注意事項
- メイミツだと思う
- かなり倒錯したSM(暴力表現あり)
- どうやら成人向けのようですがエロシーンや描写はほぼ無し
- 物理的にも精神的にもただひたすら痛い
- 鞭による暴力が受け入れられない方は、どうか閲覧をお控えいただきたい。
屋敷の地下室に、蠢く人影がふたつ。
一つは何かを振り下ろし、もう一つは壁際で這いつくばり、
振り下ろされた何かが当たる度に仰け反ってそれを受け入れていた。
地上に音を漏らさない造りの室内には、鞭が空を切り炸裂する音と、若い男の呻き声が延々と響き渡る。
身寄りのないその青年が才能を見込まれ、屋敷に迎えられてから、毎日のように行われている光景だった。
「居候の癖に、ナマイキなのよ」
絶え間なく響いていた一本鞭の音が止む合間に、鞭の持ち主たる娘が吐き捨てるようにそう言った。
「ここは貴様のような野良犬が居座れる場所ではないの」
令嬢は腰を落とし、這いつくばり息も絶え絶えとなった男の顔を覗き込む。
「おわかりかしら?御剣怜侍」
にっこりと笑う顔の目だけは鋭く、憎々しげに御剣と呼ばれた男を見据えていた。
睨まれた青年は怯えることもなく、痛みに耐える表情のまま、女に応える。
「それでも私は、ここに居続けるさ、冥。」
固い意志を含んだ声に、娘は苛立ちの表情を露にし、渾身の力をこめて己の一部同然の鞭を振った。
「ぐ、ぅあ‥‥っ」
突然の一撃を、御剣は身を捩りながらその背に受ける。
「完璧な天才」の娘として育てられている彼女にとって、同等かそれ以上に優秀な人間の出現は
完璧さを損ない己の存在意義を揺るがすほどに、許されざることだったのだろう。
完璧な検事になるべくこの屋敷の主の門下に入った御剣は
毎日のように娘にここに連れてこられては鞭打たれ、この家を出ていけと凄まれてきたのだ。
はじめは「この屋敷を案内してあげる」との言葉を信じて踏み入れたこの密室。
鞭の使い手とはいえ、華奢な体格で7つも下の娘からの不条理な責め苦が待っているのを知っていながら
毎夜、御剣が彼女の呼び出しに応じるのは、いくつか理由があった。
一つは、こうして打たせていれば、彼女の溜飲がいくらか下がるようなので
本格的に追い出される気配を感じずに済むということ。
完璧な検事になるという執念を抱く彼は、その目標に限りなく近いこの場所にしがみついてでも居座る必要があるのだ。
そしてもう一つ、秘めるべき理由がある。
どうしてもここにいるため、と言葉で抗議をしつつもこの仕打ちにひたすら耐えているうちに
彼の中で、ある感覚が開花したからである。
「聞き分けの悪い犬には、お仕置きが要るようね」
素早く連続して、鞭が空を切る。
「は‥‥、く、う‥‥っ!」
支えるだけの力を失い、石造りの床に頬をつけて倒れ込む青年は、冥に背を向けて痛みに喘ぐ。
だから、その表情を知る者は、誰もいない。
痛めつけられているはずの彼が顔を上気させ、恍惚とした目で歓喜にうち震えていることを。
継続的に与えられる痛みに耐えるうち、脳内麻薬でも分泌されやすくなったのだろう。
彼女から打たれる度に、どうしようもないほどの快感が全身に刻みつけられるようになったのだ。
師匠に引き合わされた瞬間から、その容姿や甘さのない雰囲気に惹かれた。
与えられた高貴な檻の中で必死に孤高を貫く姿が、健気で美しいと思った。
その彼女から苦痛を与えられる間、青年は隠し続けている過去を裁かれ
痛みの分だけ、罪から解放された気分になるのだった‥‥たとえそれが、仮初のものであったとしても。
彼女も闇雲に人を打つわけではない。長年見てきた限り、ちゃんと相手を選んでいる。
明らかな弱者にはむしろ親切で、取るに足らないと判断された者は目もくれない。
また勝てないと思われる相手には、絶対に手を出さない。
つまり彼女に打たれるには、ほどほどに目の上のタンコブであり、かつ深刻な脅威ではない存在でいる必要がある。
この条件を満たすべく‥‥少なくとも打つに値しないと判断されぬよう、
御剣は検事になるための修行を毎日怠らないように心がけていた。
必死で学び腕を磨こうとする彼女と同じだけ、御剣も勉学に励む。
互いにこれ以上余地がないくらいに、切磋琢磨を続けていた。
.
