48 名前: SS@金髪スキー [sage] 投稿日: 2009/01/08(木) 21:46:16.00 ID:QALuS8E0
(行き倒れ幼女のお屋敷生活・序章)
(行き倒れ幼女のお屋敷生活・序章)
もう平行感覚すら失いかけている身体に鞭を打つ。
ずきずきと痛む身体―その痛みすら、すでに麻痺しつつあるが――を引きずるように、小さな幼女はただ必死に歩く。
ぼうっとしている頭に響くのは、いつかの声。
ずきずきと痛む身体―その痛みすら、すでに麻痺しつつあるが――を引きずるように、小さな幼女はただ必死に歩く。
ぼうっとしている頭に響くのは、いつかの声。
『痛い……痛いよぅ……』
『やめてっ……なんでもするから、もうやめてぇ!!』
『やめてっ……なんでもするから、もうやめてぇ!!』
その悲鳴の主は、自分のものか……それとも、
『せめてあなただけでも、私達の分まで幸福になってね』
『ならなかったら、末代まで祟っちゃうんだから!』
『ならなかったら、末代まで祟っちゃうんだから!』
そんな声とともに、自分をあの「地獄」から逃がしてくれた仲間達のものだったか。
それすらも曖昧になるほどに、自身の思考能力は落ちている。
それすらも曖昧になるほどに、自身の思考能力は落ちている。
「……くぅっ」
不意に足の力が抜けて倒れそうになった。近くの壁に手をついてなんとか免れる。
もう、どれだけの距離を歩いたかもわからない。
途中、あの『地獄』の連中と同じ者から声をかけられそうになったが、その度に走って逃げた。
またあいつらに捕まる事だけは、どうしても避けないといけない事だ。
じゃないと、仲間達に会わせる顔がない。
もう、どれだけの距離を歩いたかもわからない。
途中、あの『地獄』の連中と同じ者から声をかけられそうになったが、その度に走って逃げた。
またあいつらに捕まる事だけは、どうしても避けないといけない事だ。
じゃないと、仲間達に会わせる顔がない。
「……は……ぁ……」
だが、それもここまでかもしれない。
むしろ、今こうして立っていられる事が奇跡だと思うくらいだ。
視界は白く霞み、頭のぼんやりも酷くなってきている。
気を抜いたら今自分が何をしているかさえ忘れてしまいそうなほどに。
むしろ、今こうして立っていられる事が奇跡だと思うくらいだ。
視界は白く霞み、頭のぼんやりも酷くなってきている。
気を抜いたら今自分が何をしているかさえ忘れてしまいそうなほどに。
「…………う」
ドサリ
ドサリ
ついに力尽き、倒れた。
どうにか立ち上がろうとするが、全身に力が全く入らない。
五感はその機能を失いつつあり、自分の吐きだす呼吸すら遠くに聞こえる。
ぼやけた視界に映るのは、大きな建物。……家、だろうか?
どうにか立ち上がろうとするが、全身に力が全く入らない。
五感はその機能を失いつつあり、自分の吐きだす呼吸すら遠くに聞こえる。
ぼやけた視界に映るのは、大きな建物。……家、だろうか?
