はじめに

さて、入試現代文の問題をいかに解くか、ということについてここからは学んでいきましょう。
主に大学受験生向けに書いていますが、中学入試や高校入試を解く際にもやり方は変わりません。問題の作られ方も一緒です。
まず出題者は、問題をつくる際、入試の素材として適切な本を探してきます。そして、試験時間から鑑みて、適切な分量で出題でいそうな箇所を探してきて、切り取ってきます。最後に、その文章を素材にして問題を設置していきます。
この、設置された問題のことを「設問」といいます。
多くの問題は、文章全体ではなく、部分の理解を問うています。そして、その問い方の二大パターンが「傍線問題」と「空欄問題」です。このページでは、「傍線問題」についてお話していきます。
といっても、ここでお話することは「解き方」というたいそうなものではありません。そもそも、どう解くかなんて人それぞれで、確固とした解き方がはじめから存在することはありませんし、大学教授がそういうものを把握しているとは到底思えません。(記述問題の答え方における一定の慣習みたいなものはあるでしょうが。)
ですから、あくまで出題者の視点に立って、「こういうふうに問題が作られているんだよ」ということをお伝えしていきます。出題者の「意図」というやつです。これさえ分かれば、あとはあなたの好きに解いていい(過去問演習を通じてあなた独自の解き方が固まってくればよい)のです。
おそらく、出題者目線で問題の作られ方を深く説明した本や参考書というのはそんなに多くはないでしょう。だからこそ、このページの存在意義があります。しっかり理解していってくださいね。

傍線部をなぜ設置するのか

そもそも、本文中に傍線部を設置する意図とは何でしょうか?
これに対する僕の答えは、「スキャニングの手間を省かせ、解釈に集中してほしいから」だと考えます。
どういうことか?
科目は変わりますが、共通テストの英語の問題を見てみてください。下線を引いて問うような問題がほとんどないことに気付きます。「~について書かれたものとして正しいものを選べ」「第○段落に基づくと、~について正しいものはどれか」など、内容の一致・不一致を問うものが多いです。
同じ読解科目なのにこのように差が出ることの意味が分かりますか?
それは、文章のレベルが非常に高度であるということの証なのです。
文章のレベルを下げて傍線部を設置するとどうなるか、ためしにやってみましょうか。
 言葉の達人という人々が世の中にはたくさんいます。ものを書く人。小説家とか、詩人とか、歌人、俳人など、本当に読んでも聞いても心が沸き立つような言葉遣いをする人たちです。ジャンルは違いますけれど、落語家も言葉の達人です。

設問:傍線部とあるが、どのような人たちか、説明せよ。
どうですか?「言葉の達人」の説明は、一瞬で読み取れるのであって、このレベルの問題を大学入試で出すと全員正解になってしまいます。答えは、「心から沸き立つような言葉遣いをするもの書きの人たちのこと。」といった感じでしょうか。
もしこのレベルの文章で設問のレベルを上げるとすれば、傍線部を設置しないほうがいいのです。そうすると、例えば「言葉の達人」についての理解を問う設問として、例えばですが僕だったら以下のような抜き出し問題をつくります。
以下の空欄に入る言葉を本文中から抜き出せ。なお、AとBは3~5字、Cは15字前後で抜き出せ。
小説家や( A )に代表される「( B )」とは、( C )人たちのことである。
こんな具合です。もちろん答えは、A=落語家、B=言葉の達人、C=心が沸き立つような言葉遣いをする、となります。この設問をつくる際に僕が意識したのは、空欄を複数個つくったこと、指定字数を明確に何字と指定せずに字数幅をもたせたこと、「小説家」が出てきている文から外れた箇所にある「落語家」をあえて抜き出させる設問をつくったこと、などです。
つまり、設問の難度を上げるには、傍線部の設置を控えて、「探す手間」を増やさせるのがいいということになります。この探す作業のことを「スキャニング」と言います。(高校のリーディングの授業で習う言葉です。)
これが、簡単な素材に対して設問の難度を上げる方法です。
しかし、大学入試に出る文章はどうでしょうか?
  • そもそも一文一文が難しい(難解な表現が多いなど)
  • 一つのことを説明するためにさまざまな材料を付け加えて長くなる
といった特徴があります。この2つだけを見ると評論文に限定した話のように聞こえるかもしれませんが、小説だってそうですよ。「うれしい」「かなしい」といったシンプルな感情描写よりも、さまざまな事情が重なって主人公の心情が複雑に変化していくようなものが題材として選ばれます。
となると、「見つけてくる」「探してくる」では済まないんですよ。
探してくる負担がまず大きい上に、探したら探したでそこの解釈をすることで意味をはっきりさせたうえ、おまけに選択肢も選ばなければならない(or記述しなければならない)・・・。地獄です。
そのため、スキャニングの負担軽減の意味で、はじめから「ここについて考えてほしい」という意味を込めて傍線部を設置します。
これが傍線問題の設置意図です。
もっと言えば、入試問題は原則過去の問題から傾向が大きく変わらないようにつくりますから、傍線問題メインでつくってきたらならこれからもそうしないといけないのです。
ですから必然的に「傍線部が設置できるようなある程度難解な文章」を選んでくることになります。
とはいえ、そんな素材は山ほどあるわけではありません。適切な分量、適切な設問数で問題をつくらなければならないという物理的な制約だってあるのですから。
時には、簡単な箇所に傍線部を設置せざるを得ないときがあります。そういうときは、選択肢を難しく(紛らわしく)するといった調整方法もあるわけです。
そういう意味で、傾向にそこまで大きく縛られていない私立大の問題なんかは、やりたい放題です。傍線部を設置するのもしないのも自由で、空欄補充、内容一致、抜き出し問題、脱文補充、文整序など、さまざまな問題をつくって「これでどうだ!」「解けるか?」と実力を測ってきます。
そういう意味で、(比較的)形式が固定されている共通テストと国公立二次試験においては、素材の選択や傍線部の設置が非常に慎重に行われています。だからこそ、良問が多いのです。(私立大の問題ももちろん良問ぞろいですが、たまに粗悪な問題が紛れ込んでいるのも事実です。)
こういうことを理解したうえで、傍線問題に取り組んでいってほしいものです。

