はじめに
現代文の入試問題で問われている力は一言で言ってしまえば「アカデミック・リテラシー」です。
「
現代文とはどのような科目か」を熟読して頂ければ、このことはよくわかるかと思います。
外在的前提を排除して、テクストそのものを内在的に読み、出題者の要求に答えることが求められます。
たしかに広く言えば「読解力」と片付けられますが、古文、漢文、英語だってそれは一緒です。古文・漢文は日本文化の深い理解や素養がどれだけあるか、英語であれば外国語がいかに運用できるかを試すのが本来の目的です。
では、この「アカデミック・リテラシー」なるものはどのような訓練をしていけば身に付くものなのでしょうか。
もちろん、「たくさん読み、たくさん書く」に越したことはありませんが、どんなことを意識して行けばいいのか解像度を上げて説明していきたいと思います。
これがが分かれば、読解科目の中で最も高度なレベルを問うている現代文の得点力が向上するわけですから、そのスキルは古文、漢文、英語の読解にも役立つことに間違いありません。
そういったことを意識しながら、このページに書かれている内容を頭に入れていってください。
文章を読めるようにするための第一歩=一文読解
まずは一文の読解をしっかりできるようにしましょう。なんともなく読めてしまう簡単な文は素直にそのまま読めばいいですが、問題は難解な文の読解です。そのやり方について話していきます。
STEP1 文を認識する
まずは、文章を読みながら「文」を認識するという過程がはじめにあります。最後が句点で終わればそこで一文は完結しますから、そこで区切ってまずは一文を認識してください。
STEP2 述語を押さえる
次いで、よほど変な文(感嘆文など)でなければ、述語(なんだ、どんなだ、どうする)が存在しますから、それを押さえてください。
STEP3 主語―述語の対応関係を押さえる
そして、述語に対応する主語を確認することによって、「何が→なんだ、どんなだ、どうする」という繋がりを把握していきます。述語を見たら「何が?」と常に突っ込む習慣づくりが大切になります。述語というのは多くの場合、その一文における主題を表していることが多いので、主語が分からずに文を読解するのはかなり致命的です。
なお、主語は省略されることがあるのがネックです。しかし、省略は「言わなくても分かる」から行われることなので、前にさかのぼれば明確になることがほとんどです。
STEP4 修飾語を押さえる
主語と述語が分かったら、今度はそれ以外の要素を押さえていきます。その多くは「修飾語」と言って、簡単に言うと、主語と述語という主要素に対する「飾り」(アクセサリー)です。
ですから、すごくシンプルに言えば、文を読んだら、まず「何がどうした?」を押さえ、そこに足していくように「何を?」「どうやって?」といった要素を押さえていくことになります。
STEP5 分からないことを明確化する
これまでのSTEP1~4はあくまで「文法的処理」「文構造理解」という、一文中のロジック(論理)を押さえる作業であり、意味を理解するところまでは届いていません。
ですから、最後に意味を理解してください。
しかしながら、一文の意味を100%理解しきれるかといえば、そうとも限りません。おおむね、以下のような問題が生じます。
- 言葉の意味が分からない、知らない言葉がある(未知語)
- 解釈に困る表現がある。この人はどういうニュアンスでこの言葉を使っているのだろう・・・(比喩など)
- 難しくて、イメージが湧かない(抽象的)
- 「それって何?どういうこと?」という内容がある(入れ物表現)
- なんでこの話が出てきたのか?が分からない(文の役割が分からない)
これを自覚しておくことが大事なんですね。
別に、分からないことがあるのはいいんです。しかし、国語が苦手な人って、その分からなさを自覚できていない(「何が分からないのか分からない・・」)という人が多いんです。ですから、訓練を通じて分からなさを自覚し言語化する癖をつけてください。文章を客観的かつ内在的に読むとはそういうことです。
未知語であればもちろん覚えておく必要がありますから、普段から勉強としてそれをやればいいです。
一方で、「一文だけでは分からないが、他の文を読むことで理解できる」ことも多々あります。
しかし、あなたが分からなさを自覚しなければ、その「分からない!!」を解決してくれる文に出会ったときに、全くもって反応ができません。せっかくあなたの疑問に答えてくれているのに、スルーしてしまうのです。
だから、文章を読みながら「これってなんだろう?」「どういうことを言っているんだろう?」と問いかけていってください。筆者・作者と対話していく姿勢が大切なのです。(入試問題を解くとなった場合、出題者とも対話することになります。複数の人間を味方につけて読解できるというのは非常にありがたいことですね。ですが、あくまで今ここで説明しているのは、入試問題の話ではなく、設問のない真っ白な「文章」の読解の話です。)
これを繰り返していくことで、文章全体の理解もできるようになっていくわけです。
