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昨日は、愛理に会えなかった。
今日も、愛理に会えなかった。
明日も、きっと会えない。


今年の夏は愛理の顔を見られる日にちが少なく感じる。

去年の今ごろはもう夏秋ツアーが始まっていて、毎日飽きるくらい朝から晩まで顔を合わせていた。
一昨年だって、さらにその前だって。
ハワイに行ったり、バスに乗って全国を回っていたのがついこの間のよう。

お仕事だもん、仕方ないよ。

そんなとき、ふたりをつなぐのは携帯電話。
メールしたり、写メもらったり、時間をみて電話したり、
あとは愛理のブログを何度も読み返してこっそりコメントしてみたり。

でも、その携帯は今――。


『ちょっと、みぃたん話聞いてる!?』

「ふぇ?」

なっきぃとの通話で大忙し。

『やっぱりまた聞いてない!! 最近こういうの多いよ』

「あー、ごめんごめん」

『夏バテ?』

「夏休みボケかも」

もう学生さんじゃないけどね。

なっきぃは名古屋での新曲キャンペーンのために遠征していて、今夜は明日行われるイベントのために大阪にお泊まり。
愛理も昨日名古屋で行われたBuono!ライブが終わったあと現地に留まり、なっきぃと一緒に明日までお仕事。

今までだったら地方キャンペーンといったらわたしとなっきぃというケースが多かったのに、
それぞれのお仕事の都合で今回はなっきぃと愛理が選抜された。

「愛理は元気?」

『元気も何も。よく食べてるから大丈夫じゃない。おいしそうに手羽先食べまくってたよ。
あんなに食べても太らないのがすごいよねー。それに比べてあたしは夏バテ気味なのか――』

「そっか、よかった」

『…………』

ご飯が食べられるうちは愛理は元気だもん。
心配することないよね。

心配してるんじゃなくて、単にわたしが寂しいだけかもしれない。

「あれ、今日は愛理と同室?」

『んぁ!?』

「どうしたの不機嫌そうな声だして?」

『別に! そうだけど!』

「もう……寝ちゃった?」


『さっきまでシャワー浴びてたけど……あれ、いない。どこ行ったんだろ?
マネージャーさんのところかな? ちょっと見てくるから、じゃあね!』


……切られた。
いや、それはもうどうでもよくて、愛理!!
どこ行ったんだろう?

高1になって大人っぽくなったとはいえ、まだまだフワフワしてる。
そこがたまらなくかわいいんだけど、同時に危うくもあって――。

じっとしていられなくなって、意味もなく部屋を歩き回る。
ぐるぐるぐるぐる、目がまわりそうなくらい。

そんな慌ててるわたしの元にメールが届いた。


[ 電話しても大丈夫? ]


たまらずにこちらから電話をかける。


「もしもし、愛理!? いまどこにいるの」

『ん? ホテルの1階のロビーだよ』

「もう、勝手に出歩いちゃダメだよ。
夜になったら、ちゃんとドアに鍵して、出歩いちゃダメってマネージャーさんに何度も注意されてるじゃない」

『……ごめん』

「あ……こっちこそごめん」

注意したいから電話かけたわけじゃないのに。

「でさ、なんで1階のロビーなんかにいるの?」

『舞美ちゃんに……電話したかったから』

「電話くらい部屋でもできるじゃない」

『できるんだけど、できない』

「え? どういう意味?」

『……舞美ちゃんのバカ! もういい、部屋に戻る!』


今度は愛理に電話を切られた。
放心状態で携帯を眺める。

部屋でも電話できるのに、わざわざ1階ロビーまで降りてきて電話……?
どういうことだろう。

あ、着信。

『舞美ちゃんの……バカ』

「ごめん」

よくわからないけれど謝ってみた。

『鈍感』

「よく言われる」

『……私もだけど』

「そうなんだ」

電話越しの愛理がやっと笑ってくれて心が安らいだ。
やっぱり愛理との電話は元気の源。
もちろん、会えるのが一番だけど。


『名古屋と大阪のお土産たくさん持って帰るから待っててね』

「わかった、楽しみにしてる。次に会えるのは金曜日のレッスン?」

『そうだね。明日は帰ってくるのが遅くなるから会うのはちょっと無理かも』

遅くなるんだ。
……でも、遅くってもさ。

「駅に迎えに行っちゃ……ダメ?」

『え? 駅に』

「うん」

『ほんとに遅くなるし、渡すだけになってゆっくりお話しする時間ないかもしれないよ?
いいの?』

「うん」

愛理に3日も会えないなんて耐えられないから。
次の日の朝には会えると分かっていても、前の日の夜に会いたい。
顔見たいし、少しでもいいから生の声が聞きたい。
こうやって電話越しじゃなくて。


『……ありがとう、舞美ちゃん』

「楽しみにしてるね。明日のイベント、たのばってきて!」

『うん、たのばってくる!! あ、ホントに部屋に戻らないと。なっきぃにお説教されちゃう。じゃあ、おやすみね』

「おやすみ」


通話を終えると、待ち受け画面に登録してあるオリジナルの愛理待ち受けが出てくる。
世界で1枚の、わたしだけの愛理。

「あ、やばっ」

待ち受け画面に唇の跡をつけてしまったので、あわててティッシュで画面を拭く。

すると、拭いている最中にまた着信だ。
今夜のわたしの携帯はやけに忙しい。


「どうしたの、なっきぃ♪」

『そんな楽しそうに「どうしたの♪」じゃないよみぃたん!! 
マネージャーさんのところにいないし、電話も繋がらないからこれから手分けして探さ……あ、帰ってきた』

「よかった♪」

『……さてはみぃたん、愛理の居場所知ってたでしょ』

「え、なんのこと?」

『もういい、寝るから』

「うん、おやすみ。あ、なっきぃ、明日のイベントたのばってきて!!」

『あー、はいはい、おやすみなさいませー。ん、愛理、電話に出たい? あ、はい代わるねー』

なっきぃずいぶん投げやりじゃない?


『舞美ちゃん?』

「おかえり」

『へへー、ただいま。じゃあ、おやすみね』

「おやすみー」

『……ちょっ愛理! 勝手に人の電話を切ら――』

通話終了。
会えないのは寂しいけれど、たまには会えないのもいいかな?


「あ、やばっ」

待ち画面にまたつけてしまった唇のあとを拭きながら、つい笑みがこぼれてしまうのを我慢できなかった。



(おしまい)
最終更新:2010年11月01日 07:58