設問


ポイント

  • リード文の熟読
  • 同型反復の把握
  • 接続助詞「て」を利用した主体判定
  • 助動詞の解釈
  • 否定語(ず・じ・まじ・で)の把握
  • 接続助詞「ば」の利用
  • 尊敬語を利用した主体判定
  • 長いセリフは先に飛ばして解釈
  • 受身(使役)か否かの解釈
  • 活用語尾がア段音なら必ず未然形(例外は已然形の「ましか」のみ)

解説

リード文をまずは熟読しよう。
  • 「三条殿」=妻、「大将殿」=夫という関係
  • 「大将殿」は、「妻子を愛する実直な人物」
  • 「落葉宮」に心を奪われた=浮気した
  • 「その女性の意に反して」=落葉宮(浮気相手)としては、望んでいたことではなかった
  • 二人の間には複数人の子どもがいる(姫君複数と、弟、妹)
  • 夫が別の女性(落葉宮)に浮気した
  • 夫の行動に衝撃を受けたため、三条殿は子どもたちを連れて、実家へ帰ることになった
 ▶この時点で、問5②は、実家に帰った理由を「子育ての苦労」と解釈しているため、誤り。
  • 「子どもたちのうち」とあるので、その場に残った子どもたちもいる

この状況が分かれば、冒頭の「限り/a/めり」に関しては、「限り」が「限界」「おしまい」を意味する名詞だと推測できる。また、「なるめり→なんめり(撥音便)→なめり(無表記)」のように、「めり/なり(推定)」の直前に撥音便の無表記型が出てくるパターンは頻出。つまりこの「な」は元々は「なる」であると分かる。さらに、名詞直後なので断定の助動詞となり、「限界であるようだ」=「もうおしまいみたいですね」と訳せる。

問2のaはこの段階で①③⑤に絞れる。この時点でdが使役であることも確定したので、本文中にメモしておくとよい。

本文一行目に戻る。
三条殿、「限りなめり」と、「~~~~~~」と、…
という同型反復の構造から、2つ目のセリフも「もう限界だ」という内容であることが推測可能。実際に見てみると、「まめ人の心変はる」とあり、「まめ人」とは浮気した大将殿のことであり、リード文の「実直な人物」に対応することは分かるだろうか。(現代語でも「まめな人」という言い方はよくするはず。)
三条殿がそんなつらい思いを抱いているなか、傍線部ア(いかさまにしてこのなめげさを見じ)だ。直前に接続助詞「て」があることから、主語は変わらず、三条殿のセリフのはず。
文末に「じ」という否定語(「じ」の場合、打消推量か打消意志のいずれか)があり、その否定対象となっている「このなめげさ」は、指示語がついていることからも、大将殿の浮気を指していることが分かる。
重要なのは傍線部直後で、「思し/けれ/ば」であり、ここに「已然形+ば」という確定条件(因果関係で訳すことがほとんど)があることに気付いただろうか。(「けれ」は過去の助動詞「けり」のことであり、「り」で終わる助動詞は原則ラ変型活用のため、この「けれ」は已然形。)
直後の「渡り給ひにける」(「渡る」は移動のすべてを表すことができる重要表現。)はリード文の「実家に帰る」という内容と対応するとすぐ分かるはず。
となれば、「どうにかして見ないようにしよう」→「と思ったから」→「実家へ帰った」という繋げられる。

問1のアは、大将殿の浮気という行為の「不義理さ」に対して、「見ないようにしよう」と打消意志で解釈した⑤が正解。

傍線部以降については、注2以降の解釈をしっかりしておこう。実家に帰った三条殿が、「女御」に「対面」して「もの思ひ」を「晴」らしたのだ。そして、「例のやうにも(=いつものように)」「急ぎ渡り給はず(=急いで帰ろうとはしない)」、と、「渡り」を「帰る」という意味でとれたかがポイントだ。

▶この箇所を踏まえてつくったのが最後の内容一致問題、問6①であるが、対面した相手を、このあと出てくる「おとど」と解釈しているので誤りである。

次の段落に行く。「大将殿」に主語が転換し、「聞き給ひて」と来る。つまり、三条殿が実家に帰った話を耳にしたのである。その次のセリフが長いが、

(大将殿は)「・・・・・・」と、驚かb給うて、三条殿に渡り給へれば、…

と続く。セリフはこのように飛ばしてまずはマクロに構造を捉える(大まかな流れや展開をつかむ)癖をつけてほしい。三条殿が家出したことを聞いて「驚」くのも当然だし、「三条殿(=注6=大将殿の邸宅)」に焦って帰宅するのも当然の流れであろう。
「れ」の文法的解釈に移るが、「驚か(=a)」という未然形の後に来る「る」や「れ」は完了・存続ではなく受身・可能・自発・尊敬である。このとき、受動/能動の判別、つまり受身かそうでないかの判別を第一優先で行うのが読解上重要なこと。言い換えれば、その動作が自分なのか他人なのかだ。(使役・尊敬の「す/さす/しむ」も、同様の考え方で判別可能。)今回、「驚く」という動作は大将殿本人の動作であり、誰かに驚かれたわけではないことは文脈的に明らか。このように、受身か否かは動作の主体で決まるものだし、逆に受身か否かがはじめから決まっていることでそこから動作の主体が決まることもある。

