とある休日の二人。街中をぶらついていたとき、御剣がふと冥の足元を凝視した後に呟くように問うた。
「君はよくそのような踵の高い靴で闊歩できるな」
「何を今更馬鹿なことを言ってるの。狩魔一族は歩く姿も美しく優雅に完璧であるに決まっているじゃない」
「……思春期のコンプレックスの名残かと思っていた」
御剣の発した何気ない一言にぴくんと反応する冥。すかさず休日も肌身離さず持ち歩く鞭を振るおうと手に掛ける。
「その発言の真意によってはただではすまないわよ、御剣レイ……」
「いや別に他意はない。ちょうどよくなったなと思っただけだ……こんなことをするのに」
「……え」
問い返す暇も鞭を振るう隙もなく気付けば腕を掴まれ引き寄せられる。訳も判らないままに御剣を見上げれば、ふっと柔らかく笑った御剣の顔が近付く。
ちゅっ。
額に柔らかい温もりが当たった。それが唇で公衆の面前でキス(額にだけど)されたことを認識するのにたっぷり10秒はかかった。
ゆっくり離れた唇は、勝ち誇ったように口角をあげる。
「み、み、み……御剣レイ、ジーー!」
「うム。やはりなかなかしっくりくる距離だな……何を叫んでいる。他人の行く手の邪魔になる、行くぞ」
「……っ」
御剣だけ何事もなかったように冷静に冥に手を差し出す。一人慌てて赤面な自分の方がなんだか馬鹿みたいな気分になってくる。
だから、ここは一歩譲って差し出された手を素直に握り締めた。歩き出した歩調は先程よりゆっくりで御剣は何気なく冥のペースに合わせてくれる。
そんな気遣いに気付かないふりをして冥は口の中で聞こえないように「ありがと……」と呟いた。
最終更新:2010年02月02日 00:24