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「メイ・・・、メイ、君が何者でも、どこで何をしようとも、僕にとって君は大切な人だ・・・」

ピピピピッ、ピピピピッ
けたたましいアラームの音で冥は目を覚ました。周りを見渡すと見慣れない部屋、自分が日本に居ることを思い出す。

「随分昔の夢を見たのね」

冥は呟いた。

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IS-7号事件を発端とした悲劇の連鎖のような一連の事件は、御剣の手によって解決された。
真相究明のさなか、彼は自らの意思で検事という職を手放すが、事件解決後、新たな決意とともに検事に復帰した。
冥は元々世界規模の密輸組織を追っていたが、それが彼の扱う事件と関係があることが分かり、なし崩し的に協力をすることとなった。
そもそも彼に「頼む」と言われれば、文句を言いながらも結局協力してしまうのだから、我ながら救い難いと彼女は思う。
いつもなら御剣とともに事件を解決できれば、ある種の達成感が得られたのだが、今回は苦い思いの方が先に立った。

1つ、父、狩魔豪の証拠のねつ造の事実を知ったこと。
1つ、彼、御剣怜侍が自分の目の前で検事バッジを置いたこと。

父と御剣信との因縁、父の行為によって人生を狂わされた人々。かつて父と同じ手法をとっていた冥にとって、それは自らにも降りかかりうる「事実」であった。
そして真実を追求するさなか、御剣と狩魔の因縁を共有する彼が、いとも簡単に(表面上はそう見えた)検事バッジを置いたことで、
彼と自分との距離が大きくなってしまったことを痛感した。

父の背中を追い、御剣の背中を追い、それしか知らない自分はなんなのだろう、とそんな思いが強くなっていく・・・。

西凰民国大統領暗殺事件解決後、一度はアメリカに戻ったものの、密輸組織の関係する情報収集のため、
冥は再び来日していた。
彼女の仮オフィスは検察局に置かれ、国際警察だけでなく、日本の警察にも協力依頼をし捜査の指揮にあたっていた。
彼女が(明言はしないが)頼りにしていたロウは、母国西凰民国の混乱を収拾するため帰国し、
しばらく密輸組織の捜査に対応することはできそうになかった。

ロウは日本を離れる日、冥に言った。

「あねさんすまねえな、まだまだ残党狩りが残っているってのに戦線離脱しちまって」
「あなたが謝る必要はないのよ、ロウ。この程度の仕事、私一人で十分だわ」
「ははっ、ちげえねえ。・・・あまり現場の連中をムチでいじめるなよ」
「それは私でなく捜査員の連中に言うことね。私にムチ打たれたくなければ、完璧な仕事をしなさい、と」
「相変わらずムチャ言うぜ。まぁあとはまかせたぜ」
「あなたに言われなくてもやりとげるわよ」
「口のへらねえ嬢ちゃんだ」

笑いながら、ロウは冥の頭をくしゃくしゃと撫ぜた。

「何をするの!?」
「俺は検事が嫌いだが、あんたやあの辛気くせえ顔の検事さんは嫌いじゃないぜ、じゃあまた会おう」

まだ髪の毛を直している冥に笑いかけ、ロウは搭乗口をくぐっていった。
彼もまた新たな目標を見つけたのだ。それが冥にとっては酷く羨ましかった。そして彼の軽口が聞けなくなるのが、少しさびしい気持ちがした。

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検事バッジを再び手にしてから2週間。
IS-7号事件を追うことで、父の真実に向き合う姿勢を知り、SS-5号事件と関わることで、いかに法と向き合っていくかを考え始めた。
そして絆を深めた仲間たちと、少々騒がしいながらも充実した生活を送っている。
そんな中、ただ一つ、気になること。

冥が私の顔を見なくなった。

検事バッジを置いた時の彼女の顔は忘れられそうにない。怒っているような、泣いているような顔で、

「また私をおいていくの!?」

と私をなじった。瞬間、空港のあの泣き顔が目に浮かび、胸が苦しくなった。
しかし、私の信念を突き通すためには、あの場所で検事バッジを置くしかなかった。そうしなければ、私は死んだも同然だと思った。