一文の積み重ねとしての文章を読む=文章読解
次いで今度は文章をどう理解するかという話に移ります。
ここで言っている「文章」というのは、文が複数積み重なったものです。「一つの段落全体」だったり、あるいは入試問題として切り取られた文章全体だったりします。
文章を理解するとは、具体的には
~説明的文章の場合~
- 一つの段落、ないしは複数の段落の内容をまとめる 例:「この段落で言いたいのはこういうことだ」
- 文と文の関係を押さえる 例:「この文は、前の文を言い換えただけだ!」
- その段落の役割を把握する 例:「この段落は、○○という内容の具体例を説明しているだけだ」
- 段落間の関係を押さえる 例:「この段落は、冒頭で述べた問題提起に対する答えをまとめた段落だ」
- 文章全体の構造を把握する 例:「この文章は、AについてBと比較しながら、その重要性を説いている」
~文学的文章の場合~
- その文の役割を押さえる(その文が何のために存在するか?) 例:「この文における情景描写は主人公の心情を示唆している」
- 場面の変化を押さえる 例:「ここまではこうだったが、ここから状況が変わってこうなってるなあ」
- 伏線を押さえる 例:「ここでのこの内容が伏線となってこの次の展開につながってるな」
- 各描写を総合して主題をとらえる 例:「結局全体を通して一貫しているテーマはこれだな」
こうした作業を指します。例もつけたので、なんとなくイメージは湧くかもしれません。
一文ごとの読解だけやっていても全体は見えてきません。だからこそ、このような文と文の関係や段落と段落の関係を押さえ、マクロに見たときの論理展開を追跡していく作業が必要になっていきます。時には一度読んだ部分をもう一度読み直す(返り読み)こともあるでしょうが、全然構いません。むしろそうやって「全体として」どうなっているかに目を向ける視点こそが、読解能力を飛躍的に上げるコツなんです。文章の展開の仕方はワンパターンなわけではなく、さまざまなパターンがありますから、これは実際に問題を大量にこなすなかで体感していくしかありません。そこで過去問演習がポイントになってくるわけです。
一つのパターンにこだわらない
実際にたくさんの文章にあたれば分かることですが、文章のパターンは千差万別です。それでも塾や予備校の先生たちは、「いくらやっても成績が上がらない」と嘆かれがちなこの現代文という科目に少しでも希望をもたせるべく、さまざまな読解テクニックを提示します。しかし、「それがすべてではないんだ」ということを常に念頭においてほしいです。
実際僕が塾に通っていたとき、「二項対立の先生」とみんなから呼ばれていた国語の先生がいました。その先生は「すべての評論文は二項対立(2つのものを比較して論じる手法)で解ける」とおっしゃいました。しかし、その後、二項対立で解けない問題や捌き切れない選択肢を無限に見てきました。あー、この先生は二項対立で解ける都合のいい問題だけ授業で扱っていたんだな・・と思いました。
ですから、たくさんの文章や入試問題にあたって、経験値を積み、「こういうパターンもあればああいうパターンもある」と自分で実際に体感してください。
結局のところ、入試本番で高得点をとる人って、そういう「体感」をもてている人です。直前になってテクニックを詰め込んで伸びる科目ではありません、残念ながら。
演習を通じてスキーマを増やす意識
これまではロジックの話を中心にしてきました。ですから、「関係」「役割」「構造」といった言葉がたくさん出てきましたね。
しかし、ロジックを押さえただけで文章理解は100%になりません。
文章を理解することは、最終的にはそこに書かれていることの意味を理解することであるはずです。
「なるほど!」「分かった!」「読みやすい!!」という感覚が得られることが肝心です。
そこで、大切にしてほしいのが「スキーマ」です。この言葉を初めて聞く人も多いでしょう。
スキーマとは認知心理学の用語で、簡単に言えば「枠組み的な知識」のことです。スキーマを増やすとは、具体的には、
1. 知っている語彙を増やしていく
2. 既知の論点を増やしていく
ことに他なりません。
これらはいずれにしても問題を解くことによって身につきます。
スキーマが増えていくことによって、筆者が伝えようとしていることを誤解なく押さえられるようになります。
誤解してもらいたくないのが、これは、背景知識を強化することと必ずしも一致しません。
もちろん、背景知識が多いに越したことはありませんが、あくまで我々は文章を客観的かつ内在的に文章を読まなければなりません。
外在的前提を増やしてしまえば、文章との距離がどんどん近くなっていき、主観や私的な解釈が入り込んでいくリスクもあります。それは出題者=大学教授の望むことではありません。
(対面での会話なんかでもあるあるなのですが、人って不思議なもので、手持ちの知識が増えれば増えるほど、わかった気になって、相手の言っていることに傾聴しなくなるんですよ。そのせいで相手の話が全然吸収できていないなんてことはよくあることです)
