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妊娠中ミツメイ


冥は寝室で一人孤独だった。
いや、正確には一人ではないのかも知れない。
あわや流産かという危険な時期を乗り越えたにも関わらず、
大きなお腹を抱えた冥は完璧な幸せを感じられずにいた。

隣の書斎では夫の御剣がキーボードを叩いている。
冥が仕事に出られないしわ寄せがいっているのだろう、
連日連夜仕事漬けで徹夜も珍しくない。
そんな中でワガママなのはわかってる。でも──!
もう耐えられなくなって、冥はベッドから立ち上がった。



ノックの音に御剣は顔をあげる。もう深夜だというのに…
「まだ起きていたのか?」
「………ダメ?」
「お腹の子に何かあったらどうするのだ。早く休むんだ」
ドアの隙間からソファベッドにかかる毛布が見えた。
毎日御剣はあそこで…冥とは離れて眠っていた。
「仕事を手伝うわ、元々私の分…」
「ダメだ。体を冷やす。また入院でもしてみろ、私の心臓が持たない」
肩を押されて寝室に戻される。
ダブルベッドに促され、今夜も一人寝かと思うと涙が溢れてきた。
「レイジは…私が嫌になった?」
「…何故そうなる」
「もう何ヶ月も…してない」
「それは赤ん坊の」
「それだけじゃないわ!抱き締めてもくれない、キスもしてくれない」

ああ嫌だ、これはきっとマタニティブルーなんだわ。
でもどうしても止められない、涙も、レイジに愛されてないかもしれないという恐怖も。

「医者はいいって言ったのに…私に飽きちゃった?それとも、こんなにスタイルが崩れたら、抱く気になれない?子どもが出来たら用済みになったんで、っ!?」
自分では止められなかった言葉は唇ごと封じられた。
舌を絡ませ、口唇を甘噛みし、唾液を混じりあわせて飲み干す。
待ち望んだ情熱的な口付けに、冥は体の力が抜けて立っていられなくなる。
御剣は険しい表情のまま、すがりつく体をベッドに座らせた。
「これでわかったろう?」
「……わからない」
「メイ…」
目の前に膝まずく夫の首に手を回し、
「キスだけなんて嫌、お願い…レイジ」
抱いて、と耳元で囁いた。




「あっ…あんまり、見ないで…っ」
「誘ったのは君だ、メイ」
出産にむけて大きくなった胸は以前よりも色素が沈着していた。
久々の刺激の為か痛みすら感じるほどの快感に支配されていても、変わってしまった体をさらけだすには抵抗があった。
だが御剣はおかまいなしにせり出した腹部にも舌を走らせる。
冥はどんどん恐くなってきた。
優しく愛して欲しいと願っていたのに、御剣は覚めた目で冥の肉を食む。
まるで取り調べでもしているかのような視線が、妊婦の体を舐め回しているのだ。
陰部を指で掻き回され胎内がうごめく。
あんなに子どもを気づかっていた御剣が…子の宿る場所を責めたてる。

「やめっ…ダメ、激し、過ぎ…レイジっ」
「君から誘ったものを、今更何を言う」

充分に潤ったそこに男根を埋めていく。
それだけでも達してしまいそうになるのに、御剣は激しく揺さぶりをかけてくる。
両手で支えても膨らんだお腹に負担がかかっていく。
「ダメッ…やああっ!!」
冥の中が収縮し、熱いものが大量に注ぎ込まれる。
(わたしの…赤ちゃん…)
頬を伝う涙はまだ見ぬ我が子のものかも知れない、冥にはそう思えてならなかった。



「メイ……すまない!!」
冥は毛布を体に巻き付けてベッドに腰かけ、床に土下座する夫を見下ろしていた。
なんとも滑稽な事に、彼は丸裸のままだった。
「つい、夢中になって…」
「つい?」
冥の眉が吊り上がる。
「つい、ですって?私が何回やめてって言ったと思ってるの?」
「ム…しかし、君から誘ってき」
「異議あり!言い訳は見苦しいわよ御剣怜侍!」
腹立ちまぎれに枕を投げつけると、御剣はそれで股間を隠した。
「あなたが言ったのよ!お腹の子に何かあったらどうするのかって!」
お腹をさするとまだシクシクと痛む気さえする。医師の診断を仰いだ方がいいだろうか…
不安で泣きそうになると、御剣の手が伸びてきて腹部にふれた。
「無理をさせた…私が悪かった。あまりにも嬉しかったものだから…」
「…嬉しい?」
「君が誘ってきてくれた事が、だ」

御剣とて冥を抱きたくて堪らなかった。
だが、入院中から溜っていた欲求をぶつけてしまえば、冥の体に負担がかかりすぎる。
御剣は己の欲をセーブしながら行為ができる程器用な男ではない。
抱き締めただけで、押さえがたい欲望が暴走しそうな程だったのだ。
結果、禁欲の為に敢えて冥を避けざるを得なかった。

「…だから、喜びを押さえきれなくてだな…」
「溜りに溜った欲求が、今日一気にぶつけられたって訳ね。バカバカしい!」
「……面目ない…」
床の上でうなだれる御剣。そこに暖かな温もりが降ってくる。
毛布をまとった冥が、抱きついてきたのだ。
「ちゃんと言いなさいよね…私達、もうすぐパパとママになるのよ?」
「う、うむ…」
「寂しいと胎教にも悪いのよ」
「ああ…そうだな」
胸板に頭を寄せて甘えてくる冥が可愛くて、腕を回して抱き締めたら
「あんなに激しいのはもっと赤ちゃんに悪いし!」
次の瞬間には至近距離でキッと睨まれ、正に「ぐぅっ!」の字も出なかった。

「これからはもっとキチンと話して。一人で勝手に決めないのよ」
「…了解した」
了承と仲直りの証に唇を重ねた。
とは言え、今夜二回目がしたいとは御剣には口が避けても言えなかった。
最終更新:2010年02月02日 00:55