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気になっていたけれど口に出さなかった。
それは舞美ちゃんも口に出さなかったからだ。

いつもは寝顔を見る側なのにちょっとした移動中に真っ先に寝ちゃったりとか。ミスが多くて舞ちゃんにダメ出しされたりとか。
いつもと同じように楽しそうに笑っていたけれど、いつもと違っていた。
ここ最近の舞美ちゃんのスケジュールがハードな事は知っていた・・・疲れてるんだろうな、と思う。
あまりそういう事を口に出したり行動に出したりする人ではないから、余計に気になっていた。
楽しそうに嬉しそうに全力でいる程、時々見えるふとした表情に隠しきれないいつもと違う姿が断片的に見えた。
それでもいつでも楽しそうに笑っていた。今も隣でちっさーと舞ちゃんのコントみたいな話に大笑いしている。

数時間前、なっきぃとちっさーと舞ちゃんが私の部屋に来て「舞美ちゃんの部屋に遊びに行こう!」って誘われて。
私は舞美ちゃんが疲れてる姿が頭の中を過ってどうしようかと悩んだ。
だけど、私が行かなくてもどっちにしてもこの3人は舞美ちゃんの部屋に行くだろうと思ったら、少しでも舞美ちゃんのそばに居たいと思った。
それに修学旅行みたいな気分になっているのか、みんな目をキラキラ輝かせていて・・・心がやんわりとしたのもあった。
「舞美ちゃん、驚くかなぁ?」とちっさーが何故かひそひそと小声で言うと、ドッキリを仕掛ける気分なのか舞ちゃんはにやりと怪しい笑みを浮かべた。
舞美ちゃんの部屋の前に着くと、ちっさーが軽くとんとん、とドアをノックした後、今度は舞ちゃんとふたりでどんどんどん!と笑いながらドアを叩き始めた。
「ちょ!うるさい!迷惑だから!」そんななっきぃの声は聞こえていないみたいだった。
ドアが開かれて、舞美ちゃんは驚いたように目を開いて、だけどすぐに目を細めて微笑んで私達を中に招き入れてくれた。
テーブルを囲むように、二人掛けのソファーにちっさーと舞ちゃんが座って、なっきぃは一人掛けの椅子に座って、私と舞美ちゃんはベッドに座った。
大量のお菓子と笑い声が部屋を埋め尽くしていた。ホントにこんな風にメンバーで集まる事が久しぶりで修学旅行みたいで楽しくって、私もはしゃいだ。
舞美ちゃんもはしゃいでいたけれど、時々一瞬だけど上の空になったり、目が腫れていたり・・・隣に座ってるからそういう姿も目に入ってきた。
相当疲れてるんだと思う。今もホントはもう寝たいのかもしれない。
だけどやっぱりそういう姿は見せない。というかホントに楽しんでいるのがわかるから見てる私の方が辛くなってしまう。

思考に気を取られていたら急に静かになった。
テーブルの上のお菓子はゴミとなり、笑い声の代わりにスースーと気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。
見ると、ちっさーと舞ちゃんが体を寄り添わせて仲良く眠っていた。その姿はとても微笑ましくて、舞美ちゃんは幸せそうに微笑んだ。
なっきぃは眠たそうに欠伸をしていて、でも椅子だから眠れないんだろう。時々こくり、と頭が揺れていた。
そんな姿を見て、舞美ちゃんが見過ごしたり黙っているはずがなかった。

「愛理、なっきぃにベッド貸してもいい?」

何故か申し訳なさそうに言うから、ちょっとだけ妬ける。でもそれは舞美の優しすぎる優しさなのを知っている。
頷くと舞美ちゃんに頭を撫でられた。だけど素直に喜べないのは人の事を気にする前に自分を休めて欲しいと思うからだ。

「なっきぃ、ベッド空いてるよ?」

そう言って舞美ちゃんがすっと立ち上がったから私も遅れて立ち上がった。
するとなっきぃがのろのろと歩いてきて、そのままベッドにダイブした。舞美ちゃんが毛布をかけてあげたと同時になっきぃも寝てしまった。
そんな姿を見て、舞美ちゃんが幸せそうに笑って私の手を引いた。
私達の居場所はさっきまでなっきぃが座っていた一人掛けの椅子しかなかった。当たり前のように私をそこに座らせると、舞美ちゃんは地べたに体育座りをした。
そして私を見上げて、えへへとだらしなく顔を緩ませて笑う。いつもなら新鮮な下からの視線も今は嬉しく思えなかった。
胸の奥から愛おしさのような、そんな刹那な気持ちが押し寄せてきた。
そんな私の表情を見て、舞美ちゃんが不思議そうに私を見る。小声で「愛理?」と呼ばれた。私は椅子から立ち上がって舞美ちゃんの前にしゃがみ込んだ。

「愛理?どうしたの?」

舞美ちゃんがそう言い終わると同時に、私は舞美ちゃんのカラダを包み込むように抱きしめた。するとすぐにいつもより高い体温とにおいをカラダに感じて頭がくらくらした。
舞美ちゃんの腕が私の背中に回されて、そう言えばこんな風に抱きしめ合うことさえ久しぶりだという事に気がついた。
それだけそばにいられなかった。こんなに疲れているだなんて思ってなかった。それが悔しくもあった。
その想いが腕の力を増させた。それに気がついた舞美ちゃんが耳元でそっと囁いた。