(ごめん、ね)
意識が闇に堕ちていく中、幼女は仲間達に謝った。
幸せになれなかったこと。そして、
自分達を「地獄」に陥れた者……『人間』に復讐できなかった事を。
幸せになれなかったこと。そして、
自分達を「地獄」に陥れた者……『人間』に復讐できなかった事を。
49 名前: SS@金髪スキー [sage] 投稿日: 2009/01/08(木) 21:47:49.09 ID:QALuS8E0
(行き倒れ幼女のお屋敷生活・1)
(行き倒れ幼女のお屋敷生活・1)
●一日目・昼
――とある屋敷の一室。
僕「はぁ……まったく、退屈だね」
僕はため息をついて、椅子の背もたれにもたれかかった。
自分の声が響く自室の広さが虚しく思える。
侍女等がいる時はそうでもないのだが、ちょっとした教室程度の空間がある部屋は一人で過ごすには明らかに広すぎだった。
もっとも、それは贅沢悩みなのだろう。世の中には、雨風を凌ぐ事もおぼつかない場所で寝泊まりしている者もいるのだから。
自分の声が響く自室の広さが虚しく思える。
侍女等がいる時はそうでもないのだが、ちょっとした教室程度の空間がある部屋は一人で過ごすには明らかに広すぎだった。
もっとも、それは贅沢悩みなのだろう。世の中には、雨風を凌ぐ事もおぼつかない場所で寝泊まりしている者もいるのだから。
僕「だから、まあそれは良いとしても……。こう退屈なのはどうにかならないものかな」
呟き、チリン机の上にと呼び鈴を鳴らす。
するとそう時間が経たない内に部屋の扉が開かれ、二十代前半ぐらいの侍女が姿を現した。
彼女の名前は冴風春奈。この屋敷に仕えている侍女だ。
するとそう時間が経たない内に部屋の扉が開かれ、二十代前半ぐらいの侍女が姿を現した。
彼女の名前は冴風春奈。この屋敷に仕えている侍女だ。
春奈「お呼びでしょうか、旦那さま」
僕「庭で少し散歩する。付き合ってくれ、春奈」
春奈「はい、かしこまりました」
僕「庭で少し散歩する。付き合ってくれ、春奈」
春奈「はい、かしこまりました」
春奈は微笑むと、その腰程まである長い髪を揺らして礼をした。
50 名前: SS@金髪スキー [sage] 投稿日: 2009/01/08(木) 21:49:30.95 ID:QALuS8E0
(行き倒れ幼女のお屋敷生活・2)
(行き倒れ幼女のお屋敷生活・2)
自分で言うのもなんだが、僕の家はかなり広い。
庭だけでもちょっとした学校のグラウンドぐらいの面積はある、と言えば少しは伝わるだろうか。
もっともこれらは、少し前に死んだ僕の両親を始めとした、祖先の人達が成功した結果である。自慢にはならないし、したいとも思わない。
庭だけでもちょっとした学校のグラウンドぐらいの面積はある、と言えば少しは伝わるだろうか。
もっともこれらは、少し前に死んだ僕の両親を始めとした、祖先の人達が成功した結果である。自慢にはならないし、したいとも思わない。
春奈「さすがに外は寒いですね。旦那さまも風邪などには気をつけて」
僕「わかってる。……そういえばもうすぐ花粉症の時期だけど、お前は大丈夫なのか?」
春奈「大丈夫です、今年はお薬も早目にもらいましたから。もうどんなに大量の花粉が来てもばっちりですよ!」
僕「そうか」
僕「わかってる。……そういえばもうすぐ花粉症の時期だけど、お前は大丈夫なのか?」
春奈「大丈夫です、今年はお薬も早目にもらいましたから。もうどんなに大量の花粉が来てもばっちりですよ!」
僕「そうか」
ぐっ、と力強く答える春奈にそっけなく頷く。
春奈「あー、信用してませんね。その反応は」
僕「よくわかったな。褒めてやろうか?」
春奈「嬉しくないですよっ!」
僕「よくわかったな。褒めてやろうか?」
春奈「嬉しくないですよっ!」
さらりと頷いた僕に叫ぶ春奈。
