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忘れたわけではない。
今日がクリスマスイブであることを。

冥はプリントアウトを待つ間に、窓の外を見た。
街が輝いている。
日本の恋人たちは、イブこそがすべてなのだと、小さな知り合いから聞いた。

だからなんだ。
冥は出てきた書類をトントンと揃え、ファイルにしまう。
十二月二十四日午後十時。
冥にとって、今日はイブではなく、年末の慌ただしい時期の一日に過ぎないのだから。


明日の朝提出する書類を引き出しにしまうと、さて、もう少し仕事をしようかと悩んだ。
どうせ、帰っても何もない。
それどころか、周りの喧騒に自分の寂しさが浮くだけだ。

冥は分かっていた。

今日を単なる年末の一日にしたのは紛れもなく自分だという事を。


無理矢理仕事を詰め込んで、私情を挟む余裕を与えなかった。
しかし、そうでもしなければ、冥は思い出してしまうのだ。

子供の頃の、幸せなクリスマスを。


すでに、あの時のサンタクロースはいない。
一緒に過ごした母親や姉は、遠くアメリカにいる。
もう一人、子供の頃共に過ごした‘弟’は・・・。
いや、彼に昔の事を思い出させたくはない。

昔の私達のサンタクロースについて、思い出させたくは、なかった。


冥は頭を振った。
もう少し仕事をしよう、どろどろに疲れて、帰ったらすぐに眠れるぐらいになるまで、仕事をしよう、と。

ふいにされたノック。

返事をする前に扉が開いた。

文句を言うべき場面だが、一番会いたかった人物であるという事実に、冥の表情は明るくなってしまう。


「まだ仕事をしているのか?」

「・・・ええ。もう少しだけね。」

「・・・そうか。」


彼は、そのまま部屋から出ようとしたが、おもむろに振り返ると微笑んだ。

「ああ、そうだ、メイ。メリークリスマス。」


どんなに酷い仕打ちをされても当然なのに、彼の笑顔は優しかった。

一番欲しかった、陰りのないお祝いの言葉。


泣きそうな冥に、‘弟’である彼は手をさしだした。

「もう仕事は明日にすればよかろう?メイ、一緒に帰ろう。」
最終更新:2010年02月02日 03:00