はじめに

いよいよ皆さんが大好きで仕方ない「解き方」の話が始まります。
試験の冊子が配布され、試験が開始し、最初のページを開けてからあなたがとるべき行動について具体的にまとめたのがこのページになります。
現代文を解くにあたって必要なことがほぼ網羅されていますから、ここに書かれていることを頭に入れて、是非過去問演習をこなしていってください。

書き込みに関して

本文中に書き込むことは全否定しません。特に、練習段階においては、解答根拠に線引きしておく作業は自分の解答プロセスを見直すのに役立ちます。ですが、実戦的なことを考えるならば、あくまで我々の目的は試験問題を解くことですから、時間との勝負であることを常に忘れてはいけません。したがって、
  • 重要な文に線を引く → 特に長い文の場合、線を引くだけでも時間を奪われる
  • 段落ごとに要約し、空いているスペースに書く → 時間がもったいない
ということになります。書き込むことの時間を割くことで、読解のリズムが崩れてしまうわけです。そこで、もし書くという作業をしたいというのであれば、
  • 重要なキーワード(内容語)や、指示語や接続語(機能語)に印をつける
  • 重要な文の頭に◎をつけるか、行頭に「↓」と入れておく
  • 例示の部分はカッコでくくる
  • セリフや心内文にカギカッコをつける
  • 図式化し、空いているスペースに書く
といった、時間のかからない書き込みをすることをおすすめします。
文単位ではなくあくまで単語単位のチェックにすることによって、本文の内容を単純化してとらえることができます。
ただし、「逆接なら三角、指示語なら四角・・・」というふうに印の種類をいくつもつくる人がたまにいますが、脳に負荷がかかるうえに、印をつけることが目的化して本文内容に集中できない恐れもあり、個人的にはおすすめしません。
なんのために印をつけるのかが大切です。
あくまで、本文の情報構造を整理するために印をつけたくてつけるのです。そのことを忘れないでください。

入試現代文の問題を解く際の大原則

「答えは必ず本文中にある」という言葉を聞いたことある人は皆さんの中にも多いことでしょう。しかし、明確に答えが本文中にあり、それを抜き出すような感覚でどの問題も正解できるとすれば、入試問題としての難易度は下がってしまいます。
ここは「問題の本質」という話になってしまいますが、問題というのは「手がかり」と「雑音」で出来ています。すなわち、
  • 答えがすぐに悟られないように「手がかり(ヒント)」を与える
  • 「雑音」を増やして手がかりとなるものが見つかりにくいようにする
このような仕掛けをもったのが「問題」(クイズやなぞなぞといった類のものも含む)なのです。
ですから、皆さんは
本文中の手がかりをもとに答える
このように覚えておいてもらいたいものです。
本文中に答えがある、では語弊があります。

大半の問題は、本文の構造や論展開を分析する「情報整理」の問題に終始しています。
たしかに、時には想像によって解答のポイントを作り出すこともありますが、それでも「本文にこう書いてある。ということは・・・」と、本文の内容をもとに導き出して考えるのです。
=必ず本文中に「根拠」を探す、という姿勢を忘れないでください。

読み始めてから解き終えるまでの手順

やり方は色々あっていいでしょう。あくまで一例として紹介します。以下の内容をそのまま採用してもらっても構いませんし、あなた自身でアレンジしてもらっても構いません。大切なのは得点が最大化するやり方をあなた自身の中で確立することなのですから。
あくまで、どう解けばいいのかわからないという人のために一つのモデルを紹介させて頂きます。

①全体を俯瞰する → 1.傍線部の位置 2.書名と著者 3.設問
②頭から読む
③傍線部にぶつかったら設問内容を予測し、ポイントを整理する
④一通り読む
⑤改めて設問を確認し、ポイントを整理する
⑥全問題の解答を確定する

