唇を重ねて感触を十分に堪能したかと思えば舌で唇をこじ開けられた。
舌を、唇を、上顎を丹念に舐めてあたしの意識を絡め獲る。
されるがままの愛理のペースに少しだけおびえて身体が固まりそうになると
愛理はすごく優しいキスに変えた。
それからあたしの手を握り、徐々にまたキスを深めていく。
ときおり急いたような素振りをするのにそのたびに自分を抑えているようだった。
加速するとブレーキはききにくくなる、だから、加速しすぎないように。
あたしのことがほしいのにあたしが怖がらないように抑えているのがわかって、胸の奥がきゅう、となった。
繋がっている粘膜の感触は肌が触れ合うのとは全く違っている。
普段決して味わうことのない感触だからこそ理性が吹き飛びそうになるし、余計なことを考えられなくなる。
このまま全部、体も心も、全部愛理に食べられても構わない、いや、食べられてしまいたかった。
愛理があたしのことを舐めあげるたびに意識の皮がむけていく。
口がつながっているからだんだん酸素が薄くなって、苦しいのに、それが気持ちよかった。
愛理が触れる舌先も唇もいつもとは感覚が全然違う。
ぴり、と電気が走るような刺激はあたしの背骨まで届いて腰がしびれる。
その感触のたびに呼吸が乱されるから整えたいのに、愛理はさせてくれない。
溺れる、というのはきっとこういうことなのだろう。
呼吸ができなくなって、酸素が薄くなって、何も考えられなくなる。
どれだけ触れ合っても苦しくても、愛理がほしくて仕方がない。
唇が少しでも離れるのが惜しい。
ちゅ、と愛理が唇から音を立てて離れたとき、二人とも上がった体温で、吐く息が熱かった。
目を開くと暗闇の世界は消え、目の前に愛理の顔があった。
あたしは愛理の頬の赤さに驚いた。
開かれた瞳が黒く潤んでいて、その美しさに心臓が掴まれる。
愛理の頭がおじぎ草のように降りて頬に唇が落ちる。
そのまま滑るように耳元に移り、耳の下のあたりをぺろりと舐めた。
突然で強烈な刺激にあたしの体が跳ねる。
愛理は気にせず今度は口づける。生々しい唇の感触は湿っている。
触れられるたびにぞくぞくと背筋が刺激で侵されて、繋がっている頭と腰のあたりが蝕まれていく。
少しずつ首の線を辿り鎖骨に近づく。
びりびりとした感覚は鈍ることはなく、あたしの奥の方が熱くなって、
思わず声をあげそうになるのを何度も飲み込んだ。
愛理はあたしのことは何でもお見通しらしく、今降りてきた道を引き返し耳元に戻る。
耳に近づけば近づくほど行為の音がはっきり鮮やかに聞こえて、それが妙な感覚から逃げられなくさせる。
耳たぶが口に含まれる。
ざらざらの舌と水の音が、すぐそばにある。
愛理がそこにいて、あたしに触れている。
耳元でわざとたてられたキスの音が脳髄まで響いて理性を蹴飛ばそうとする。
自分の喉から声が出るのを抑えようとして喉が引きつった。
我慢の限界が近い、けど、羞恥があってあたしはこらえる。
吸いつく、舐める、転がす。繰り返されればされるほど腰のあたりが疼き、体は追いこまれて、苦しい。
けど止めないでほしかった。
もっともっと、と求める強い感情が自分にあるのを初めて知り恥ずかしくなる。
乱れた呼吸に乗じて声が出そうになる、のをあざ笑うかのように愛理は耳元で囁いた。
「舞美ちゃん、声、聞きたい。」
見抜かれることで心まで愛理に侵入されて、我慢の糸がたやすく切られようとしている。
「やっ、だ、はずかし。」
自分の口から出た声が予想以上に余裕がなくて、それだけで恥ずかしくなるのに、
愛理は握った手に力を込めて、それからあたしの顎の骨を伝いながら呟く。
「はずかしくないから、我慢しないで。」
快感で上がる顎を追われ、握っていない手があたしの首筋をなでて、あたしは愛理のなすがままになる。
もう一度耳元を舐められたときにあっけなく糸が切れた。
自分でも聞いたことがない自分の甲高い声が部屋に響く。
瞬間愛理が満足げに微笑んだのがなんとなくわかり、そのことがまたあたしに快感をもたらす。
「可愛い。」
恍惚とした愛理の声が徐々にまた下っていって、その間もあたしは乱されたままだった。
