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「今日は遅くまでお疲れ様でした、また明日」
「お疲れ様でした」

地方でのイベントの後、主催TV局の偉い方との食事を済ませて、
ホテルに戻って、鈴木さんの部屋の前で挨拶をして別れる。
別れるといっても、私の部屋は隣なのだけれど。

部屋に入って電気を点け、手帳を机に置いてすぐにノックの音が聞こえる。
相手はわかっているから、ドアスコープすら覗かずにドアを開ける。
「入っていいですか?」」
「どうぞ」
手刀を切るような変な仕草をしながら私の前を通る姿がかわいらしい。

「どうしたんですか、鈴木さん」と尋ねると、
「愛理だよ」と訂正された。どうやら、恋人モードで来たらしい。
「どうしたの、愛・・」
言い直す言葉も終わらない内に腕を引っ張られる。
「え? ちょっと!?」
いとも簡単にベッドに押し倒されて上に乗られた。

「舞美ちゃん、ほんとヤバイってその服」
「は?」
なにが? なんのことか全く分からない。
「そのかっこ見てると、ムラムラする」
「なっ!」
愛理は普段はとても綺麗な言葉遣いをするけれど、
私といる時、それもこういう少し“大人”の雰囲気になると、
私でも言うのが憚られるようなことをサラっと口にすることがある。
敬語などは意識しなくてもきちんと使えるみたいだし、
状況に応じて、計算して言葉を選ぶのもお手の物の子だから、
きっとそういう言葉も、私を恥ずかしがらせるためにわざと遣っているんだと思う。

「なに言ってるの。愛理の衣装の方がよっぽど際どいじゃない!」
「私のは衣装だもん。その時だけじゃん。
 でも、舞美ちゃんはずっとそれでしょ?
 私、ずっと誘われてるようなもんなんだから」
言いながら既に右手は私の太ももを撫でている。
「誘ってないから! 」
「このタイトスカートなんて、触ってって言ってるようなもんだよ」
手はゆっくりとだけど、確実に内側に上にと移動してきている。
「言ってないよ! これは私の仕事着だし!」

聞いているのかいないのか。
いや、もちろん聞いているんだろうけど、完全に無視を決め込んで、
黙って私を見下ろしながら、手を動かし続ける。

この目、私の上にいる時だけの猛禽類のような目に、私は弱い。
正視できなくなって顔を背ける。
猛禽類の爪は鋭い。
今私を撫でている愛理の手とは似ても似つかぬものだけれど、
私の自制心を引き裂くのだから、やはりこういう時の愛理はその種族だと思う。

「愛理・・・服が皺になる・・・」
「アイロン借りればいいじゃん」
弱い異議申し立ては一刀両断のもとに却下される。
裁判長は、いつも愛理だ。

ホテルってアイロンを貸してくれただろうか? ズボンプレッサーを貸してくれるのは知っているけれど。
こう考えた時点で私の敗訴はもう決まっているよね、そう思った瞬間、
いきなり愛理が下着とストッキングの上から擦り始めて、思わず声を上げてしまう。
それで本火が点いたのだろう、愛理は私に覆いかぶさり、耳を舐めながら本格的に手を動かし始めた。

乱暴なほど強い刺激に一気に昂まってくる。
耳元で聞こえる激しい呼吸に、愛理も同じだと知ったら呪縛が完全に解けたのに、
背中に回した腕の力を強くして快楽に溺れようとした矢先、愛理の右手がそこから離れた。

また焦らすの? 今だけはやめて欲しい、そう思っていたら、
スカートからシャツを引っ張り出して半ば強引にたくし上げられた。
ブラも、ホックすら外さないままずらされて、予告なく胸を口に含まれる。
愛理も急いているようだった。

舌で中心を転がしながら、右手を戻す。
欲求が口をつきそうになるけれど、堪える。
そんな私の欲望を感じ取ってくれたのか自分のそれに従ったのか、
愛理がストッキングのウエスト付近に手をかけるから、すぐに腰を浮かせる。
恥らう余裕はなかった。
愛理にも、ちゃんと脱がす余裕はなかったらしい。
下着もろとも、それも膝上の中途半端な位置まで下ろしただけで、私の中に入ってくる。

我を忘れて体を揺らした。
動いているのが愛理なのか自分なのか分からなかった。
耳元に頭を戻して愛理が何度も私の名を呼ぶ。
それに答えたかったけれど、呼吸するだけでも苦しい。
「あっ、あっ・・」という音しか出ない。
それが「愛理」の「あ」なのか、単に嬌声なのかなんてわかるはずもなかった。

文字通り、「あ」っと言う間だった。

「すごかったね」
先に呼吸を整えた愛理が、さっきまでとは別人のような穏やかな顔で微笑む。
「めっちゃ早かった」
指摘されて赤面する。
そんなことは、言われなくても自分が一番よく分かっている。
…これも計算して言ってるんだろうけれど。

「でもこれでちょっとスッキリした」
まだ言葉が出せる状態じゃないから、首をかしげて先を促す。
「ずっとね、舞美ちゃんのスーツ姿見るたびにドキドキしてたの。
 隣に座ってる時とか、スカートの裾から手を入れたいなーなんて思ったりして」
「・・愛理、変態・・?」
まだ少し乱れた息で訊く。
「好きな人にはね」
なんの悪びれた様子もなく言い切られて苦笑して、ふと思い返す。

「え? 「ちょっと」って言った? まだちょっとしかスッキリしてないの?」
「だって、これからもその服装でしょ? ずっとムラムラすると思うよ?」
当然じゃん? みたいな言い方。
こんな軽妙に、なんという会話をしているのだろう。
お父さんが聞いたら卒倒ものだ。可愛い娘のこんな面、絶対に知らないはずだから。
知ったら“右手だけピース”なんてしてる場合じゃない。

「だから、愛理の方がよっぽどヤバイって。
 その時だけにしてもさ、『キャンパスライフ』の衣装とか短すぎだよ。
 ジャケットとか、「そこ見てください」みたいな撮りだし」
「そこ?」
「あ・・」
「どこ?」
訊いてはいるけれど、絶対に分かっているはずだ。
「あ、いや・・・」
「見てたんだ?」
質問は変えてくれたけれど、答えが分かっているであろうことは同じだ。
返事に困るけれど、沈黙は肯定だ。
愛理がイジワルそうに微笑んで言う。
「舞美ちゃん、変態?」
「好きな人にはね」
即答する。
予想外の反応だったみたいで、愛理が少し驚いた顔で見る。
1・2秒見詰め合って、同時に吹き出した。

愛理がぎゅっと抱きついて言う。
「舞美ちゃん?」
「ん?」
「大好き」
「ん、私も好きだよ」

体を離して、キスをしてくる。
そのまま唇が首筋を伝おうとするから慌てて肩を押す。
「ま、待って!」
「なに?」
「なにって、服が皺になるって」
「もういいじゃん、今更」
いや、そういう問題じゃない。
でも、普通に異議を申し立てても、また即却下だ。
少し恥ずかしいけれど、すごく恥ずかしいけれど、恩赦を求める。

「あ、のさ・・」
「なに?」
「ちゃんとシャワー浴びてさ、服脱いで、しよ?」

不服そうな顔を一転させた愛理が、「認めます」というように満足げに微笑んだ。

控訴審開始まで、しばし休廷。
最終更新:2010年05月19日 22:11