傍線問題における出題者の要求

傍線部を引いて問題をつくる以上は、必然的に「傍線部をきっかけにその周辺の一定範囲の理解が問える」ような問題にならざるを得ません。
指示語が含まれる文に傍線部を引くなんていうのがまさにその典型ですね。その指示内容を把握させることで、一文だけではなく、複数文(時には複数段落)の内容理解を問うことができます。
その中でも、圧倒的に多いのは、「どういうことか」(=内容説明)と「なぜか」(=理由説明)という設問要求です。特に共通テストと国公立二次試験の問題の多くはそうなっています。
すごくシンプルに言うなら、「どういうことか」は傍線部そのものの内容を重点的に説明させます。ですから、露骨に指示語など「それだけでは理解でいない」ような言葉が出てきます。一方、「なぜか」は傍線部の内容理解を前提として、その理由を重点的に説明させます。
慣れてきたら、設問を見なくても、傍線部を読んだだけで出題者がどちらで聞いてきているのかが予想できるようになります。「なぜ?」を説明するまでもない事実ベースの傍線部であれば「どういうことか」になりやすいですし、一方で筆者の主張や結論を端的にまとめた箇所に傍線部が引かれれば「なぜか」になりやすいのですが、まあこれは経験則の範囲なので、実際に問題を解いていくなかで皆さんに体感してもらいたいです。
以下、具体的に2つの設問要求について掘り下げていきます。

「どういうことか」(=内容説明)の設問意図

「どういうことか」の問題は、傍線部の内容理解を問うものです。「傍線部の説明(内容)として正しいものを選べ」なんていう聞き方をされることもあります。

例えば、「あなたが一番です」と言われたとき、これがどんな意味を持つかは文脈によりますよね。愛人へのセリフなのであれば、「あなたが一番好き」ということになりますし、自分の店にその日最初にやってきた客に言うセリフなのであれば、「あなたが本日最初のお客さんです」ということになるでしょう。こんなふうに、前後の文脈がないと意味が把握できない(=文脈依存性の高い)箇所に対して、「どういうことか」という設問が設置されるわけです。

こういう聞き方をする以上は、必然的に、
①文脈と切り離しては理解不可能な箇所(第三者が読むと「不完全」だと感じられる箇所)
②難度の高い語彙(抽象語)を含む箇所
を問うことになります。

②は、露骨に四字熟語や慣用句が入っているとかそういうことで、事実上の知識問題なので、今回は①に絞って説明します。

やることは非常にシンプルで、
傍線部内の不完全なところを特定し、前後の文脈から説明する
ということです。

「不完全な表現」の一覧

ここに書かれていることは、経験則から導き出されたものですから、実際には皆さんが問題を解くことを通じて体感していくことが大切です。逆にある程度の演習量をこなしてからここを参照すると、腑に落ちやすいかと思います。

指示語
入れ物表現:性質、本質、特徴、特質、…
⇒①も②も、「~って何?(中身を教えてよ)」と突っ込めるのが特徴です。具体的内容を探していきましょう。
※②の例:2001年センター「保存という作業の基本」(って何?)
筆者独自の表現(比喩など)
具体例
⇒③も④も、何かを説明するための材料となっていることが特徴です。一般化・抽象化しましょう。
類似 → AとBは同じ/似ている
差異 → AとBは異なる
否定 → AではなくB
変化 → AからBへ
矛盾 → Aと同時にB
⇒⑤~⑨は、2ポイント表現と言って、複数要素を孕(はら)む語句です。⑤であれば類比、⑥~⑨であれば対比を整理させるというのが意図です。
省略
⇒⑩は、傍線部中にある表現の話ではなく、そもそもそこには「書かれていない」ものの話です。一番多いのは主語、他にも対比や理由など、傍線部にないものを補充させるパターンもあります。

こうしたものを傍線部から探し(ターゲットを見定める作業、と言ってもいいでしょう)、あとはその説明を前後から補完していけばいいのです。これに関しては、その文と文の関係に着目しながら、あるいは段落間の関係というややマクロな構造を捉えながら行っていくことになり、その具体的手順やプロセスは文章によっても変わってきますから、実際に解いて、解説を参照することによって力をつけていってください。