鎖骨の辺りまで下ると何のためらいもなく一番上のボタンを外した。
あまりに早く外されたから一瞬反応できなかったものの、首元が外気にさらされて不安になって、
そこに口づける愛理の肩を思わず掴んで抑えた。
「ちょ、ちょっとまって愛理。」
手を二つ目のボタンにかけたまま、上目づかいで不思議そうにあたしを見上げる。
あたしに乗っているのだから上にいるのは愛理なのにおかしなことだ。
「なに?舞美ちゃん。」
あたしの呼びかけに手を止めたけれどボタンがもうはずれかけなのは見なくてもわかった。
この調子で行くとあっという間に全て外されてしまう。
愛理が背負っている蛍光灯が眩しくて目を細めた。
着替えの時なら何も気にしないのに、というのは少し嘘で、愛理の着替えは気になった。
でもこんな風に自分の肌が見られることが恥ずかしいと思ったことなんて全然なかった。
明るい蛍光灯の下で、人に見せたことがないところを見られる、加えて、愛理にだったら余計恥ずかしかった。
この前とは違う意識が働く。
愛理のことを考えて行動するなら何の羞恥も躊躇いもないのだけど、今は違って、自分の感情と向き合うことになる。
えりではなく、あたしを選んで求めている。
外されていくボタンと脱がされていくパジャマがそのことを明確に意識させた。
キスだけで体も顔も熱かったけれど、更に温度が上がるのが分かる。
多分顔が赤くなってる、と思う。
「なんか、恥ずかしい。」
そう伝えると愛理は微笑んだ。
「可愛い。」
あたしの赤くなった頬に手を当てて、更に恥ずかしくなるようなことを言う。
顔真っ赤だよ、と付け加えられたら俯くしかできなくなる。
愛理の指先が頬から水が伝うような繊細な手つきでおりてくる。
そして、外れかけのボタンが外される。
はだけた胸のあたりから心臓の音が聞こえてしまうんじゃないか不安になるくらいどきどきしている。
寝る前だったから下着はつけていなかった。
自分の肌が露わになって、空気に触れると意外と冷たくて、
それなのに愛理の視線にさらされていると思うとじりじり焦げつくような感覚がある。
愛理の口からこらえきれないような溜息が漏れるのがわかる。
4つ目のボタンを外したとき、愛理がまじまじとあたしのことを眺めながら、綺麗、と呟いた。
恥ずかしさで首を横に振る。
愛理はそんなことは気にしていなかった。
美しいものは美しいと言い切ってしまう人だから、愛理の価値判断はあたしがどういったって変わらない。
次のボタンが外されたら人に見せないようなところが見えてしまう。
愛理に見られるのは恥ずかしい。
内科検診や着替えだったらそうではないのに、目的とみられる相手が違うと、こんなにも違う。
反射的に次のボタンに手にかける愛理の手を掴んだ。
「あい、り。」
「ん?」
「あの。」
こういうこと一つ言うのも全部恥ずかしくて口ごもってしまう。
あたしが何を言いたいか全然わからないような顔で愛理がこっちをみるから、
言わずに理解してもらうのは無理そうだった。
「恥ずかしいから、電気、消して。」
そういうのが精一杯だった。
愛理は意外なことに不満の声を漏らした。
「舞美ちゃんの体見たい。」
「や、恥ずかしい。だめ。」
あたしが必死に嫌がると、しぶしぶ、と言わんばかりの動きで愛理は立ち上がった。
「しょうがないなあ。」
カチカチ、と灯りが消えて暗くなる。
眩しさに慣れていたあたしの目は愛理を見るのが難しくなるけれど、
再びあたしの上に乗っかる愛理が、あたしを踏まないように慎重に座るのがわかった。
「見えにくいね。」
かろうじて見える輪郭が近づいているのかもよくわからないけれど、愛理も同じようだった。
おそるおそるあたしの鎖骨少し下に触れる。
空気とは違う、暖かい手の感触が妙に安心する。
探るように手が動いてパジャマに触れた。
さっきのような素早さはなく愛理はゆっくりとボタンを外していって、するりと中に手を滑り込ませた。
暗くなって気づく。見えない方が愛理の手の感触がもっと確かになる。
体の上に乗っていた布がめくられて全てが晒される。
肌の輪郭を愛理の手がゆったりと這って、徐々に胸のあたりに近づく。
