戦国遺伝子1
・冥スレ「遺伝子」パロ
・年齢は適当
・歴史のことについて、矛盾や間違いがあったら申し訳ない。
・悲恋というか殺伐としてるかもしれない。
昔々、戦国の世のとある国に、ひとりの若君がいました。
若君は賢く武芸にも秀でていましたが、幼い頃に父上を戦で亡くしておりました。
父上が亡くなってしばらく、若君は頼る人がおらず心細い日々を過ごしておりましたが
隣の国の殿様に若君の才覚を見込まれ、若君は立派な国主になるために
そちらの殿様に引き取られることになりました。
隣の殿様には、二人の姫がいました。
姉姫はすでに遠くの国へと嫁いでおり、幼い妹姫は殿様のもとで暮らしておりました。
妹姫は利発でたいそうきれいな姿をしていましたが、見事なまでのじゃじゃ馬で
毎日刀を振り回しては、御付の者や一緒に暮らすようになった若君を困らせてばかりいました。
ただ、若君は元気の良い姫君を見ていると、とても幸せな気持ちになりました。
姫君も素直には表しませんでしたが若君を慕い、いつでもその後をついて回っておりました。
二人は本当の兄妹のように、仲睦まじく育ちました。
数年が経ち、若君が元服を認められ、姫君も早めの裳着を迎えました。
大人になった若君は、殿様になるために自分の国へと戻ることになりました。
若君は妹のように大切にしてきた姫君を奥方にしたいと密かに望んでおりましたが、それは叶わぬ夢でした。
何故ならば、隣の国の殿様にはこの姫君以外に子どもがいなかったからです。
姫君は婿を迎えてこの国を守らなければなりませんでした。
姫君は兄のように慕ってきた若君が婿に来てくれたらいいのに、と密かに願っていましたが、
その望みが叶わぬことを知っていました。
何故ならば、父上の跡を継いで郷里の国を守っていくことを夢見る若君の姿を、姫君はずっと見続けてきたからです。
そしてとうとう、若君が国に戻る日がやってきました。
殿様から与えられた従者と二人、第二の故郷とも言える城をひっそりと発とうとしていた若君は、
馴染み深い声に呼び止められました。
「怜侍!」
振り向くと、ここしばらく拗ねて顔を合わせてくれなかった姫君が駆け寄って来る姿が見えます。
「冥・・・見送りに、来てくれたのか。」
最後に会うことができて良かったと思い、若君は顔を綻ばせました。
しかし一方の姫君は、不機嫌そうにそっぽを向いたままです。
しばらくの沈黙の後、姫君は自分の懐に手をやり何かを取り出すと、若君の眼前に突きつけました。
それは青い鞘に包まれた短い護り刀――裳着を迎えた日に、姫君が殿様から賜ったものでした。
「これを、くれるというのか?」
姫君は顔を若君に向けぬまま、こくりと頷きます。
「大事なものだ。受け取るわけには――」
そう返事をすると、寄せられた姫君の眉間が、いっそう険しくなりました。
「私はもう、君の守役だった男を家臣として譲り受けている。これ以上は望むまい」
「そんな木偶の坊、熨斗をつけてくれてやるわよ」
「ひ、ひどいッスよ姫さん――!」
木偶の坊と呼ばれた従者の大男が悲しそうに抗議の声をあげますが、
新旧二人の主は、意に介さず自分たちのやり取りを続けます。
若君が固辞しようとすると、姫君が睫毛ギリギリまで護り刀を押し付けようとします。
「それは君が大事にしたまえ。お父上からの賜り物だろう」
「私はいいのよ。そのうち父様の跡を継いで、刀も譲り受けたものを使えばいいのだから。」
女子が殿様になるなどありえない世の中でしたが、姫様は普段から、本気で「跡継ぎは自分」だと宣言しています。
ただ、それが実現してもおかしくないほど、じゃじゃ馬の姫様は知略と武勇に恵まれていましたので
きっと、代々受け継がれてきた刀も婿君ではなく自分に与えられるのだと、疑いなく考えているのでしょう。
しかし、たとえそれが実現したとしても、殿様はまだまだ元気で隠居するような影など全くありません。
それまで姫君に護り刀がないのはとても危険なことだと、若君は思いました。
強く、姫君を傷つけぬように断るにはどうすればいいか・・・若君が黙って考えあぐねていると
小さな声が、ぽつりと投げかけられました。
「それを私だと思って持っていれば、貴様が弱気になった時でも・・・きっと怖くないわよ」
ようやくこちらを見た姫君の目は、心細そうに揺れていました。
大した見送りもなくふたりぼっちで国を出て行く若君のことを、姫君がたいそう案じているのが、まっすぐに心に伝わってきます。
若君は温かい気持ちになり、思わず目を細めました。
「わかった。――これを君だと思って、大事にしよう」
そう答えて若君が刀を受け取ると、姫君も少しだけ口元を緩めます。
「では君は、これを受け取ってくれたまえ」
若君が自分の赤い鞘の護り刀を差し出すと、姫君の目が大きく見開かれました。
「それは、お父上の形見ではないの!大事な――」
「だからこそ、君に受け取ってほしいのだ」
視線を合わせてそう告げると、姫君は困ったように黙り込んでしまいます。
しかし、しばらくそうした後、姫君は何かを思いついたかのようにぱっと顔を上げました。
「じゃあ、こうしましょう――私はいったん、この刀を預かりましょう。
そして、いつか貴様が立派な殿様になったという噂を耳にしたら、私の刀を返してもらいに行くわ。」
その言葉を聞いて、若君も意を得たように口角を上げて笑います。
「ああ。それでは、その時に私はその刀を返してもらうことにしよう。」
こうして若君と姫君は、お互いの護り刀を交換し合い、それぞれの帰る場所へと歩いていきました。
この時、二人は何の疑いもなく信じていました。
結ばれることはなくても、たとえ金輪際会うことがなくても、思い出は穢れなきまま互いの心に仕舞われ
隣り合った国を治める者同士として、絆に結ばれて生きていくのだと。