体を拭くのも煩わしく、二人はさっと体を拭くと手早くバスローブを着る。一瞬だけ着るのが早かった御剣が当たり前のように冥を抱き上げる。
恥ずかしさで少しだけ冥は体をよじったが、それに臆することなく御剣は冥をベッドへと運んだ。冥のベッドは御剣が一緒に寝ても決して狭くないクイーンサイズであった。そのベッドに冥は優しく横たえられ、その上に御剣が圧し掛かる。
言葉はなかったけれど、焦れていたのは二人とも同じだ。風呂の中では自由に動くこともできずに、遠慮した触れ合いになってしまったが、ここでは自由に触れ合うことができる。
冥の腕が、御剣の首に回る。御剣は引き寄せられるままに冥の額、頬、顎の順番に唇を落とした。彼が手を伸ばすと、いささか性急というくらいに冥の奥へと指が侵入していく。
「あっ‥‥んんっ」
今までとは比べ物にならない強い刺激に、冥は思わず眉を寄せる。力のこもった指先が、御剣の背中に細く赤い跡を残して行く。ピリッと痛んだ背中に一瞬だけ顔をしかめた御剣だったが、すぐにニヤリと口角をあげる。
その痛みこそが、冥が快感を得ている印であることを知っているからだ。良い気になった御剣が、愛液を指に絡めるとそっと彼女の中へと侵入していく。何度か行為を重ねても、まだ慣れないそこはきゅうと力を込めてとじられている。
御剣は一旦侵入を諦め、その周辺の愛撫にかかる。空いている片手で冥の腰を抱き、唇は柔らかな肌のあちらこちらを吸って回る。
「ふぁっ‥‥ん、あぁっ‥‥やぁぁっ!」
時折歯を立てたり、湿ったぬくもりを含んだ舌がラインをなぞったり、全身を愛撫されているような感覚に冥は背中を震わせた。御剣の舌が冥の胸から腹、そしてさらに下へと移動していく。
「あっ‥‥!」
冥が慌てて上体を起こそうとする。それは、冥が一番嫌がる行為であった。慌てて御剣の硬い銀髪を掴むが、御剣の口元はすでに冥の両太腿の間に来ており、そこに舌を這わせようとしていた。
掴まれた頭をものともせず、御剣は直接冥のそこに舌をねじこんだ。刹那、彼女の背中が弓のように弧を描いて反られた。声とも息ともつかぬ声をあげてひゅっと息を切る。
「あっ‥‥や、レ‥‥ジっ……やぁぁっ!」
「ム‥‥」
「やだ、やめてっ‥‥んっ、ふあっ、んんんっ」
酸素を求めて大きく開かれた冥の口端から唾液が一筋流れる。それを拭う余裕もない彼女が、漏れだす声に大きな羞恥を感じて唇を噛む。目線だけでそれを確認し、またそれをよしとしない御剣は、腕を伸ばし冥の唇に触れる。
御剣の指に気付いた冥がそれに気付くと、不思議そうに彼に視線を返す。
「噛まない方がよい。跡になってしまう」
「‥‥っ、」
抗議しようと開かれた冥の口に軽く指を押しこみ、薄い舌を人差し指と中指でこねる。
「噛むのなら私の指を噛め」
そうは言われても噛むこともできず、冥は御剣の指から逃れようと舌をひっこめたり、首を左右に振るが、彼の指はそれをものともせずに冥の口内を自由に這いまわる。
同時に、冥の中から舌を抜くと、空いている方の指をゆっくりと侵入させた。上下の口が御剣の指で犯されている。ぐちゃぐちゃと自分の耳にも聞こえてくるくらいの冥の粘膜の音は彼女の脳みそを麻痺させる。
御剣の指が冥のイイトコロを擦る度に、彼女の体はびくびくと絶えず反応を返す。同時に口からは唾液が零れ、また言葉にならない声も零れる。
「んっ‥‥ひぁぁっ、あ‥‥んぐっ、あああっ!」
口の中いっぱいに御剣の指があって、冥の意志を言葉で紡ぐことができない。とはいっても、もうすでに理性の飛びかけている彼女の頭では意志を持った言葉を紡ごうとも考えてはいない。
迫りくる強い快感に、冥は意識が飛びそうになるのを必死でこらえる。御剣の顔が再び冥の数センチ近くまでに迫ってくる。それを見た冥がもう一度彼の広い背中に手を回す。
腕と足で彼にしがみつき、このどうにも形容しがたい感情を、まっすぐ彼にぶつける。
「んっ‥‥ふぁ、ひああっ‥‥レ、イジ‥‥レイジィッ!!」
「メイ‥‥っ」
冥の細い首筋に、音を立てながら唇を落として行く。久しぶりに味わう互いの体は、もう限界を迎えようとしていた。
何かを堪えるような冥の指先が、御剣の背中に細い傷跡を残して行く。その痛みにさえ、快感を見いだしてしまう御剣は自嘲気味にふっと笑った。それを、己が笑われたと勘違いされた冥は彼の下から見上げ、睨む。