▶この段階で、{問2のb]は自発であり、問2の選択肢は③⑤まで絞れた。残すところはcの解釈のみ。

上記のセリフの中身であるが、三条殿に対して驚いている内容であることを前提に読みたい。「さればよ(=思った通りだ)」、と来て、「急にものし給ふ本性なり」と言っている。「ものす」は代動詞であり、文脈次第でさまざまな動作を代用できるのだが、「急に」とあることから、「三条殿」がいきなり家出したことを受けていると考えるべき。あの人はそういう性格の人間だ、と言っているのである。その次に「このおとど(=注3=三条殿の父)も」と来るが、「も」がポイント。「三条殿」と「父」の類比であり、父も似たような性格だ、と言うのが推測できる。そして注4・5はともに「せっかち」ということを言いたい内容。「注5」の「はなやい給へる人々」の語尾「人々」に注意。二人をまとめている。そして『めざまし(=驚き呆れる)、見じ(=会わないようにしよう)、聞かじ(=話を聞かないようにしよう)」と「ひがひがしきこと(−)」を「し/出で/給う/つ/べき(し出しなさるに違いない)」と言っている。(つべし、ぬべしは「強意+推量」になりやすい。)つまり、二人が自分のことを避けるのではないか、と想像して驚き、邸宅に戻ったという流れである。

問6③は、ここを、邸宅ではなく「大殿」(=注1=三条殿の実家)へ行ったと解釈しているため誤り。

大将殿は邸宅に戻った。
「君たち(=注7=子どもたち)」が「片へ(=一部)はとまり給へ(=e)ば(=留まりなさっていたので)」、と来る。この「れ」は先ほどの波線bと違って、直前がエ段音なので完了になる。
その後は挿入句が来たのち、「見つけて喜び」とあるが、もちろん主語は子どもたち。「ある(者)は」「上(=注8=三条殿)」を「恋」しく思って「泣」いていた、という流れから傍線部Xに繋がる。

問3は、「大将殿」が「子どもたち」の様子を見て心苦しく感じた、という内容を押さえている選択肢に絞れば③に決まる。④は主語は合っているものの「三条殿をひどいと思っている」となっており、心情のベクトルを間違えている。

次の段落へ。
「消息」は手紙。手紙を「たびたび」「聞こえ(=差し出し)」たが「返り(=返事)」がないとのこと。

問6①は、これを「大将殿」の返事がない、と誤読しているので誤り。三条殿の返事がない、という話。(リード文にあるように大将殿は本来、愛妻家であり実直なのだから、大将殿が返事しないという状況は考えにくい。)

そして「みづから参り」とあるので、三条殿の実家についに足を運んだということだろう。(実家に行くまでこれだけ時間が経っていることからも、問6の③はやはり不正解。)そしたら「寝殿」に居ると言われ、三条殿の部屋(=注10)には女房たち(=注11)しかいなかったそうだ。

ここから会話が連続する。
はじめの会話Aは、セリフのあとに「恨み」とあることから、恨んだ内容になっている。それに対する返事がBで、Bに対するさらなる返事がCとなっているのだから、おそらくAとCの話者は同じで、Bだけ異なるはずだ。
会話が来る直前まで、大将殿の行動が中心的に描かれていたことを考えれば、A=C=大将殿、B=三条殿と考えるのが自然。あとは順番に押さえていこう。

問5③は会話主体が異なるため、まず最初に切れる。

A:はじめに鍵となるのが「寝殿の御まじらひ」。「御」という尊敬表現に注目。寝殿にいるのは三条殿なのだから、ここは三条殿の話をしている。となれば、「て」の前後は主語不変なので「落とし置き給ひ」も三条殿の動作。つまり、子どもたちを残して寝殿に来たことを責めているということ。「見棄つ/べき/に/やは」=「見捨てるべきだろうか、いやそんなはずはない」と言っている。

B:「見飽き給ひにける(=見飽きなさった)」→「ば(=から)」→「(私は)直るべきにもあらぬ(=直るようなことはない)」、という因果関係を押さえる。大将殿が私に飽きたから、私はもう変わりません(夫婦で幸せに暮らしていたときの自分にはもう戻ることはできない)、と言っている。そのうえで、「棄てずは(=捨てなければ)」「嬉し」い、つまり「子どもたちを見捨てないでくれたら嬉しい」と言っている。要約すれば、「あなたの振る舞いに衝撃を受けたからこうなったのであって、子どもたちを見捨てるつもりはない」という感じ。

