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      • どうしよう、トレーナーの私が
よりにもよって選手に恋しちゃった・・・。

スポーツが好きだからって、どうして格闘技なの?
それも顔を打たれるボクシングだよ?

もうセコンド兼トレーナーを務めてけっこう経ったけど
舞美ちゃんの考えることは全然わかんない・・・。
でも自分が、舞美ちゃんをどんどん好きになっていることはわかる・・・。

「愛理!お水ちょうだい!」
サンドバッグを叩き滝のような汗を流した舞美ちゃんが
笑顔で寄ってくる。
汗をタオルで拭き、ミネラルウォーターを口に差し入れる。

試合で殴られる舞美ちゃんは見たくないけど
練習している汗だくの舞美ちゃんと、こうして私を頼りに
してくれる舞美ちゃんを見れるのは嬉しい。

ラウンドを終えてコーナーに帰ってくる舞美ちゃんを
抱きしめたくなる衝動にかられたこともある・・・。

「舞美ちゃんお水それだけで良いの?」
口元に持っていったミネラルウォーターを少しだけしか
飲まない舞美ちゃん。

「うん、減量があるから」
次の対戦に向けて減量している舞美ちゃん。
いつもなら朝に一斤は食べるパンを2枚におさめ
昼には87杯食べていた蕎麦を半分に抑え
夜は20皿は食べるお寿司を10皿にしている・・・。

どうして、そんなに苦しい思いをしてまで
リングに立つの?

しかも、今度の対戦相手は、あの【タイソン・アツコ】・・・。

舞美ちゃんより大食いで
左利きの強烈なパンチと、だれも止められないラッシュで
48人もの強豪を倒してきた猛者。
いくら舞美ちゃんでも敵わないよ・・・。

舞美ちゃんに試合までに何かしてあげたいけど
私じゃスパーリングパートナーは無理。
できることなら舞美ちゃんを止めたいぐらい・・・。

「ん?どうしたの具合とか悪いの愛理?」
私の不安げな顔に気がついてか
鈍感な舞美ちゃんが心配してくれる・・・。


「ううん、全然だよ!」
笑顔を作って返すと、笑顔を返して
グローブで頭をなでてくれる舞美ちゃん。

パートナーが選手に心配されるなんて
こんな気持ちじゃパートナーは務まらないよ。

どうしよう・・・試合まで後2ヶ月・・・。
気持ちの整理と舞美ちゃんのために試合の対策をしなきゃ!!

でも、どうしよう・・・。


そもそも私は舞美ちゃんがリングに上がった
理由をよく知らない・・・。

舞美ちゃんに聞いても
「最初はダイエットのつもりでジムをのぞきいたら、
楽しそうだから飛びこんだの!」としか教えてくれない・・・。

それでリングに上がるかな?
まあ、そこら辺はあいかわらず解らないのですが
私は、試合の日までにやれることを舞美ちゃんに
せいいっぱいしてあげなきゃ・・・。

たっぷりと練習した後にシャワーを浴びて
減量用のご飯を食べた舞美ちゃんは
今、私のとなりの布団で寝ている。
試合まで舞美ちゃんの体調管理も私の務め!

しかし・・・舞美ちゃんの寝顔は奇麗だ・・・。
舞美ちゃんは自分が寝た後に私にこうも
マジマジと私に顔をのぞかれていること知らない。

一瞬変な気になる・・・。
「ダメッ!今は変なことで気を使わせることなんてできない!」
私は、そう自分に言い聞かせて布団にもぐった・・・。


次の日の朝。
舞美ちゃんは小雨のふるなか早朝からランニング。
舞美チャンはひたむきな努力家だ。
雨の日も、雨の日も、そして雨の日も走っている。

元プロだった私のお父さんのジムに入ってから
舞美ちゃんは、その天性の運動神経と、ひたむきな努力で
またたくまにボクサーとして成長しデビューをKO勝利で飾った。

元プロゴルファーだったお父さんがボクシングジムを
始めた理由は知らないけど、私はこのジムで舞美ちゃんと出会え
私がセコンドで見守る中、むかえた新人王戦・・・
舞美ちゃんはダントツで他を圧倒し全戦全KOで新人王となった。

その時の舞美ちゃんの笑顔を今でも覚えている・・・。
舞美ちゃんは、くっつき虫だった。
「あいり~、疲れた~。」新人王戦が終わると、
いつもは出さない甘え声で私に抱きつき
私の肩で休んだ・・・。
そうして舞美ちゃんが勝利する度に何度も笑顔を見て
何度も抱きつかれ、いつのまにか私は舞美ちゃんを
好きになっていた・・・。


今、パートナーでいられることは本当に幸せに思う。
でも最近は舞美ちゃんにリングに上がってほしくない・・・。
舞美ちゃんに傷ついてほしくない・・・。
舞美ちゃんが相手のパンチを受けるたびに私はリングから
目をそらすようになってしまっていた・・・。

