御剣怜侍が狩魔冥に想いを告げてからしばらく――
なんといっても二人は住んでいる場所が日本とアメリカと離れていたし、仕事も忙しいわけであるから返事は急がない、いつまでも待っているといったものの、さすがにひと月を過ぎたあたりから、御剣は気が気ではなくなってきた。
もともとプライベートで連絡をとりあうようなことはしてこなかったし、冥が来日するときはいつも予告はなく突然のことであった。しかも待っていると言ってしまった手前、こちらから返事をくれと急かすわけにもいかない。
そして時間が経つにつれて御剣の中で嫌な予感ばかりが膨れ上がった。
冥は父親の狩魔豪と同じく、短期間で白黒つけたがる性分である。そんな彼女がまったく返事をしてこないとなると、よほど悩んでいるのではないかと御剣は考えてしまうのである。
時間さえあれば携帯を握り締めてため息をつく日々――糸鋸圭介が何度か故障っスかと尋ねてきたので、そのたびにキミには関係がないと御剣は怒鳴った。
それからさらに数日。
会議が終わって携帯を見ると、冥からメールが来ていた。
思わず動揺して後ずさる。何かあったのかと尋ねる同僚になんでもないと首を振り、急いで執務室に戻った。
意味も無いのに扉に鍵をかけて、メールを見る。
来週、日本へ行く。
ただそれだけの短いメール。
自分に送ってきたということは会うつもりはあるのだろうと御剣は心を躍らせたが、はたと我にかえる。
来週とは何曜日のことだ? 時間は? 何日いるのか? そもそもちゃんと会えるのか? 本当に返事は聞かせてもらえるのか?
御剣は執務室を熊のように歩き回る。頭を抱えて迷いに迷ってから、返事を送った。
二人で食事に行く時間はあるだろうか?
送信ボタンを押してから、焦りが透けて見えるようなメールになったかもしれないと、御剣はまたまた頭を抱えて今度はソファに沈み込んだ。
予想に反して、返信はすぐにきた。
金曜の夜なら。
御剣は反射的にカレンダーを見た――今日はまだ水曜である。
長い一週間になりそうだと苦笑しながら、店を予約しておくと再度返信した。
金曜に会うつもりでいた御剣は、月曜に検事局で冥の姿を見かけたとき、心臓がとびでるかと思った。
大きな事件を追っているのだろうか、何人もの人に囲まれて歩きながら会話をしている。
冥も御剣に気づいて、高飛車な笑みを浮かべて会釈をしてきた。
呼んでくれれば空港から送迎したのに――御剣は多少恨みがましく思いながら会釈を返す。
それから金曜まで、御剣と冥はすれ違うことさえしなかった。
御剣は何度か連絡をとろうとしたのだが忙しいかと思いなおしてやめるという、携帯を手にとったり机に置いたりする動作を繰り返した。それを見た糸鋸が水飲み鳥みたいっスねと言ってきたので、仕事に戻れと御剣は怒鳴った。
おちつかない一週間が過ぎて、金曜の夜。
約束の時間よりやや早いものの、エンジンを温めておこうと御剣は駐車場へ向かった。その途中で冥の後ろ姿を見かける――何名かが一緒のようだ。
「一週間お疲れ様でした、狩魔検事。このあと食事でもどうですか?」
御剣の心臓がはねる。
冥は仕事の人間関係を非常に大事にしていた。以前も何度かそれを優先されて、御剣の誘いを断られたことがある。そういったことが大切であることは御剣も承知していたので、そのときは何も思わなかったが、今日だけはやめてくれと必死に祈る。
祈りが届いたのかそうでないのか、冥は残念そうな口調で応える。
「ごめんなさい、先約があるの。また今度」
「そうですか、残念です。ではまた月曜に」
そのやりとりに御剣は胸をなでおろす。
冥が仕事仲間たちと別れて一人になったのを見計らって、声をかけた。
「メイ」
「あら、いたの。御剣怜侍」
花が咲いたかのように笑う冥の顔を見て、御剣は動揺する。
惚れた欲目もあるだろうが、以前からこんなに綺麗に笑う娘だったろうか?