あくまで、内在的に文章を読むうえで必要な意味の汲み取り――これに必要な最低限の概念を知っておこうという話です。
「最低限ってどれくらい?」と思った人もいると思うので、基準を言うならば、
- 専門用語や学術用語を叩き込むではなく、一般的な熟語を知っておく
- よくある主張や結論を覚え込むのではなく、頻出の話題や論点に触れておく
という感じです。伝わりますか。
ですから、ロジックの把握は得意なのに、「内容が全然頭に入ってこない」だったり、誤読してしまったりという状態に陥る人は、スキーマのインプットを意識すべきですし、
現代文の勉強は、問題演習を通じて、「自分の誤読に気付き、修正していく」ことを繰り返すなかでスキーマを獲得していくこと
と心得てもいいくらいです。スポーツと一緒です。
予備校に通っている人で本当に多いのが、「解説を聞けばわかるんだけど、実際に解くとなると・・・」という言い訳をしてしまう人です。おそらく授業以外の時間での問題演習が圧倒的に足りていないです。
これだけ「演習」「訓練」の重要性を伝えれば、おそらく大丈夫でしょうが、世の中には「キーワード集」(重要語がまとまっているもの)なるものがあって、皆さんの中には時々、それを英単語帳などと同じように完璧にやりこもうとする人がいます。
はっきり言って、かなり無謀です。
たしかに英単語であれば「accept→受け入れる」というように、一対一で対応させて答えられれば十分でしょう。しかし、現代文の場合は、「相対→絶対の反対語で、こういう文脈でよく出てくる」というように頭に入っていなければならず、意味が答えられれば十分という感じではありません。その言葉のバックグラウンドにあるものをイメージできたり、その言葉を実際に使いこなせたりすることが鍵になるため、一対一で答えるようなテストを繰り返すことにあまり僕は意味を感じません。
ですから、キーワード集を買うこと自体は否定しないのですが、あくまで「リサーチ」するための辞書として使ってほしいものです。
あくまで実践的に文章に触れ続けることを忘れないでください。
現代文の学習の重点は、どこまでいっても「読解の訓練」であるべきです。
ですから、キーワード集を何周もしようとしている人を見かけると、可哀想だなと率直に思います。本音の本音を言うなら、今の時代、ネットで調べれば言葉の意味なんてすぐ分かるのですから、キーワード集が必需品とも思いません。それでも、頻出の言葉をまとめた本があったほうが安心感がある、というのであれば買っておいて損はないですが、それより大事なのは、たくさんの文章に触れて、たくさんの表現や文章構成パターンに慣れて、たくさんの価値観や世界観を手に入れることのほうが大切だと僕は思っています。しつこいかもしれませんが、徹底的に訓練してくださいね。
なお、語彙学習については
語彙の学習のところでもっと詳しく述べているので、是非参照してください。
数学に取り組もう
これまで、文章を読むという作業がどんな作業なのかを明かしてきました。その中で、書かれていることの意味を理解するうえでスキーマが必要なことも述べておきました。
最後に、バランスをとってほしいという意味で、改めてロジックの重要性を話します。
何度も言いますが、出題者=大学教授が要求しているのはアカデミック・リテラシーであって、知識の豊富さではありません。
一文を読む作業も、その積み重ねとしての文章を理解する作業も、結局のところ、複雑なものを単純化=構造化=モデル化する作業にほかなりません。
そして、実は、この作業を円滑にこなせるようにして論理的思考力を身につけることに特化した科目が、「数学」なんです。
読解力を身につけるためには数学力が必要だ、とまでは言いませんが、読解力を身につけるためには論理的思考力が不可欠です。
ロジックに強くなるなら論理学の本を読み漁るのもいいかもしれませんが、高校生にとってはややオーバーワークです。
また、本(新書の評論)を沢山買って、読んで、筆者の意見を整理したり、作品の主題を想像してみたりすることでも意識次第で論理的思考力は十分身につくものと思いますが、「ただ本を読んでいるだけ」の人間になってしまうリスクもなくはないです。
実際、皆さんの周りにいた読書好きの同級生の子はどうでしたか?読むスピードは速いのでしょうが、解けるかといったら話は別ですよね。
一概に言えることではありませんが、読書習慣のある人でも数学ができない人はモデル化が苦手だという感覚が僕にはあります。内容をコンパクトに整理できなかったり要点を押さえられなかったりするとなると、問題を解くときに支障が出ます。
そこで、ダイレクトに論理的思考力を身につけ、ロジックに強くなる方法として、数学の応用問題を解くことをおすすめします。
「応用問題」とあえて書いたのは、単純な計算問題ばかり解いても論理的思考力を身につけるには十分とは言えないからです。(ケアレスミスをしない「注意力」は身に付くかもしれませんが・・・)
僕がおすすめするのは、図形問題です。
もしよければ、「
問題チャレンジ」にて毎週のように中学レベルの知識で解ける図形問題を扱っているので、是非チャレンジしてみてください!
