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「もーむりっ、愛理パス!」
「うぇえ?」

デザートの柚子シャーベットがすんばらしくおいしくて、しあわせ~な気持ちに
ひたってたら舞美ちゃんが降ってきた。大げさじゃなくて。
なんか知らないうちに後ろからがっちりホールドされてて身動き取れないし。
首の右横辺りから、「愛理~」って聞こえるんですけど。
しかもこのニオイ……すっごいヤな予感。

「また?」

苦笑いで見上げると舞ちゃんはこっくり頷いた。

「まぁじ信じらんないから2回目だよ? 前は水としょーちゅーだったじゃん、
今日お茶とビール間違えて飲んでんの。も、舞美ちゃんバカすぎ」

あちゃー…
前も酔っ払ちゃって大変だったけど、えりかちゃんが部屋まで運んでくれたからなぁ。
あのときもこんな感じでえり~って抱きついてて、支えて歩くの大変そうだったっけ。
ん?

「愛理ほんっとゴメンね! 部屋のキー舞美ちゃんのポケットに入ってるから。
舞まだあんま千聖と話してないんだ」
「えーちょちょちょ…っ」

抵抗しようにも拘束されててどうしようもない。わたしが四苦八苦してるうちに、
舞ちゃんはもうちっさーにヘッドロック決めてる。
てか舞美ちゃん、耳の後ろで喋んないでってば。ぞわぞわするから。

「…きも゛ちわる゛い」
「へ!? えっ、大丈夫? 吐く?」

ぶんぶん。首を横に降る気配。
表情見たいけど、近すぎてつむじしか見えない。


「…部屋、戻る?」

ぶん。首を縦に降る気配。
子供みたいでかわいいなぁ。こんな舞美ちゃんめったに見れないからトクした気分。
自然と顔がには~ってなっ……てる場合じゃないですよねー。この状態じゃまずい。
いろんな意味で。

「よし行こう。まず立とっか舞美ちゃん?」

返事ないけどいいや。やっちゃおう。
背中に腕回して、せーので立ち上がる。
舞美ちゃん、ちょっと痩せたな。あ、もしかして髪の毛の分だけ
軽くなったとか? なんつって。
最初だけちょっとよろけたけど、意外に運べそう。


シングルベッドがぴったり二つ分の部屋。
舞美ちゃんが一人で寝るはずだった、ツインルーム。

ここが宴会場から一番近いとこでほんとよかった。やっぱりぐでーんってなってる人を
担いでくのって簡単じゃない。
こういうとき、自分の体力のなさにがっくりくる。
最後は引きずるみたいになっちゃったけど、どうにか手前のベッドまでたどり着けた。

「ふふ」

ベッドライトを付けてたら、後ろでなんか笑い声。腰をひねって様子を見てみる。
舞美ちゃんは笑ってた。
赤灯だから、顔が赤いのはもうわからなくて、三日月みたいな目と白い歯が
いつもよりよく見えた。だから、シーツについた右手にさわられても、ずっと
そっちだけ見てた。
いつもみたいに、ううんいつもよりもっとニコニコしてる舞美ちゃん。
わたしはわざと真顔でいる。
いつもならとっくに笑い返してるのに、今日は待ってみたりしてる。


「なんかねー、きもちいよ。ふわふわして」

気持ち悪いって言ったり気持ちいいって言ったり。
よくわかんない、今日の舞美ちゃん。あ。今日も、か。

「ねー愛理」

返事のかわりに眉を上げる。
手は、まだ重なったまま。

「ちゅーしよっか」


あれ? “とか言って”がない。
もーなに言ってんの?ってぼやかせないのは、いつもと雰囲気ちがうせいだと思う。
だって舞美ちゃん、ちょっと笑ってない。
リアクションが不自然になっちゃって、「またまたぁ」とかヘンなこと言うので精一杯。

「あはは。なんかあたしすっごいヘンタイみたいだし」

部屋に入ってから一番笑って、舞美ちゃんはわたしの手を離した。

「運んできてくれてありがと。ごめんね、いっぱいメーワクかけて」

やっぱり呂律回ってないけど、さっきとは違う、真剣な口調。

「…リーダー、ちゃんとしなきゃね」

あ、いつもの舞美ちゃん。
わたしは口の中でつぶやいた。
頑張りすぎるぐらい頑張りやで、負けず嫌いで、つよがりな℃-uteのリーダー。
そっか。もう最年長、一人っきりなんだね。

出会ってから何年も経つのに、まだまだ知らないこといっぱいある。
今だって、何考えてるかちっともわかんない。わかりたいのに。

ねえ舞美ちゃん、なんで髪切ったの?
なんでさっき、あんなこと言ったの?
ねえ、

「舞美ちゃん」

「はい」急に呼ばれたから面食らったみたいになってて、それがまたかわいくて笑っちゃう。
だけどそのまま、唇をくっつけた。

あったかくてやわらかい感触は一瞬で、距離戻して笑い合って、「しちゃった」とかおどけて、
じゃあ戻るねおやすみって、言うつもりだったのに。

それなのに。

離れようとしたタイミングで背中の服つかまれて、ぜんぶ消えてった。
今誰か入ってきたら、絶対わたしが押し倒したと思われる体勢。
実際間違いじゃないけど。
なんかよくわかんなくて、ただ舞美ちゃんの匂いとお酒の匂いとシャンプーの匂いが
混じって、唇だけあっつくて、頭ぐらんぐらんする。
でも背中に回された手が、時々強くなったり緩んだりするのがわかるから、止まれない。
髪の毛が重力に逆らえなくて、二人だけの世界は真っ暗。
邪魔に感じてサイドの髪を耳にかける。閉じた瞼の上から、オレンジの光がまぶしい。

わたし、何やってるんだろう。
舞美ちゃんとこんなキスして、明日からどうするんだろう。

「愛理ちょ…っと待って、タンマ」

突然両肩をぐいっと離された。唇と唇をつなぐ糸が、恥ずかしくって手で断ち切る。
突っ走りすぎたかな、ってちょっと反省。

「あたしこの先のやり方、わかんないんだけど…」

舞美ちゃんがあんまりにも申し訳なさそうな顔するから、20センチの距離で
ぶはっと吹き出してしまった。「あ、ごめんごめん」なんか飛んじゃった。
思わずそっち?って言いそうになって、飲みこむ。
きっとこの人は、知ってるようでほんとに知らなくて、知らないようでほんとのことをわかってるんだ。
たぶん。

「うん。実はわたしもよくわかってない」
「だよね。ごめん……年上なのに」
「いや、それは今カンケーないでしょ」

あーもーほんと……きれいなのにかわいいとかずるい。
わたしがきゅんってなってることなんか知らない舞美ちゃんは、ハテナ浮かべて
目をぱちくりさせてる。わたしの腕の中で。

「ま、なんとかなるんじゃない? 夜、長いし」
「そだね。ん? そうかな?」
「そうだよ。じゃとりあえず舞美ちゃん、上脱いどく?」
「あたしっ?」
「うん。ほら年功序列で」
「えーなんか恥ずかしいんだけど。電気消そ?」
「へーきへーき。手伝ってあげようか?」
「いいよ大丈夫っ……愛理目がこわい」

だけどまだやっぱりわかんない。だからまずわからせてあげる。
一晩中、ずっと。
最終更新:2010年02月15日 17:23