概要
高校に行かず大学は通信制、独学で東大経済学部教授になった著者が教える究極の勉強法が紹介されています。テーマ設定から資料収集、本の読み方、ノート・メモのとり方、成果のアウトプットまで自分一人でできる本格的な勉強のコツが身に付きます。
そういう意味では、どちらかというと、中高生向けというよりは学生、社会人など大人に向けて書かれた本です。学者・研究者になりたい人はもとより、教養を深めたい人、趣味を究めたい人、資格試験合格を目指す人、もう一度学び直したい人などといった知識欲・向学心溢れる人に向けた本と言えるでしょう。
ですが、中高生には全く役に立たないのかと言えば、そんなことはありません。勉強とは何か、という根本について書かれた非常にいい本です。たとえ中高生であっても、ここに書かれている根本を理解して勉強するのとしないのとでは、勉強への取り組み方や姿勢が大きく変わってくるものだと思います。
正解が一つではないような問いに対してどのようにアプローチすればよいか、を中心に説明した本だと言えます。
目次
『東大教授が教える独学勉強法』(柳川範之)
第1章 新しい「勉強」が必要とされる時代
なぜ人は勉強するのか?
勉強の本質は「考えること」
学問を身につけた人は、情報に振り回されない
答えのある問いから答えの無い問いへ
生き残るためには応用力と独創力を身につけよ
勉強は加工業、自分の中での”熟成”が大事
これからは自ら学び、自分の頭で考える時代
第2章 なぜ独学が、一番身につく勉強法なのか
独学のメリット
●最大のメリットは「自分のベース」で勉強できること
●自分の理解に合った教材を選べる
●すぐ人に聞けないから、自分で考えるクセがつく
●自分で自分を評価する力がつく
独学に向く人、向かない人
自分で勉強してみると人生の選択肢が広がる
第3章 勉強をはじめる前にやっておきたいこと
いきなり勉強してはいけない
まず、自分に合う勉強のコツを探そう
資格試験に落ち続けている人が陥りがちなパターン
勉強する前に、勉強する姿勢をつくる
つねに「自分がどう思うか、どう考えるか」
テーマの立て方・探し方
●一番簡単なテーマの探し方
●「何がわかっていないか」という視点
●学びたいことが浮かばない人へのアドバイス
目標の立て方・管理の仕方
●目標達成は3割でよしとする
●目標の意義は、進捗状況を自分なりに確認する点にある
●長期的な目標は「仮」の意識で
第4章 新しい分野に、どう取りかかり、学びを深めていくか
情報収集・資料収集について
●最初から集めすぎないのがコツ
●走りながら、その都度その都度探してくるイメージで
●まずはとっかかりの入門書を3冊買ってみよう
●どんな本を選ぶべきか迷ったときは
本の読み方
●本の中に正解を探さない
●入門書・概説書は2段ステップで読む
●わからない用語は無視、本の基本コンセプトをつかむ読み方を
●マーカーを引くより、繰り返し読んだほうが身につく
●著者の立場で「自分なりの答え」を考えていくトレーニング
ノート・メモについて
●私がノートを作らない理由
●思いついたアイディアなど断片的な情報はメモをとる
●要点はまとめない、要約もしない
第5章 学びを自分の中で熟成・加工し、成果をアウトプットする
専門書を読んでみよう
●専門書こそおもしろい
●著者とけんかしながら読む
学びを熟成させるプロセス
●「熟成」は勉強において一番大事な工程
●ものごとを「普遍化」させていく
●似たものを「関連づけて」いくことで、本質をとらえる
●学問と現実を関連づける能力「応用する力」をつける
●頭にいったん入れたことを「揺らしてみる」
●「自分はわかっていない」と感じる経験こそが大切
学びの成果をアウトプットする
●人に伝えようとすることで学びはさらに深まる
●自分の言葉で書く
●やさしく書く
●独学そのものが論文を書く良いトレーニングになる
受験勉強の観点から
受験勉強にも転用できる観点がいくつかあったので、まとめてみます。
①助走期間をつくる
勉強はいきなり始めるな、助走期間をつくれ、と著者は言っています。
なぜか? 自分に合わない勉強をダラダラと続けてしまうという「落とし穴」に陥ってしまうからです。
これは僕自身、本当にその通りだなと思いました。
世の中、「ただ勉強しているだけ」になっている受験生が多すぎます。
勉強する、机に向かうならみんなやっていますし、それだけでは差がつきません。
自分に合った勉強法をすることで理解の質を高めたり、スピードを上げて量をこなしたり、というのが重要なのです。
ここは本当に大事なところなので、著者の言葉をいくつか引用します。
「自分の頭のクセや考え方のクセ、理解のスピードやパターンは、自分にしかわかりません」
「たとえ、その分野でのバイブルと呼ばれているような本であっても、自分に合わなかったら潔く捨てて、自分に合うものを探すことです」