立ち止まったまま動かない御剣を冥が気短にせっつく。
気のおけない相手だからなのか、冥は『狩魔検事』の仮面を手放したようだ。年相応でわがままな少女の顔が出てくる。
そんな顔が見られるのは自分だけなのだという少し誇らしい気持ちと、これでは昔のまま――兄妹弟子であったり競争相手であったり――なのではないかという不安が御剣の胸の中で交じり合う。
そんな胸中を推し量ることもなく、冥は御剣の腕に自分の腕を絡ませた。
食事をしている最中も、冥の態度は昔と変わらない。
それが答えなのかもしれないと御剣は思う。
昔と変わらず、兄妹弟子で競争相手であること――冥からそれを求められているのだと御剣は思う。
小さくはない落胆がのしかかってきたが、ここで顔や態度に出せるほど御剣は子供ではなかった。
食事が終わって、冥をホテルまで送ろうと車に乗り込む。
シートベルトをする前に、冥が小さく言った。
「あれの返事を、していなかったわ」
死刑宣告だと御剣は内心思う。以前被告人として法廷に立ったことを思い出した。
いつまで経っても口を開かない冥に、御剣は首をかしげる。
冥は少し顔を赤くし、唇を尖らせてそっぽを向いた。
「私も、アナタが――」
その言葉を聴いた瞬間、冥がすべてを言う前に御剣は体を助手席に乗り出して、さらに彼女の体を引き寄せて唇を奪っていた。
御剣の強引さに驚いたのか冥はわずかに抵抗をしたが、くちづけを繰り返すうちに体から力を抜いていく。
しばらくやわらかな感触を楽しんだあと、御剣は冥の顔を覗き込む。
いつもの視線の鋭さをなくして、頬を上気させたとろけた表情を覗かせる冥に、言葉にできない情動が御剣の体をかけめぐる。
「バ、バカ! こんな、人に見られるかもしれないところで……!」
いつもならば突き刺さるような声音で言う言葉も、上ずってかすれた甘い声で言われては、愛しさしか感じない。
「見られなければいいのか?」
御剣が冥の耳元でささやくと、バカと呟かれた。
冥もそれなりの覚悟をしてきたのだろうと踏んだ御剣は、冥のホテルではなく自宅へと車を走らせる。彼女はすっかり無口になってしまって、車の中はエンジンとタイヤが伝える道の形の音だけが支配していた。
覚悟はしてきたのだろうが、戸惑いはまだ残っているらしく、駐車場から御剣の家に行き、玄関をくぐってリビングまで進んで冥の足は止まる。
何度か家に来たことはあるので、寝室の場所は知っているはすだが――
「シャワーを貸して欲しいの」
冥らしからぬ小さく震える声に、御剣は体の一箇所に血が集まったかのような錯覚を覚える。
一緒に入るかと聞いたら全否定をされた。
苦笑しながらバスローブを用意し、冥と入れ替わりに自分も入る。
浴室から出るとリビングに冥の姿はなく、寝室のベッドの上で座っていた。極度に緊張しているらしく、肩があがっている。
冥はバスローブ姿ではなかった。さすがにストッキングははいていないようだが、きっちりと着替えている彼女に御剣は思わす笑みをもらす。
「なによ」
顔を赤くして、上目遣いで冥は御剣をにらむ。
「いや」
何かを言い返そうとする冥の唇をふさぐ――今度は深く。冥の両手が御剣の肩を押したがそれは一瞬のことで、抵抗をやめてからは御剣のバスローブをきつく握りしめるだけだった。
時間をかけてくちづけを繰り返すと、しだいに冥の体から力がぬけていく。服の上から胸を触ると、冥の体が反応を示した。
ブラウスのボタンをはずし、すべりおとすと華奢な肩が露になる。恥ずかしいと身をよじる冥を御剣は押し倒し、首と耳朶と鎖骨を丁寧にゆっくり唇でたどった。
冥の体がもどかしそうにゆれる。
下着の上から胸を触ると冥は熱い吐息を漏らした。
乳首のあたりを擦ると冥は小さく声を上げる。何度も繰り返すうちに耐え切れなくなったのか声が大きくなり、その情欲を誘うような音に耐えられなくなって、御剣は冥の下着をはずして口に含んだ。
「あっ、レイジ……!」
こんなにも甘い声で名前を呼ばれたのは初めてで、御剣の中でなにかスイッチが入った。
冥の胸から顔を上げた御剣は、性急にくちづけをする。冥の手を自分の首にまわさせて、何度もくちづけを繰り返した。