簡単に解説します。
まず①。例年通りの傾向や難易度であればいきなり読み出しても構わないのですが、念のため、大問全体を俯瞰する作業をここで行っておきます。傍線部の位置を把握し、どこに力点を置いて読めばいいか、一つの傍線部に対して守備範囲がどのくらいの広さになりそうなのか、などをイメージします。そして、書名を見てどんな分野の本なのかをイメージしたり、著者を見て知っている人であればイメージを膨らませます。最後に、設問を見て、変な問題がないかを確認します。
その上で、②実際に読み出します。ここで大事なのは、筆者の視点だけでなく出題者の視点も常にイメージしながら読み進めることです。筆者の「私はこう言いたいんだ」という声は大事ですが、それ以上に出題者の「今回はこんな文章を引っ張ってみたんだ。面白いから読んでほしい!」「筆者はこう言ってるんだけど、理解できそう?」「ここに傍線部を引いてみたから、このあたりは頑張って読み込んでほしい」という声にも耳を傾けてほしいです。となれば、冒頭部を読めば「あー、この話題の文章を引っ張ってきて読ませてきたのね」と思うし、ラストを読み切れば「なるほど、この結論で切れば文章全体のまとまりは綺麗だね」と思える。出題者がどんな気持ちでその文章を見せているのか。どんな気持ちで設問を解かせようとしているのか。――そういえば、ここで思い出しました。東進の地理科の某先生が言っていた擬人法的な言葉を引用しますが、「問題は解かれたがっている」。解かれたいという出題者の視点を常に忘れないでくださいね。
そして③。僕が今回提示したモデルが、一般的な方法論と最も異なるのはここでしょう。一般的には「全文読んでから設問に入る(=読んでから解く)」ないしは「傍線部にぶつかるたびに解いていく(=読みながら解く)」というやり方が推奨されます。
ですが、
  • 読んでから解く場合→読むことが目的化してしまうリスク、すべてを頭に入れることで脳(の記憶容量)がパンクするリスク
  • 読みながら解く場合→本文と設問を何往復もし、無駄な時間が生まれてしまうリスク、設問設置箇所の近辺では解決できないリスク
というように両方にリスクやデメリットがあります。
そこで、両者を中和したのが、③のやり方なのです。すなわち、傍線問題の場合、だいたいの設問は傍線部の「内容説明」もしくは「理由説明」に終始するわけですから、いちいち設問に行きません。このことでページをめくる手間をなくし、本文の読解に集中します。そのうえで、傍線部をそのまま通過するわけでもなく、しっかりその都度、近辺のポイントの整理も行い、これを全傍線部・全空欄に対して行っていきます。
「解くことを一旦保留して全部読み通してしまうなら、結局、整理したポイントを忘れてしまうではないか」と突っ込んでくる人もいるでしょうが、ページをめくったり実際に解答する手間が省かれた分、スピード感は増すはずですし、一通り読み切るまでの時間は確実に短縮されます。
僕自身はもともと、林修の影響で「読みながら解く」でやっていましたが、上記のモデルを思いついてからは、共通テストの第1問であれば10分以内に全文を読み切る(なおかつ各設問で問われるであろうポイントの整理も大体終わっている)状態が作れるようになりました。
部分理解と全体理解をバランスよく組み合わせて解けますし、選択問題の判断スピードも明らかに上がりますから、このやり方は大変おすすめです。
このやり方で解説している授業を自分は聴いたことがないので、いつか動画として作りたいと思っています。
もちろん、何度も言いますが、これが絶対だ、とは言っていませんから、「傍線部にぶつかるたびに解いて、暫定的な解答を出していく」というやり方が合っている人はそのやり方を貫いて頂いて構いません。

解答手順の3ステップ

設問を確認した後の解く流れは色々あっていいと思います。
ですが、上記の大原則を押さえるならば、少なくとも、
①設問要求の確認:出題者の意図の把握
②ポイント拾い
③選択肢チェック(必要条件の積み上げ)or記述(十分条件の積み上げ)
この3つのプロセスを踏むことになります。
まず①ですが、「題意は神様」とも言ったりするくらい、どの科目にも共通する最重要ステップです。
記号問題でない場合は、付帯条件として
  • 「~字で」「~文で」「~行で」(それぞれ字数、文の数、行の数)
  • 「文中のことばを使って」
  • 「書き抜きなさい」「書きなさい」(書き抜きかどうか)
  • 「ここより前(後)の」(範囲)
記号問題だとしても、
  • 「適当でないもの」「合わないもの」
といったものを押さえないと思わぬミスをすることもあるでしょう。
次いで②です。傍線問題であれば傍線部を起点として、指示語や接続語やキーワードに頼りながら本文の情報構造を整理しつつ、芋づる式にポイントを拾い上げることになります。空欄問題であれば空欄自体は分析できないにせよ、これまた近辺の内容を整理するなかで空欄に入る内容についてある程度の予測を立てていくことになります。いずれにせよ、設問設置箇所(傍線部または空欄)を起点としてそこから放射状に視野を広げていき、攻めていくことになります。
また、内容一致問題の場合も、出題者の意図としては「これまでの設問で問うていない部分を後片付け的に問いたい」が本音なのですから、どの箇所が選択肢として採用されそうなのかを予め検討することは可能なはずです。ですから、それまでの傍線問題や空欄問題を解くときに、各設問が本文のどの範囲の理解を問うているのか、すなわち守備範囲の明確化をしておくことが肝要です。
そして最後に③です。「必要条件」「十分条件」という数学の用語を用いましたが、詳しくは次の項目「正解とはなにか」を読んでもらえればよく分かると思います。
いずれにせよ、設問要求を見るというのが一番大事になってきます。そこを踏み外した瞬間すべてが崩壊する、くらいに思っておいてもなんら問題ありません。
そのうえで、それでもポイントが拾えなかった場合は、実力不足と考え、②を飛ばして③に突入するのもやむを得ません。ですが、選択問題における「消去法」という解き方は次善の策であり、おすすめはできません。