「な、に笑ってるの‥‥ん、っ!」
「いや‥‥メイが可愛く思えただけだ」
「なっ‥‥‥‥!」
「メイ‥‥」
冥の髪を指先に絡ませながら、優しく彼女の名を呼んだ御剣は同時に髪束に口づける。
「もう、いいだろうか‥‥。限界なのだ」
御剣のその問いかけに対し、冥は少し間を開けてから小さくうなずいて、ぎゅうとさらに力強く御剣に抱きついた。彼がごそごそと動く気配で、ゴムをつけているのを悟った冥は、ふっとこれから襲ってくるであろう圧迫感に備えるために息をつく。
ひゅっと、短く息を吸った冥が一度目を見開いてからぎゅっと瞑った。彼女の入り口に、御剣のモノがあてがわれる。ぬるりとした滑りのおかげで、痛みはないものの肉を割られて押し入られる圧迫感はいつまでたっても慣れない。彼も、冥を労わるためにことさらゆっくりとした挿入をするので、焦らされているような感覚に思わず吐息が漏れる。
「ふっ‥‥ふぁ、んんっ‥‥あ、くっ」
「力を抜いてくれ‥‥」
冥の足を大きく開かせ、ゆっくりと御剣の腰が進められる。それに比例するように、冥の中はきゅうきゅうと絡みつくように御剣を高めていく。
堪えるように顔を歪ませた御剣が、冥の体を強く抱き返す。動いていいか、という御剣の問いに冥は返事をする代わりに、彼の髪を指先に絡めた。その返事を、きちんと受け取った御剣は小さく律動を開始する。
「んっ‥‥ん、んあっ‥‥ふぅっ」
苦しげで悩ましげな、けれどその奥に甘さを含んだその漏れた吐息が徐々に御剣を高めていく。御剣は高まりすぎる自分の欲を抑えるために、冥の肩口に軽く歯を立てる。ピリッとした痛みに、逃げようと冥がベッドの上へ上へと逃げようとする。
しかし、御剣の腕が彼女の肩と腰を押さえて、逃がそうとしない。
「い、‥‥っレイジ‥‥レ、‥‥ああっ、ふぁ、んんっ‥‥あああっ」
ぶるっと冥が左右に首を振る。それは冥も、御剣とともに昂ぶっている証拠であり、それにも煽られた彼が熱にほてって少しピンクに染まった彼女の肌に赤い跡を残して行く。
御剣の律動が少しずつ鋭さを増して行く。冥は押し入る時よりも、引きぬかれる時の方が快感が大きいらしい。ということは冥本人も知らないことなのだが、御剣はそれをしっかりと理解していた。
これ以上は進めることができないぐらいぎりぎりまで奥に押し込めてから、抜けそうになるまで一気に引きぬく。途端に冥の背中が弓のようにしなり、引き裂かれるような快感が冥を襲う。
「や、あっ‥‥あああっ‥‥レ、ジっ‥‥!」
「メ‥‥イ、そろそろっ‥‥」
冥の耳元で、御剣の上ずった声が響く。それを聞いた彼女はこくこくと数回首を縦に振った。
「あっ、レイジっ‥‥、んんん。あ、ふぁ……やぁぁっ!」
「‥‥‥‥く、っ」
短く息をついた御剣が、ゴム越しの冥の中に自分の欲を吐きだし、また同時に冥をぎゅっと強く抱きしめて、自分の欲望をすべて吐き出した。
びくり、と体を数回痙攣させた御剣が数秒間を空けてから大きく息をついた。上体を軽く起こした御剣が、冥の体をなぞるように何度も何度も音を立てながらキスを落とす。肩口から腕、指先、掌や手の甲まで額からつま先まで、文字通り全てに、まるで冥を味わうかのように唇を落とす。
自分のモノを冥から抜いた瞬間に互いに目があって、照れとも気まずさとも言えない笑いが零れてしまった。
もう服としての仕事をなしてないバスローブを羽織直して、冥は俯せになってふかふかの枕に顔を埋めた。はぁ、と一息ついて、乱れてしまった髪を手櫛で前髪で一気に後ろまで整える。
「もう一度シャワー浴びるか?」
同様にバスローブを羽織直している御剣が、冥に声をかける。これまた同様に彼の髪の毛も乱れてしまっている。
羽織直したとはいえ、もう一度シャワーを浴びるつもりの彼は、ゆるく帯を巻いており、そのだらしない姿は法廷では考えられないような姿だった。その姿にくすりと笑うと、御剣は、何だ、と冥に問えば、彼女は、何でもない、とさらに笑いながら答えた。
「一緒に浴びるか?」
「嫌よ。もう一度する気なの?」
「ム‥‥。そのような意味合いで言ったつもりはない」
「ふふ、分かっているわ」
冥の七つも上であるというのに、冗談も分からない彼を可愛らしいと思ってしまうから不思議だ。
「じゃあ一緒に浴びようかしら」