冥は抵抗しない。
再び胸に唇をよせると、冥は声をあげて手に力を入れた。
本人は意図していないのだろうが、まるで引き寄せているようで、御剣は求められているような錯覚を覚える。
もっと求められたい。
わずかに甘噛みをすると、冥の腰が浮いた。
御剣はそのままスカートをはぎとって、下半身に手を伸ばす。
下着の上からもわかるほどそこはとろけていて、ゆっくりとなでると冥は嬌声を上げた。
「レイジ、レイジ……ッ」
びくびくと体を跳ねさせて、冥は必死に御剣にしがみつく。
そのあまりの必死さがいとおしくて、下着をずらして『そこ』に直接触れる。熱い蜜が御剣の指に絡みついた。
指でわずかに上下させただけで、いやらしい音が聞こえてくる。
そしてぽつりと出てきたものをそっとなでると、冥が今までにない反応を示した。
「あ、だめっ」
羞恥で顔を赤くして首を横にふる冥は、ある種の嗜虐心を誘う。
いつもは女王然として乱れることのない彼女が、こうやって腕の中で悶えることしかできずにいる――潤んだ目は御剣しか見ていない。そのことに御剣はとてつもない満足感を覚えた。
最後の服をはぎとって、冥を生まれたままの姿にする。
御剣が与えた快楽に溺れかけている冥の表情と体は、普段の彼女からはまったく想像ができないほど、みだらで可愛らしかった。
蜜があふれるそこを舌で這わせると、冥は背中を大きくそらせる。
ふくらんだところを舐め転がし、時折吸うと蜜があふれてきた。そこは何かを待っているように熱くやわらかくなっていて、御剣は埋め込むように指を入れる。
「は……んっ」
与えられた別の快楽に、冥は体を震わせる――もう何をされているのかわかっていないのかもしれない。ゆっくりと中をかきまぜて何度も角度を変えて丹念にすりあげると、あるポイントで激しい反応を見せた。
「あっ、そこ……ああッ!」
冥の手が御剣の頭をつかむ。
しかし御剣は指も口も休めずに、彼女が反応するところをいじりつづけた。
「あっ……あ、あああああッ!」
粘膜が御剣の指を圧迫し、舐めきれない蜜が顎に滴った。
メイは体を大きく跳ねさせたあと、脱力した。
顔を覗くと、冥は目を閉じて荒い息を繰り返している。
「ん……」
御剣が冥のまぶたと頬にくちづけをすると、彼女から首に手をまわしてくる。
力の入らない手が御剣の首の骨をゆるやかにたどってくすぐったい。その感触に満足した御剣はのどの奥で笑った。
激しいものではなく、優しいくちづけに疑問をもった冥は目をあける。
御剣の顔は穏やかで、さきほどまで情事をしていた表情には見えない。
「疲れただろう、このまま寝るといい」
このままというのは裸のままということだろうか。そういう疑問もあるが、それ以上のものもあった。
「終わっていないのに……?」
男性経験がない冥とはいえ、さすがにセックスの知識はある。
ぼんやりとした頭のまま、御剣はまだ終わっていないはずであることを考えた。
冥からそう言われて、御剣は顔を赤くして目をそらす。
その様子を見て、冥は自分が何をいったのかを自覚して毛を逆立てた。そのまま御剣から離れると、布団をかぶって丸くなる。
御剣は冥の肩あたりを布団の上からなでた。
「その、メイ。女性の、その初めては……非常に負担が大きいものだと、聞いている。だから、少しずつ慣らしてから――と思ったのだが……」
つっかえつっかえ、もごもごという御剣に冥はため息をついた。
こんなときも、自分に気を遣うのだこの男は――
「ずるいじゃない」
「?」
「……私ばっかりっていうのは、ずるいわ」
冥は御剣の顔をみないまま、抱きついた。
「レ、レイジにも、気持ちよくなってほしい……」
言外に冥は気持ちがよかったのだということがにじみ、御剣は胸をなでおろす。それと同時に彼女が言ったことに、少なからずの動揺を覚えた。
御剣自身、できることなら彼女の中に入って、なにもかもむさぼりつくしたい――そう思ってはいる。しかし相当な負担が女性側にかかることは知識としてあったし、そんなことを冥に強いたくない。
