もう迷いはありませんっ!舞美ちゃんと目指す目標は1つ!
私はトレーナーとして舞美ちゃんをチャンピオンにしてみせますから!!キッ
シャー!!

ごはんもしっかり食べさせ栄養を取らせ太らせます!キッシャー!!
舞美ちゃんの異常な発汗量なら、そもそも太らないんです!キッシャー!!

そしてジムからみんなが居なくなると、ここからが本番です!
練習で疲れている舞美ちゃんを心を鬼にしてさらに鍛えるのです!!

舞美をチャンピオンとすべく心を鬼とし鬼コーチとなるのです!!キッシャー

とか勇ましいことを言いましたが…。

「痛いっ」叫び声をあげる私…。
「あっ、ごめん!」
リングの上、激しいミッド打ちで私の右手を吹き飛ばした
舞美ちゃんが私に駆け寄ってきます。
舞美ちゃんは、すぐにこういった相手のフェイクにひっかかるので心配です……。

「ごめん、ごめん、手、大丈夫…?」
「ううん…平気ですよ…でも…そこからの~クリンチッ!」
ミッドを外して舞美ちゃんにクリンチします。舞美ちゃんはクリンチから逃れるのが
下手なので徹底的に鍛えます!!


ギッシィ…私に押された舞美ちゃんの背中がロープにくっつきます。
ロープ際での動きも覚えてもらわなければいけません!!

汗ばんだ舞美ちゃんの体。その首筋に攻撃し続けます!
舞美ちゃんは体をうねらせ逃れたいんだか、逃れられないのか
どんどん体から力が抜けてっているのが解ります…。
もう完全にグロッキーです。

こんなことではいけない!!私はさらに心を鬼にして舞美ちゃんを攻め続けます!!

「あいりぃ…」か細いかすれた声で私の名を呼ぶ舞美ちゃん…。
試合中に哀願するように相手の名を呼ぶなどなんたること!!

私の鬼の愛撫攻撃に舞美ちゃんはロープに揺られ続け、ついに膝から崩れ落ちてしま
いました。
ダウンです…。


「舞美ちゃん……わっーん、、、つっぅー、、、、すりー、、、。」
今、私は冷徹な眼差しで舞美ちゃんを見ながらでカウントを取り続けています。
抱きしめてあげたいところですが、ここで舞美ちゃんに手を差し伸べるわけにはいき
ません!!
舞美ちゃんは虚ろな顔で口を鯉のようにぽっかりと開け、カウントを数える私の顔を
見上げています。

舞美ちゃんはロープに手をかけ、立ち上がりました…。さすがです!

「舞美ちゃん…まだやる?やれる?」私は立ち上がりはしたもののロープを背に
俯いている舞美ちゃんに耳元で囁きます。
舞美ちゃんは両手をかまえファイティングポーズをとり続行をうながしてきます。

「えらいよ…舞美ちゃん…。」
褒めてあげようと、ふたたび攻撃です。
何度か舞美ちゃんもやり返してきましたが、老練な私のディフェンスの前に
ことごとくカウンターで返され体を激しくよじらせます…。
舞美ちゃんはまたダウンしてしまいました…こんなことでは先が思いやられます。


私はダウンした舞美ちゃんにマウントをとり優しく抱きしめます。
舞美ちゃんはグローブをはめた手で私の腰に手を回します。


激しい練習と、激しい減量をかねそなえたこの鬼のトレーニングを行ない続けていた

あっという間に試合の日が来ました…。

あれ?心なしか舞美ちゃんがゲッソリしています…。
私は元気ですけど…。大丈夫かな?


「あいりぃ…燃えた~燃え尽きたよ~~~~~~。」
パイプ椅子に座り、枯れた花のように
ぐったりとうな垂れている舞美ちゃんが、いつもよりかすれた声でつぶやく…。
ま、舞美ちゃん…試合前なのに、すでに真っ白になってしまってるよ…。

どうして…!?
ううん…白々しく、ごまかしたってしょうがない…理由はわかってる…。
いけないのは私なんだ…。
試合前日の興奮から、今日の朝の朝まで舞美ちゃんを激しくコーチしてしまった…。
おかげで私は元気だけど舞美ちゃんはすでにグロッキー状態…。

私、コーチ失格だよっ!!

そうこうしているうちに会場に呼ばれリングに上がる舞美ちゃん…。
リングの上で熱をおびたスポットライトに照らされた舞美ちゃんからは
既に汗が滲み出している…。あぁ…愛理のバカッ!バカッ!

カ~ン!
「行ってきます~~」ゴングが鳴り、ゆっくりと立ち上がった舞美ちゃんが
フラフラと前に出て行く…。

グロッキーな舞美ちゃんにゴリラのような…ううん…堂々とゴリラの相手選手が
猛然と襲い掛かる…。


1Rから防戦一方の舞美ちゃん…。
相手選手のパンチを自慢の足を生かしたフットワークで
紙一重でかわし続けているけど危なっかしくてしょうがないよ…。

相手選手が豪腕を振るい続ける度に私は目を塞いでしまう!!