結局、冥も着たばかりのバスローブをその場で脱ぎ捨てた。先ほど一緒に風呂に入っていた時に恥じらっていた少女と同一人物とは思えない行動に、思わず御剣は目を反らした。
まだあどけなさを残した少女とも女性ともつかない滑らかな体を惜しげもなく晒しながら冥はバスルームに向かう。その背中を見ながら、御剣は小さく溜め息を吐いた。
「メイ、君はどうして行為に及んだ後はいつもそう大胆になる?」
「‥‥そうかしら?」
もうすでにシャワーを軽く浴びている冥にそう御剣が問えば、彼女はよく分からないと言わんばかりに首をひねる。御剣もバスローブを脱いでから、並んでシャワーを浴びる。ボディソープを手にした冥が素手で自分の体を洗い始める。
「あぁ、君はいつもそうだ。始まる前は可愛らしく恥じらってるというのに、した後は恥がなくなってしまったようだ」
「ふうん。自分では気付いていなかったけどそう言われればそうかもしれないわね」
言いながら冥は大したことだと思っていないのだろう、洗っている手は止まらない。しかも、彼女の中でその話題はもう終わってしまっているようだった。答えが得られないと理解した御剣も、彼女同様にボディソープで自分の体を洗い始めた。
「それで、レイジはいつまでこっちにいるの?」
すでに洗い終わった冥が、バスタブに体を沈めながら問う。
主に日本で活動している御剣が、アメリカに住んでいる狩魔家に滞在することは珍しい。しかも検事という立場であるため休日が不規則であり、また長期休暇などほとんど存在しない。だからこうして、顔を合わせて会話することさえも極稀なことなのだ。
「珍しく仕事が空いた。三日ほど滞在するつもりだ」
「そう‥‥本当に珍しいわね」
「あぁ、明日はどこかへ出かけようか。予報によると、天気がよくお出かけ日和‥‥らしい」
「ずいぶんと強引ね。私に仕事があると考えなかったの?」
そう冥が答えれば、御剣はム、と何か考え込んだようだった。そんな様子に冥はクッと笑うと、再び冗談よ、と答えた。
「先ほどパパに報告したでしょう? 一個事件が解決したと。一日くらい休んでも構わないわ」
「そうか‥‥」
と答えた御剣の表情はどこか安堵を含んでいるようだった。
「何か買ってくれるんでしょう?」
「ム、まぁあまり高くないものなら買ってやろう」
その答えにふっと冥が笑う。
御剣もバスタブに入り、自然な手つきで冥を抱えると自分の膝の上にまたがらせるような形で座らせる。特に抵抗するそぶりも見せない冥はそのまま前に倒れ込み、御剣の胸を借りるような形で座りこんだ。
「あら気前が良いのね」
「たまに会う恋人の願いだからな。男なら叶えてやりたいと思うものさ‥‥普通ならば、な」
「へぇ‥‥私たち、いつから普通の恋人になったのかしらね」
刹那、二人を包む空気が重くなる。二人ともがぴくりとも動かないので、そこには物音ひとつ聞こえない。
先に沈黙を破ったのは、御剣の方だった。と言っても、何か言葉を発したわけではない。湯の中に沈めていた腕を出し、指先を冥の髪の毛に絡めただけであった。少し波立った湯の表面が二人の体にぶつかり小さく波音を立てる。
「‥‥冗談よ」
冥が笑顔を作って、御剣の皺が寄った眉間を無理やり左右に引っ張る。それが癖になるとそこに皺がついちゃうのよ、と彼女は笑う。
「誕生日が近いだろう」
「‥‥何ですって?」
「誕生日だ。君が君の母上から生まれ、この世に生を受けた‥‥」
「別にそんな説明をしてほしいわけじゃないわよ!」
確実にここに鞭があれば、容赦なく叩きつけられていただろう。鞭の代わりに冥は、その掌で御剣の頬を打とうとした。しかし、それをあっさりと掴まれ逆に引かれて、抱き込められる。少し抵抗してみるものも、結果が見えた冥はすぐに大人しくなる。
「そのために来たと言っても過言ではない。明日は君のためのプレゼントを選びに行こう」
「‥‥‥‥‥‥バカ」
「何とでも言うが良い。のぼせない内に出るぞ」
さっきはあんなことしたくせに、と冥が笑いながら言うと、つられるように御剣も笑った。
「何か欲しいものはあるのか?」
「‥‥‥‥そうねぇ、」
結局この後、問いかけた御剣が後悔するほどに高額なブランドの服や、宝石の名をあげ始めた冥の二人は逆上せるまで風呂に入ったままなのであった。
つづく
最終更新:2013年01月29日 22:32