解説

【第1問 問1】
促進・催促、健康・小康、権限・棄権、偏って・偏差値、頑健・頑強。
(ア)(ウ)(エ)は基本。
(イ)「小康」は消去法で選んだ人も多いかも。
(オ)は、本文中の「レジリエンス」と「脆弱性」の対比をヒントに、「強い」という意味なのかな、と推測を働かせることが出来れば思い出せたはず。

【第1問 問2】
A)回復力→基準に戻る(5段落)
B)サステナビリティ→唯一の均衡点(6段落)
C)レジリエンス→流動的・動的過程(5段落)、適度な失敗(6段落)
と、根拠を拾い、A・BとCの対比を意識できたかが鍵。①・③は前半、④・⑤は後半に傷があるって気付いた?

【第1問 問3】
「脆弱性」の定義を拾っていくなかで「敏感」(=いち早く気づける)というポイントを押さえれば、③か④。「均衡」と言っている④が切れればおしまい。実にシンプルだけれど、選択肢がどれも長すぎたため、選択肢を見ているうちにポイントが飛んでしまった受験生もいたかもしれないね。

【第1問 問4】
指示語「それ」の内容と、「福祉」の説明を押さえて解く問題。特に「福祉とは、その人(患者など)のニーズを充足すること」という定義文は絶対に押さえてね。答えは②。「主体的」というポイントを根拠に①を選んだ人もいたと思うけれど、「システム」や「社会体制」の話ではないね。

【第1問 問5】
会話文補充という特殊な形式ではあるものの、実質的には「本文の趣旨」に一致する選択肢を選べたかどうかを問うた問題。空欄には、前後の文脈から「動的」の意味する内容が入るって分かるね。答えは②「現状に合うように工夫」。形式や外見で惑わされず、その問題の本質をつかんでね。

【第1問 問6(i)】
この手の問題、速く解くために、まずは正解と思えそうなものに見当をつけてみよう。そして、本文に戻ってそれが正解だという保証が得られればよし。不安なら消去法で。答えは船の話の①。一応気になる②だけれど、これは一般的な定義の引用なので、「筆者が独自に」っていうのは変。

【第1問 問6(ii)】
この問題、要領がいい人は速攻④がおかしいと分かるかも。だって最後の方で「反論」の文脈なんてなかったでしょ?問4もヒント。そして、①は問6(i)、②は問2を思い出せばすんなり読み取れる選択肢。③は、「60年代→80年代→近年」という構成を読解時にいかに意識できたかが鍵。

【第1問 総括】
昨年度と比較して易化したか難化したかはさておき、全体的に、各設問が一定範囲の整理・理解を無理なく問う良問だったと思う。現に評論満点の朗報もいくつか。「レジリエンス」という見慣れないテーマに動揺するのではなく、筆者の言葉を正面から読解できたか。すべてはそこだよ。

原著にあたってみよう

今回の出典である『境界の現象学』(河野哲也)という本、めちゃくちゃいいので、余裕のある受験生の方は是非読んでみてください。受験が終わってから読んでみるのも全然ありだと思います。「境界」という切り口から人間の本質を捉えていくのはとても面白いですし、哲学的思考にも慣れることができます。

こういう哲学系の文章、苦手な人多いと思うのですが、そういう人は視点を切り替えてみるといいですね。たとえ言葉が難しくても、言いたいことはただ一つなのです。頭の中に主張は出来上がっていても、それを人に伝えるのってとても難しくて、抽象と具体を行き来しながら伝えていかなければなりません。だから冗長にもなるし、わけのわからない具体例に振り回されてうまく理解できなかったりします。ですが、「結局こういうことが言いたいんだろうなあ」というイメージが頭の中にまとまれば、読むスピードは上がりますし、共通テストの問題を正解するくらいの読みでいいとなればめちゃくちゃ楽になるはずです。分からないところが一つ二つあったくらいで、解答に支障は出ないのですから。

この筆者がこの本を書いたのは2014年度らしいですが、一年間の研究休暇をもらって、パリのシャンゼリゼの大学や図書館にこもって執筆したらしいです。そのように静かで集中的な環境で執筆しないといけないくらい、言葉を紡ぐのって難しいんです。また、読み手を色々に想像します。もちろん、学生に向けて書こうという意識もあるのかもしれませんが、それ以上に、学問を発展させるという意識から、同じ研究をしている人たちに「なかなかいいこと言ってるなあ」と思ってもらえるようにという意識が必然的に高くなります。するとどうしても反論防止のための譲歩が増えたり、厳密な論証が増えたりして長くなるんです。これも、伝えることの大変さです。

そういうこともイメージしながら、是非一冊丸々読破してみてください。もちろんすべてを精読する必要はなく、主旨が大まかに分かっているのであれば細かい部分は流し読みで結構です。しかし、興味をもった箇所が部分的にでもあるのであれば、そこは表現を味わい尽くすほどに精読してみるといいのではないか、とも思います。

僕が非常に感銘を受けたのは、第八章のコスモポリタニズムのところです。コスモポリタニズムというのは世界中のみんなと仲良く繋がっていこう、という考えのことですが、これはまさに境界の中にこもらず、そこから外れて外に出ていこうという営みです。そうやって異質な文化の人たちとコミュニケーションをとる中で自身を相対化し、色んな人たちやコミュニティの間で分かち合いを増やしていくことこそが民主主義ですよ、と筆者は述べていました。

この「境界の中にこもる」ことと「境界から外れていくこと」の二つを筆者は「ヘスティア」(定住)と「ヘルメス」(移動)の対比を巧みに用いながら解説しており、とても分かりやすいなと思った次第ですし、こんなにいろんな概念と繋がっていくなんて哲学って面白いなあと思いました。

思考、経験、ヘルメス、コスモポリタニズム、ウィルダネス(原生的自然)、グローバル化、民主主義、相対化etc

といった概念がすべて一本の軸で繋げてくれたこの本にはめちゃくちゃ感謝しています。

境界の話は2012年のセンター試験にも出ていましたし、この本に出てきた「アフォーダンス」の概念なんかは2018年にも出ていました。この本一冊読むだけでも、対応できる範囲は広がっていくと思います。

もちろん、こうやって知識を増やしていくことが入試現代文突破の必要条件だとは1ミリも思っていませんが、語彙力境界の一つの方法にはなるかなと思っています。

本を読むことは、物事を様々な角度で見ることによって語彙を増やしていく営みに他なりません。
是非、余力のある受験生は、根本の思考力強化のために、図書館なんかに行って評論文の原著にあたるということをしてみてください。

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最終更新:2023年12月18日 18:02