だが去年、「薬を飲み忘れましたー」と言って涙を流しまくりながらくしゃみを連発し、僕の着ていた服に鼻水を付けた実績を持つ彼女である。
信用できるほうがどうかしているだろう。
だが去年、「薬を飲み忘れましたー」と言って涙を流しまくりながらくしゃみを連発し、僕の着ていた服に鼻水を付けた実績を持つ彼女である。
信用できるほうがどうかしているだろう。
春奈「まったく、旦那さまは皮肉ばかりなんですから……あら?」
ぶつぶつ呟いていた春奈が、ふと何かに気がついたような声を出した。
僕「どうかしたか?」
春奈「えっと……門の外に、誰かが倒れています」
春奈「えっと……門の外に、誰かが倒れています」
春奈の視線と同じ方に目をやると、確かに人がそこに倒れているのが見えた。
遠くてよく見えないが……子供、だろうか。どちらにしても見過ごせるものではない。
遠くてよく見えないが……子供、だろうか。どちらにしても見過ごせるものではない。
僕「ふむ。……行くぞ、春奈」
春奈「かしこまりました」
春奈「かしこまりました」
僕たちは門に向かって走り出した。
51 名前: SS@金髪スキー [sage] 投稿日: 2009/01/08(木) 21:50:31.79 ID:QALuS8E0
(行き倒れ幼女のお屋敷生活・3)
(行き倒れ幼女のお屋敷生活・3)
門の外で倒れていた人物は、幼い女の子だった。
綺麗な金色のロングヘアー。
そして、あちこちが擦り切れた薄地の半袖ワンピース。
……子供は風の子とは言うが、いくら何でもこの冬の季節にこの格好は寒すぎはしないか?
更に、手足にいくつもついた痣が痛々しい。一体何があったのだろう。
綺麗な金色のロングヘアー。
そして、あちこちが擦り切れた薄地の半袖ワンピース。
……子供は風の子とは言うが、いくら何でもこの冬の季節にこの格好は寒すぎはしないか?
更に、手足にいくつもついた痣が痛々しい。一体何があったのだろう。
春奈「この子……幼女ですね。首輪はないし、服もボロボロのところを見ると野良のようですが」
女の子の傍に座って、容態を看ていた春奈がそう言った。
僕「野良幼女、というやつか。主人に捨てられたか?」
春奈「恐らくは」
春奈「恐らくは」
可哀想に、と同情の目を向ける春奈。
この幼女というもの……巷でかなり流行っているようだが、実は僕の屋敷には一人もいない。
世話をしてくれる人は既に春奈がいるから間に合っているし、好奇心だけで買うのも馬鹿げている、と考えたからだ。
少し前に死んだ両親も、僕と同じ理由で幼女を買う事はなかった。
この幼女というもの……巷でかなり流行っているようだが、実は僕の屋敷には一人もいない。
世話をしてくれる人は既に春奈がいるから間に合っているし、好奇心だけで買うのも馬鹿げている、と考えたからだ。
少し前に死んだ両親も、僕と同じ理由で幼女を買う事はなかった。
幼女「ぅ、ぁ……」
と、幼女が目覚めた。
春奈「あ、大丈夫ですか?どこか悪いところでも――」
春奈が声をかける。
しかし幼女は弱々しくうめき声を上げるだけで、やがてまた意識を失ってしまった。
しかし幼女は弱々しくうめき声を上げるだけで、やがてまた意識を失ってしまった。
春奈「どうしましょう?見たところ疲労、そして栄養失調の可能性が高そうですが……」
少し見ただけでそんな事がわかるのだろうかと思ったが、彼女は医学の心得がある。
恐らくそう的外れではないだろう。
恐らくそう的外れではないだろう。
僕「屋敷につれていってやれ。門の前で死なれるのも迷惑だし、目覚めも悪い。念のため医者も呼ぼうか」
春奈「はい、仰せのままに」
春奈「はい、仰せのままに」
何故か春奈は嬉しそうな笑顔を浮かべると、幼女を抱えて急いで屋敷に戻っていった。