舞美ちゃんを選手として見れなくなっている自分が居る・・・。

「はぁ~~~~」私の思いを他所にランニングから帰ってきた
舞美ちゃんが息を切らせタオルで濡れた頭を拭いている。

「あいり~、つかれたー!」そして、またくっつき虫。
私を後ろから被う舞美ちゃんの汗の匂いが好きだ・・・。

いけない・・・
その気を振り払うように首を振り、舞美ちゃんの両腕をほどく。

「舞美ちゃん!今日からトレーニングメニューを変えるよッ!」
ビシッと!言い放った私にキョトンとしている舞美ちゃん。

「試合まで2ヶ月!これからは愛理の特別メニューですっ!!」
こう言い放つと舞美ちゃんはなぜか嬉しそうに
「ウフフフフ~」と笑った。
相変わらずリアクションが解らないよ・・・。


それはさておき・・・
「強敵との試合がせまったなか
今までと同じでは舞美ちゃんの成長はありません!」

「そのために今日からはスパーリングパートナーは
こちらのチッサー選手!にお願いします!!」
チッサー選手は舞美ちゃんより階級は下だけど
今、うちのジムで舞美ちゃんとスパーリングを勤められるのは
この娘だけだ。
面倒見も異常に良くスタミナだけなら
舞美ちゃんより上かもしれない。
舞美ちゃんのスタミナを鍛えてもらおう!

「そして・・・コーチはこちらのマイマイコーチにお願いします!」
マイマイコーチはその若さに似合わず、いつもDVDカメラ片手に
選手を見つめ、冷静に、時に辛らつな指摘をし選手を育て上げる
スパルタ型のコーチだ。少し抜けたところのある舞美ちゃんには
ちょうど良いはず!!


舞美ちゃんの長所は、そのズバ抜けた運動能力と
凄まじいハードパンチ!
そのパンチは、サンドバッグを破き
パンチングボールを吹き飛ばし、
お父さんが大事にしていた壷を割り
動いてもいないのに手に当った蚊を気絶させ
伊達メガネを壊し、もちろん多くの選手をほうむってきた!

そんな舞美ちゃんについた渾名は
その容姿と合わせ「破壊の女神」!

だけどハードパンチャーだけあって今まで全ての試合を
短期で終わらせてしまっている・・・。

「今回の相手は強敵でしかも10ラウンドの長丁場!
 徹底的に舞美ちゃんのスタミナをUPしてもらいますっ!!」
矢継ぎ早にまくしたてた私の話しを理解できなかったのか
まだキョトンとしている舞美ちゃん・・・。
たぶん、そうだろうとは思いました・・・。

でも、ここは心を鬼にして・・・。

「返事ッ!!」

「はいっ!」

こうして舞美ちゃんの特訓が始まったのです。


こうして舞美ちゃんへの特訓がはじまった。

舞美ちゃんは、いつも通り滝のような汗を流し
サンドバックを叩く。
スタミナが汗と共に体から流れ出している。
苦しい減量もあるけれど平行して
スタミナもつけなきゃ・・・。

チッサーは話しを理解できない舞美ちゃんに
時々、イラッとしながらも面倒み良く
舞美ちゃんに付き合ってくれている。

マイマイはイラつきをそのまま前面に出しつつ
舞美ちゃんをビシバシと指導し
コンビネーションを教えてくれている。

「フックだよ!フック!
舞美ちゃん、違う!フックだってば!」
チッサーが吠えている。
「舞美ちゃん人の話聞いてる?前頭葉よわくない?」
マイマイの辛らつな指摘に舞美ちゃんは頬を膨らませる。
「今のしぐさはストレートだと思ったの!だって思うでしょ!?」
3人とも互いの否を認めずに
ギャーギャー騒ぎながら練習しているけど
楽しそうで何よりです。

そして私は・・・。



そして私は・・・。
舞美ちゃんは見ないで、ナッキーを見ることにした。
ナッキーは舞美ちゃんにも劣らない才能をもった
うちのジムのエースで良い娘なんだけど、
自信がないのか時々、ポカしたり
練習もさぼりがちになってしまう心配な子・・・。

舞美ちゃんをチッサー、マイマイに預けて
私は、この娘の指導にあたることにした・・・。

「ナッキー!そこで手を止めないで!」
「手ェ、止めてないしぃ~」
ナッキーはツンデレのデレが欠落した娘・・・。
言葉はツンツンで、まったく手を焼かせる娘だけど、
その気の強さがボクサーにあっているから良しっ!

