解説パート1
問 1
講評:圧倒的に簡単と言えるのが(イ)(エ)(オ)の 3 問。仮に度忘れしていたとしても消去法で解けただろう
し、「意味・用法」に注目して直観的に答えが出せたこともあっただろう。一方、(ア)(ウ)の 2 問は、
積極的に答えが選べず、ほとんどの受験生が消去法を使って解いたのではないかと推測する。「意
味」を考えたり消去法を使って解くと(ア)はギリギリ解けるものの、(ウ)については知識がないと相
当きつかったと思われる。「意味」で考えてしまうと③と④で迷ってしまう。(ウ)だけは落としても
仕方がなかったと言わざるを得ない。
解答:(ア)② (イ)③ (ウ)③ (エ)② (オ)③
解説:(ア)棒読み ①窮乏 ②痛棒※ ③膨張 ④無謀 ⑤存亡 ※痛棒を食らわす=ひどく叱って懲らしめる
(イ)占める ①浅薄 ②旋風※ ③占拠 ④宣告 ⑤潜在 ※社会に大きな影響を与える突発的な出来事
(ウ)軍功※1 ①拘泥 ②首肯 ③巧拙 ④功罪 ⑤生硬※2 ※1戦争で得た手柄 ※2未熟でかたい状態
(エ)容易 ①経緯 ②簡易 ③遺産 ④偉大 ⑤委細
(オ)契機 ①鶏口※ ②啓発 ③契約 ④恩恵 ⑤警鐘
※鶏口となるも牛後(ぎゅうご)となるなかれ= 鶏 の頭になっても 牛の尻にはなるな
➡大きな団体に従うよりも、小さな団体の長についたほうがよい(小さい鶏と大きな牛との対比に注目)
解法:※傍線部の漢字を「知らない」場合にどう解くか、ということを中心に説明しています。
(ア)「ボウヨみ」とは、抑揚をつけずに単調に読むことを言うから、「ボウ」は「棒」でよい(棒は真っ
直ぐしていて、単調というイメージと近い)。このイメージと近いのは②であり、「お調子者に~食
らわす」という表現から、お調子者を懲らしめている様子を読み取ることが出来る。懲らしめるとき
棒を使って叩いたりするのはイメージしやすく、ツウボウの「ボウ」は、他の選択肢以上に「棒」と
書けそうな予感がする。
(イ)下線部イ周辺を見ると、「高度なリテラシーによって社会に地位をシめる階層」とあるから、「高度
なリテラシーを持つ階層が社会に地位をシめた」という構造が読み取れる。つまり、能力の優れた人
が高い地位を独占しているイメージが読み取れる。だから、この「シめる」というのは「奪う」とい
うマイナスの意味での解釈も可能な語である。このイメージのもと選択肢を見ると、③は「建物が違
法に奪われる」と言い換えることが出来、「シめる」のニュアンスと近いから、答えに出来そうだ。
(ウ)下線部ウ周辺を見ると、「グンコウを競う中世までの武士」とある。「Aを競う」という表現は、
「技を競う」「お互いの腕を競う」のように使われ、Aの部分にはプラスな表現が来るイメージがあ
る。今回は「武士」という表現があるから、「武士としての実力を競う」というニュアンスのはず。
グンコウはプラスのニュアンスだ。だから①(つまらないことに…)や⑤(ごつごつして…)は×だ
ろう。これで 3 択まで持っていければ十分。では、仮に、上記のヒントから「軍功」という漢字が思
い出せたとする。すると、④の分析次第で④が答えだと分かるはずだ。そもそも、④の「相半(あいな
か)ばする(=互いに同じくらいだ)」という言葉を知っていれば、「コウザイ」は対をなす字を 2 つ
並べた漢字だと予想できる。「ザイ」が「罪」だと分かれば、あとは、「罪」と逆の意味を表す字と
して「功」が適切かを考えればよい。「功」は「成功」「功績」という熟語からもわかるようにプラ
スの意味、「罪」はマイナスの意味だ。だから問題もなく、④を答えに出来る。③を答えにしてし
まった人は、今回は仕方ない。というのも、③の「出来のコウセツ」は「出来が良いか悪いか」とい
うことであり、「コウ」がプラスの意味だと想像が付き、ついつい答えにしたくなるからだ。
(エ)ヨウイが「簡単」という意味で、②のカンイも「簡単」という意味だと気付ければ一発。
(オ)消去法で解くことが可能。①は「となる」という表現が二度繰り返されていることに気付くと同時に、
