※20×13
結論から言えば、忘れていたという事だ。
仕事から帰った御剣は、ジャケットを脱ぎながら壁の時計を見た。
一時。
今日も今日中に帰れなかったか・・・、いや正確に言うと昨日も今日中に帰れなかったか・・・、などと薄ら笑いをするのは疲れている証拠だろう。
ベルトを外しながら、ソファーに落ちるように座りこみ埋もれる。
顎を上げ眉間に皺をよせたまま軽く目を閉じれば、疲れの波の中からじわじわと欲求が湧いてきた。
それはまさに欲求。
その時の御剣には抵抗などなかった。
何も考えずに右手を下着の中に入れ、己自身を取り出す。
そして半脱ぎの下半身から外気にさらされたそれを、御剣は心ここに在らずな表情で持て遊んだ。
どうでもよい扱いを受けているのだが、そのうちにポイントを攻められいきりたつ。
御剣はぼーっとした心の中で、そろそろいくか、などと考えた時だった。
そう。忘れていたのだ。
試験に合格した冥が、今日から日本に来ていた事を。
彼女の父親は大きな公判が近いため、世話を頼まれていた事を。
彼女が御剣のマンションの合鍵を持っていた事を。
可愛いらしいピンクのパジャマを着た冥が、寝室のドアの前で立っていた。
先ほどまで寝ていたのか、髪には少し寝癖がついている。
しかし、その目はしっかりと起きており、真正面に大股を広げて座りこんでいる御剣を凝視していた。
固まる御剣の右手。
凍りつく御剣の思考。
なんということだ!
忘れていた私が悪いのは分かっているが、よりによってこんな場面を見られるとは・・・!
混乱した思考では言い訳も思いつかず、御剣はただただ、アワアワするのみ。
時も凍りついたかのような沈黙を破ったのは、冥の落ち着いた声だった。
「何を想像していたの?」
無表情で尋ねる冥に、御剣も思わず答えてしまう。
「これはだな・・・、いや何を想像というか、何も想像していないというか・・・。」
冥の気に入る答えではなかったのだろう。
眉をひそめてまた尋ねてきた。
「馬鹿にしてるの?何も想像しないでそんな事出来るわけないじゃない。・・・じゃあ質問を変えましょう。誰を想像してたの?」
御剣の方は、どのタイミングで自身の乱れを直すかをうかがうので思考の半分を使っていたため、やはり気のない返事をしてしまう。
「だからだな・・・ただの生理現象というか・・・いや、誰かを想像というのではなくて・・・。」
あまりにも的を射ない答えだったのか、冥は怒りだした。
「じゃあ、御剣怜侍は誰も何も想像しないで自慰にふけっていたっていうの!?」
「いや・・・まあ、だな。」
「ありえないわ!!」
床をダンダン踏みつけると、冥は怒りの形相で御剣に近寄ってきた。
「ま、待ちたまえ!」
あわてる御剣などおかまいなしに、冥は目の前で仁王立ち。
「もう一度聞くわ。御剣怜侍は何も誰も想像せずに自慰をしていたの?」
真剣に迫る冥。
御剣はまさに猫に睨まれた鼠だが噛むことも出来ず、寄せ集めた思考回路で冥の真意を探っていた。
黙っている御剣に、とうとう冥が爆発した。
「こんなに可愛い子がそばにいるのに、想像もしないなんてどういう事よ!!」
「・・・!?」
さらに思考回路が吹っ飛ぶ御剣。
冥は一度噴火を始めたらとどまる事も知らずに喚きたてる。
「いい?こんなに可愛い子が貴方のベッドで可愛いパジャマを着て可愛い寝顔でいるのよ!?これで興奮しないなんてどういうことなの!
そうよ!大体今まで手を出さない方がおかしいのよ!ずっと一緒に暮らしてたのに、シャワーすら覗かないなんて馬鹿にもほどがあるわ!!
しかも、ティーカップで、か、か、間接キスしても平然としてたり、雨に濡れて滴が落ちる髪を無造作にかきあげたり、ちょっとよろけた私を大きな胸板で受け止めたり、寂しい時に何も言わないで頭を撫でてくれたり・・・!
私を惑わせて手にいれようなんて考えてたんでしょう!
なんてヒレツなの!」
まだまだ止まらぬ冥の言葉に、
可愛い寝顔というのは自分では見えないだろう、とか、シャワーを覗くなと部屋に外から鍵をかけたのは他ならぬ冥だろう、とか、いつ起こった事か分からないが間接キスをよく覚えているな、とか、後半は自分がどうこうした事なのか?、
と御剣は心の中でつっこみを入れるが、冷静とはほど遠い状態である事は間違いない証拠に、下半身はまださらけだしたままだった。
とはいえ、それはすでに緊張をしておらず、ペロンと重力に従って垂れている。
まだ見当違いにわめいていた冥もそれに気付いた。
「っ!!どうしてそんなになったのよ!!!」
「あ、あのだな。どうしてもこうしても・・・。」
間接キスの言葉さえ恥じらうくせに、冥は御剣の股間を指さし最後の大爆発。
「馬鹿の馬鹿げた行動だからこんな馬鹿な結果になるのよ!!私がやればこんな事にはならないわ!!」
そしてパジャマを脱ぎすてた。
頭をスポンと抜いて脱ぐ仕草はまだ子供としか言えないし、いきなり全裸になった後、恥ずかしいのか顔を真っ赤にしながらも腰に手をあて「ほら、これで大丈夫よ!思う存分自慰をしなさい!」と勝ち誇ったように笑う様も、愛らしいとしか喩えようがない。
何がどうしてこうなったのか、はたまたこれからどうなるのかは今の御剣には考える事は出来なかったが、とりあえず冥を抱き寄せて、さて、では本物でいかせてもらおうと笑った。
最終更新:2010年02月01日 21:45