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※幼児退行冥


「パパ・・・」

留守の間に、何が起こったのかはわからない。
ただ、帰宅した御剣が見たのは・・・虚ろな目で父親を求める恋人の姿だった。

手がかりを求めて、カレンダーを見る。
今日は何度目かの・・・彼女の父の命日だということに、しばらくして気が付いた。

理由を言わずに休暇を取った背景を理解して、御剣はため息をつく。

「・・・パパ」

どこを探しても見つからなかったからか、冥が心細そうに立ち尽くす。
次第に、冥の目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。

「パパ、・・・どこにいったの?」

そのまま崩れ落ちそうになる冥を、御剣は駆け寄って支えた。

「・・・レイジ」
自分を呼ぶ声が、たどたどしい。
まるで、出会った頃のような口調だった。

「パパが、見つからないの・・・」

その様子はまるで、父の死を忘れてしまったかのようだった。

御剣の胸が、鈍く痛んだ。
冥にとって、あの男の死はまだ消化されていなかったのだと・・・
今でも、その存在は大きく彼女を支配しているのだと、思い知る。

「・・・パパ」
冥が、御剣の腕をすり抜けて、再び父親を捜しに行こうとする。
その姿を見ていられなくて、御剣は腕を掴んで冥を引き寄せた。

「・・・いや・・・いや!」
暴れる冥を抱きしめると、冥が泣き叫んだ。

「離して!パパのところに行くの!・・・パパに会いに行くの!」

彼女が理解してそう言っているのかは、わからない。
ただ、御剣にとって、それはとても恐ろしいことを意味していた。

「ダメだ、メイ。それだけは、絶対にダメだ・・・!」

逃げないように抱きしめているうちに、段々と泣き声が小さくなっていく。

バタバタと暴れていた手足も、緩慢な動きに変わっていった。

「パパ・・・」
うつらうつらとした冥が、御剣の服を掴んで父親を呼ぶ。
泣き疲れた表情が痛々しかった。

「ああ、ここにいる」
御剣が精一杯の嘘をつくと、冥がようやく微笑んだ。
「パパ・・・よかった。もう・・・どこにも、行かないで・・・ね」

そのまま眠ってしまった冥を見つめながら、
御剣は安堵と心痛の混ざり合った複雑な思いに息を吐いた。

御剣は冥を抱きあげて、二人の寝室に向かう。
どうか、明日起きた時はいつもの彼女に戻っているように・・・
そう願わずには、いられなかった。
最終更新:2010年02月01日 23:53