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ミサが終わったばかりの教会は暖かなざわめきに包まれていた。
その中で誰と言葉を交すでもなく、献金箱に献金すると冥は出入り口に向かった。
が、その足は一つの背の高い影を見てぴたりと止まる。
慌てて踵を返したが手後れだった。
ささやかな追いかけっこの末に祭壇前でオニに二の腕を捕まれた。

「メイ、……メリークリスマス」
穏やかな微笑み。なのに不機嫌な顔しかできない。
クリスマスの奇跡は冥には起きないようだ。
「メリークリスマス、クリスチャンでもない貴方が教会に何の用?」
「フッ、教会は誰に対しても扉は開かれるものだ。ミサに与かりたいと思う者には余計にな」

減らず口が憎らしい。今日は会わないと前々から通達していたのに。
脳天気な恋人同士ならクリスマスの夜をロマンティックに過ごすのもいいだろう。
しかし、この日のすぐ後にある二人の父達が関わった事件の日付を思うと、冥にはそんな事できるわけがなかった。
せめて厳粛な思いで滅多に行かない教会にいたいと思い、御剣には「アメリカ式に過ごすから、貴方は日本風にバカな友人達とバカバカしいバカ騒ぎでもしたら」と伝えたのだ。

「私も今日はアメリカ式に過ごそうと思ってな」
「生粋の日本人の癖に」
「一時は留学していたし、ここは日本人ばかりだ。構わないだろう」

周囲を見渡すと、多くの家族連れがまだ話が尽きないのか談笑していた。

「私も今日は‘家族’と過ごしたい」
御剣の言葉が胸に突き刺さる。
彼の実の家族を奪ったのは冥の父だった。
そうとは知らず二人は擬似家族として長い時を過ごしていた。
父親の罪が暴かれ、もう傍にはいられないと思った時もあった。
互いの想いを打ち明けあい、男女として交際を始めてからも、多くの事が冥の中にわだかまりとして残っていた。

「……私達はもう‘きょうだい’ではないわ」
「ああ」
「なら、ここにいてもレイジは家族と過ごせない─」


「待った!」


聖堂内に響く声。
周囲は何事かとお喋りを止めた。


「メイ、私は君の家族でありたい。兄でも弟でもない、たった一人の、最高のパートナーになりたいのだ」

真剣な目で冥の手を取り、片膝をついた。

「どうか、私と結婚して欲しい」


数瞬の静寂を破ったのは「きゃー!ケッコンケッコン!」と叫ぶ女児の声だった。
それから子供達がはしゃぎだし、どの夫婦も拍手を送り、聖職者は微笑みを交した。
「おめでとう」「お幸せに!」口々に祝福の言葉を浴びせられる。
すっかり返事をするタイミングを失った冥は否定も肯定もできないまま御剣に肩を抱かれて曖昧に周囲に笑みを返すしかなかった。


ようやく祝福の嵐から解放されて、教会の外に出られた。
「御剣怜侍!私はまだイエスともノーとも答えてないわよ!」
このままなし崩しにされては堪らない。冥は御剣の手を振り払った。
「先程も否定しなかったではないか」
「あれは…!」
「ではもう一度言おうか」
また地面に跪こうとする御剣を「異議あり!」と制止する。

「私で…私なんかで本当にいいの?」
震える声ごと抱き締められる。
「君がいいんだ。狩魔冥でなければ駄目なんだ」
「バカ…」

教会の鐘が鳴る。
婚約したばかりのカップルのキスに、子供達はまた歓声をあげた。
最終更新:2010年02月02日 03:02