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明かりはついたままだ。
一度、消してくれと頼んだことがあったけれど、舞美ちゃんのことを見ていたいから、と頼まれて、嫌とは言えなかった。
私は愛理のお願いを断れない。
どうしても叶えられない一つのこと以外は、何でも叶えてあげる。

愛理の唇が首筋に触れる。
くすぐったがり屋の私は、その感触だけで身体が震えそうになった。
愛理に触れられるだけで、声が出そうになる。

「舞美ちゃん」

いつの間にこんな色っぽい声を出すようになったのか、艶のある声で呼ばれる。
ん、と声のような、そうじゃないような声で答えると、耳を囓られた。
もう一度名前を呼ばれて、耳に息が吹きかかって、私はくすぐったくて肩をすくめた。

ベッドの上。
私達は何度したかわからないキスをする。

脱がされた服と下着はベッドの下に投げ捨てられている。
横たわった私の上には愛理がいて、時々、長い髪が私の肌をくすぐる。

こんなことをしているから思うわけではないけれど、愛理は随分と大人になった。
私のことを王子様なんてふざけて言っていた頃の面影がまだ残っているけれど、もう子供とは言えない。
身長も、私を追い越すんじゃないかってぐらい伸びた。
愛理は、私の知らない間に大人になっていた。
お互いの距離が近すぎて、私は変わっていく愛理に気がつけなかった。

愛理のことを知っているようで知らなかった私は、愛理がいつから私のことを好きだったのか知らない。
愛理を追いかけていったあの階段で、初めて知った。
そして、あの日、もう一つ知ったことがある。

首筋に触れた愛理の唇の感触。

私はきっと一生忘れないと思う。
柔らかくて、熱くて、くらくらした。
ほんの一瞬のことだったけれど、とても印象的な出来事だった。

愛理がまた首筋にキスを落とす。
くすぐったいけれど、この感触は嫌いじゃない。
初めて愛理が唇で触れた場所が、首筋だったことも関係しているかもしれない。

首筋に押しつけられた唇が下へと向かう。
小さな音を立てて、鎖骨に吸い付く。
でも、跡が残るほどではない。
意識的にしているのか、無意識なのかは知らない。
愛理は絶対に跡を残さない。

仕事のことを考えれば、当然だとは思う。
だけど、私は別に跡をつけられたってかまわない。
愛理に言うつもりはないけれど。

愛理の手が腰を撫でる。
さわさわと触れる手がくすぐったい。
我慢できなくて愛理の手から逃げようとするけれど、許してくれない。
私の肩を押さえ、腰を捕まえる。
そして、胸に唇を押しつけた。

愛理は手で触れるより唇で触れるほうが好きなのか、身体中に唇を這わせる。
胸に何度もキスをして、先端をぺろりと舐める。
唇でそこを挟み込まれて、思わず声が出そうになる。

私は出そうになった声を噛み殺す。
お互い、あまり声は出さない。
愛理はたまに私の名前を呼ぶくらいだし、私はそれに答えたり、答えなかったりする。

私が声を出さないようにしているのには理由がある。
一度、愛理に向かって「やめて」と言ってしまったことがあった。
本当にやめて欲しくて言ったわけではない。
気持ちが良すぎて耐えきれなくなって、思わず口にしてしまった言葉だ。
けれど、愛理は泣きそうな顔をして私を見ていた。
ただでさえ愛理は苦しんでいるから、こんな時にまでそんな顔は見たくない。

それから私は、声を出さないようにしている。
声を出せば、何を言ってしまうかわからない。
愛理の唇や手によって、私は自分が考えている以上に乱れる。

私が声を出しても出さなくても、愛理の唇や手は止まらない。
胸の先端を弄んでいた唇は、その下へ向かう。
鎖骨の上を唇が這い、噛みつかれる。
立てられた歯に身体が反る。

愛理が唇を肋骨からお腹へ滑らせる。
お臍をぺろりと舐めて、脇腹に舌を這わせる。
脇に向かって舐めあげられて、呼吸が乱れた。
私は愛理にしがみつく。

服を着ていたり、いなかったり。
今日はパジャマを着ていた。
直接愛理に触れたくて、裾をめくって、背中に触れる。
汗をかいているのか、手が湿る。
背中はとても熱かった。
するりと撫でると愛理の口から吐息が漏れた。
もっと撫でると、はっきりとした声が聞こえた。

「舞美ちゃん」

悪戯をした手は捕まえられて、ベッドへ張り付けられた。
お返しとばかりに、愛理が胸の先端を口に含む。
舌先を強く押し当てられ、歯も立てられた。
鋭い刺激に声が漏れる。

