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「メイ、話があるのだが。」
キッチンで洗いものがちょうど終ったところで、神妙な顔つきの御剣に呼ばれた。
いつもとは違う御剣の雰囲気に冥は重苦しさを感じた。

―――離婚話?

結婚して一年半。
仕事は相変わらず忙しく、ハネムーンに行くどころか、普段、顔を合わす機会さえ少なかった。

―――夫婦らしい生活がない事に嫌気がさしたかのか?
―――久しぶりに二人で過ごした休日が嬉しかったのは自分だけだったのか?

一度ちらついた『離婚』の二文字が頭から離れず、冥はエプロンを外す動作が無意識に鈍くなった。


リビングに向かうと、テレビもつけずに御剣はソファに座り、どこか一点を見つめている。
無音の空間が冥の居心地を更に悪くした。
不安を悟られないよう平静を装い、冥はきちんと足を揃えてソファに座ると、自ら切り出した。

「何の話かしら?」
「以前、君は猫を飼いたいと言っていた。よく考えたが、やはり反対だ。」
想像と全く違う話で内心ホッとしたものの、ペットを反対されたことはやはり
残念だった。
「…そう。」
冥は視線を落とすと、がっかりして返事をした。

「あと、これと少し関連するのだが…、これまで局内で難しい案件は、私かメイに振り分けられ、検事間で仕事の偏りがみられた。
しかし、上層部の会議で、来年度は他の検事を強化していくことが決まった。
…おそらく海外視察も我々以外から選ばれるだろう。」

「それで、大事な話なのだが…。」
御剣は目だけで冥を伺う。
「今夜は生でシたい。」
「………。」

関連するという前提だった為、猫の件を念頭に置いていた冥には話が分からない。
顔を上げ御剣を見つめ返すと、更に繰り返す。

「…今夜は、生でメイの中に出したいと言ったのだ。」

御剣は眉間に皺をよせた厳しい表情のまま、顔を真っ赤にしている。
ゆっくりとした口調で言い聞かされて、ようやく思い至った冥は全身の血液が沸騰したような感じを覚えた。

「貴方、」ビシ!
「自分が」ビシ!
「何を」ビシ!
「言ってるか」ビシ!
「理解してるの?!」ビシ!
「この、変態ッ!!」ビシ!

どこから取り出したのか、一言おきに振り回されるムチに、御剣はソファの周りをぴょんぴょん跳ね、器用に避けながら弁解する。

「ら、来年度は二人の負担が減ることが分かったのだ!」
「わ!危ないっ!…だ、だからっ、私は、そろそろ……子供が欲しいと思って…。」

冥のムチがピタリと止む。
血が繋がった家族のいない御剣には、新しい家族を望むことを口にするのが何故か憚られた。
照れ隠しもあり、つい御剣らしくない遠回しで妙な表現になったことを冥は知る。

急に力が抜けた冥は、その場にペタリと座り込んだ。
御剣は冥の隣に膝をつくと、そのまま冥の肩を抱きよせる。

「猫を飼うのは、子供が成長して様々な免疫がついた後にしないか?」
耳元で囁かれて、体が熱くなる。
「…バカ。」
ようやく出た言葉はか細く――。
冥は耳まで赤くしながら、コクリと頷いた。
最終更新:2010年03月17日 15:56