SM
私が師匠宅の書斎で調べものをしていると、メイが袋を抱えて入室してきた。
「ねえレイジ」
「む?」
「この間、初めて法廷に立ったでしょ」
実際の裁判とはいかなかったが、私たちは法廷で弁護士と戦った。
「ウチで模擬裁判なら何度もやったけど、やっぱり実際に立ってみないと分からないこともあるのね」
「そうだな」
「……私に足りないものが分かったわ」
めずらしいことだと思った。
普段はけして自分の非をみとめようとしないのに、それほどにあの結末はくやしかったのだろう。
それは私とて同じだ。
「それで長いムチを買ってみたの」
「…………は?」
袋から取り出すと、それをうれしそうに見せる。
「すまない、話の流れがよく分からないのだが」
「だから、私に足りないのはムチの長さだったのよ。いつものだったら被告人に届かないじゃない!」
私は頭をかかえた。
時折……いや頻繁に、この姉弟子の思考にはついていけなくなる。
すぐ横で同じものを見ていたはずなのに、彼女の目にはまったく別のものが映っているのではないかとさえ思えるときがあった。
「どうかしら」
どうかと言われても、長かろうか短かろうがどうせ私が打たれるのは同じことだろう。
いやリーチが長くなる分、打たれる頻度が高くなるのかもしれない。
「キミの足りないものと言うのはそれだけか」
「他になにかあって?」
それ以外はカンペキだと言わんばかりに胸をはる。
やれやれ、このお姫様はなにがあろうと自分を曲げることなどないのだろうな。
私は心の中でため息をついた。
「でね、ムチを買ったらサービスしてもらったんだけど、コレは何に使うか知ってる?」
「な、ナニを買っているのだ!」
「だから、ソレを聞いているのじゃない」
ロウソクに拘束具らしきもの、袋から出てきたのはアヤシゲな道具ばかりだった。
「そんな店に一人で行ったのか!?」
「コドモあつかいしないで、これくらい一人で買えるわ!」
メイはムッとして口答えする。
「そういうことを言っているのでない。こんなものを売っている店に一人で行くなど危険だ!」
「あら、別にたいしたことなかったわ。親切な人もいたし」
「し、親切な人だと!? なにか妙なコトをされなかったか!?」
「いろいろ説明してくれただけよ。初心者ならコレがいいとか……。ただ、自分からムチで打ってくれって言われたのは初めてだったけど」
「ぬおおお。メイ! そのような場所に二度と行くな!」
肩をつかんでさけぶ。
SMショップに一人で行って変態オヤジをムチで打ったなど、先生になんと言ったらいいのか。
「な、なによ。私がどこで買物しようとレイジには関係ないでしょ」
「なんだと!?」
カアッと頭に血が上がってメイの持っていたものを取り上げる。
「あっ返しなさい!」
「コレをどう使うか教えてやろう」
「あっ」
イスに押し付けるようにして座らせ、背もたれを通して手枷をはめる。
「ちょ、ちょっと冗談はやめて」
抵抗するがコドモと大人の男とでは力が違いすぎる。
「使い方を知りたいのではなかったのか? ……そうだ、コレはたしか口にはめるものだったな」
ボール状のものをメイの口にくわえさせ、ベルトをとめる。
「――――!!」
身体をゆらし何かをさけんでいるようだったが、口枷のせいでほとんど分からない。
「やっとおとなしくなったな」
ちょっとした脅しのつもりだった。
もうそんな店に行きたくないと思えばそれでよかった。
しかし涙目ではあるが、けして屈するものかという怒りの色が目には浮かんでいる。
それを見ていると、私の中に今まで感じたことのない感情がわき上がってきた。
「……まだ反省していないようだな」
メイのスカーフをゆるめ、ボタンをはずしていく。
「!!」
白い胸元があらわになった。ブラジャーもしていない。
「下着もつけずに無防備すぎるとは思わないか。自分が性犯罪の対象になるはずがないと思っているのがコドモなのだ」
カァッとメイの顔に赤みがさす。
精一杯背伸びをしているメイにとって、コドモだと言われるのが一番のクツジョクだろう。
「ぐおっ」
脚に痛みが走った。
まだ自由だった足が私のスネを蹴り上げたようだ。
……数日前にも、他の少女に蹴られたなと痛みが思い出す。
「そうあわてるな、オシオキはこれからだ」
机の引き出しからライターを取り出し、見えるようにロウソクに火をつけた。
メイはいぶかしげに見ている。これがなにを意味するかまだ分かってないらしい。
「!!」
メイの髪をつかんでぐいっと身体をそらせる。
さらけだされた胸の上で、ゆっくりとロウソクをかたむけた。
「―――っっ!!」
びくんっと反応が手を伝わってくる。
赤いロウはとろりと胸をつたい、ほどなくして固まった。
見開いた目には困惑と恐れの色が広がり、反抗する様子はすっかり薄れたようだ。
髪をつかまれながらもイヤイヤをする動作に、もう一人の私が「もっと、もっとだ」と急かせる。
「っ! ………っっ!!」
続けて落としたロウにメイは身体をふるわせた。
ねっとりとした赤いロウが少しずつメイの胸元を汚してゆく。
白い肌とのコントラストが美しく、いやらしい。
「キミがこんなものを買ってくるのがいけないのだ」
髪から手を離し、まだ少し熱いロウを塗りつけるように胸をなぞる。
メイは耐えるようにぎゅっと目をつぶっている。すっかり抵抗をあきらめてしまったようだ。
……もう少し反応がなくてはもの足りない。
胸元だけ開いていたシャツに手をかけ、そのボタンをはずしていく。
ぴんと張った乳房が現れた。
「ふん、身体だけは一人前だな」
「―――っ!」
その乳首をつまみ上げ、硬くなったソレを指先でもてあそぶ。
「なんだ、感じているのか。キミも普段はムチで打っているが、本当はこうされる方が好きなのではないのか?」
ロウでまみれた胸に、あふれそうになっていたロウを再びたらす。
「……ッ!!」
びくんっと身体が大きく跳ねた。
そのはずみでイスがゆれる。
「む」
ガタン、と大きな音を立ててイスごと床に倒れた。
「……っ………………っっ…・……」
メイはボロボロと涙を流して泣いている。
その拘束のせいで、起き上がることも声を上げることもできない。
……なにをやっているのだ私は!