「・・・何を言われても、考えを改めるつもりはない!」

そう言い切り、美雲くんの後を追った。
自分で冥を切り捨てるような事を言ったくせに、その言葉を聞いた冥の顔を見たくなかったのかもしれない。
しかし私が「元」検事になってからも、冥は嫌味を言いながらも私に協力をしてくれた。
私が検事であろうがなかろうが、私が私でいる限り、冥は私を追ってきてくれる。それが実感できて、正直嬉しかった。
再び検事となれば、彼女と仕事の接点はいくらでもあるだろう。彼女とスリリングな推理合戦をまた楽しめる。
(・・・そう思っていた私は楽観的すぎたのだろうか・・・)

過去の判例を調べるために資料室を訪れると、すでに先客として冥がいた。
あまり利用されない資料室のため、冥以外は誰もいない。
最近の冥の妙な態度を気にしつつも、努めて平静でいようとひとつ咳払いをした。
すると冥はふっと私を見、それから無表情のまま目を細めると、再び目を資料に戻した。

(今日も機嫌が悪いな・・・)

そう思いながらも、ムチを食らう事を覚悟で話しかけてみる。

「メイ・・・」
「仕事中よ」

とりつくしまがない、彼女の目は資料から離れない。
冥は機嫌の上下が激しい。機嫌がいいかと思えば、気の触ることをこちらが言えば、あっという間に急降下する。
ただ後々尾を引くタイプではないので、即座に謝罪をすれば、すぐに機嫌が戻る。
そうやってコロコロよく変わる表情が全てかわいいと思っているのだから、重症なのだろう。

「メイ、少しいいだろうか」

と再び問いかければ、ふぅっとため息をつきこちらを向く。

「なにかしら。天才検事とあろうものが、こんなところでおしゃべりする余裕なんてないと思うのだけど」

やはり目を合わせない。

「仕事の支障のない範囲で雑談をするのは問題なかろう。それとも君は仕事中は同僚と仕事の話しかしないのか?それはそれで随分と面白味のない職場だと思うが」

彼女の癇に障るような言い方をする。メイがつっかかってくるのが楽しくて、時に彼女には挑発的な言動をとってしまう。

(レイジに言われたくないわ!)

と頬をふくらませ、私をにらむかと思いきや、

「そうね」

と言い、資料に目を戻そうとする。

おかしい、私の挑発にのらない冥など。体調でも悪いのだろうか・・・。

「メイ、体調でも悪いのか?」

と額に手をやろうとすると、それを手で払いのけ、

「失礼」

と一言言い、資料を戻すと部屋を出て行った。

普段の彼女であれば、顔を真っ赤にしてあわてふためくはずなのだが・・・。
さして強く払いのけられたわけでもないのに、手がヒリヒリと痛むような気がした。

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「体調でも悪いのか?」

相変わらずあの男はお人好しだ。いつまでも兄のように何くれとなく世話をやきたがる。幼いころはそれが心地よかった。
広い屋敷の中、さびしい思いをしていた冥に、肉親の情に近いものを持たせてくれたのは御剣だった。
いつも一歩先を行き、自分から父の興味を奪ってしまう、いけすかない弟弟子ではあったけれど、共に喜び、泣き、さびしい時には必ずどちらかがどちらかの傍にいた。
彼の苦しみを漠然と感じていたから、傍に居ることで彼の苦しみが少しでも癒えればよいと思っていた。そうすることで必要とされていると感じたかったのかもしれない。

しかし今はもう無邪気に彼を見ることは出来なくなってしまった。狩魔豪の姉弟子と弟弟子、検事と検事、被害者の息子と加害者の娘。
時を経るごとに厚く積み重ねられるフィルターを通してしか彼を見ることができない。
そういう風にしか見れない事が日を追うごとにどんどん苦しくなっていく。
だからもう極力彼を見ることはしない・・・。

あと一週間もすれば、日本での仕事がひと段落する。早くアメリカに帰り、彼が見えないところで生活がしたかった。
 

最終更新:2012年12月05日 14:15