論理的思考力を身につけ、文理の枠を超えて学力を高めていきましょう。
上級者向けの学習
入試問題を解く際においてはやはり「大学教授」の立場を知っておくことが重要です。
入試問題に出される文章を書いているのも基本的には大学の教授ですし、そこから問題を作るのも大学教授です。
そういう大学教授の立場を知る上で一つ役に立つのが、
「哲学の誤読 —入試現代文で哲学する!」(入不二基義)
という参考書です。これは、大学教授が現代文の問題を解いて解説しているものです。
これを知ると、世間一般の予備校講師がやるような「テクニカルな解き方」がいかにくだらないかがよく分かるかと思います。(もちろん、テクニックでもそれなりに点は取れるのですが。)
大学教授は、テクニックなどは使わずに、「この筆者は何が言いたいんだ」とひたすら考え、筆者の書いた文章に真摯に向き合って文章を読解しています。
そういった姿勢の重要性を確認出来る点でもこの本は優れています。
あとは、哲学書などの難しい本をたくさん読んで教養を身に付けていけば、東大であれ京大であれ、どんな入試問題であっても読みやすくなると思います。
ここまで達する受験生はほんのわずかですが、一応、説明をしておきます。
まず、現代文というのはその科目名からも分かるように「現代の文章」なんです。
ですから、今現在流行している研究というのが入試問題に反映されやすいんです。
(大学教授側も、自分の研究分野をアピールするための道具として入試問題というものを作っているんですよ。)
そのため、最先端の研究がどんなものなのか、最近はどんな論が流行しているのか、について知っておくこともかなり有効です。
ではどういう本がいいかといえば、基本的には、講談社選書メチエのものがオススメです。
「選書」は入試問題として選ばれることが多く、事実、(京大はちょっと違いますが)東大の最近の問題を見てみると、選書の本が出されるケースがかなり多いんですよね。
予備校講師が模試を作るときも、選書から問題を探す、ということが結構あります。
ですから、そういうことを意識しておくと、本を選ぶのがやりやすくなるかなと思います。
いずれにせよ、解き方云々が完成してきたら、こうやって片っ端からたくさんの難しい本を読んで教養をつけておけば、もう敵はどこにもいない状態になります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
なにか特別なテクニックを提示してきたわけでもありませんが、文章を読むのに必要なことのすべてを書き並べたつもりです。まとめるなら、
{1. 一文をまずはきちんと分析的に読む。
2. 次いで文と文の関係なども押さえながら段落全体や文章全体に意識を向けてマクロによむ。
3. たくさんの文章(入試問題の過去問で可)を読み、ロジックに強くなる&スキーマを増やす。
4. その都度分からない言葉をリサーチすることで、スキーマを獲得していく。
5. ロジック強化の方法として、数学の応用問題を解くのもあり。}
となります。
結局は、読解力というのは知的に負荷を与えながらゆっくり育っていくものなのです。こうした蓄積がないから、解く方法みたいなものに頼るしかなくなってしまいます。
是非、本物の読解力を身につけるように、地道にコツコツと取り組んでいってくださいね!!
最終更新:2023年12月21日 03:14