楽屋でみんながわいわいしている中、私は一人で机に突っ伏していた。
今日の私はおかしい。
愛理を見ているだけで、胸がドキドキして、近付きたくて、触れたくなる。
いつもはこんなに我慢出来なくなる程じゃないのに、どうしちゃったんだろう。
頬に手を当ててみる。
すごく熱くて、私は大きくため息を吐いた。
吐いた息もなんだか熱くて、自分で自分が嫌になる。
まだ仕事は残ってるし、こういう時ってどうしたらいいんだろう。
愛理を見ているとおかしくなっちゃいそうだったから、私は愛理を見ないように顔を反対方向に向けていた。
頬にくっつく机が冷たくて気持ちがいい。
そうだ。顔を洗おう。
冷たい水で顔を洗えば、きっとこの熱も冷めるはず。
メイクもまだこれからだし、ダーッとトイレに行って、バーッと洗ってこよう。
私はみんなが楽しそうに喋っている横を通り抜けて、足早にトイレに向かった。
「ふぅ…」
冷たい水は思った以上に気持ち良くて、さっきよりはだいぶ気持ちも落ち着いていた。
よし、このまま今日一日乗り切ろう。
気持ちを切り替えて、楽屋に戻ろうと身体の向きを変えた瞬間、誰かがトイレに入ってきた。
「あ…」
「やっぱり、ここにいたんだね」
そう言って、愛理は安心したように笑った。
落ち着きを取り戻そうとしていた心臓が再び大きく動き始める。
胸がドキドキして、息が苦しい。
私は思い出したように息を吸って、何も言わずに愛理を見ていた。
「舞美ちゃん元気なかったから、ずっと心配してたんだよ」
どうかしたの?って言いながら、愛理が私のすぐそばまで近付いてくる。
ドキドキしすぎて、愛理にまで音が聞こえちゃうんじゃないかって不安になった。
だけど、すぐ目の前にいる愛理に触れたくて仕方がなかった。
「舞美ちゃん?」
私の顔を覗き込む愛理と目が合った瞬間、私は勢いよく愛理を抱き寄せた。
細い愛理の身体を、両腕でしっかりと抱き締める。
愛理の首元に顔を寄せれば、愛理の存在が私の身体一杯に広がった気がした。
「ま、舞美ちゃん…っ?」
「愛理」
「ど、どうしたの急に…」
「愛理」
「何?どうしたの?」
「私、なんかおかしい」
愛理が愛しくて堪らない。
こんなに力いっぱい抱き締めてるのに、それでもまだ足りなくて、胸が苦しかった。
もっと愛理に触れたい。
もっと愛理を感じたい。
そう思うのに、どうしたらこの欲求が満たされるのかがわからない。
だから、私は愛理の身体を抱き締めることしかできなかった。
「舞美ちゃん、ちょ…っと、苦しい…」
「え…?あ、ご、ごめん!」
慌てて愛理から離れると、愛理は困ったように笑っていた。
どうしよう。愛理を困らせてしまった。
だけど、私の胸は疼くばかり。
離れたばかりなのに、私の心はもっともっとって愛理を求めてる。
ふと、愛理の唇が目に入った瞬間、私の心臓が一際大きくドクンと動いた。
「舞美ちゃん…?」
もう何も考えられない。
獲物を見つけたライオンのように、私はそこに向かって一直線に向かった。
愛理の顔を両手で固定して、愛理の唇をじっと見つめる。
愛理がギュッと目を閉じるのを見て、私は少しだけ手の力を緩めた。
愛理が愛しい。
愛理が欲しい。
それだけの欲求に駆られて、私はそっと愛理の唇に口付けた。
最初は触れるだけ。
次は、少しだけ舌で舐めてみた。
もっともっとって気持ちが次から次へと溢れてきて、力加減が上手くできない。
愛理が苦しそうに漏らした吐息の一つも聞き逃さない。
何もかも全部欲しくて、私はキスをしながら愛理の頬に添えていた手を身体に回した。
腰を抱いて、自分の方に引き寄せる。
愛理の足が震えていることに気付いて、もう片方の手で愛理の身体を支えることにした。
もっと。
もっともっと愛理を感じたい。
愛理が切なげに私の名前を呼ぶ声も、苦しそうに吐く息も、時々洩れる甘い声も、全部が私の中で快感になった。
電気が走ったような感覚が背中を走り、腰の辺りがゾクゾクする。
「愛理」
「ん…もぉ、舞美ちゃん…」
唇を離して、愛理を見つめる。
愛理はゆっくりと目を開くと、とろんとした表情のまま私を見上げた。
何もかもが愛しい。
私は最初に抱き締めた時と同じように愛理を抱き締めて、愛理の耳元に口を寄せた。
「好き。大好き」
「…私もだよ」
好きなんていう言葉じゃ足りないけど、それでも私のありったけの気持ちを込めて囁いた。
少しだけ照れたように笑う愛理が可愛い。
抱き締めていた腕を解いて、そっと愛理の頭を撫でてあげたら、愛理は嬉しそうに笑った。
その顔がまた可愛くて、私の胸にじんとしみ込んだ気がした。
もう、すっかり私の中にあった欲求はなくなっていた。
「そろそろ戻ろっか?」
「まだ時間あるよ?」
「うん、でも、みんな心配してるかもしれないしさ」
愛理に手を差し出しても、愛理は俯いたまま足を動かそうとしない。
いきなりキスしちゃったから怒ってるのかな。
心配になって、愛理の名前をもう一度呼んでみる。
その瞬間、愛理に勢いよく腕を掴まれた。
「わっ!あ、愛理!?」
「舞美ちゃんだけなんてズルイ」
愛理に腕を掴まれたまま、私はトイレの個室に連れ込まれた。
え、な、なんか、嫌な予感がする…。
「今度は私の番だよ、舞美ちゃん」
「あ、あいり…?」
ニッコリ微笑んで私を見上げる愛理。
でも、その笑顔はさっきの笑顔とは全く別物だった。
私はさっきので満足したけど、愛理は逆にスイッチが入ってしまったみたい。
その後メイクが始まるギリギリの時間まで、私はその場から動くことができなかった。
最終更新:2010年05月10日 21:20