「ナッキー!そこ!
ストレートをベシッとっ打つべしッ!」
ナッキーは私の指示と正反対に手を止めた・・・。



「てか、なんで私の面倒みてるわけ?
舞美ちゃんのパートナーでしょ?」
私の渾身の指示がいけなかったのか
サンドバックを打つ手を止めて
眉間にシワをよせてしまっている・・・。

「・・・それは・・・今は、あの2人に
任せてるからだよ・・・」

ウソ・・・。
本当は舞美ちゃんを選手として見れない自分に
気づいてから私は舞美ちゃんを避けている・・・。
心の中で、
舞美ちゃんをリングに上げ戦わせるパートナーの私と、
舞美ちゃんにリングに上がって戦ってほしくない私とが
喧嘩している・・・。

そんな状態で舞美ちゃんを見ていると
胸が苦しくなって、涙が出そうになる・・・。

どうして舞美ちゃんはボクシングなんか始めたの・・・。
でも、そのボクシングがなければ出会えなかったわけで
色々、考えると頭が混乱してくる・・・。

「パートナーがそんなんじゃ、舞美ちゃんの
足ひっぱるよ・・・」ナッキーの眉間からシワは無くなり
私を諭してくれる。ナッキーはこういう立派な言葉を
サラッと言える娘で、羨ましい・・・。


だけど・・・。

今の私は舞美ちゃんと向き合うことができない。
向き合いたくない・・・。
試合まで私はパートナーとしての自分と
舞美ちゃんを好きになってしまった私のどちらかを
選ばなきゃいけないんだ・・・。

後者を捨てたくないよ・・・。

私は、目からあふれ出しそうになる涙を
みんなに見られたくなくて、おもわず外に出た・・・。



ナッキーを置いて出てきてしまった。
もうトレーナーとしても最低だよ・・・。

朝降っていた雨は止み青空が広がっている。
涙を乾かすために近所の公園で時間をつぶす。
本当にどうかしている自分が嫌になる。

ふと空を見ると青空の少し向こうに「曇り雲」が見えた。
振り返ると舞美ちゃんが立っている。



「愛理・・・どうしたの?ナッキーが飛び出して言ったって・・・。」
舞美ちゃんは顔は笑顔で、心配そうに優しく声をかけてくる。
強い上に優しいなんて・・・どこまで男前なんだろう・・・。

「ううん、何でもない・・・。1人で考え事をしたかったの。」
そう言って首を大きく振って見せるけど、
ウソをついているせいか言葉には力が入らない。

「そう・・・。だけど・・・どうして今回は
愛理がトレーナーについてくれないの??」
舞美ちゃんから聞かれたくなかった問いがされる。

「知るは楽しみなりもうしまして・・・
愛理が教えてくれるボクシングの知識やテクニックは
凄くためになる!!いつもどおりにコーチしてよ!」
舞美ちゃんは、この「知るはウンヌン」の言葉をお気に入りなのか
うわごとのように言い続ける。
何度も、何度も・・・さすがに聞き飽きてるんだけど・・・。

それは置いておいて舞美ちゃんは、そのうわごとを言った後に
満面の笑みで私に近づきグローブをつけた手で
私の手を握ってくる・・・。アァ、もう!どこまで人たらし。



「今回は、私には考えがあるの!」私は、そう言い
舞美ちゃんのグローブを逆に握り返す。イニシアチブは取らせたくない。

言った言葉はウソ・・・。ウソをつく回数が日に日に増えている・・・。
私は後何回、舞美ちゃんにウソをつくのだろう・・・。
でも、前から思っていたこととからめてウソを突き通すんだ。

「タイソンアツコ選手のジムに視察に行って来るタイ!」

「うふふふふ~愛理おもしろい!」
私の言った内容は解っているのかは不安だけど
以外にもジム内で唯一、舞美ちゃんは
私のギャグセンスについてこれ喜んでくれる。

それはそうと、今までは、まさかあのタイソンアツコ選手と
舞美ちゃんが戦うことになるとは思ってもみなかったからノーマークだった。
でも、試合をひかえトレーナー、セコンド、パートナーとして
見に行かなければならない。それは本当に前から思っていたこと・・・。
だけど舞美ちゃんのトレーナーをしないこととは関係無い・・・。



「でも私も見たい!それなら一緒に行こう!」
舞美ちゃんは内容も理解していたらしく目を輝かせ両手をブンブンと縦に振る。

「舞美ちゃん!試合前の相手のジムに対戦選手が行くなんて 
ありえないでしょ!!だから私が変わりに行くのっ!!」
そう、もっともらしい言葉で舞美ちゃんを煙に巻く。


「・・・・・そっか。ウン!わかった!まかせるよッ!」
舞美ちゃんは、しばらく考えた後に
納得してくれたのか目玉が三日月になるほどの笑顔で
大きく頷いてくれる。こういうリアクションの大きさも私を
惹きつけているのかもしれない・・・。

「じゃあ、考えごとはもう良い?もどろっか!」
そう言いジムの方をグローブで指す舞美ちゃん。

「舞美ちゃん・・・外に出るのにグローブ、ボクサーシューズで
出てくるのは駄目だよ・・・」最後に気になっていたことを
話すと、舞美ちゃんは今さら気がついたのか慌てふためいて
私の手を引っ張ってジムに戻った。
最終更新:2011年02月16日 12:55