はじめに
このページでは、語彙をいかにして学習していくか、について考えていきます。
どの科目でもそうですが、特に現代文では過去問を軸にした学習が効果を絶大に発揮します。
逆に、過去問を置き去りにして、キーワード集や解法パターン集で理論ばかり手に入れても、頭でっかちになり得点力は向上しません。
ですから、一番いいのは、過去問を解く中で必要な語彙をインプットするというやり方です。
ですが、語彙を体系的に覚えてみるというやり方も否定はしていません。
いずれのやり方にも対応できるように、このページでは「現代文語彙」に関するすべてを網羅させて頂きました。
語彙学習の全体像
語彙学習の必要性
現代文の学習といったら「解き方を学ぶ」ことだと、考えている方が一定数いるようです。しかし、解き方を学んでも出来るようにならない人は意外といますし、そもそも「解き方を学ぶ前にやることがあるでしょ」と突っ込みたくなる人もいます。
確かに、我々の最終目的は、問題を「解く」ことです。しかし、「解ける」ためにはある程度「読める」ことが必要です。では、「読む」ためには何が必要なのでしょうか。読むために必要な基礎力を整理してみると、
① 知識力…漢字・語彙、背景知識の力
② 処理力…情報を素早く頭に入れる力
③ 整理力…論理関係を意識して読む力
この3つに尽きるかと思います。
文章中で(注がつくこともなく)筆者が当たり前のように使っている言葉を知っているのと知っていないのとでは、理解度も大きく違ってきます。だから、語彙学習が必要です。
そして、語彙学習には「読めるようになる」こと意外にもさまざまなメリットがあります。
① 漢字も覚えられる(=他教科の学習もしやすくなるはず)
② 現代文の文章が読みやすくなる(これは当然ですね。)
③ 語彙の問題(センター第2問の問1、私大の知識問題など)で簡単に正解出来る
④ 本文中の言葉を自分の言葉で凝縮することが出来るため、記述問題で有利
⑤ 漢文に出てくる頻出単語への理解も深まる
いかがでしょうか。こういうメリットを踏まえれば、「語彙を勉強しなきゃ」という気にもなるでしょう。では、どのような方法で語彙を学んでいけばいいのでしょうか。いかにしてボキャブラリーの量、そして質を充実させていけばいいのでしょうか。それについてこのページで完全に解説しきりたいと思っています。
覚え方の工夫
日本語の語彙は、英単語や古文単語以上に工夫して楽に覚えられます。
① 漢字1字1字の意味を押さえる
→いわゆる語源学習です。漢字の意味を覚えることで、未知語が出てきても対応しやすくなり
ます。
② 似た意味の語彙同士はグルーピングして覚える
→この授業では、グルーピングしたものを提示していきますから、この点は安心してください。
③ 似た語同士の違いをはっきり押さえる(英語の「語法」の学習と同様)
(例)峻別=はっきり区別する→これで「区別」と「峻別」の違いは明確。
→世の中には、全く同じ意味を持つ語が複数あることはありません。すべての語に違いがありま
す。それを強く意識することで、頭がスッキリしますよ。ただ、入試のための学習においては、厳密な違いを覚えるべきものと、そうでないものに分けて、違いを覚えるべきものだけ違いを認識すればよい。
④ 覚えやすい形で覚える
(例)謳歌=「楽しむ」→これで十分。「恵まれた幸せを、皆で大いに楽しみ喜び合うこと」という
辞書の定義をそのまま覚えるのはきつい。
→辞書の定義を丸暗記して言えるようにするよりも、その語のイメージや実際の使われ方を理
解することのほうが何倍も重要です。しかも、可能な限り、実際の文章に出てきた語にそのまま代入して意味が通るように覚えることが大切です。(上の例だと、「楽しむこと」ではなく「楽しむ」としています。これは、「謳歌」という語が形式的には名詞ではあるが実際には「謳歌する」という動詞形で使われるパターンが大半であることを意識してのことです。)無駄を省き、学問的な厳密性を追求しないことが、意外と重要です。
⑤ 具体例からイメージして覚える
(例)宗教=「キリスト教、仏教、イスラム教など」
→これは、いくつかのものをまとめた集合体となるような語にしか適用出来ませんが、とにかく
イメージが大事なのですから、こうやって具体例が思い浮かべられれば読解上は支障が出ません。
⑥ 実際に使ってみる
しっかりとインプットしていれば、X(旧Twitter)やブログなどで、習った語彙をどんどん使っていくことが可能です。自分の頭で表現していくことで、語彙に対する定着度が増すのは当然のことです。特にXは、自分の伝えたいことを140字という字数制限の中でどれだけ表現出来るかということを試されている場でもあるんです。語彙が豊富なことで、自分の主張をコンパクトに伝えることも可能になるわけですから、そういう意識のもと語彙のアウトプットをしていくのはかなり有効なことではないでしょうか?