そう御剣が迷っていると、冥が業を煮やしたのか自分から唇を寄せてきた。
少し触れ合うだけのものだったが、初めて冥からしてきたキス――湧き上がった衝動を抑えることもなく、御剣は冥の体に巻きついていた布団を剥ぎ取った。
冥の体を丹念に唇でなぞって痕をつけると、さきほどよりは余裕のできた冥が痕を残さないでと甘い声で懇願した。
「誰にも見えない」
でもと弱弱しく抵抗する手を抑えて、情動が命じるままに御剣は痕を残していった。
胸をゆらすと、冥は恥ずかしそうに顔を背ける。快楽の声を押し殺そうとしているのか、目を強くとじて唇をかみ締めているが、舐め上げられるとこらえきれずに嬌声をもらした。
早く彼女が欲しい。
再び蜜がしたたるそこに指を這わすと、冥の体が反応した。
「レイジ」
キスをしてとねだる冥に応えながら、指を埋める。拒絶感はなく、まったりと締め付けてきて、奥から蜜があふれてくる。早く他のものがほしいといわれているようだった。
指を引き抜いて、固くなった己をすりあてる。冥からあふれた蜜が絡み付いてきて、それだけでも快楽が御剣の背中に走る。
「いいか?」
冥はうなずくと、御剣の背中に手を回した。
先端をうずめると、冥の体がこわばって手に力がはいる。
背中をなでて大丈夫だとなだめながら、御剣は徐々に中へ押し進んでいった。
冥は苦しそうに顔をしかめるが、痛いとも嫌だとも言わず、ただ耐えて御剣にしがみつく。
御剣の背中に爪あとが残ったが、そんなことはどうでもよくなるほど冥の中は気持ちがよかった。
絡み付いてくる熱い粘膜と、動けと誘うようにあふれてくる蜜と。
破瓜の血がシーツに落ちたが、申し訳ないと思う気持ちよりも喜びが心に満ちる。
最奥まで進むと、二人の口から同時にため息が漏れた。
「メイの中は気持ちがいい」
正直な感想を耳元でささやくと、バカという返事が返ってきた。
ゆっくりと動かすと、くぐもった声が冥ののどからもれる。
少しでも痛みを和らげたいと、御剣は触れて反応がよかったところに唇を落としていった。同時に肉の芽に触れると、冥が大きく体を反らせて泣き声をもらす。
「あ、やっ、そこは、やめて……!」
しかし触れたとたん御剣を締め付けてきたのがわかったので、本気で嫌なわけではないと判断してさらにすりあげる。
冥の体が大きく震えて、悲鳴のような声を上げた。
「レイジ、レイジッ!」
流されるがままにいる冥が、時折助けを求めるように御剣の名前を呼ぶ。普段は見せない弱弱しいその姿にあおられて、御剣はとうとう理性を手放した。
己を締め付けてくる熱と、御剣を呼ぶ冥の声――何もかもが快楽にしかならない。
御剣は自分の快楽を優先して抜き差しを繰り返し、時折最奥へ突き上げる。冥の名前をひたすら呼んで、思うように体をむさぼり、ひたすらに腰を動した。
何かを耐えるように目を閉じていた冥が、ふと目をあけると御剣にキスをしてすがりついてきた。
わきあがったいとおしさと限界を自覚して、そのまま冥の腰をかきいだき、御剣は欲望をはぜさせた。
ろくに立ち上がれなくなった冥を抱いて御剣は浴室に入る。しかしあとは大丈夫だからとたたき出されて、乱れた寝室を直しにいった。
シーツをはがして洗濯籠に放り込む。新しいシーツを敷きなおしたところで冥が浴室から出てきた。足元がおぼつかないが、なんとか自力で歩けるようである。
「大丈夫か?」
「このくらい、なんともないわ」
強がりを言ってベッドに倒れこむ冥の髪を梳くように頭をなでた。
御剣は目を細めて気持ちよさそうにしている冥の耳元に口をよせてささやく。
「ありがとう」
冥は一瞬で顔を赤くさせて、バカと言った。
「しかし何故返事を焦らした?」
メールでも何でも先に返事をくれればよかったのにと御剣はすねたような声を出す。
冥は御剣を見上げて目を細める。
「本当に待ってくれるのか知りたかったし、こういうのは直接会って言ったほうがいいのかしらって」
言う前に押し倒されてしまったけど、と冥は笑った。
御剣もつられて笑って冥を抱きしめた。
今日はいい夢を見られそうだ。
最終更新:2012年06月26日 18:09