カ~ン。なんとか1Rが終了してコーナーに戻ってくる舞美ちゃん…。

「ま、舞美ちゃん…。」コーナーに戻りうな垂れた舞美ちゃんは
すでに10Rはこなしたような汗をかいている…。まだ1R目なのにッ!!

前々から滝のような汗をかく体質だったけど
リングの上はスポットライトが降り注ぎ、
まるで、どこぞのアイドルが立つステージのように熱いんだ!

舞美ちゃんの汗を拭き、おでこにくっついてヒジキのような前髪をとかし
ドライヤーで冷風をあてる…。

「あいひぃ~マウフピーフ、はずひて~。」いけない!忘れてた…!!

急いで舞美ちゃんの口の中に手を突っ込み、しばらく舌で遊ぶ…。
うつろな表情で私の舌をなめてくる舞美ちゃん…。

「あいひぃ~、指入れふぎぃ~。」
いけない…私、舞美ちゃんの足をひっぱってばっかりだ…。
急いでマウスピースを取り出し洗って入れなおす。


カ~ン。短いインターバルが終わり、2R開始…。

もちろん相手は、猛然と襲い掛かってくる…なにせ48戦48勝の相手…。

「まいみちゃ~んっ!!!!!!」
私は、そう叫ぶと思わず駆け出してしまった…。
もう試合なんか見ていられないよっ!!

会場を飛び出すと、外は土砂降りの雨だった…
私は、止まっていたタクシーに飛び乗る…。

「千葉の鈴木ボクシングジムまでお願いしますッ!!」
こうして私は舞美ちゃんを置き去りにして逃げ出したんだ…。

それなのに…運転手さんがラジオをつけ、そこから試合の様子が流れてくる…。


『矢島選手…矢島ピンチですッ!あ~っと、またロープを背負った!』
『ゴリラッ!ゴリラが矢島選手を猛連打!!矢島選手が連打でロープを背負い続けま
す!!』
『おっ…!?矢島選手のコーナーにセコンドがっセコンドが居ません!!
 なんと言うことでしょう!!矢島選手、コーナーでキョロキョロしています!!』
『矢島危うしっ!矢島危うしっ!矢島、クリンチでしのぎます!!」
『あ~~~~矢島ダウ~ンッ…3度目のダウンです…しかし矢島選手、立ち上がりま
す!
 まだ勝負を諦めていない矢島ッ!!…あっ、しかしぃ~~~…』

「け、消してください!!ラジオ消してください!!」
ラジオから聞こえてくる試合の様子に思わず叫ぶ、私…。

舞美ちゃんは、がんばっているんだ…。
なのに私は、また逃げて…。いつも都合が悪くなると逃げてばっかり…。
舞美ちゃん…。

「う、運転手さん…すいません!急いで戻ってくださいィ!!」

私は、タクシーから転げるように飛び出て、雨の中、全力で走った…。
待ってて舞美ちゃん!立っていて舞美ちゃん!!


「舞美ちゃん…。」会場に戻ると舞美ちゃんは立っていた…。
相手選手に攻められロープを背負い、相手のパンチとロープに揺られ続けているけど
まだ立っている…。舞美ちゃん!!

カ~ン。電光掲示板を見ると9R終わったところだった…。残り1R…。

私はコーナーまで駆け寄りロープをくぐると、舞美ちゃんが、私を見つける…。

「…あいりぃ~~~どこ行ってたの…休めなくて、疲れたよ……
あっ、愛理…てか、濡れてる…雨???どうしたのぉ???」
えぇっ~~~えぇっ~~~えぇっ~~~~~~~~
選手を置いて逃げ出した前代未聞のセコンドにそれだけですかぁぁぁ!!
私は殴られるくらいのつもりいたんですけどぉぉぉ!!!
や、優しすぎるよ舞美ちゃん…。
いや天使ですか?優しさの桁が底が抜けてますよっ!!

そう私が驚愕していると、さらに舞美ちゃんがくっついてきた…。
あっくっつき虫…うれしっ…キャハッ!!


いやいや!そんなことで喜んでる場合じゃあありませんっ!!