今すぐ覚えて!
① 絶対・相対
絶対=「対を絶つ」=他と比較せずに捉える。
相対=他と比較して捉える。 ※「相対化」=批判的に捉える、冷静に捉える、となりやすい
(例)勉強量が多少増えても、他の受験生が自分以上に勉強していれば相対的に成績は下がる。
② 普遍・特殊
普遍=どこでも当てはまる
特殊=一部にしか当てはまらない
③ 一般・個別
一般=ほとんどに当てはまる(=普通)
個別=一部にしか当てはまらない(=特殊)
④ 客観・主観
客観=誰から見ても同じ見方
主観=その人だけの見方
⑤ 抽象・具体
抽象=まとめたもの
具体=詳しくしたもの
その他さまざまな対義語
- 直接(ダイレクト) ←→間接(間に挟む)
- 能動(自分からやる) ←→受動(受け身でやる)
- 需要(ほしい) ←→供給(あげる)
- 理性(頭で考える) ←→感性(心で感じる)
- 強制(無理やり) ←→任意(お任せ。やってもやらなくてもいい)
- 創造(オリジナル) ←→模倣(パクリ、コピー)
- 保守(伝統を守り、昔のままでいく)←→革新(伝統を変えて、新しいことをする)
- 帰納(具体的なものを抽象化)←→演繹(抽象的な原則を具体的な個々の現象に当てはめる)
- 偶然(たまたま) ←→必然(必ず同じ結果)
- 簡潔(シンプル) ←→冗長(長すぎ、複雑すぎ)
- 形式(うわべの形) ←→実質(本当の内容)
- 先天的(生まれつき) ←→後天的(生まれた後)
- 連続(つながっている) ←→断続(とぎれとぎれ)
- 斬新(新しく珍しい) ←→陳腐(ありふれている、どこにでもある)
- 理論(法則、理屈) ←→実践(実際にやってみる)
- 一義(一つの意味) ←→多義(さまざまな意味)
- 表層(見える部分) ←→深層(隠れている部分)
- 混沌(混ざったもの。カオス)←→秩序(整ったもの。コスモス)
- メジャー(有名) ←→マイナー(無名)
- グローバル(世界的) ←→ローカル(地方的)
- マクロ(広く見る。巨視的) ←→ミクロ(細かく見る。微視的)
語彙の学習
三木が2016年度に収録した「現代文基礎」という授業があります。
ここでは、語彙(+文法)を大量にインプットし、現代文の基礎体力を身につけることをゴールにしています。
この講義を受けることで、語彙に対して興味や親しみを持ちやすくなるでしょう。
受験期まで時間にも余裕のある人は、是非受講してみてください。
テキスト
解説動画
解説
弁証法とは、簡単に言えば「ジレンマを解決するための思考方法」である。例えば、母が2人の子ども(兄弟)に「今日のごはん何にする?」と言ったとき、兄は「カレー」、弟は「ラーメン」と答え、2人が対立したとする。しかし、ここで母が「カレーラーメン」という料理を作ってしまえば、2人の対立は収まるはずだ。まさにこれが「弁証法」なのである。
実は、我々講師側も、出来るだけ多くの生徒からの支持が得られるような授業を行うためにこの「弁証法」を用いている。例えば、現代文の授業においてある入試問題の解説をすることを考える。そのときに「この問題はAのやり方で解け!」と言ったとする。すると、ある生徒から「えー、Bのやり方のほうが効率良くないですか?」と言う。こういう状況が生まれると、その先生の「A」という解き方に賛成出来ない生徒からの支持は落ちてしまう。そこで、先生は次のように言えばいいのではないだろうか? ――「この問題は私はAのやり方で解きます。他の解き方もあっていいと思います。自分で自分の解き方を見つけていくことが現代文においては大事なのです!」――こう言ってあげれば、大半の生 徒から支持を受けることが可能になるのだ。そして、まさにここで行われているのは「弁証法」である。対立・矛盾し合う事柄をすべてひとまとめに「総合」し、対立・矛盾を解決するのである。そして一つ高い次元に上るのである。というわけで、弁証法を正確に定義すれば「二つの対立 / 矛盾する考えを「総合」して「より高い次元」の結論に至る思考方法」ということになるだろう。