「んっ」

舌先が執拗に突起にからみつく。
私は声を殺すだけで精一杯になる。

与えられる刺激に、呼吸が乱れていく。
息苦しい。
ベッドへ張り付けられた手を動かそうとすると、愛理の唇と手が離れた。

お腹にキスをして、腰骨にキスをして。
さらに下へ。
太ももにキスをして、膝にキスをして。

愛理の手が足を掴んだ。
知らずに身体に力が入る。
でも、それ以上に愛理の手に力が入って、足を開かされる。

何度こういうことをしても、この瞬間は少し緊張する。
開かれたそこが愛理の目に触れることが、これから唇で触れられることが、恥ずかしい。
それでも、私は愛理がすることを受け入れる。

私は愛理が一番欲しいものを知っているけれど、それはあげられない。
だからかわりに、愛理が望むこと全てを叶えてあげたいと思う。
一番望んでいること以外、全部叶えてあげたい。
と言っても、今からされることは、恥ずかしくても私が望んでいることでもあった。

開かれた足の間に唇が触れる。

反射的に足を閉じようとしてしまう。
膝を掴まれて、無理矢理開かされる。

舌先が触れる。
愛理の熱と私の熱が混ざり合う。
私は唇を噛んだ。

愛理は知らない。
私が愛理の気持ちを利用していることを。

親の言うことをよく聞いて、真面目に、誰にでも優しく。
私はそういう子供だった。
一言で言えば優等生。
それは、愛理の気持ちを知るまで本当の自分だった。
でも、今はそんな自分を利用している。

愛理は私のことをとても信頼している。
私の言葉は全部本当で、嘘なんかないと思っている。
だから、愛理は私の言葉の本当の意味に気が付かない。
私は愛理が思っているほど優しくなくて、愛理が考えている以上に狡かった。

優しくすれば、愛理が逃げていかないことを知っている。
愛理は私なんかよりもずっと優しいから、私から逃げられない。

優しくすればするほど、愛理が苦しむと知っている。
愛理が欲しい言葉だって知っている。

なのに、私は愛理に優しくして、愛理が望んでいる言葉に似た言葉を口にする。
何も知らないふりをして、好きだよと繰り返す。
私よりもよっぽど優しい愛理は、それだけで私から逃げられなくなる。

やり場のない手を伸ばす。
愛理の髪に触れる。
愛理の舌がぺたりと押しつけられる。

溢れ出る液体が身体を汚して気持ちが悪い。
それを舐め取る舌が気持ちいい。
気持ちが悪いのと、良いのがごっちゃになる。

声を無理矢理抑える。
でも、乱れる呼吸を整えることは出来ない。

浅く、浅く。
息苦しさを何とかしようとして、息を吸い込む。
愛理の舌が強く触れて、その息が止まる。

一番気持ちの良いところを舐めあげられる。
押しつけられた舌先が震える。
気持ちが良すぎて、愛理の髪を掴む。
身体が強ばって、息が上手く吐き出せない。
頭の中が愛理でいっぱいになる。

愛理、愛理、愛理。
もっとして。

気持ちが良くて、声が抑えられなくなる。

「あ、いりっ」

身体が終わりを目指して、上り詰めていく。
もう、耐えられそうになかった。

始まったものは、こうしていつか終わる。
でも、始まらなければ終わらない。



私は疲れて丸くなった愛理を抱きしめる。
愛理はいつも私の胸の中で、その日あったことや、会えない間にあったことを話しながら寝てしまう。
今日もひとしきり話すと、眠ってしまったのか寝息が聞こえてきた。

「愛理?」

呼びかけても、返事はない。
私は、そっと何百回目かのキスをした。

きっと愛理は知らない。
私は、いつも愛理が眠るのを待って、愛理に口づけてきた。
それは、愛理の背がこんなにも伸びる前から続いている行為だった。

腕の中の愛理をぎゅっと抱きしめる。
愛理が「んー」とも「うー」ともつかない声を上げた。
髪を撫でて、背中をとんとんと軽く叩くと、すぐにまた寝息が聞こえてくる。

部屋の明かりは消されていて、真っ暗だ。
それでも、近くにあるものは見える。
私は腕の中の愛理を見る。
寝顔は子供の頃のままで、無邪気で可愛かった。
最近は泣き出すようなことはないけれど、起きているときは、苦しそうな顔や悲しそうな顔をしていることも多い。
そういう顔をさせているのが、私だということは知っている。

でも私は、愛理がどんなに辛くても、こうして愛理のことを抱きしめていたい。
出来ることなら、ずっと腕の中に閉じこめておきたい。
私はそれぐらい愛理のことが好きだった。

愛理、知ってる?
始まらなければ終わらないんだよ。

愛理が始めたがっているのは知っている。
始まりの言葉を欲しがっていると知っている。
だけど、私は愛理が一番欲しいと思っているものは絶対にあげない。
それをあげたら、始まってしまうから。

始まったものはいつか終わらなくてはいけなくて、それは愛理が私を嫌いになることだろうから、私はそれが怖かった。
そんなことになるぐらいなら、始まらない方がいい。

私は愛理が好きで。
愛理も私が好きで。

それだけでいい。
それだけなら、ずっと終わらないままいられる。

だから、愛理。
始まらないまま、ずっとこうして側にいて。
最終更新:2010年02月15日 20:14