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子煩悩御剣


毎日、夕方5時丁度に冥の携帯電話はメールを受信する。
確認しなくても内容も送り主もわかっている。御剣のパソコンから「今から帰る」とだけ。
私が育児休暇を取って検察局はいつも以上に多忙だというのに、と冥は溜め息をついた。
「皆に迷惑をかけてダメなパパねぇ、いっそパパが育児休暇を取ればいいのにね」
携帯を横目に腕の中の我が子に話しかけると、だぁだぁと同意するかのように赤ん坊が声を上げた。

ドアに鍵を差す音がして冥は玄関に向かった。
「おかえりレイ…」
「今帰った!」
アタッシュケースを冥に押し付けると、御剣はリビングのベビーベッドに突進して行った。
「8時間以上ぶりだな、良い子にしていたか?父がいなくて寂しかったのではないか?
今日は土産があるのだぞ」
有名デパートの大きな紙袋から出てきたのは赤ん坊より大きなテディベアと木製のガラガラ。
「またぬいぐるみ?」
冥は思わず呆れた声を上げてしまう。
使ってもいない子供部屋に小山程もあるのだから仕方のない事だった。
「これはアンティークで希少価値の高いものなのだ。昼休みに展覧会に行ってきてな、ガラガラも木の温もりがあっていいだろう?」子どもは新しいオモチャを握らされている。
「おお、こんなに振って、嬉しいのだな。そうか気に入ったか」
赤ん坊は相変わらずだぁだぁと声を出す。今日の昼辺りから「だ」音がお気に入りなのだ。
「聞いたかメイ!?この子が私を見てダディと言ったぞ!」
御剣の喜びように冥は苦笑せざるを得ない。

「よしよし、そうだ私がダディだぞ。
もう父を呼ぶとは、君はなんと賢い子なのだ。
待っていたまえ、今着替えと手洗いを済ませてくるから、そうしたらダディがだっこしてやろう。
君に菌やウイルスをうつす訳にはいかんからな。3分…いや2分の辛抱だ」
言いながらフリルタイを外しにかかり、赤ん坊の額にキスをしてやると全速力で洗面所へ走って行った。

リビングに残された冥はガラガラを落としてぐずる子を抱き締めた。
「もう……私の事なんて目に入らないんだから。あなたがレイジの愛情を全部持って行ってしまって…ズルイわ」
御剣が触れた額に唇を寄せる。
初めての子供に浮かれているだけではない事はわかっている。
この子はレイジのたった一人の血を分けた肉親なのだから。
九歳で父親を亡くした御剣にとって、十五年以上天外孤独を味わった間どれほど望んでもどれほど願っても叶えられることのなかった血の繋がった家族。
産まれてくるまでは紆余曲折はあったが、御剣は以前感じていた不安も歓喜の前に吹き飛んでしまったのだろう。
目に入れても痛くないとは正にこの事と言わんばかりの溺愛ぶりを見せる顔に、眉間の皺はない。
産んでよかった。私はレイジに本物の家族をあげられたんだわ。
だけど、それでも…
「ちょっぴり妬けるわ、おチビちゃん」
「だーだ、だぅ」
リビングへ急ぐ足音を聞きながら、冥は愛しい我が子であり、すぐに取りあげられてしまう愛する夫の子どもに頬ずりした。


最終更新:2010年02月02日 03:20