問5②は、「見飽き」の主体を三条殿と誤読。または、「直るべきにもあらぬ」の主体を大将殿と誤読。いずれも切れる。

C:「誰が名か惜しき」は「誰の名誉が惜しいのか」=「誰の名誉が惜しい状態[=心残り・残念]になるのか」=「お前、そんなこと言って、誰の名誉が失われるんだ。(誰の名誉も失われないよ、)お前の名誉が失われるだけじゃないか。(反語)」ということ。

▶問5④「私の名誉も考えてほしい」は誤り。これだと「私の名誉が惜しい」と言っていることになる。

問5は以上の消去法により残った①が答え。

会話の後の文脈を見ていく。
「中空(=注13=落葉宮には疎まれ、妻には家出されるという、身の置き所のない様)」という表現で、大将殿の孤独感が表現される。その次の行にもセリフが続くが、「など」とまとめられて、傍線部Yだ。「懲り」という表現が大きなヒントになっていて、二人の女性に相手にされなくなった現状に対して懲り懲りとした気持ちになっていると分かればよい。

問4は、「懲り」ているという前提からまず②③④に絞る。次いで、注13の内容を反映しているもの、すなわち、落葉宮と妻の両者に対して孤独感という心情のベクトルを向けたもの、という観点から②が答え。

次の段落へ。
「明け/ぬれ/ば(=日が明けたので)」で時間帯が変化している。そしてセリフが2つ続く。1つ目のセリフは「威(おど)し」たセリフ。2つ目のセリフは「あやふし」、つまりなにかに危惧しているセリフのはず。
まず1つ目のセリフから。「のたまひ/はc(果て)/ば」とまずは正しく分解しよう。(選択肢から、完了の助動詞or動詞の活用語尾の2択だと分かるが、完了の助動詞ととった場合、連用形接続であり、連用形の活用語尾にア段の音が来ることはないので矛盾する。)

問2のcは「動詞の活用語尾」と決まる。この段階で、問2の正解は⑤となる。

「おしまいとそこまでおっしゃるなら、そうしましょう」と言っている。たしかに内容的には脅しである。この段階でこのセリフの発言者は大将殿と分かる。そして、「かしこなる人々(=注13=邸宅に残された息子たち)」が「らうたげに」(=かわいらしい様子で)「恋ひ/聞こゆ/めり/し」(=恋い申し上げているようだった)、というわけだ。

問1のイは、「らうたげ」を正しく訳し、「聞こゆ」(補助動詞)を正しく反映したもの、という観点から①に絞れる。

傍線部イの後ろは、「残された子どもたちをともかくどうにかしないと」という内容であり、これまた脅し。そして、これに対する三条殿の返答として、「この君たち(=子どもたち)」「さへ(=までも)」「知らぬ所に率て渡し給はん(=知らないところに連れていきなさるのだろう)」と来る。

問6④はこの箇所を綺麗に反映しており、特に誤ってはいない。問6の答えは④。

最終段落。姫君に対して発言したセリフが来る。傍線部ウ「いざ、給へかし」は慣用表現で「さあ、いらっしゃい」という意味であるが、仮に知らなかったとしても、直前段落で「子どもたちをどうするか」という論点が出てきたことを踏まえて対応したいところ。

問1のウは③が答え。①は「あれ」の内容が文脈的に不明。②だと、姫君に説教が始まるかのような厳粛な雰囲気。③のように子どもたちを放置・放任するのも明らかにおかしい。⑤は「何を」渡すのか不明。

そして最後のセリフを読解しよう。「いと/いはけなく(=かわいらしく)/おかしげに/て/おはす」とあるので、姫君を目の前に発言したものだと分かる。当然、話者は大将殿。波線dは既に使役と分かっており、「言ひ/知ら/d(=使役)/奉り/給ふ」=「言い知らせ申し上げなさる」。(ここは「せ」に使役の意味を持たせないと、「言って→知る」となり文意が不明確。)

そして、「な叶ひ給うそ」は有名な「な〜そ」=「〜するな」の禁止表現。「母の教えに叶うな」では意味がおかしいので、「従うな」と融通をきかせて訳したいところ。姫君に対して、「母には注意してね」と、母が悪い人だと吹き込んでいる感じだろうか。ここでも直前段落での「脅し」をうまく引っ張って解釈したい。

▶こうした脅しの構図を踏まえれば、問6⑤は、「姫君の将来を心配」が誤り。

本文全体の構造

設問を通して、全体の構造やストーリー展開がすっきり整理できるのが理想。
簡単にまとめると、以下のようになる。

①大将殿が落葉宮に浮気し、その衝撃で三条殿が実家へ帰った。
②それを聞いた大将殿が、邸宅に戻った。
③三条殿に手紙を出しても返事がないので、寝殿に行って会った。
④子どもたちを放ったらかしにする三条殿に説得をしたが、言うことを聞いてくれない。

参考

動画で解説を聞きたい方は是非以下をご参照ください。
それぞれ約2時間の詳細解説となっております。

最終更新:2023年12月12日 16:30