その感触だけであたしの体はぞくぞくと敏感に反応する。
くすぐったがりなのはあるけれど愛理の手は特別な力を持ってるのだと思う。
あたしの肌を味わうように何度もただ触れるだけで往復してるだけなのに呼吸が乱される。
静かな部屋にあたしの呼吸ばかりが響く、のが、余計意識させる。
する、と登り、先端に触れられると今までとは違う刺激が体の芯にまで届く。
体が跳ねるのが愛理には伝わっている。
だから愛理はそこに丹念に触れた。
指先でひっかけるように動かしたり、つまんだり、はさんだり、そうするうちに愛理の指に自分がかかりやすくなっていく。
同様に、感覚が研ぎ澄まされていく。
最初は少しだった乱れがだんだん大きく抑えきれなくなる。
愛理の指の動きの通りあたしは喉を引きつらせて息を吐く。
鋭く吐いた息はいつのまにか微かに声を含んでいく。
あたしが指だけに集中していると不意に反対側の先端を口に含んで転がされた。
指のさらさらした感覚とは違う舌の感覚はざらざらして刺激が大きい。
両方を違う方法で触れられると、さっきまで残っていた余裕が全て吸われていく。
潰して、つまんで、吸われて、小さい子供がおもちゃで遊ぶように弄ばれる。
頭の奥と腰のあたりがじわじわじんじんと侵されると、熱から逃げだそうと腰が動く。
自分ではどうにもできない奥の方の感覚は愛理にしかどうにかできない。
触れられれば触れられるほど大きくなるのに、触れることでしか救えない。
だから、もっと触ってほしい。
軽く歯を立てられたら思わず声が漏れた。
痛いのではなくて、そういう声が我慢できなかったことに自分でびっくりする。
急に理性が戻ってきて、かすかに記憶から黒い感情が頭の奥に滲む。
追い返すようにあたしでいいのだと言い聞かせる。
なのに黒が頭の裏で広がっていくのが分かった。
自分で言い聞かせようとしてもだめなのだ。
確かな証拠がほしくなる。
不安になって愛理の髪の毛に手を伸ばした。
さらさらの柔らかい髪の毛が優しい。
「あい、り。」
乱れた呼吸に声を載せる。
あたしが愛理の名前を呼んでもいいんだよね?
思ったより弱い声になって悲しくなった。
「舞美ちゃん。」
あたしに触れていた右手であたしの手をとって、ぎゅう、と握った。
存在を確かめられているような、そんな感じだった。
握った手を自分の頬にもっていってあたしの手は愛理の頬を包むことになる。
滑らかな愛理の頬が熱い。
「舞美ちゃん。」
あたしの名前をもう一度呼んで手のひらにキスをする。
暗闇に慣れてきた目は愛理の表情をしっかりとらえた。
仕草、行動、声の調子、表情、全てから、あたしを愛しいという感情があふれて伝わってきた。
「舞美ちゃんが好き。好きで好きでどうしたらいいかわからなくなるくらい。」
愛理は目を閉じている。あたしの手のひらを感じている。
それから口を開いて、その言葉は振動になり、手のひらと空気に伝わり、最終的にあたしの奥にまでしみこむ。
舞美ちゃんがいい。
たった一言で広がっていた闇が取り払われる。
まるで魔法使いみたいだ。
泣きたくなるのをぐっとこらえて、愛理の耳に触れたら愛理の目が開かれてあたしの顔に近づく。
唇が触れ合ったらもう大丈夫な気がした。
そのまま角度を変えて交わって躊躇いや戸惑いはなく転げていった。
唇で繋がったまま愛理があたしの体をなでる。
一つ一つの動きが優しくて、気持ちよくて、体全体がしびれていく。
漏れる声も乱れた息も愛理に飲まれていった。
濡れた唇で首筋も、鎖骨も、胸の先端も包んで、あたしの体は熱くなった。
理性を抑えつけるブレーキは愛理の手でそっと除かれたからもう止めるものはない。
我慢できた声は我慢できなくなる。
自分の声とは思えない声が増えていくと、愛理の動きも激しくなった。
噛まれて少し痛かった、反面それが気持ちいい。こんなことは初めてだ。
愛理が触ったところからすべて波が生まれて、おなかのあたりに熱がたまる。
上半身を触られて気持ちいいけれど、このままじゃこの熱がたまる一方で、もどかしくなる。
もっとほしくなる。
それを察したのか愛理は口づけを徐々に下にくだらせていった。
最終更新:2010年04月28日 18:49