僕「やれやれ、予想外だったね。まあ退屈だったし……ちょっとした暇潰しにはなりそうかな」
春奈の後ろ姿を見送りながら、僕はそう呟いた。
実際には「ちょっとした」どころではなくなる事など、まだ知る由もなく。
実際には「ちょっとした」どころではなくなる事など、まだ知る由もなく。
56 名前: SS@金髪スキー [sage] 投稿日: 2009/01/09(金) 20:41:36.81 ID:aVTpItI0
(行き倒れ幼女のお屋敷生活・4)
●一日目・夜
医者に来て診てもらったが、結局幼女は春奈の見立て通り疲労と栄養失調だったらしい。
治療はしたので、幼女の回復力ならばじきに目を覚ますだろうという事だった。
治療はしたので、幼女の回復力ならばじきに目を覚ますだろうという事だった。
春奈「大事にならなくてよかったです」
僕「ああ、全くだ。後味が悪い思いはしなくてよかったよ」
僕「ああ、全くだ。後味が悪い思いはしなくてよかったよ」
夜、幼女を運んだ部屋で僕と春奈はそんな事を話していた。
すると……。
すると……。
幼女「う……?」
幼女がうめき声を上げた。
ゆっくり身を起こし、何でここにいるのかわからない、といった様子で周囲を見る。
ゆっくり身を起こし、何でここにいるのかわからない、といった様子で周囲を見る。
春奈「あ、目を覚ましましたよ」
僕「おや、もうか。予想以上に早かったな」
春奈「大丈夫ですか?どこか気分が悪かったり――」
幼女「近寄らないで!」
僕「おや、もうか。予想以上に早かったな」
春奈「大丈夫ですか?どこか気分が悪かったり――」
幼女「近寄らないで!」
寝起きでボーっとしていた幼女が、春奈が近づいた途端にそう叫んだ。
春奈「……え?」
突然の出来事に、春奈はびっくりして目を丸くしている。
幼女「近づかないで人間!もし変な事しようとしたら……」
僕「あ、待て。急に立ち上がると――」
僕「あ、待て。急に立ち上がると――」
べちん。
僕「危ないぞ……って、もう遅かったか」
彼女は意識を取り戻したばかり、言わば病み上がりである。
そんな状態で急に立ち上がろうとしても、身体がついていくわけがなく……。
というわけで、幼女は盛大にベッドから床に転げ落ち再び意識を失っていた。
そんな状態で急に立ち上がろうとしても、身体がついていくわけがなく……。
というわけで、幼女は盛大にベッドから床に転げ落ち再び意識を失っていた。
僕「…………はぁ」
その姿を見ながら、僕は厄介なことになりそうな予感がして頭を抱えた。
その姿を見ながら、僕は厄介なことになりそうな予感がして頭を抱えた。
57 名前: SS@金髪スキー [sage] 投稿日: 2009/01/09(金) 20:42:16.83 ID:aVTpItI0
(行き倒れ幼女のお屋敷生活・5)
(行き倒れ幼女のお屋敷生活・5)
●二日目・夕
僕「調子はどうだい?」
部屋に入り、ベッドで上半身だけを起こしている幼女に声をかける。
幼女はちらりと僕の方を見たが、すぐにそっぽを向いてしまった。
幼女はちらりと僕の方を見たが、すぐにそっぽを向いてしまった。
僕「やれやれ、命の恩人に向かってそんな態度か。まあ良いけどね」
ふう、とややわざとらしく大仰に肩を竦める。
昨夜から一日経ち、今朝再び目が覚ましてからはずっとこんな感じだった。
まあ昨日のように、いきなり立とうとして倒れられるのに比べると、ずっと落ち着いてはいるのだけど。
昨夜から一日経ち、今朝再び目が覚ましてからはずっとこんな感じだった。
まあ昨日のように、いきなり立とうとして倒れられるのに比べると、ずっと落ち着いてはいるのだけど。
僕(幼女は従順だと聞いたのだけど。まあ野良だし、事情があるのかな)
幼女「……助けてくれとは言ってない」
幼女「……助けてくれとは言ってない」
