今はライブ最中だという事もあって、ダンスレッスンにも自然に気合いが入った。
勢いがなくなった、なんて言わせない。迫力に欠ける、なんて言わせない。
メンバーみんなもそうだろう。
舞美ちゃんはいつもバカみたいに大きな動きだけど、今日はいつも以上に感じられた。
近くにいることが多いせいか、時々短くなった髪の先から汗が飛んできた。
最初のうちはそれに気がつくと「ごめん、ごめんっ。」ってタオルで飛んだ汗を拭いてくれたけど、そんな事お互いに気にならないくらい最後の方は必死だった。
気がついたら、もう20時過ぎだった。
「今日はもう終わり。お疲れさま。」とマネージャーがみんなに告げて、わいわい騒ぎながらみんな控え室に戻っていく。
でも、まだ何か・・・自分の中でうまくいかないところがあって、それが気になって仕方ない。
鏡に映る自分の顔を見る。案の定、まだ少し自信なさそうな表情だ。
マネージャーに「もう少し残りたい。」って言ったら「あと1時間だけ。」って言われて、その1時間を有効に使おうと、気合い入れにまた自分の姿を鏡でみた。
その時、その後ろでドアからちょこん、を顔を出してる舞美ちゃんが見えた。
「舞美ちゃん?」
振り返って見ると、舞美ちゃんが遠慮がちに近づいてきた。
「愛理、まだやるの?」
「うん・・・ちょっと気になるとこがあって。」
そう言うと、舞美ちゃんが少し考えるような表情をして・・・そしてふわりと微笑まれる。
「じゃあ、一緒にやろう?」
舞美ちゃんはまだ引いてない汗をぬぐって、私の横に立った。
舞美ちゃんは気づいていたんだろうか。
私がうまくいかないって思ってたところは、舞美ちゃんと少しだけ絡むところだった事を。
でも、素直にそこがうまくいかないって言えなくてどうしようかなって思ったら、舞美ちゃんは「私も気になってるところあるんだけど、付き合ってくれる?」って。
頷いて、どこなのか舞美ちゃんがひとりで踊るのを見ると・・・そこはまさに私が今うまくいかないって思ってたところ。
そこは・・・舞美ちゃん、全然完璧に出来てたはずだ。
普段は鈍感で天然なのに。
そういうの、気づいてさりげなく優しいのも・・・普段通りだけど、ずるいなぁ。
そしてそれに気づいてない舞美ちゃんはやっぱり天然。
「実はそこね、私も気になってたところだったんだ。」
だからあえてそう言った。正確に言えば言わせてくれた、なんだろうけど。
舞美ちゃんはそれを聞いて、安心したように笑う。
それからふたりで黙々とそこの場面ばかり踊った。
大した難しい動きではない。だけど苦手って思ってしまうとなかなかうまくいかない。
時々、舞美ちゃんが「こうしてみたら?」とかアドバイスをくれる。私は素直に頷いて、また黙々と踊り続けた。
そして、何度も何度もやって、やっと。
うまく出来た気がした。
嬉しくて、思わず舞美ちゃんに抱きついた。
こういう時、がっしりと受け止めてくれる舞美ちゃんが、好きだ。
自分の事のように嬉しそうに笑ってくれる。よしよしって頭を撫でてくれる。
「じゃあ、そろそろ帰ろっか?」
時計を見ると、ちょうど1時間経っていた。
自然に普通に、舞美ちゃんの手が私の手を握った。
汗ばんだ手を握って、ふたりで控え室まで戻った。
今日は少し遅くなってしまったから、親に電話して迎えにきてもらう事にした。
舞美ちゃんはそれを聞いて、「じゃあ私は帰るね。」ってあっさりと帰っていった。
それを少し寂しく思ったけど、寂しく思う気持ちは心の奥に閉まう。
まだ親が来るまで時間があったから、なんとなくボーっとしながら窓の前に立って空を眺めてみた。
めずらしく、星がたくさん見えた。
それが嬉しくて星の数を数えていたら、突然大きな音を立てて控え室のドアが開いた。
びっくりして声も出なくて振り返ると、そこには舞美ちゃんがいた。
「愛理っ!」
「ど・・・どうしたの?」
ひどく焦っている様子の舞美ちゃんに驚いてぼーぜんと見ていると、舞美ちゃんは私のそばに来てさっき私がしてたみたいに空を見上げた。
「・・・よかったぁ。」
「えっ?」
「なんか今日は星がたくさん見えて・・・綺麗だったから。愛理に見せたくって。東京でこんなに見えるのめずらしいよね。」
そんな事を私に言う為に、ここに戻ってきたというのか。
メールや電話ですぐ伝えられるっていうのに。
疲れてるのにきっと全速力で走ってきたんだろう。
少しだけ上がっている息と、また流れ出してる汗。
「一緒に見れてよかったぁ。」
舞美ちゃんがホッとしたように笑う。
もしかして、一緒に見たくて・・・こうして戻って来てくれたの?
きっと・・・そう、なんだよね。
舞美ちゃんが視線を空に戻したから、私も空に戻す。
そしたら、視線はそのままで舞美ちゃんは私の肩に手を回した。
そして、ぎゅうっと引き寄せられた。
「今日の愛理、すごい頑張ってたね。今日の星は綺麗だけど、さっきの愛理の方が綺麗に輝いてたよ。」
なんて・・・突然歯が浮くような台詞をさらりと言って、舞美ちゃんは私の顔をしっかりと見る。
他の誰かがこんな事言ったら絶対引くか笑うかしちゃうけど・・・それを言っちゃう舞美ちゃんらしさが、好きだなぁって思う。
でもこの台詞にはきっと、私に自信を持って欲しいって意味も含まれていて。
遠まわしに元気だして、って言ってくれてるんだと思うと、嬉しいのと恥ずかしいのとで、心が大きく跳ねた。
自分の顔がどんどん熱くなっていく。
ねぇ、舞美ちゃん、どうしてくれるの?
「もうっ!」
恥ずかしくって、それを誤魔化すみたいにちょっと力が入りすぎなカンジで舞美ちゃんを叩いた。
「え!?私なんか悪いこと言った!?」
舞美ちゃんが焦ったように「何で?何で?」って。
ホントに、そういうところ大好き。天然すぎて困っちゃう時もあるけど、こうして真っ直ぐで純粋なところ、すごく好き。
「ね、もう1度、言って?」
そう言うと、急に恥ずかしくなったのか私から顔を逸らして・・・そしてまた星を見上げた。
私も同じように星を見上げた。
「今日の愛理は、星より輝いてたよ。」
そして、また言ってくれるところも、たまらなく、好き。
お互い照れて顔も耳も真っ赤だったけど、お互い様だったから気にならなかった。
舞美ちゃんの腕の中にしっかり入り込むと、自然に回してくれる腕の強さが愛おしい。
誰にでもそんな台詞言わないでね。
そう言う変わりに、舞美ちゃんの唇に唇を寄せた。
触れるだけの感触に、たくさんの想いを乗せて。
最終更新:2010年04月16日 21:13