなくして、俺たちは解放された。
ただし三日後のこの時間、この場所で、警察の立会いの下、ミクを引き渡すという条件で――


疲れた足取りで帰路についた。

ミクも先輩も、何も言わない。
そして俺も例に漏れず、ただ無言で歩を進める。
もはやこの場において、何を言ったところで無意味に思えた。

沈黙の道のりは、永かった。
何の話題があるわけでもないのにミクと先輩が延々と喋り続けてくれるという
昨日までは取るに足らない日常だったものが、今さらながら恋しかった。


718 :SS@ミク :2008/04/02(水) 01:23:55.13 ID:nUrcoqA0

部屋に入る前、先輩に声をかけた。もう夜もあらかた更けている。
年頃の娘がこれ以上戻らないとなると、さすがに親も心配するだろう。

「先輩、帰ったほうが良いんじゃないですか。もう夜遅いですし、家族が心配しますよ」

そう言うと、いつもよりほんの少し元気の無い笑みで

「大丈夫ですよ、私、一人暮らしですから。 …それにこんなときくらい、一緒にいさせてください」

それ以上の言葉は、自ずとひっこんだ。手に慣れ親しんだドアノブを捻る。
鍵は昼出て行ったまま、かってなかった。


719 :SS@ミク :2008/04/02(水) 01:25:55.95 ID:nUrcoqA0

「…お腹、空きましたね。何かつくってきましょうか。 あ、良いから良いから。ミクちゃんもそこに座って待っててね」

そんなことを言い残し、先輩は台所へ消えた。
つくづく彼女には世話をかける。

ミクと二人残され、俺は今さっき自らの身に起きた出来事を反芻した。

電話、訪問、突入、連行…
事情徴収、同意書、そして期限日…


…なんというか、釈然としない。
もちろん今回の事件そのものが理不尽極まることであることに
もはや疑いはないが、それはもう、良い。

そうではなく、このまま三日過ごして、ミクを受け渡して、終わり。
それで全てが収まるものだろうか?

幾重にも複雑に人の感情の縺れ合うこの事件の最終的な結末は、
こうもあっけなく収束してしまうのか?


720 :SS@ミク :2008/04/02(水) 01:28:18.42 ID:nUrcoqA0


しかし俺とは違って、今回の事件の由来する張本人は「それで良い」と考えているようだった。
おもむろに少女が、弱々しい声を発する。


「…ごめんね…」

「…」

「ごめんね、私のせいで迷惑かけて」

「…なんでお前が謝るんだよ」

「だって、ぜんぶ私が原因だもの。私さえいなければ、二人ともこんな嫌な思いしなくて済んだ。」

「もうそれ以上言うな。悪いのはあいつらだ。 ミクじゃない」


721 :SS@ミク :2008/04/02(水) 01:36:42.54 ID:nUrcoqA0

やや沈黙があり、

「…さっきお兄さんが書かされたのがどんな書類か、私は分かってるつもりだよ。
でないと帰してくれるはずないもんね」

「お前、やっぱり起きてたのか」

「おまわりさんの一人が、教えてくれたの。
今お兄さんはある書類に署名してるだけだって。すぐ終わるから、もうすぐ会えるって」

「…お前はそれで良いのか…?」

「え?」


自ずと声に力が入る。

「お前はそれで良いのかよ、ミク。
あいつらに引き渡されるってのがどういうことか、わかってんのか?
おそらく様々な実験を強いられて、死ぬまでモルモットとして扱われるんだぞ」


「…お兄さんたちに迷惑かけないためならしょうがないよ。私、幼女だもん」


722 :SS@ミク :2008/04/02(水) 01:38:15.04 ID:nUrcoqA0

その顔に浮かんだ悲しい笑顔を前に、俺は思う。

ああ、そうなのだった。
こいつはいつも事あるごとに、自分の本心を閉じ込めるのだ。
ただ自分は幼女なのだと、それだけを理由にして。

今までずっとそうして生きてきたのだろう。
人間の心なのに、存在は幼女という大きな矛盾をこの小さな身体に背負いながら、
誰とも分かち合うこともできず、たった一人で。