思考にふけっていると、幼女が口を開いた。
僕(おっと、口を聞いてくれたか。まずは一歩前進だね)
声には刺があるし、言葉の内容も決して好意的ではなかったが、喋ってくれないよりは遥かにマシだ。
何しろ、完全無視ではその理由を問うコミュニケーションすら取れないのだから。
僕(おっと、口を聞いてくれたか。まずは一歩前進だね)
声には刺があるし、言葉の内容も決して好意的ではなかったが、喋ってくれないよりは遥かにマシだ。
何しろ、完全無視ではその理由を問うコミュニケーションすら取れないのだから。
僕「それじゃあ、あのまま野垂れ死にした方が良かったのか?」
幼女「それは……」
僕「まあ、恩着せがましい言い方をするのもよくないかな。君を助けたのは、人の玄関前でいつまでも寝転がっていられたら迷惑だった、という理由だったし」
幼女「ふうん。まあ、そんなところだと思っていたけれど。」
僕「それはそれで何か酷いな」
幼女「……でも、それだけではないのでしょう?」
幼女「それは……」
僕「まあ、恩着せがましい言い方をするのもよくないかな。君を助けたのは、人の玄関前でいつまでも寝転がっていられたら迷惑だった、という理由だったし」
幼女「ふうん。まあ、そんなところだと思っていたけれど。」
僕「それはそれで何か酷いな」
幼女「……でも、それだけではないのでしょう?」
幼女がこちらの方を向いた。
敵意の混じった翡翠色の双眸が、真っすぐに僕を射抜く。
敵意の混じった翡翠色の双眸が、真っすぐに僕を射抜く。
幼女「それなら医者を呼ぶ必要はない。玄関前が邪魔なら、離れたところに持っていけば良い。おおかた、私に利用価値があるから拾っただけ。……そうでしょう?」
僕「利用価値?」
幼女「とぼけないで。奴隷……欲望を満たす為の道具としか私達を見ていないくせに。私を治した後、そういう事をする為でしょう?」
僕「……春奈といい、そんなに僕はそういう人種の人間に見えやすいのか……?」
僕「利用価値?」
幼女「とぼけないで。奴隷……欲望を満たす為の道具としか私達を見ていないくせに。私を治した後、そういう事をする為でしょう?」
僕「……春奈といい、そんなに僕はそういう人種の人間に見えやすいのか……?」
さすがに僕も少々落ち込んできた。
しかし、その呟きに幼女は首を横に振る。
しかし、その呟きに幼女は首を横に振る。
幼女「違う、あなただけではない。人間――特に男は皆そう。私達幼女を道具としてしか扱わない!」
58 名前: SS@金髪スキー [sage] 投稿日: 2009/01/09(金) 20:43:25.44 ID:aVTpItI0
(行き倒れ幼女のお屋敷生活・6)
(行き倒れ幼女のお屋敷生活・6)
(……虐待されていたのか?)
最後の方は悲鳴に近くなった幼女の声を聞き、僕はそう推測した。
昨夜の出来事でそんな感じはしていたが、文字通り人間不信へと陥っている。
幼女に人間の法律が適用されないのを良いことに、強姦や殺傷行為が社会問題になっている……よく聞く話である。
道具として扱う、奴隷――まさしく、前の主人か誰かにそんな扱いを受けていたのかもしれない。
(そうなると……彼女の心を開いてもらうのは難しそうだな。まあ、打ち解ける必要もないといえばないんだが)
僕としても、この幼女をずっと置いてつもりはない。
命は助かったのだから、もう屋敷からほっぽりだしても問題はないのだ。しかし……。
最後の方は悲鳴に近くなった幼女の声を聞き、僕はそう推測した。
昨夜の出来事でそんな感じはしていたが、文字通り人間不信へと陥っている。
幼女に人間の法律が適用されないのを良いことに、強姦や殺傷行為が社会問題になっている……よく聞く話である。
道具として扱う、奴隷――まさしく、前の主人か誰かにそんな扱いを受けていたのかもしれない。
