舞美ちゃんの家に着くと、舞美ちゃんのお母さんが突然の訪問にも関わらず優しく出迎えてくれた。
「舞美ちゃんの具合どうですか?」
そう言うと、舞美ちゃんのお母さんは困った顔して笑った。
どうやら舞美ちゃんは4日間部屋から出てきていない、らしい。
トイレぐらいは行ってるだろうけど、それも2階にあるから顔を合わせることはないとの事。
部屋は鍵がかけられていて、どんなに開けてと言っても開けてはくれないらしい。
ご飯を食べれるのかわからなかったから、いつもパンとミネラルウォーターをドアの前に置いたらそれはいつの間にかなくなってはいるから、ご飯は食べているらしい。
それ以上の事は何もわからない、と話してくれた。
本当は無理矢理にでもドアを開けてしまいたいけど、こんな事は初めてでどうしてあげたらいいのかわからない、と。
「愛理ちゃんだったら、ドアを開けてくれるかもしれないから・・・。」
舞美ちゃんのお母さんはそう言って、ため息をつきながらリビングへ行ってしまった。
やっぱり舞美ちゃんはおかしい。何があったんだろう?どうしちゃったんだろう?
メンバーを連れて来なくてよかった。そんな舞美ちゃんを誰にも知って欲しくなかった。
舞美ちゃんの部屋のドアの前に立つ。
深呼吸をしてドアをノックする。
「私、愛理だけど。舞美ちゃん・・・ドア、開けて?」
返事はなかった。
だけど、しばらくそのままドアの前に立って待っていたら、ドアの向こうで音がした。とん、とん、と足音がして、がちゃり、とドアの鍵が開く音がした。
私は緊張で体が震えだしそうだったけど、必死に体に力を入れて踏ん張った。
そして、ドアが開かれた・・・。
私は舞美ちゃんの姿に驚きを隠せなかった。
顔の色は生気がなく、目はうつろで、立っているのにすぐにでも倒れてしまいそうなくらいふらふらしていた。
元々細い体は更に細くなった気がした。
私は部屋に入って、ドアの鍵を閉めた。
すると舞美ちゃんはふらふらと歩いて、ベッドの上に座った。
「舞美ちゃん・・・。」
悲しかった。泣き出したかった。
どうしてこんな風になっちゃったの?何があったの?
舞美ちゃんは笑って「来てくれてありがとう」って言う。
その声は聞き逃してしまいそうなくらい、細くて小さな声だった。
私は舞美ちゃんの隣に座ろうとベッドのそばに行って、愕然とした。
ベッドに隠れるように置かれていたのは、手つかずのパンとミネラルウォーター。
4日間、何も食べてないの・・・?
「舞美ちゃん・・・どうしちゃったの・・・?」
ホントに悲しかった。怖いとかそういう気持ちはもうなくなっていた。
舞美ちゃんを助けたい。それだけだった。
私は知らないうちに泣いていた。でもそんなのどうでもよかった。
私はパンの袋を開けて、小さくちぎって舞美ちゃんの口に持っていく。
だけど、その口は開かない。
「食べないと・・・少しでもいいから・・・お願い・・・。」
だけど舞美ちゃんは食べてはくれない。ただ私を見て微笑むだけだった。
「舞美ちゃんっ。お願い・・・。」
涙を拭く余裕もなかった。
私は必死にパンを差し出す。強引に口の中に入れようとした。
だけど、拒否され、顔を背けられ、ついには体も背けられた。
掴んでいたパンが、音もなく床に落ちた。
「どうしちゃったの・・・。」
私は舞美ちゃんを抱きしめて、泣いた。
細くなった体は以前のように走る力もないだろう。だけど舞美ちゃんのにおいがする。
胸が張り裂けそうで、私は叫びだしそうなのを必死に耐えた。
お願い、お願い。どうかいつもの舞美ちゃんに戻って。
「舞美ちゃん・・・。」
助けたいよ。私じゃダメなら誰でもいい。
舞美ちゃんを救って。お願い。
「ねぇ、愛理。」
舞美ちゃんが静かに口を開いた。
「私ね、愛理が好きなの。」
それは思ってもいない言葉で、私はただただその言葉に驚いた。
「でも、私、リーダーだし。メンバーを好きになるとかおかしいし。それに愛理に気持ち悪いって思われると思って。」