正解とはなにか

解答を出すにあたって、選択問題にせよ記述問題にせよ、「そもそも正解とはなにか」ということについて考えておくことが必要になります。
正解とは、「設問の要求に必要十分に答えたもの」です。
ここで、数学で学習する「必要条件と十分条件」という概念を取り入れながら、入試現代文における「正解」なるものについての理解を深めていきましょう。
「AはBであるための必要条件でもあり十分条件でもある」と言った場合、AとBは「同値」であると言います。Aがあなたの解答でBが出題者(=採点者)の用意した解答であるならば、この同値状態をつくることが正解に至るということです。
しかしながら、これができれば苦労しません。
例えば、共通テストの問題で、解答の選択肢に書かれていることを完璧に予想できれば苦労しませんし、二次試験の記述問題で、過不足のない満点答案がつくれるのであれば苦労することはありません。
実際には、あなたの解答=Aが不完全な状態というのが現実的に何度も起こりうるわけです。
そこで、「Aが必要条件である」というケースと「Aが十分条件である」というケースについてそれぞれ考えてみましょう。
  • 「Aが必要条件である」(必要条件の選択肢、必要条件の記述解答とは?)
  • 「Aが十分条件である」(十分条件の選択肢、十分条件の記述解答とは?)
必要条件とは、文字通り「必要な条件」のことですが、より厳密に言うなら、「必要なものは含んでいるがそれだけで終わっているもの」です。例えば、「アジア人であることは、日本人であるために必要だ」と言ったりしますが、この場合、「アジア人である」ことは日本人であるための絶対条件ですが、必ずしも日本人であることに直結しません。中国人は?韓国人は?と反例が生じます。日本人であるためには、他の条件も兼ね備える必要があります。例えば、そこで、「東アジアの人」「島国に住んでいる人」のように条件を足していくことによって、日本人と同値の状態が作られます。
これを現代文の選択肢に置き換えるならば、必要条件で終わっている選択肢とは、「必要なポイントは押さえているものの、他に余計な説明が入っているもの」ということになります。数学における「反例」が、現代文においては「解答から外れる要素」にあたります。
つまり、必要条件の選択肢や必要条件の記述解答というのは、「正解」という観点からすれば、欠陥を含む不完全なものだと言えます。
一方で、十分条件ですが、これは注意する必要があります。「それでもう十分な条件」と置き換えてしまう人がいますが、そのように完全無欠であると解釈してしまうと、必要十分条件であることと混同してしまいます。先ほどの例文をいじくるならば、「東京都民であることは、日本人であることの十分条件」なのですが、これは言い換えれば「東京都民である時点で、十分、日本人である」ということを意味します。しかし、包含関係をイメージすれば、日本人の中の一部として東京都民が含まれているわけですから、両者は完全な同値関係ではありません。十分条件って、日本語の響きからイメージしてみると全然十分ではないんですよね。
これは現代文の選択肢・記述答案で言えば、「正解に必要なポイントのうちの一部を押さえているだけで、他のポイントを押さえていないもの」となります。答案としては満点ではないため、「不十分」なのでしょうが、必要条件の場合と違って、誤りは一切含んでいない――そういう意味で「十分」と言っているのです。
ここで、選択問題と記述問題のそれぞれの対応方法や方針が明確になりました。それはすなわち、
選択問題=必要条件で選択肢を絞り込むことで正解にたどり着きやすくなる(時間が余れば、十分性〔=誤りを含んでいないかどうか〕も検討する。)
まずは核心を押さえている選択肢を見つけ、それ以外の選択肢を保留しておく。その選択肢がボツになったら他の選択肢を検討する。
記述問題=十分条件を最低限押さえることを意識し、そこに必要条件を加味して答案の質を上げていく。
いかがでしょうか。是非このようなことを意識して入試現代文の問題にチャレンジしてみてください。

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最終更新:2023年12月07日 11:42