これはおそらく、諸君が大学に入っていろんな考えを持った人と関わっていく際に心得ておくべき考え方の一つであろう。反対意見が出たときには「チャンス!」と思って耳を傾け、納得のいくまで議論をすることで、たまにジンテーゼが生まれ、それを繰り返していけば少しずつ自分の世界が広がるのだ。これが「弁証法」なのである。最近では、自分に不都合な意見に対して耳をふさぐ人が多いが、それではずっと自分の世界は小さいままなのである。
~疎外~
―― 出典:自分オリジナル(ネットの具体例)+Z会・大前本(定義=2つの意味)――
疎外とは、普通は「仲間外れになること」という意味であるが、実はもう1つ、「人間が自ら作り出したものに人間が支配されること」という意味もあり(この場合の「疎外」は「人間疎外」と置き換えても良い)、現代文では後者のほうがよく出てくる。例えば、工場で労働している人間が、部品のように(=人間らしさを失って)労働を強制させられている、という事態は、「人間が作り出した工場労働に、人間が支配される」ということを表している。
なお、各種参考書では、この「人間疎外」の説明の中に「人間性の喪失」を入れてしまっているものが多いが、これはあくまで、人間疎外によってもたらされる副次的なものであり、人間疎外そのものの説明とは言えないので(しかも、必ずしも人間性が失われるとは限らないため)、注意しよう。
~アイデンティティー・帰属意識~
―― 出典:自分オリジナル(1段落目)+大前本(化粧の話)――
「アイデンティティー」は英語で書くと「 identity 」である。そのためしばしば「自己同一性」という訳語が与えられる。砕けた言い方をすれば、「時間や環境が変化しようと、自分という存在は変わらない(「自分」はずっと 同じ 「自分」のままである)」ということなのだが、これだけ理解していてもなかなか現代文の読解には使えない。
「アイデンティティー」という言葉の意味は、主に次の4つの大別出来るだろう。(現代文で頻出と言えるのは、②と③である。)
①自分が自分であるという確信(自己同一性)
★② 自分らしさ
★③ 帰属意識
④存在意義(存在理由) (例)現代文講師が俺のアイデンティティだ。
順番に説明していこう。
まずは①について。これは、アイデンティティという言葉を学術用語として使い始めたエリクソン本来の用法であり、高校の「倫理」の授業ではこちらを中心に習うはずである。(「青年期の発達課題」を語るキーワードとして登場するはずだ。)ここでポイントとなるのは、以下の2点である。
1、他者とのかかわりのなかで獲得される
人間というのは面白いことに、自分のことを直接的に理解することが出来ないのである。よくよく考えてみれば、そもそも自分の「姿」すら見ることが出来ないだろう。鏡で見たって、左右対称に見えるので、正確には捉えられないのである。すると人間は何をするようになるのか。「自分」の存在をしっかり確認するために、自分を様々な手段で知覚しようとするのだ。このことについては、鷲田清一『身体、この遠きもの』を読めばよく分かる。実際に引用してみよう。
2、自身が時間的・空間的な連続性を保っているという感覚である
自分が過去から現在、そして未来に至るまで同じ自分である、そして家にいても学校にいても同じ自分である、という自己意識で、記号的に表現してしまえば、「A=A」という同一律(自同律)である。この自分は自分である、という、トートロジーとも言うべきものがアイデンティティなのである。
次に、②について。「自分らしさ」とは、「他の人にはなく、自分にしかないもの」ということである。要するに「独自性」ということだ。(この独自性 (uniqueness) は、同一性 (identity) とは異なるものである。①としっかり区別しよう。①で述べた自己同一性というのは「A=A」という同一律であったが、独自性の場合は、記号的に表現してしまえば、「A=かくかくしかじか」といったような、定義づけ、特徴づけのことを表している。)