「メイっ!」
あわてて枷をはずし、抱き起こす。
「すまないメイ! ここまでやるつもりはなかったんだ」
「レイジのヘンタイ!!」
私の頬をたたくと、メイは泣きながら書斎を出て行った。
「メイ、すまない! あやまらせてくれ。どうかしていたのだ!」
部屋のドアをたたき、必死でメイの名を呼ぶ。
手の感覚がなくなるほどたたいても、中の反応はまったくなかった。
当然だ、あんなことをして許してくれるとは思えない。
「…………………………」
固く閉ざされた扉を見つめる。
メイにたたかれた頬が痛かった。それは肉体的な痛みよりも精神的に。
しかしメイの方がもっと傷ついているのだろう。
彼女が落ち着いてから出直そう、そう思って廊下を引き返そうとした時、背後でドアの開く音がした。
「……メイ」
厚めの生地の、袖のある服に着替えていた。
うつむいていて目を合わせてはくれない。
「すまない。あんな店に行ってほしくないと思ってやったとは言え、私が間違っていた。
本当にどうかしていたのだ。キミにあんなことをしてしまうなんて。
許してくれ、メイ。キミの気がすむのなら私はいくらでもムチで打たれよう」
メイは眉をよせながら口を開いた。
「……あなたも打たれるのが好きなのかしら」
「ち、違う! けしてそのようなアレではない!!」
メイの表情がいくぶんゆるむ。
「……いいわ、ゆるす代わりに明日、買い物につきあいなさい」
「分かった。いくらでもつきあおう」
荷物持ちは当然のこと、支払いも私なのだろう。
しかしそれでメイにゆるしてもらえるなら安いものだ。
「メイ、ひとつだけ約束してほしい。もうあんな店に行かないと」
「……わかったわ。レイジのようなヘンタイがいる所だものね」
「ぐっ」
違うと言いたかったが、今は否定するすべをもっていない。
「それと、このことは先生には……」
「どうしようかしら」
「メ、メイ!」
「冗談よ。弟子がこんな男だと知ったらパパも悲しむもの」
「むむむ」
すっかりいつもの調子に戻っている。
いやむしろ、私をやり込めるネタが出来たことで喜んでいるようにさえ見えた。
「今度は向こうに行くわよ」
「まだ買うつもりか」
「当然よ、まだ欲しいものの半分も買ってないわ」
私は両手に荷物を持ち、すでにずいぶん散財させられていた。
メイに笑顔が戻り、ムジャキに買物をしているのを見ると、きのうのことなどなかったかのようだ。
「あ、ここよ」
そう言って指差した店は……
「メイ、私はここで待っている」
「支払いはあなたでしょう。一緒に入るのよ」
「し、しかし……」
「レイジに拒否権はないわ。それにブラジャーをしろと言ったのはあなたではなくて?」
「む……」
「いらっしゃいませ」
店員が笑顔で迎える。
下着専門店に男が入るなど、居心地が悪いことこの上ない。
しかも13歳の少女とハタチの男の組み合わせなど、どう思われることだろうか。
「ブラジャーを見繕ってもらえるかしら」
「かしこまりました。サイズはいくつでしょうか」
「ちゃんと測ったことはないのだけど」
「でしたらこちらで……」
「ねえレイジ、私のサイズっていくつ?」
「ぶっ!」
いきなりなにを言い出すのだ!
店員が驚いた顔でこちらを見ているではないか!
「わ、私が知るはずがないだろう!」
「あら、ヘンタイだから触った感じで分かるかと思ったわ」
「なっ……」
「いいわ、測ってちょうだい」
「メ、メイっ!!」
メイと店員は奥へと消え、限りなく永く思える時間に、私はきのうのことをひたすら悔いるのだった。
最終更新:2010年02月02日 01:31