…だがそれは、俺と会うまでの話だ。
今は違う。いや、俺がそうはさせない。

思うより早く、言葉は口をついた。


「…俺を見くびるなよ、ミク。
この半年、お前にとって俺はその程度のものにしかなれなかったか?」


723 :SS@ミク :2008/04/02(水) 01:41:34.15 ID:nUrcoqA0

「良いか、お前は幼女じゃない。人間なんだよ。
誰がなんと言おうとお前と一番付き合いの長い俺がそういうんだから、そうなんだ。
そうだとしたらこのご時勢、なんも悪くない人間が合法的に実験道具にされて
それで人生おしまいなんて、そんな馬鹿な話があるか。

…なぁミク、お前だって本当は納得してないんだろ?
人間なのにこんなふうにモノ扱いされて、悔しくないのかよ。
こんな時でも俺を頼って、わがままの一つも言ってくれないのか?」


そこまで言うと、少女の身に起きたことを考えると不自然なくらい落ち着いた表情が、とうとう崩れた。

725 :SS@ミク :2008/04/02(水) 01:42:16.39 ID:nUrcoqA0

みるみるその目に涙がたまり、やがて大粒の雫がぽろぽろと落ちる。
それは俺にもめったに見せない、ミクの素顔だった。

「…嫌だよぉ、お兄さんと別れるのは。 死ぬのも、嫌だよ。嫌に決まってるよ。
こんなあっけなく、今の毎日を奪われたくないよ。…ねぇお兄さん、ごめんね。ごめんなさい。
こんなこと言っちゃだめなのに…でも、怖いよ…一人はもう、嫌だよ…

もっと…もっと生きたいよ…」


726 :SS@ミク :2008/04/02(水) 01:44:28.85 ID:nUrcoqA0


「ああ…わかった、もう大丈夫だから。安心しろ」

ミクがはじめて露にした強い意志に、今までどこかおぼつかなかった決意が固まった。
もう、迷いは無い。


「ミク、逃げよう。 奴らからさ。
お前の言うとおりだ。こんな簡単に、幸せをぶち壊されてたまるか。
逃げまくって、奴らの手の届かないところまで行って、もう一回幸せになるんだ。
今までと何一つ変わらず、呑気に暮らすんだ。

…ミク、一緒に来い。絶対はなれてやらねえからな。」


差し出した手に、少女は涙を拭って応える。
握った小さな手のひらは温かで、それは確かに人間の温度だった。


「うん…つれてって。どこへ行っても、ずっと一緒にいてね。」


最後は、消え入るような声。

それでも濡れた瞳で俺を見る少女は、たしかに笑顔だった。

745 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/04/02(水) 16:46:31.22 ID:nUrcoqA0


ほどなくして、先輩が簡単な夜食を盆にのせ、戻ってきた。
三人でテーブルにつき、食べ始める。

今まで色々ありすぎて嘘のように忘れていたが、
張り詰めたものが緩んだと同時に空腹が首をもたげていた。
考えてみれば、無理もない。なんせ昼から何も食ってないからな。


…あぁ、さっきのミクとのやりとりなら、おそらく全て聞こえてしまっているだろう。
こんな狭くて、壁の薄い部屋だ。 だが別にわざわざ言及することでもなかろう。

今の俺たちの状況は、八方塞がりの絶望に一筋だけ光明が差しただけという心許ないものだったが、
それでも一刻前に比べるとずいぶん晴れやかな、胸の突っかかりがとれたような気分でいられた。


746 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/04/02(水) 16:46:48.54 ID:nUrcoqA0
食後茶を啜りつつ、もう一度だけ先輩に帰るよう促してみたが、彼女は