諸君の中にも、中学生や高校生ぐらいの時期から「自分とは何か?」ということについて考えるようになったという人が多いだろう。人は何とかして「自分探し」をしようとするわけである。しかし最近では、(特に日本人に典型的なのだが)他者と同じように行動しようと考える人が増えている。例えば、LINEが流行ったら、LINEに興味がなくても「みんなやっているから」という理由でLINEをやるだろう。こういうふうにして周りに同化するようになると、自分の個性(その人にしかない魅力)がどんどん失われていき、自分の存在が分からなくなるという危機感に陥る。この状態を「アイデンティティー・クライシス」と言う。
そして、③について。「アイデンティティー」という言葉は、通常は、前述したように「自分らしさ」と訳されたり、あるいは「個性」と訳されたりする。しかし、もっと大切な訳がある。それが「帰属意識」という訳だ。「帰属意識」とは、「あるグループに属しているという意識」のことである。実は、自分らしさや個性というのは、帰属意識に支えられると言えるのだ。例えば、もし「世界でその人しかしない化粧」をしたら、それはただの変人であり、誰も「個性的」などとは呼ばないだろう。あくまで、化粧の仕方が大体共通している、ある1つのグループの中にいるその人が、その化粧の仕方を少しひねるなどすることによって、自分らしさや個性を生み出しているのだ。
~コスモロジー~
―― 出典:現代文たん(→ツイートの内容を大胆に咀嚼しましたが、合ってますかね。)――
コスモロジーとは、そのまま訳せば「宇宙論」、つまり「宇宙の捉え方」ということになるだろう。が、実際には、この言葉は比喩的な表現として扱われることが多く、「宇宙の捉え方」という意味よりもむしろ「世界の捉え方」=「世界観」という言葉で言い換えられる場合が多い。
~エートス~
―― 出典:ばじるさんの Skype での解説――
「エートス」は、もともと古代ギリシア語で「慣習」や「習俗」を意味する言葉であり、現代文では、「資本主義のエートス」「日本人のエートス」など、「ある社会や文化を特徴づける気風や精神性」という意味で用いられることが多い。具体例としては、大学の校風や会社の社風などが該当する。 社会や集団のなかで培われるもの であって、その点、個人的な習慣とは区別されるという点も確認しておくべきだ。
~フェティシズム~
―― 出典:大前本がメイン(ところどころ自分の言葉で咀嚼したり分かりやすい説明を追加したりした)――
フェティシズムは、しばしば「物神主義」とも置き換えられる。この四字熟語を見れば意味は自ずと分かるのではないだろうか。フェティシズムとは、「物」を「神」聖視する考え方のことである。例えば、恋人から指輪という物をもらったら、諸君はそれを神のごとく大切なものだと思うだろう。こういうふうに、「あるものに対して特別な思い入れを持つ考え方」がフェティシズムだと言っても良いだろう。
フェティシズムには、もう1つ、「人間の作ったものに人間が支配されること」という、「疎外」とほぼ近い意味もある。例えば「お金」という物を考えてみよう。諸君の中にも「お金が欲しくてしょうがない」と思っている人が多いことだろう。世の中を見渡してみても、やはりお金がある人とない人では生活の仕方が大きく異なっている。お金を大事に思うあまり、お金のために殺人を犯す人すらもいるのだ。これはまさしく、人間が、お金に対して思い入れを持ち続けるという「物神主義」に徹した結果であろう。このことをさらに掘り下げてみよう。そもそも、お金というのは本来、人間が作り出したものである。にもかかわらず、人間がお金に振り回されてしまっているのだ。このように、「本来、人間 が作り出したもの」であるにもかかわらず、逆に、それに支配されてしまうという事態を「フェティシズム」と呼ぶこともある。
最終更新:2023年12月14日 18:51