アットウィキロゴ
日本人は桜の花が咲く頃“花見”という行事を職場や親しい友人、家族等で行う。
但し花を鑑賞するのではなく、宴会やバーベキューを楽しむ事が多い。
そういう知識は以前からあった。
だけど、まさかこんなに見事に花を無視しているなんて。
はしゃぎ疲れて居眠りする子供、酒に飲まれる男たち、料理を奪い合う者まで…
全くついていけなくて、一人散策する事にした。

景色はどこもかしこもピンク一色。
少し酔いが回ったのか足元が少しフワフワするのもあって、夢の世界にいるよう。
こんなに綺麗なのに宴会に夢中になるなんて。
それともこんな風景には馴れてしまっているのかしら。
だとしたらなんて、そう、『MOTTAINAI』んだろう。
季節の風情を感じる心こそ日本人の美徳なのに。
そんな事をぼんやり考えながら歩いていたら、後ろから私を呼ぶ声がした。
振り返ると酔い潰れていた筈のレイジが全力でこちらに走ってくる。
「はぁ、ハァ……ま、待つのだメイ」
「もう待ってるわよ。何なの?」
体を丸めて息を整えてから姿勢を正すと、いつもの精悍な顔つき。
私の大好きな、レイジの真剣な顔。
「一人で行くんじゃない。心配するだろうが」
「子供扱いしないで頂戴!この程度の広さの公園で迷子になんてならないわよ!」
「ム、そうではない。その…」
ゴニョゴニョと歯切れが悪い。
「一人前のレディならばエスコートを受けるべきだろう?」
レイジはまだ酔ってるに違いない。でもそれは私も同じ。
だってそうでなきゃ、こんなに素直に差し出された手を取ったりできないから。

ピンク色のトンネルの中を二人で歩く。
風が吹くと花びらが降ってくる。
なんて、綺麗。
「天然のフラワーシャワーね」
何気無く言うと、レイジの足が止まった。
「…いいのだろうか?」
「何が?」
「私と共に…フラワーシャワーを受けて」
それは、婚姻を果たした男女が、受ける祝福。
顔が、熱い。

レイジの手が伸びてくる。
私の髪に乗った花びらを取って……唇に当てた。
その花びらも風がさらっていく。


夢のように美しい世界の中で
夢にまで見たレイジと
夢見心地でキスを交した。


日本人が桜を好きな理由がわかった気がする。
この花の元でなら、いつもとは違う自分になれる気がするから。
無器用な男はスマートに。
天邪鬼な女は素直に。

「─きよ」
「…私もだ」
最終更新:2010年09月20日 20:58