記憶退行御剣・冥視点
冥はバスルームにいる子供返りした御剣が心配だった。
成歩堂が一緒にいた間はまだリラックスしていたが、それでも時々こちらの表情を窺う様子が見られたからだ。
私は、レイジの心の負担になるような事をしてる?
自問して、直後になんて馬鹿な問いをしたのかと溜め息をつく。
負担に決まってる。
私が存在そのものがレイジの心を追い詰めるのよ。
優しいレイジは私を大切にしてくれて、女として愛し慈しんでくれた。
共に育ち切磋琢磨して検事になった事、一方的なライバル心も子供っぽい意地やプライドも、何もかもを包み込んで愛してくれた。
だけど……そうよ、私は忘れちゃいけないのよ。
パパが何をしたか。
パパがレイジから何もかもを…尊敬する父親も、幸せな子供時代も、弁護士になるという夢と輝かしい未来も……何もかもを奪った事。
忘れちゃいけない、私は、レイジの何もかもを奪って、人生を思うままに塗り変えた男の娘。
レイジは人生をやり直したいのよ。
だから……もう一度、あの事件の前に戻ったの。記憶だけでも。
御剣の現在の状況を思うと、自然と考えが暗くなる。
気が付くと御剣がバスルームに入ってから20分以上たっていた。
元々長風呂ではないし、入る前に鼻血を出していた。
鼻血の原因はなにか分からないが昼間倒れたせいもあるかも知れないし、もしかしたらバスタブの中でのぼせているのかも知れない。
冥は沈んでいるだろう己の顔を両手で叩いてバスルームに向かった。
「レイジ?のぼせてない?」
「大丈夫です!洗ったら出ます!」
慌てた声。中の様子も何かおかしいとは思ったが、入っていく訳にもいかなくて大人しく引き下がった。
仕方ないのでベッドシーツを交換して体を動かした。
「お先でした…」
遠慮がちな声に顔を上げる。
今の彼と一緒に眠る訳にはいかない。変な気を起こしたら子供の彼は何と思うか。
御剣がリビングに向かったのを確認してから毛布を一枚寝室から運びだした。
どこに隠そう。不自然でなくて、レイジが眠るまで入らない場所…
「じゃあ私もお風呂に入るからね」
「は、はいっ」
冥はそのまま脱衣所に入って行った。
最終更新:2010年02月02日 02:44