「準備期間のうちに、自分なりに試行錯誤をしながら、自分に合う本や勉強法を見つけ出してほしいと思います」
「残念ながら、世の中には自分の考え方のクセや理解のパターンに合わない本を、後世大事に読み続けたあげく、自信をなくしている人が多いのではないかと思います」
「本来はじっくりと時間をかけて理解するタイプなのに、ひたすら暗記に走ってしまう勉強法をしているというように、自分のタイプではない努力をしてもなかなか結果に結びついていきません」
「そうした落とし穴に陥らないためにも、『急がば回れ』という言葉もある通り、まず自分の頭のクセを見極める『助走期間』をとったうえで、自分に合う本なりテキストなり、勉強の仕方なりを探すのがいいと思います」
この最後の一文(太字にしました)にすべてが集約されています。
ですから、例えば今あなたが高校1年生・2年生であるというなら、高校3年生になるまでは「助走期間」でいいと僕は思っています。まずは目の前の学校の勉強を材料としながら、そこで高得点をとるために効率的な勉強法を編み出してほしいです。そして、余った時間で、1科目でも2科目でもいいから、共通テストや二次試験で点数をとるための受験勉強を本格的にやってみてください。
このときに大切なのは、はじめから勉強法を固定しないことです。完璧主義は不要です。ですから、本で勉強するという場合、参考書を買うよりは図書館で何冊か本を借りてみるほうがいいかもしれません。あるいは、動画で勉強するならYouTubeでいろんな授業動画を見てみるのもアリです。もちろん、本サイト(StudyPlace)のコンテンツを一通り確認してみるというのも手です。
そして自分が「これなら勉強しやすそうだ」と思うコンテンツを見つけたら集中的に学習してみてください。
苦痛だと感じたらすぐにやり方を変えてもらって結構です。
給食ではなくバイキング的なスタイルで構わないということです。
試行錯誤していくうちに、いいやり方が見つかってきます。
そのやり方の「確立」を、高校3年生になるまでに終わらせておいてほしいのです。
②ニ回読み
これについてはいろんな人が言っています。
『東大首席が教える超速「7回読み」勉強法』(山口真由)というのもあったりするくらいです。(
インプット法のページにまとめているので、興味のある方はどうぞ。)
いずれにしても、一回で完璧に理解しようとしない姿勢が大切です。
一回目は、枝葉の部分にはこだわらずにまずは読みきり、その学問や分野の「深さ」を認識することが大切です。
そして、一回目は「何が重要か」は分からないのですから、マーカーを引くなどはしません。
引くのは二回目以降。そうすることで本当に大事なポイントや勘所を押さえていくことができます。
二回目に関しては、おさらいすることはもちろんのこと、興味のあるところをより重点的に読み、時にはより批判的に読んでみる姿勢も大切です。
このようにして二段構えで読むことによって、理解を深めていきます。
③普遍化
学んだことを熟成させていくきっかけの一つとして、「普遍化」というのを著者は提唱しています。
そこには経済学者ならではの具体例として、17世紀のオランダで起きた
バブル経済を将来バブルが起きたときの対処に活かす、という具体例が書かれていました。
要するに、表面的な知識をただの知識で終わらせずに、それを他のものと関連付けていくということです。
そうすることで一つに事象を俯瞰して見れるようになり、本質が理解できるようになります。まさに「熟成」という感覚です。
「本や新聞を読んだり、テレビでニュースを見たりして、何か情報が入ってきたときに、それだけで終わらせないで、その周辺のことを少し考えるクセをつけることも『普遍化』には役に立ちます」
これはまさにその通りで、「周辺」を考える、というのは非常に大切なキーワードです。
そして、関連付けして物事を考えられるようになると、それはそのまま応用力となります。
これは実は次の「揺らす」にも繋がってきます。
④「揺らす」
これは本書の最後のほうに出てきた概念なのですが、とても面白かったです。
簡単に言うと、「揺らす」=応用問題が解けるかどうか確認すること、です。
(実際には、「思考実験」という言葉を使ってもう少し厳密に定義されていますが。)
これはすごく大切なことです。
受験勉強において、単語帳、参考書、問題集は誰もがやります。
しかし、それに夢中で、過去問など「本番に相当するもの」に一切触れていないという人は結構います。
これは非常にもったいないなあと僕は思います。
せっかく一定の量、勉強をこなしたのですから、それならば、「その基本的知識でどれだけ応用問題に対処できるか?」を定期的に確認すべきなのです。
ですから、「過去問(赤本)は常に横に置く」というのは非常に有効です。
何回揺らすことが出来たか、が受験勉強においては鍵になってきます。
最終更新:2024年01月09日 04:06