なぜか(=理由説明)の設問意図

「なぜか」の問題で問われているのかは、「理由」です。「理由」とは、「結果につながるもの」です。
例えば、嬉しそうな顔をしている人に「なぜ嬉しいのか?」と聞いたとします。そしてその人が「合格したから」と答えたとします。この場合、「合格した(理由)→だから→嬉しい(結果)」となり、理由はしっかりと結果につながっていることが分かります。一方で、「なぜ嬉しいのか?」と聞いたときに「走ることができたから」と答えられたとします。これだと「ん?」と思いますよね。そこで、「走ることが私は大好きで、今日たくさん走れたから」と言われれば、「なるほど、だから嬉しいのか!」と納得できるでしょう。こんなふうに理由を完璧に説明することを心がけていくのが、この設問の意図になります。

  • 「結果につながるもの」を答える
言い換えれば、
  • [解答]→「だから」→[傍線部]という因果関係を組み立てる
ことが、「なぜか」の問題における最重要ポイントです。
文章に明示された(ないしは潜在する)論理関係を把握して芋づる式に不足なく拾うことが大切です。もう少し難しく言うと、主張や結論にいたるまでの論証の構造を言語化していくということです。

理由説明の3パターン

現代文のさまざまな問題を分析してみると、
[解答(A)]と[傍線部(B)]の間には以下のような関係があります。

根拠(A)→定義・主張(B) 〔Aなので、Bと考える〕
 例:笑うとストレスが減るので、笑うことは健康にいい。
原因(A①)→心情(A②)→結果(B) 〔Aなので、Bした〕
 例:殴られて悲しくなったから、泣いた。
原因(A)→事実(B) 〔Aという出来事により、Bとなった・Bである〕
 例1:地震が発生したから、津波が起きた。
 例2:勉強していないから、成績が上がらない。

こんなふうに全体像を見られてもピンと来ないかもしれませんが、演習を通じて体感できるときがくるでしょう。
評論文における理由説明問題の大半は、①です。傍線部の内容が原則的に「AならばB」「AはB」の形になっており、AとBの間に飛躍があるのでそれを埋めていく流れになります。なお、A(前提)が省略されているケースも往々にあります。
②は、小説文でよく見られるもので、「心情問題」と僕は呼んでいます。これについては、心情問題の攻略のところで詳しく話していますから、是非読んでみてください。
③はほぼ出ないパターンですが、一応入れておきました。このような事実的因果関係を問う場合、「Aすると→必ずB」という連結がとれることが正解の条件になるので、意外と難しくなります。

すごく単純に言えば、評論文は①、小説文なら②ということです。傍線部を手がかりに「何を説明すればいいか」を瞬時に判断することができるようになれば、解くスピードも上がるはずです。

そして何よりも、②という、小説特有のパターンがあるからこそ、共通テストでは現代文をわざわざ2つの大問に分けて聞くのです。

飛躍の解消方法

上記の4パターンのうち最頻出の①は、ほとんどの場合、傍線部が「AならばB」「AはB」という形になっており、Pの内容を具体化する(掘り下げる)ことによってAとBの間にある飛躍を埋めさせるような問いになっています。
では、どのように説明してやれば、飛躍が解消できるのでしょうか。
いくつかパターンがあるが、代表的なものを載せておきます。

①傍線部が「AならばB」のとき → 解答「Aだと、A'だから。」 cf.2000年の東大第1問(三)など。
②傍線部が「これ(A)は、Bである」のとき → 「A(指示語の指示内容を具体化)は、A'だから。」 cf.2015年の東大第1問(一)
③傍線部が「Aが必要」「Aしなければならない」のとき → 「Aは、A'(+)だから」or「Aしないと、A'(-)になるから」

※「A」のメリットを探す(「A」しないことのデメリットを探す)
これらに共通するのは、解答の中に「A」が入っていることです。理由説明において、「なんで勉強しないの?」→「勉強したくないから」というようないわゆる同義反復(=トートロジー)は避けよ、という指導がよくされますが、これは、傍線部を完全に言い換えただけでは説明にならないよ、という意味であって、傍線部内にある「AならばB」の「A」が理由説明の一部に組み込まれていることについてはなんら問題ありません。

長々と語りましたが、「何を説明したら理由を述べたことになるのか?」というのは意外と難しく、実際に問題演習を通じて体感することが大切です。

(参考)
  • 『三種類の「なぜ」の根は一つか?』(入江幸男)

  • 『三木清の技術論と「技術の倫理」』(初山高仁)

理由説明については、世の中に出回っているどの方法論を見ても不完全なものが多いです。
もちろんこのページに書かれている内容も、まだ発展途上であります。
しかし、ある現代文の専門家の方に見せたら「どの先生のものよりもコンパクトにまとまっていてよい」と評価されました。
このページに書かれている内容を、より良い(網羅性、汎用性ともにすぐれた)ものにするためには、皆さんの意見が必要です。
よろしくお願いします。

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最終更新:2023年11月26日 20:26