(そうなると……彼女の心を開いてもらうのは難しそうだな。まあ、打ち解ける必要もないといえばないんだが)
僕としても、この幼女をずっと置いてつもりはない。
命は助かったのだから、もう屋敷からほっぽりだしても問題はないのだ。しかし……。
僕「それでは少々つまらない、な」
幼女「なにか言った?」
僕「なんでもないよ。まあ、出ていきたいならそれでも構わないさ」
幼女「…………。え?」
幼女「なにか言った?」
僕「なんでもないよ。まあ、出ていきたいならそれでも構わないさ」
幼女「…………。え?」
それは、僕が見返りとして「そういう事」をすると思っていた彼女にしてみれば予想外の言葉だったのだろう。
幼女は物凄いきょとんとした表情を浮かべていた。
(敵意のない、こういう年相応の表情をすると可愛いんだがな)
このタイミングでそれを口に出したら話がこじれそうなので、言わないが。
幼女は物凄いきょとんとした表情を浮かべていた。
(敵意のない、こういう年相応の表情をすると可愛いんだがな)
このタイミングでそれを口に出したら話がこじれそうなので、言わないが。
僕「ただ、僕も無償で数日間面倒を見るほどお人好しじゃない。君も人間に恩知らずのレッテルを貼られるのはあまり快くはないだろう?」
幼女「……何が言いたい?」
僕「察しが良くて助かるよ。早い話、君にお手伝いさんをしてほしい。掃除や料理、洗濯とかのね。
この屋敷、無駄にでかいのに侍女は春奈しかいないからちょっと人手不足なんだよ」
幼女「…………家事、の?」
僕「もちろんずっとじゃない。……そうだね、春頃ぐらいまでかな。食事はちゃんと出すし、寝泊まりもこの部屋でしてもらって構わない」
幼女「…………」
僕「拒否権はもちろんあるよ。さっき恩着せがましい言い方はしないって言った手前もあるしね。性とか暴力行為もしない。こう見えて、僕は純情だからね」
幼女「……何が言いたい?」
僕「察しが良くて助かるよ。早い話、君にお手伝いさんをしてほしい。掃除や料理、洗濯とかのね。
この屋敷、無駄にでかいのに侍女は春奈しかいないからちょっと人手不足なんだよ」
幼女「…………家事、の?」
僕「もちろんずっとじゃない。……そうだね、春頃ぐらいまでかな。食事はちゃんと出すし、寝泊まりもこの部屋でしてもらって構わない」
幼女「…………」
僕「拒否権はもちろんあるよ。さっき恩着せがましい言い方はしないって言った手前もあるしね。性とか暴力行為もしない。こう見えて、僕は純情だからね」
最後の一言は突っ込まれるのを覚悟だったが、幼女は黙り込んで何か考えていた。
……スルーされたら、それはそれで何となく虚しかったりはしない。本当に。うん。
……スルーされたら、それはそれで何となく虚しかったりはしない。本当に。うん。
幼女「……少し考えさせてほしい」
やがて幼女はそう言った。
承諾ではないが、この場で即座に突っぱねられる可能性も高いと思っていた。
この答えは上々ではある。
承諾ではないが、この場で即座に突っぱねられる可能性も高いと思っていた。
この答えは上々ではある。
僕「じゃあ、色良い返事を期待しているよ。――と、そうそう」
幼女「?」
幼女「?」
そのまま部屋を出ようとして、僕はある事に気付いて足を止めた。
僕「名前、言ってなかったな。僕は僕。この家の主だ」
幼女「…………。フィオ」
僕「ん?」
幼女「……私の名前」
僕「フィオ、か。……良い名前だね。短い付き合いになるかもしれないけどよろしく、フィオ」
幼女「…………。フィオ」
僕「ん?」
幼女「……私の名前」
僕「フィオ、か。……良い名前だね。短い付き合いになるかもしれないけどよろしく、フィオ」
返事はなかったが、代わりに微かに頷いてくれた――ような気がした。