「嫌です。泊まっていきます。だって今帰ったら、なんとなくもう二人に会えない気がします…」

と言って、聞く耳を持たない。

まぁそんなしゅんとした顔で言われたら、俺も何も言えないが、ということは、なんだ。
俺は今晩、ただでさえ二つしかない寝具を二人に明け渡して夜を明かさにゃならんのか…
などと考えているところに、ミクが口をはさんだ。


「ねぇお兄さん、私また三人で寝たい。ほら、夏みたいに。
だって私たちがベッドとソファで寝ちゃったら、お兄さん寝る場所無いじゃない。
ね、良いでしょ?」


747 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/04/02(水) 16:47:17.33 ID:nUrcoqA0

月の明るい夜だった。
電気を消しても窓からもれる月明かりで、部屋はぼんやりと照らされた。


分かりきっていたが一つのベッドに三人が寝るのは窮屈で、
俺たちは必然的にやたらくっつき合う体勢になる。

真ん中にミク、両脇に俺と先輩という配置は、ミクの強い所望のためだ。

ばあちゃんちの小の字も捨てがたいが、こうして正真正銘の親子のように川の字で寝るのも悪くない。


748 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/04/02(水) 16:48:03.01 ID:nUrcoqA0

「しかし、さすがに狭いっすね。ちょっと無茶があったか」

「まあまあ、良いじゃないですか。ほら、そんな格好じゃ落ちちゃいますよ。
こう、横向きに――そうそう、その方が楽でしょ?」

言われるがままに、先輩と向かい合う格好になった。
目が合うとなんだか妙に気恥ずかしくて、俺はミクに目をやる。

少女は俺たち二人の視線が自分に注がれてるのが嬉しくてたまらないといった様子で、
顔を緩めてにへらーと笑った。

「あぁ、もう、どうしよう。今すっごく幸せだよ、私。」


…ミクと一緒に眠るのも、これでもう三度目になるだろうか。
過去二回ともなんとなく緊張して眠れなかったが、今はなんだか大いに穏やかな気分だ。

全てを受け入れる覚悟を持ったせいなのか、それは分からないが、
そんな心情を映すかのように、夜は静かだった。
暗闇、静寂、そして二人の息づかい、その全てが優しい。心地よい空間だった。


749 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/04/02(水) 16:48:35.88 ID:nUrcoqA0

そんな空間の中心で、ミクが誰に言うでもなく言葉を発した。


「…やっぱり人間は良いよ。
生まれた時からこんなふうに、お父さんとお母さんに両方からはさまれて、安心して。
いっぱいの愛情に包まれていられるんだもの。……羨ましくなっちゃうな」

それを聞いて、先輩が優しく少女を抱き寄せる。

「ミクちゃんだって、同じじゃない。ほら、お父さんもお母さんもいるよ。
…あれ、もしかして私たちじゃダメ?」

ふるふると首を振って、

「ううん。だから今こうしているのが、すっごく嬉しいって言いたかったの。
まるで、本当に人間に生まれかわったみたい…」

「ミクは人間だよ。今までも、そしてこれからもな。俺が保障するさ」

「うん…ありがと…二人とも…本当に…」


750 名前: SS@ミク 投稿日: 2008/04/02(水) 16:49:03.50 ID:nUrcoqA0

最後は聞き取れなかった。
ミクが眠りに落ちたのを確認して、俺は先輩と目を合わせる。
彼女は穏やかに笑って見せ、そして自分も目をとじる。


不意に、妙な説得力を持つ確信にとらわれた。

今日本中に出回る全ての幼女――ミクという特殊な例に関係ない――が、真に求めるのは、
恋人同士という関係でも、ましてや一方的な性の快楽でもない。

きっとこんな、稚拙ながらも理解りやすい、家族のような愛情なのだと。


にも関わらず、それに気付いてない人間のなんと多いことだろう。
大半の幼女はこうして隣にいるミクのように満たされることもなく、
ただの製品として扱われ、死んでゆく運命なのだろうか。


そんなことを考えながら、俺は安らかな睡魔に身を委ねた。

若干定員オーバー気味のベッドは、いつもより少しだけ暖かに感じた。





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