「愛理の部屋、行こっか?」

「みんなが起きるまでに部屋に戻ってこればいいでしょ?ベッドも占領されちゃったし。」

部屋を見渡すと、3人ともすっかり熟睡しているのが寝息でわかった。
舞美ちゃんも寝かせてあげたいけれど、なっきぃの隣に寝かせるなんて絶対嫌だし、私の居場所がないし。
だったら私の部屋で寝かせてあげた方がゆっくり寝れると思った。
私が頷くと、背中をとんとん、とあやすように叩いて私を抱えるようにして立ち上がった。にひひと舞美ちゃんが笑う。

秘め事のように手をつないで、みんなを起こさないようにこっそりと部屋を抜け出した。

私の部屋に着いてドアを閉めた瞬間、舞美ちゃんがぎゅうっと私を抱きしめた。

「愛理、愛理・・・。」

舞美ちゃんが私の名を呼ぶ。こんな風に名前を呼ばれるのは初めてではないのに、それは私の心を大きく突き動かした。
お互い力任せに引き寄せてこれ以上くっつけないくらいにカラダを触れ合わせて、存在を確認し合うように抱きしめ合った。
目が合って、一瞬恥ずかしそうに微笑んだ後、自然に唇が重なった。追って追われるように舌を絡めて、いつまでも止まれない。愛おしくて仕方ない。
夢中になっていると、舞美ちゃんが苦しそうに息を吸い込んだ。瞬間、私の思考が動き出した。
唇を離すと、舞美ちゃんが急に離された事が不満そうに色づいた表情で私を見る。
気づいているだろうか、それがどんなに私の心を揺れ動かすのか、を。
そのまま突っ走りたくなる衝動を抑え込んで、舞美ちゃんの背中を今度は私があやすようにとんとん、と叩いた。

「愛理?」

早く舞美ちゃんを寝かせてあげたかった。少しでも早く休めて欲しかった。

「もう寝よっか?」

そう言って私は舞美ちゃんの手を引いてベッドの中に招き入れた。

ベッドに入ると舞美ちゃんが甘えるように私に寄り添ってきた。
頭を撫でると嬉しそうに微笑んでくれる。それだけの事だったけれどそれがとても嬉しくて幸せだ。
いつも先に寝てしまう私だけど、今日は舞美ちゃんが寝るまで起きていようと思った。

「今日は舞美ちゃんが寝るまで起きてるから、寝ていいよ?」

頭を撫でながらそう言うと、舞美ちゃんの笑顔が消えた。寂しそうな不安そうな顔で私の服の裾をぎゅっと掴む。
その理由がどうしてかわからずにいると、舞美ちゃんが少し困ったような顔をしてゆっくりと口を開いた。

「しない、の?」

恥ずかしいのかそう言った後に私のカラダに顔をくっつけて赤くなった顔を隠す。
たまらなくかわいい。私の顔も赤くなっているのがわかる。カラダの奥から熱が出る。
その熱を沈めるように冷静になろうと深呼吸をしてみるけど、出た息は熱くて全然沈まらない。
だけど舞美ちゃんの疲れの方が気になるし、無理させるのは絶対に嫌だった。

「だってほらもうこんな時間だし。」

舞美ちゃん疲れてるし・・・とはやっぱり言えなかった代わりに携帯を開いて時計を見せる。思ったよりも遅い時間だったのか舞美ちゃんが驚いた顔をした。
だけどそれでもなお、舞美ちゃんは私の服の裾をさっきよりも強く掴んで私を見る。

「だって・・・愛理、今日を楽しみにしてたでしょ?」

数日前、ふたりでバスツアーの話をした時に、久しぶりだし朝まで一緒にいたいって言った私の言葉を覚えているんだろう。
朝までとはつまりそういう意味で。その意味の通りに過ごすつもりだった。朝、舞美ちゃんに会うまでは。
だけど思った以上に舞美ちゃんは疲れていた。それがわからない程一緒にいる時間がなかった。それがとても、苦しかった。
したくないわけじゃない、今だってホントは理性の中で揺れている。だけど・・・。

「だって舞美ちゃん、疲れてるでしょ?」

思考に気を取られて言えなかった言葉が口から滑り出た。慌てて口を手で押さえてもそれはもうなかった事にはならなくて。
だけど舞美ちゃんは私がそう思っていたのを見透かしていたかのような表情で、優しく微笑む。

「愛理は私の事を大事に思ってくれてるんだよね?」

細くて長い腕がするりと伸びてきて、私のカラダに巻きつく。

「だから舞美ちゃんをこれ以上疲れさせたくない。」

それもわかっていたかのように、優しく頷かれた。私が思ってる事を全部わかって、それでいてそんな事を言っているんだろう。
休められる時に休まないと、いつか壊れてしまいそうで心配なんだよ、とか思ってる事もきっとわかっているんだろう。

「舞美ちゃん、疲れちゃうよ?」
「そんな事ないよ。」

ぐいっと引き寄せられて耳に舞美ちゃんの唇が触れた。久しぶりに触れられてカラダが震えた。

「心も体も愛理で満たされたら元気、出るから。」

その瞬間、理性なんてものは何処かへ吹き飛んで行って、私は舞美ちゃんの上に跨った。止まれない衝動が急速に体中に走る。
舞美ちゃんが優しく愛おしそうに私を見て微笑む。切なさに似た幸せが少し痛む。
私は舞美ちゃんにひれ伏すようにゆっくりと愛おしい唇に口づけた。



もうすでに夜とも朝とも呼べない時間に、私達はひっそりと愛おしい行為に溺れていった。
最終更新:2010年11月01日 07:26