舞美ちゃんを急いで座らせて、9R戦い続けた顔を見る…。
美しい顔が、きっと相手の猛打でお岩さんのような顔に…。

アレ?…なってない?てか、いつもの汗だくの舞美ちゃんですか?
今度は遊ばずにマウスピースを外して声をかけましょう…。

「舞美ちゃんダメージは?」私の問いかけに首をふる舞美ちゃん。

「なんでか大丈夫ぽっい…押されてるけど、なんだか相手のパンチが
 私の顔で滑ってるみたい…わたし…汗かきすぎなのかな……。」

思わず、私が相手コーナーを見ると
相手選手がセコンドに首を振りながら何か訴えてる…。
「すべる!すべるよ!!あの女ッ!!」
うわぁぁぁ!!舞美ちゃんの滝のような汗には、そんな副作用がありますか!?
いやぁ愛理、驚き!!まいったなコリャ…。

「愛理が来たら910%がんばれる!!」
「はい?」私が色々たまげていたら
舞美ちゃんが、またまた、意味のわから無い発言を…?
でも…舞美ちゃんの言葉はわりといつも解らないから、まぁいっか…。

カ~ン。最終ラウンドのゴングが鳴る。
私は舞美ちゃんの口にマウスピースをくわえさせ
舞美ちゃんを抱きしめる…。


「最後まで、がんばってきて…」私の胸で嬉しそうに笑顔で頷く舞美ちゃん…。

試合は劣勢で完全にポイントは取られてる…
でも、どうあれ舞美ちゃんは最後までがんばった…。
チッサー、マイマイ、ナッキーによる練習の成果だ…。

始まる最終ラウンド…。さすがに相手選手にも疲労が見えるというか
汗だくで滅茶苦茶に疲れている…。
そうかぁ、強打者だから、こんなに試合が長引いたことないんだ…。

それでも、パンチを繰り出す相手選手…。
舞美ちゃんの顔にパンチが入るが、その度に確かに滑っている…。
そして舞美ちゃんの汗を大いに浴びている…。
相手選手の汗は、舞美ちゃんの返り汗のようだ…。

苦しそうな相手の表情…打っても打っても効かない相手に
それでも必死で、パンチを繰り出している…。

やがてロープを背負う舞美ちゃん…。だけど…あっ舞美ちゃん!!


ロープを背負った舞美ちゃんの体が左右によじれる…
私との練習の効果が!!さらにクリンチで逃れる舞美ちゃん!!凄いっ!!
相手はクリンチした舞美ちゃんを離そうとするけど
舞美ちゃんが巧みに体制をとり続け、そうはさせない!
練習の!練習の成果が出てるよ!!舞美ちゃん!!

今までの血のにじむような練習が頭の中で
走馬灯のようによぎり、涙がにじみ出る…。今までの練習は無駄じゃなかったんだ!

さらにレフリーがクリンチを離すと、疲労が取れたのか
舞美ちゃんのパンチが打ち出され始める。

「す、、、凄い…。」思わず独り言をつぶやく私…。

リングの上の舞美ちゃんは、本当にいつもの+810%だ…。
相手選手が舞美ちゃんの猛烈なラッシュにサンドバックになっている…。
て…いつも、どれだけ手を抜いているん??
+810%とか出せるなら、いつももう少し、がんばれるんじゃない?
てか今までのラウンドなんだったん?

あっ私が居ないからか…。そんなこと、もう良いや…。


「舞美ちゃんがんばれ~!!」私は必死に声を出し応援したんだ!!
目から涙があふれ泣き虫な私!でも、もう嘘はつかない!!
この涙だって本物なんだ!!

舞美ちゃんの右ストレートが飛ぶとリングに汗が舞い散る!!

あぁっ!!相手選手が、目を閉じちゃった!!
パンチを浴びた時に、舞美ちゃんの汗が目に入ったんだ!!

相手選手が、あさっての方向にパンチを必死に放っている!
完全に目が見えていないんだ!

「舞美ちゃん!!」チャンスだ!!
私は舞美ちゃんを呼んで、拳を突き上げアッパーのポーズをうながす!!
舞美ちゃんっ!相手の顎を突き上げてっ!!

私の声に反応した舞美ちゃんがアイコンタクトで大きく頷き
ニコリと笑い、右ストレートを放つッ!!!
ハハッ!アッパーだって言ってんだろ!!
相変わらず相手の思いを頑なに理解しませんね!!ハハッ!!

相手の頬に舞美ちゃんの必殺の右ストレートが打ち込まれ
吹き飛び、もんどりうってダウンする!!


…こうして舞美ちゃんと私の世紀のボクシングは終わった…。
後で聞いた話だけど、相手選手は舞美ちゃんのボディーを打ったときに
あまりの堅さに手を傷めてしまってパンチ力が無かったらしい。
そう舞美ちゃんは触れたものや周囲の物を天然で壊す「破壊の女神」…。


私は自分がセコンドにまったく向いていないと解って
ジムを去ることにした…すると舞美ちゃんもあっさりボクシングを辞めちゃった…。

2人のボクシングは終わったけど、
でも、私たちはこれからもいつも一緒だから別に良い…。

てか、今夜も私は舞美ちゃんを、たっぷり真っ白にしてあげるんだ朝まで…
舞美ちゃんを倒せるのは私だけなんだから…。
~完~
最終更新:2011年02月16日 13:01