漢文で出てくる「モ」という助詞が逆接であることを知っていれば、「ケイコウとなる」⇔「牛後と
なる」の対比にすぐに気付ける。だから、「ケイコウ」は「牛後」と比べられているものだ。牛とい
う動物と比べられるものは、当然、別の動物のはず。だから「ケイ」は動物に関係のある漢字のはず。
今回の「ケイキ」は、下線部周辺を読めば、「きっかけ」という意味であることはすぐに分かるはず
で、「動物」が関係してくる余地はない。だから①は×。あとは、②④⑤が消せれば…。
問 2
講評:「なぜか」という極めて単純な問い方だが、傍線部の内容が、筆者の主張などではなく論旨展開に関
わるものであったこと、これに意外と戸惑ってしまった人も多かっただろう。しかし、難しそうに見
える問題ほどヒントが多かったり、解きやすくなっているものである。当然、「各段落の役割を把握
し、傍線部周辺のみならず文章全体をマクロな視点で俯瞰する」という力も大事だが、時間制約の厳
しい試験でこうした大局的な読解を行うのは普通、困難である。今回であれば、各選択肢の共通構造
に気付くことで「どこから根拠を探せばいいか」を早めに確定させることが、実は点差をつける重要
なポイントであったような気がする。
①各選択肢の共通構造にチェック。「中国に目を転じて時代をさかのぼり、【A】ことで、近世後期の日本において
【B】が把握でできるから。」
②よって、「広く考える」=「中国に目を転じる」であり、その理由が【A】と【B】の 2 ポイントだということに
なる。この 2 ポイントに該当する内容を本文から探せばよい。
③まず、【A】を考える。【A】の該当箇所を確定させよう。筆者が中国に目を転じている箇所を探すと、「そもそ
も中国古典文は…」で始まる第 6 段落以降だと分かる。第 6 段落からどこまで続くのかをチェックしてみると、第 9
段落で「こういう観点からすれば」という「まとめ」を表す表現があり、そして第 10 段落で「日本の近世社会にお
ける漢文の普及もまた、…」と書かれていて日本に視点を戻していることから、第 6~9 段落が中国に目を転じた部
分だと分かる。
④第 6~9 段落の内容を各段落ごとに要約する。
第 6 段落:[全体の主張]士大夫が書きことば(中国古典文)の世界を支えた
第 7 段落:[例①]思想→「学ぶ」階層のために書かれている
第 8 段落:[例②]文学→士人のもの
第 9 段落:[+α の主張]科挙は士大夫の思考や感覚の型を継承していた
よって、【A】における最低限のキーワードは「士大夫」「書きことば」であろう。
⑤次に、【B】を考える。【B】の該当箇所は、当然、「日本」について書かれている箇所[=第 10 段落]を参照する。
すると、「日本の近世社会における漢文の普及もまた、士人的エトスもしくは士人意識への志向を用意しました」
とある。「~もまた」という表現から、日本における漢文の普及が、中国の場合と同じであることが分かる。つま
り、筆者は、中国に目を転じることで、日本の漢文の普及も士人意識につながっていたことを述べていたのだ。
よって、【B】における最低限のキーワードは「士人意識(=士人的エトス)」であろう。
⑥以上を踏まえた上で選択肢をチェックしていこう。
①:【A】…この「共通点」の内容をちゃんと入れてほしいが、共通点の内容は「士大夫が書きことばの世界を
支えたこと」であるから問題はない。
【B】…士人意識に関連するキーワードがないから、×。
②:【A】…「学問の制度化の歴史的起源」が意味不明だし、「士大夫」などのキーワードも抜けている。
【B】…ポイントを含んでいない。ちなみに、「漢文が素養として公的に認知された」というのは第 2 段落
にあるが、ここでは「このように歴史の流れを理解すれば、~納得しやすいのではないでしょう
か」とあり、既に第 1 段落の時点で「漢文が~認知された」理由を述べていたことが分かる。「も
う少し広げて」再びそのことを考えたとはさすがに言い難いだろう。
