今日は地方でライブがあり、メンバーみんなでホテルに泊まっている。
解散後はずっと愛理と一緒に私の部屋でテレビを見たりおしゃべりしたりしていた。
先に私がお風呂に入って、愛理が出てくるのをテレビを見ながら待っていた。
髪を切ってからは、髪を乾かすのが本当に楽になった。
だから今もこうしてのんびりと待っていられる。
髪を切っていなかったら、きっとまだドライヤーをかけているだろう。
「あーさっぱりしたぁー」
「おかえりー」
愛理が首からかけたタオルで髪を拭きながら戻ってきた。
こういう時にしか見られないパジャマ姿はすごく可愛くて、私は自然と笑顔になる。
「乾かしてあげよっか?」
「いいの?」
「うん、やってあげる」
鏡の前に座る愛理の後ろに立って、ドライヤーを受け取る。
鏡越しに愛理を見ると、少しだけ頬が赤くなっていて、なぜか胸がドキッとした。
愛理は嬉しそうに私の顔を見上げている。
開いた襟元から見える綺麗な首や、濡れた髪から香るシャンプーの匂い。
いろんなものが組み合わさって、私の心臓をどんどん加速させていく。
「おーい、舞美ちゃん?大丈夫?」
「え、あ、だ、大丈夫大丈夫!」
気付いたらボーッとしていたみたいで、愛理が心配そうに私を見上げる。
私は慌ててドライヤーのスイッチを入れて愛理の髪に触れた。
ドライヤーの音に混ざって、自分の心臓の音が聞こえる気がした。
愛理はずっと嬉しそうな顔をしていて、鏡越しに目が合うとにこっと笑った。
その笑顔に、また私はドキッとしてしまう。
心臓はドキドキドキドキとうるさいぐらいに動いていて、私は大きく唾を飲み込んだ。
胸が苦しい。
こんなに愛理の近くに居るのに、もっと近付きたいと思う。
もっと、愛理に近付いてきてほしいって思う。
「これぐらいでいいかな」
「うん。ありがとう、舞美ちゃん」
なんとか愛理の長い髪の毛を乾かして、私はドライヤーを机の上に戻した。
心臓はまだうるさいままで、私の身体は愛理を求めていた。
私が戸惑っている間に、愛理は自分の荷物の整理をし始めてしまった。
どうしよう。
愛理に触れてほしい。
愛理に私を求めてほしい。
でも、これをどうやって伝えればいいんだろう。
愛理は楽しそうに鼻歌を歌っている。
すごく可愛いと思う。
私だけがこんな気持ちになってしまっているのがなんだか恥ずかしかった。
「愛理」
恥ずかしいけど、でも、してほしいものはしてほしい。
私は勇気を振り絞って愛理のパジャマの袖を掴んだ。
「何?」って言って愛理は振り向いてくれたけど、私は何も言えなかった。
「どうしたの?」
「あ、の…」
愛理が不思議そうに私を見る。
恥ずかしくて、私はとっさに目をそらした。
なんて言えばいいんだろう。
ストレートに言うしかないのかもしれない。
でも、そんなの恥ずかしすぎる。
「や、やっぱり何でもないっ」
もう今日は寝よう。
それで、明日は早く起きて、ホテルの周りを思いっきり走ってこよう。
そうすれば、こんな気持ちも無くなるはずだ。
「私、もう寝るね」
愛理の袖を掴んでいた手を離して、私は自分のベッドに向かった。
胸が苦しくて、頭がモヤモヤする。
それらをみんなかき消したくて、私は勢いよく布団をめくった。
「舞美ちゃん」
「っ…ん!」
愛理が後ろから私を抱き締める。
耳元で名前を呼ばれて、返事をする間もなく耳を噛まれた。
背中越しに愛理の体温が伝わる。
自分と同じシャンプーのにおいがする。
耳元で愛理の息遣いが聞こえる。
全身で愛理を感じた瞬間、頭がクラクラした。
「何か言いたいことあるんでしょ?」
愛理はそう言った後、私の耳に音を立ててキスをした。
全身に電気が走ったような感覚がして、私は思わずベッドに手をついた。
「言わなきゃわかんないよ?」
そう言いながら愛理は唇を首に移して、うなじの辺りにキスをしてくる。
全身がゾクッとして、私は首をすくめた。
今度は唇を首筋に移して、静かに舐め上げられる。
愛理は何も言わない。
私も声が出そうになるのを抑えるのに必死で何も言えなかった。
「舞美ちゃん」
愛理にもスイッチが入ったのか、愛理は私を優しくベッドに押し倒した。
私の上に愛理が跨るのを見て、私の胸は無意識に高鳴った。
これでしてもらえる。
そう思って、私は愛理の背中に腕を回した。
愛理の顔が近付いて来て、私はゆっくりと目を閉じた。
キスをされると思った、のに。
「どうしてほしいか、言って?」
愛理からの思わぬ言葉に、私はすぐに目を開けた。
すぐ目の前には愛理の顔。
あとちょっとでキスが出来る。
なのに、愛理はあと数センチの距離を縮めてくれようとしない。
「舞美ちゃんが言ってくれなきゃわかんない」
ここまでしといて、わからないはずがないのに。
さっきまでの行為で私の身体はすっかりその気になってしまっていた。
キスがしたい。
もっと愛理に触れてほしい。
そう思うけど、素直に口にするのは恥ずかしい。
「あいりぃ…」
名前を呼んでみたら、思いのほか甘えた声になってしまった。
それだけでも恥ずかしいのに、してほしいだなんて言えるわけがない。
私は顔が熱くなるのを感じて、今すぐこの場から逃げ出したくなった。
「ちゃんと言って?」
「や、無理…」
「ちゃんと言ってくれないなら、してあげない」
もうわかってるんじゃんか。
私がしてほしいって思ってること、ちゃんとわかってるのに。
「いじわる…」
「そんなこと言うなら、もうしてあげないよ?」
「…うー」
愛理が私の上で楽しそうに笑う。
ずるい。
こんなのずるいよ。
その気にさせといて、なんでそんなに意地悪なこと言うの?
だけど、今ここでやめられるのは本当に困る。
このままじゃ絶対寝られない。
私は覚悟して、ゆっくりと口を開いた。
「し、て…」
「ん?もう一回言って?」
「して、愛理…」
恥ずかしくて、火が出そうなぐらい顔が熱かった。
これで「何を?」なんて言われたらどうしよう。
そうなった時のことを考えていたら、愛理は私の身体をぎゅっと抱き締めた。
「よく出来ました」
耳元で囁かれて、また全身に電気が走ったような感覚に襲われる。
良かった。
これで、愛理にしてもらえる。
焦らされた分、私は愛理を求める気持ちが高まっていた。
「愛理」
名前を呼ぶと、愛理の顔がまた私の上に現れた。
気持ちばかりが先走る。
早く早くって身体が疼く。
そんな気持ちを全部ぶつけるように私は両手で愛理の頭を引き寄せて、今日初めての、そして、今までで一番長いキスをした。
最終更新:2010年05月10日 21:38