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「愛理、これなんて読むの?」
休憩時間、ケータイを睨んでいたチッサーが訊いて来た。

「なに?」
「“みね”?」
「へ?」
「“舞美ちゃんとみねったよ”?」
なんのこと?
どこ見てるのかと思って覗き込んだら、私達のブログ。

「“あったよ”、だよ」
私と逆サイドからチッサーの携帯を覗き込んだ舞ちゃんが心底呆れたように言う。
てか、“みね”ってどっから出てきたの?

「えーだって、これ“よこみねさくら”の“みね”じゃね?」
まさかチッサーの口からプロゴルファーの名が出るなんて思わなかった。
プロゴルファーの娘は私なんですけど。
いや、それはともかく“よこみね”?

よくよく携帯の画面を見ると―――――これ、私の記事だ。
チッサーの指差したところには「舞美ちゃんと逢ったよ」の文字。
え? もしかして「逢」これのこと?

てゆーか、前後関係で分かんない?「みねったよ」ってめっちゃ変でしょ?
「横峯さんは上が山。これはしんにょうでしょ」って説明するけれど、色々と釈然としない。
どっちかって言うと、「逢」より「峯」の方が珍しいと思うし。

「えー、だって“あう”って“運動会”の“会”って書くんじゃないの?」とチッサー。
なんだかな。そのスポーツバカな思考回路、憎めない。誰かさんに通じるものがあって愛しい。

「色々書き方があるんだよ」と言ったら今度はチッサーが釈然としないって顔。
「ま、ザリガニ少年には分からないだろうね」と横から舞ちゃん。
「なんだよー!」
「そんなだから、舞の“恋人にしたいメンバー”の座を舞美ちゃんに取られるんだよ」

あ、それ私も気にしてた。
『SHOCK』の頃の雑誌では「チッサー」って答えてたのに、この間のイベントでは「舞美ちゃん」になってて。

「なにそれ!? ザリガニと恋人となんの関係があんだよ!」
「チッサーはオンナ心を分かってないんだよ」
「女って、舞なんかまだ14じゃん!」
「チッサーより中身大人だしぃ」
「どこが!」

…えっとぉ・・・舞ちゃんの片思いを追及できるような状況じゃない気がする。
舞美ちゃんは「愛理」って答えてくれて、とりあえず両思いだし、いっか、って思いながら、自分の携帯で自分のその記事を見る。

舞美ちゃんはさすがに「みねった」とは読んでないと思うけど、深く考えてないだろうことはチッサーと同じだ。
私が、「逢う」と「会う」を、きっちり遣い分けているなんて、絶対に分かってないだろう。

舞美ちゃん、私、好きな人に「あう」時しか「逢う」って字は遣わないんだよ?

…って言えたらどんなにいいだろう。

今読み直してて気づいた。
そもそもこの文章、おかしい。
普通、「あった」って言わないよ、漢字の問題じゃなくて。
同じグループのメンバーと仕事してるんだから「舞美ちゃんと一緒の仕事でした」って書くでしょ、って自分に突っ込む。

舞美ちゃんと一緒ってことにどれほど舞い上がっていたんだろう、って苦笑する。
浮かれたデート気分で仕事してたりはしないはず。うん、それは絶対に。
でもきっと、すっごく嬉しかったんだろうな、ってひとごとのように思って、実際に嬉しかったって振り返る。

舞美ちゃんは鈍感だからはっきり出さないとって思ってるから、出来る限りアピールはしてるつもり。
漢字の遣い分けなんて気づかれそうもないことだけじゃなくて、
私のブログには舞美ちゃんとの2ショットをたくさん載せてみたり、
写真ではできるだけくっついてみたり、文章にハートをいっぱい散らしてみたり。

でも。
ほとんど成果は上げられてないっぽい。

ふぅ。小さくため息をつく。

今、この瞬間。ここにいない舞美ちゃんとなっきぃは、どこかでキスごっこでもしているのかも知れない。
――――もしかしたら、キスしているのかも知れない。
どこかで見た写真が脳裏をちらつく。

「恋人にするなら愛理」と「恋人は愛理」は、同じ色合いなんだけど、濃さが全然違う。

私は「恋人にするなら舞美ちゃん」に秘めた色を薄く見せようとしているけれど、
一方でだんだんと濃くしていこうとしている。
授業でやってる油絵のように、少しずつ少しずつ色を重ねて行ってる、
下絵を台無しにすることのないように、慎重に。

時々、堪えきれなくなって原色のまま舞美ちゃんに見せたくなる。
でも、それを舞美ちゃんに気に入ってもらえる自信は全然ないし、
そもそも自分でも、その色がキレイだって思えていない。

ふと思いついて「峯」を電子辞書で調べてみたら「△にとがった山」って書いてあった。
とがってるなんて、今の私みたいだ。
ついでに「しんにょう」を調べてみたら「程度をさらにはなはだしくすること」ってあった。
私の舞美ちゃんへの気持ちがきっとそうなっていくんだ。

いつか、私の気持ちは舞美ちゃんと「合う」のかな。
あわせたいよ。
あわせてよ、舞美ちゃん。

そう心の中で呟いて、もう1回小さくため息をついた。


END
最終更新:2010年11月01日 07:02