ああ・・・。私が舞美ちゃんを・・・壊しちゃったんだろうか。
「しっかりしなきゃ。私、リーダーだし。メンバーも少なくなっちゃったし。でも愛理が好きで。でも嫌いにならないで。気持ち悪いって思わないで・・・愛理・・・。」
支離滅裂だったけれど、舞美ちゃんの心の中がやっと見えた気がした。
舞美ちゃんは・・・私の事が好きで・・・それで・・・それでこんな風に壊れちゃったんだって・・・。
私の事が好きならば。舞美ちゃんに笑っていて欲しい。壊れて欲しくなんかない。
「だったら・・・私ね、愛理と落ちていきたい。」
舞美ちゃんの目が変わった。
急に鋭くなり、私を見てるようで見てないような。
怖くなる。背中がぞくぞく震えた。
舞美ちゃんが私をすごい力で押さえ込んだ。そして私の首に、手をかけた。
苦しくて、息がうまく出来ない。
「ねぇ、一緒に落ちよう。」
愛情の裏に芽生えた殺意。私は力いっぱい抵抗する。
違う。誰かを好きになるってこんな事じゃない。
舞美ちゃんは舞美ちゃんらしく太陽のような笑顔で笑っていて欲しいの。
私の事を好きだというなら、なおさら。
思い切り舞美ちゃんの肩を押すと、簡単に首筋を押さえ込んでいた手が離れた。
「舞美ちゃんっ。」
なだめるように優しく、だけど強く抱きしめると、舞美ちゃんが涙を流した。
それは私の心にも降り、私の首筋を濡らした。
「私を好きだって言うのなら、こんなの違う!舞美ちゃんが幸せに笑ってる姿が見たいの。舞美ちゃん・・・。」
泣き叫んで必死に言った。
「私、舞美ちゃんのそばにいる。私も舞美ちゃんが好きだもん!だから・・・だから・・・。」
お願い、届いて・・・お願い、伝わって・・・。
「だから・・・。一緒に落ちるんじゃなくて、一緒に幸せになろうよ。」
舞美ちゃんが短く息を吐いた。
少し力を緩めて舞美ちゃんの顔を見た。
舞美ちゃんは驚いたように目を開いて落ちる涙を気にせずに、私を見る。
「ダメ?」
ダメなんて言わせない。絶対に。
私は舞美ちゃんの答えを聞く前に、そっと唇を寄せた。
ゆっくりと濡れた瞳が閉じるのを見届けて、そっと唇を落とした。
それから、私はパンをちぎって舞美ちゃんの口元へ運んだ。
ずっと食べてなかったせいか、胃が受けつけないみたいで1個全部食べる事は出来なかったけれど、それでも食べてくれたことに安心した。
少しずつでいい。だから、もうこんな風にならないで欲しい。
「風邪治ってよかったねー。」
5日ぶりに仕事に来た舞美ちゃんに、みんなが安心したように笑う。
舞美ちゃんもいつものように笑う。それを見て私も笑う。
そして、いつもの普通の日々に戻った。
…というのはちょっと違う気も、する。
時々、舞美ちゃんがあの目をする時がある。それに気がつくのはもちろん私だけだ。
その時は、なんとかしてふたりきりになる。
そして、舞美ちゃんのカラダに触れた。
それだけじゃ満足出来なくて、私はTシャツを捲り上げて、胸の膨らみに歯を立てて噛み付く。
何度も噛み付いたそこは、生々しい赤い傷がたくさん付いていた。
痛いだろう、苦しげな表情でそれに耐える舞美ちゃんをいつしか感じなきゃダメになったのは、私だ。
私しか許さないというように、カラダに跡を付けなきゃダメになったのは、私だ。
今はわかる。あの時の舞美ちゃんが一緒に落ちようと言った意味を。
私は噛み付くたびにそのまま引きちぎってめちゃくちゃにしたい感情に捕らわれる。
キスをしてる間に何度も舞美ちゃんの首に手をかけた、あの衝動。
快楽と幸せの全てがその先にあるような気がする、この狂った感情。
「ねぇ、一緒に落ちようか?」
私は舞美ちゃんの首に手をかけた。
舞美ちゃんは幸せそうに笑いかける。それはひどく場違いで。
ねぇ、どうしてただお互いがお互いを好きなだけなのに、いつからこんな風になっちゃったのかな。
この先に何がある?幸せ?喜び?それとも絶望?
それを一緒に見てみたい。舞美ちゃんがそれを許すなら、ねぇ、一緒に落ちよう・・・。
最終更新:2010年11月01日 06:34