すれ違いミツメイ
夕方、空港に降り立った御剣は本日のフライトスケジュールを改めて確認した。
早朝のアメリカ便は定刻通り出発。既に現地に到着したようだ。
今朝、冥はこの飛行機に乗って日本を発った。昨夜遅くに西鳳民国から日本に到着し、本人不在の御剣宅に泊まって。
御剣の眉間のヒビは一層深くなる。何故こんな時に海外出張が入ったのか。
冥は私に会うためにアメリカに直行せずわざわざ日本に立ち寄るスケジュールを組んだというのに。
大きくため息をついていると携帯が震えた。
「御剣検事!お帰りなさいッス!駐車場で待ってるッス!」
忠犬のような刑事が迎えに来ていた。きっと今朝冥をこの空港に送り届けたのも彼だろう。
逢いたくて堪らない恋人がどのような様子だったかだけでも聞きたくて、御剣は携帯に受け答えしながら駐車場に向かった。
自宅に帰り着くと、当たり前だが明かりはなくシンとしていた。
昨夜は冥もこの静けさに迎えられたかと思うと胸が痛む。
革靴を脱ごうと靴箱に手をかけると…小さな紙切れが。
‘おかえり’
几帳面な文字が走り書きでやや崩れている。
慌てて靴を脱いで部屋に上がる。
ダイニングのテーブルを見るとまたメモがあった。
‘冷蔵庫に食事を入れてるわ’
キッチンの食洗機には食器が入ったままだ。
冷蔵庫を開けるとラップされた食器が何皿かあった。その上にもまたメモが。
‘手は洗った?チンしたらすぐ食べられるから’
まとめてレンジに放り込んであたため開始する。
その間に洗面所に行くと洗面台の横にも。
‘パジャマは洗ったけど、シーツはそのままよ’
洗濯乾燥機には御剣のパジャマが乾燥も終わったまま放り込まれていた。
パジャマを取り出して寝室に向かう。
やはり枕の上にもあった。
‘おやすみレイジ’
そのままベッドにダイブして、枕に顔を埋め掛布団を抱きしめる。微かに冥の残り香を感じる。
冥も昨夜は私の香りに包まれてここで眠ったのか。
出張中に急な来訪の知らせを受けて何のもてなしも出来なかった。好物を用意し、プレゼントも買い揃えて迎えるのが常なのに。
冥は落胆する代わりに私の為にメモや手料理で自分の痕跡を残してくれた。なんという完璧な心遣いなのだろう。
シーツを洗濯されなくてよかった。これも、計らずも残された冥の痕跡なのだから。
御剣は目を閉じて枕に顔を埋めたまま大きく息を吸い込んだ。
暫くそうしていると、ピピッピピッっと電子音が小さく耳に入ってきた。レンジが「早く中身を取り出せ」と文句を言っているのだろう。
冥の香りと離れるのは名残惜しかったが、手料理を無駄には出来ない。
シーツに唇を落としてから、御剣はベッドから立ち上がった。