6月の花嫁
「なんてことなの!」
冥はしとしとと雨が降る空を睨みあげます。
「折角のガーデンパーティーが台無しじゃない!」
苛立つ顔には白いヴェールがかかり、いきり立つ肩はパフスリーブのウェディングドレスに包まれていました。
「仕方なかろう、梅雨なのだから」
宥める御剣は白いタキシード姿。
二人は今しがたホテルのチャペルで永遠の愛を誓ったばかりでした。
「なんでこんな雨の時期に結婚しようなんて言ったのよ!」
「ム…6月の花嫁は縁起がよいと言うだろう。さ、皆が待っている。会場へ急ぐぞ」
宴会場では既に招待客がカラオケで盛り上がっていました。扉の向こうからもウェディングソングが漏れ聞こえています。
そんなどんちゃん騒ぎに冥は眉をひそめました。
「バカバカしい。6月の花嫁が何故いいか、貴方知っているの?」
「確か…6月は大神の妻ジュノーの月だからではなかっただろうか」
「あんな浮気男の妻がなんで幸せなものですか!」
どうやら御剣の答えは不正解だったようです。
「6月は卒業の季節よ」
「アメリカでは9月が新学年だからな…それが?」
「つまり、ジューンブライドが幸せというのは、学校を卒業して社会に出ることなく家庭に収まるのが女の幸せだなんていうバカバカしい時代遅れの考えなのよ!
しかも日本じゃ意味も通じないわ!」
僅か13歳からいっぱしの検事として働き、結婚後もバリバリ仕事をするつもりのキャリアウーマンらしい怒り方です。
しかし、長い付き合いの御剣にはわかっていました。
冥は雨が降って思い描いていたガーデンパーティーが出来なくなった事が悲しいのです。
本当は青空の元で皆に祝福される自身を夢見ていたのにそれが叶わず、でも悲しいなどと口には出せず怒りと理屈で発散しているのです。
そんな素直じゃない新妻が可愛くて、御剣は冥を抱きしめました。
「…そうか。では6月の花嫁などあてにはならんかも知れん。
だが、私は君を妻にできてこの上なく幸せだ。君はどうだ?」
ヴェールを上げて冥の顔を覗くと微かに頬が赤くなっています。
「バカ…わかるでしょ」
「証言ははっきりとお願いしたい」
「…幸せよ。完璧にね」
唇を重ねると、冥は御剣の肩に腕を回してきました。
そんな冥が愛しくて、御剣は時と場所も忘れていた情熱的なキスをしました。
「御剣さん!冥さん!大変です!」
急に大声と共にドアが開き、二人は慌てて離れました。
「御剣検事も狩魔検事も早く!キレイだよ〜」
「プリズム効果です!自然のカガクは素晴らしいです!」
わらわらと出てくる招待客に手を引かれて庭に出ると、いつの間にか雨は上がり虹が出ていました。
「よかったな御剣、ガーデンパーティー無駄にならなくて」
「ズルイぞぉ!御剣ィ!冥ちゃんと結婚しやがって!」
「めでたいッス!空も二人を祝福してるッス!」
中庭に出てきた招待客は、皆笑顔で二人を祝福しています。
でもそれは冥の思い描いていた夢とは大違いの騒々しさでした。
それでも御剣にはわかっていました。
「バカがバカバカしいバカ騒ぎを…」とブツブツと文句を言う冥が、とても喜んでいる事を。
「冥」
「なによ」
「君が幸せなら、私も幸せだよ」
冥が何か答えた気もしましたが、招待客達の歓声にかき消されてしまいました。
でもやっぱり御剣には、冥がなんと答えるかはわかっているのです。