社会科は役に立たない科目か?
社会科は、大きく分けると「地理」「歴史」「公民」に分類され、それぞれに学ぶべき理由があります。これを理解することで、根本の学ぶ姿勢が変わるため、知識の吸収率や理解度も格段と変わってくることでしょう。
地理が嫌いな人の多くは
「自分が住んでいない他地域のことを学んでも、生活にはなんも支障ないし・・・」
歴史が嫌いな人の多くは
「遠い昔のことを学んでも、今を生きるのに何も役立たないし・・・」
公民が嫌いな人の多くは
「政治や経済のことを学んでも、政治家になるわけでもないし・・・」
と考えがちです。しかし、本当にそうでしょうか?
このように考える人の多くは、地理という科目を「その地域の特徴をただ覚えるだけ」と考えています。
そのように暗記科目として考えると、たしかに、学ぶ意義が見出すせなくなってしまいます。
しかし、そこから一歩踏み出して、自分たちと繋ぎ合わせて考えることが大切です。
「水俣病」の具体例
具体例として、「水俣病」を取り上げてみます。
皆さんの中に水俣病にかかっている人はほとんどいないでしょう。歴史的に考えても、水俣病が流行した時期を生きていた人もいないでしょうし、地理的に見ても、発生した地域に住んでいる人はそう多くはないのではないでしょうか。
しかし、「水俣病」はすべての国民に関係があります。
あれはずいぶん前の話で、加害者側の会社(チッソ)、被害者、国だけの問題だと思うかもしれません。しかし、そんなことはありません。
まず、水俣病を引き起こした原因のチッソという会社がいます。もちろんチッソは加害者です。
ところが、事件が起きた当時、日本政府は、大切なものを作っているからとチッソの工場に規制をかけなかったのです。規制をかけるどころか、水俣病の存在を無視し続けました。
政府が水俣病を認めたときにはもう遅く、被害は拡大する一方でした。被害が拡大するにつれ、チッソは損害賠償を払えなくなってしまったのです。
もちろん、チッソは加害者ですから、被害者への損害賠償や、原因物質である水銀を取り除くための工事費用などを払わなければいけませんし、実際に今でも払い続けています。しかし、払いきれないために熊本県からお金を借りています。そして、お金のない熊本県は国から借りています。国にも責任があるから当然のことです。
そして、国は仕方がないから国民の税金をそのお金にあてているのです。
つまり、水俣病の後始末のために税金が使われている――ということは、遠い昔のことで、人によっては遠い地域のことかもしれない「水俣病」は、実は私たちにも関係があるのです。
このように一つの社会的事象を単に表側から見たり結果だけ覚えたりするのではなく、
- どのような地域的特性(役割)が関係しているのか
- どのような歴史的背景が関係しているのか
- どのような政治的・経済的な仕組みで成り立っているのか
といったことを深く考え、捉えるようにすることで、一つの社会的事象をさまざまな側面から理解できるようにしていくことが大切です。
社会に生きている以上は・・・
そもそも社会というは、「複数の人間によって形成されている場」です。簡単に言えば共同生活であり、人と関わっていかないと私たちは生きていくことができません。
自分以外の他人がいることによって、面倒な問題がたくさん起きます。いじめなどがわかりやすいでしょう。
しかし、それでも幸せな生活を送っていくためには、社会から逃れることはできません。社会に向き合っていくことが必要です。
そのためには、社会を知る必要があります。
それが、地理を学ぶ、歴史を学ぶ、公民を学ぶことの意義なのです。
「自分には関係ない」と思うようなことでも、皆さんが思っている以上に、皆さんの身近なところで深く関係していたりするのです。
現代社会にはさまざまな問題がありますが、いずれの社会的事象にも、「縦」(歴史的要素)と「横」(地理的要素)があり、その根底には「仕組み」「メカニズム」(公民的要素)があります。
出発点である過去を知り、他地域との繋がりを知り、その根底にある仕組みを知ることによって、物事に対して多角的な捉え方ができるようになります。すると、「今」起きている問題に対して適切な解決策を提示することができたり、なんらかの判断を迫られたときに適切に判断・対処していくことが可能になります。
それでも学ぶモチベーションが上がらない人のために
ここで、「現代社会」における問題の一例ということで、「
パレスチナ問題」を考えてみましょう。
今を生きる皆さんからすれば、戦争をしている国があるなんて理解できないでしょう。
しかし、飛行機で数時間移動して辿り着ける西アジアの地域で、現在進行形で戦争している国があると分かれば、「え?なんで?!」と思いませんか。
そして、「どことどこが戦争しているんだろう?」という事実は調べさえすればすぐに確認できるものの、「なんで戦争しているんだろう?」と普通の人なら感じます。
この「なんで?」という疑問を大切にしてほしいです。
これを追求していくと、必然的に過去を遡らざるを得ません。
この「遡る」探究心を大切にしてリサーチを続けていけば、少なくとも世界史への興味がまず出てくるのではないでしょうか。
興味のある方は、
パレスチナ問題のページを見てみてください。
通常、歴史は古い時代から順に学ぶことが多いですが、このページでは「遡る」という感覚で解説しています。
もし「遡り」で学習する方法に興味が湧いてきたら、しめたものです。(実際、歴史の入試問題を見てみると、古代よりも近現代のほうが出題数は多いので、近現代から学習を始めるのはかなりお得なのです。)
この点からしても、「今に視点を置いて遡って学習する」というのは非常に効率がいいのです。
そして、世界史を学べば必然的に地理を学ぶことにもなります。場合によっては日本史や政治経済の分野に触れることだってあるでしょう。
他科目との関連を意識する
最後にとても大切な話をしておきます。
それは、社会科は科目同士が関連し合っているということです。
- 地理の資料問題を解いてみると、横軸に年代をとったグラフはしばしば出てきます。つまり、歴史の知識は少なからず必要になってきます。
- 地理で国や地域の場所・名前をしっかり覚えておかないと、世界史の学習で苦戦します。
- 現代社会の学習においては、出発点である過去を知っておく、つまり当たり前に歴史の理解が役立ちます。
- 倫理に関しては、昔の歴史人物の思想を覚えることが多いため、ダイレクトに歴史(特に世界史)の知識が活かせます。
- 政治経済に関しては、歴史で学んだ知識があるからこそ現代の政治や経済のことが深く理解できますし、逆に、政治や経済についてここで深く学んだことが昔の政治や経済を理解するのにも役立ちます。
このように、いずれにしても、社会科はすべての科目がかなり密接に関連し合って構成されています。ですから、例えばですが「学校の授業において、受験科目じゃない科目の授業でもしっかり集中して受ける」という姿勢は大切だったりします。学習指導要領の改訂で「歴史総合」という科目が出来たのも、こうした事情を反映しています。
僕自身、受験科目以外の科目を軽視したがために、その知識を受験科目に活かせず苦戦している受験生をこれまでごまんと見てきました。
すべて、関係、繋がりがあるのです。
僕の塾「ChAiN」という名前もこういうところから実は来ています。
一見関係ないような地理的事象、歴史的事象であっても、その一つ一つにどんな意味・役割があって、国や世界全体とどう結びついているか。
この「結びつき」を理解することが社会科の学習の根底にあります。
是非そのことを意識して、今現在降りかかっている問題あるいはこれから訪れるであろう問題に対して適切な判断を下して解決策を考えることができる、その判断力を高めていけるようになってください。
最終更新:2023年12月13日 12:25