「私に勝てないことが、そんなに不服なら‥‥更なる努力を積めば良いではないか」
わざと無理な正論を投げ掛けて挑発すると、激しく鞭が飛んでくる。
「よっぽど、痛い思いをするのが好きなようね」
冥の口から忌々しげな、それでいて楽しげな音が漏れるのが聞こえた。
彼女も、はじめは自己嫌悪の表情を浮かべて部屋に戻っていったものだ。
だが、自由の少ない日常の、鬱屈したストレスの昇華に繋がっているのだろう。
最近では嬉々として鞭を振るい、すっきりした顔でこの部屋をあとにする。
御剣が彼女の歪んだ思いに気付いているのと同様に
彼女もどうやら、御剣の抱く被虐の喜びをどこかで見抜いているようだった。
当初のテーマであったはずの、この屋敷を出ていく出ていかないという話は
現在では、単に彼女が鞭を振るうきっかけとなりうるだけの、
この関係を続けるための表面的な材料に過ぎないものと成り下がっていた。
もはや暗黙のうちに、2人は互いに失い難い絆で結ばれた、共生関係となっている。
しばらくすると、見上げた冥の顔から毒気が抜けてくるのがうかがえた。
気分がすっきりすると、彼女はあっさりと御剣を解放する。
この仕打ちを性的な快楽として受け止めている青年は、名残惜しさを感じながら
降り注ぐ甘い痛みに熱い声をあげ続けた。
もうすぐ彼女はこの部屋を去るだろう。
その後、残された御剣は、与えられた感覚の余韻に浸りながら、
どうしようもなく張りつめた己を慰めるのが、ほぼ日課となっていた。
そこまでしていると知れたら、さすがに引かれてしまうかもしれない。
なので、そのことを悟られぬよう御剣は這いつくばり、彼女に背を向けて証拠となるものを隠そうと、密かに意識を注いでいるのだった。
「今日はこの位にしておいてあげる」
しばらくすると、冥がそう言って手を止める。
「すっかりボロボロね」
憐れな様子が、気紛れな仏心を刺激したのだろう。冥は珍しく、彼に手を差し伸べた。
吸い込まれるように彼女の手をとり、御剣はゆっくりと身体を起こす。
じっとその様子を見ていた冥が、ぽつりと呟いた。
「たまにここ、膨らんでいるわよね」
隠していたはずの秘密を晒してしまったことに気付き、御剣は内心で焦り始めた。
不思議そうな表情の冥が、何気なくそこに手を伸ばす。
反射的に身体を引いて避け、恐る恐る彼女の顔をうかがうと、何かを察したように、氷の眼が楽しげに歪んだ。
「動いちゃ駄目」
その声に逆らうことなどできず、御剣は目を伏せて身体を強張らせる。
再度伸びてきた手に、力を込めてそれを握られた瞬間‥‥
「う、あ」
愛する令嬢によって身体の中心に与えられた痛みは、青年の倒錯した精神を呆気なく弾けさせた。
情けない声と共に限界が訪れ、勢いよく放たれた欲望が中から服を汚す。
不自然に濡れた布地を眺めながら、冥は新しい玩具を見つけたように瞳を好奇で輝かせた。
「今のはいったい、どういうことなのかしら?」
とうとう、暗黙の了解だった性癖を吐露する時がきてしまった。
御剣は、現実から逃げられなくなる予感に戦慄しつつも
新たな段階に足を踏み入れたことを実感し、青年の心身はひっそりと喜びに震え
これからの彼女と過ごす時間に期待を膨らませるのであった。
最終更新:2010年09月20日 21:08