③:【A】…「思想」は「書きことば」の例であるし、それが「士大夫階級」に受け入れられた、という説明も
問題なし。キーワードをばっちり含んでいる。
【B】…「知的世界が多様化」が、ポイントとずれている。
④:【A】…「中国古典文」「士大夫階級」というキーワードが含まれており、文句なし。
【B】…「思考や感覚の型」が気になるが、本文で対応箇所を探すと、第 9 段落 2 行目に「士大夫の思考や
感覚の型―とりあえずこれをエトスと呼ぶことにします」とある。だから、「士人的エトス」とい
うキーワードが含まれていることが確認できる。
⑤:【A】…「民情への視線」は関係ない。士大夫という大事なキーワードが含まれていない。
【B】…「広まった」ことに力点が置かれており、キーワードと無関係。
よって、本文中から拾ったポイントで満たされている④を答えにするしかない。
※番外編
今回は、「各選択肢の共通構造」に注目し、かなり効率的に解いた。では、もしこの共通構造に気付かず、つま
り、選択肢を何も見ていない状態で根拠広いを行うとしたら、どうすればよいのか、考えてみたい。
①下線部内の不明瞭な部分としては「何を広く考えるのか」ということだ。当然、それまでの段落に何らかの
主張があり、それに対し「より広く考えよう」と言っているのだから、「考え」る対象は傍線部前方にある。
②そこで、第 4 段落に目を移すと、ここでは「その過程(=多くの人々が自身の知的世界を形成した過程)で、
ある特定の思考や感覚の型が形成されていった」ということが主な筆者の主張として書かれている。これを
受けて「より広く考えよう」と言っているのである。
③次に、傍線部の「広く」とは、どのように範囲を広げたことを意味するのか、考える。これは本編の解説で
述べた通り、「日本➡中国」という視野拡大のことである。あとは、中国を取り上げた目的が何なのかを調
べ(この方法も本編で解説した)、選択肢を見ていく。
④そうすれば、瞬時に④の選択肢に反応できる。結局は、「下線部の不明瞭な部分の明晰化」という典型的な
作業がスムーズにできれば、はじめから選択肢の構造に注目しなくても答えは出せるのである。
問 3
講評:極めて典型的な問題。下線部を下線部以外の表現で言い換えるだけであり、4 つの道具「指示語・接続
語・同義反復・対比」をフル活用することで答えにたどり着くことが出来る良問!確実に解法のプロ
セスを習得したい問題。問題文の「中国では具体的に…」という条件も見落としてはいけない箇所だ。
①どの選択肢にも共通の構造が存在しないので、積極的に根拠を拾っていくしかない。問われ方を見ると「中国では
具体的にどのような展開があったのか」となっているので、中国の話が書かれている第 6~9 段落から根拠を拾うこ
とを意識。
②問われ方が複雑に見えるかもしれないが、結局は「傍線部はどういうことか」といういつも通りの問題であり、そ
こに「中国に視点を当てて答えること!」という条件が付加されただけである。従って、この問題は、下線部の不
明瞭な部分を、「4 つの道具」を用いながら明晰化していけばよいという、極めて典型的な解法をとる問題なのだ。
③今回は傍線部がきれいに 3 つの要素に分かれる。「人がことばを得」を【A】、「ことばが人を得て」を【B】、
「その世界は拡大します」を【C】とし、各要素を言い換えていき、明晰化していこう。
【A】:「人」「ことば」という 2 セット、さらには「ことばを得る」という動作を下線部の外に探すと、下線
部 2 行前の「~の人々によって担われた書きことば」という部分に注目できる。この部分を主述の明確
な文に書き換えると「~の人々が書きことばを担った」となる。これで言い換え完了。
【B】:【A】の主語・目的語を逆にしただけだ。【A】の言い換えは既に傍線部の 2 行前に見つかったが、そ
の文の後には「逆に言えば、…」と続くから、この後ろに言い換えが見つかりそうだ。すると「書きこ
とばによって構成される 世界」という部分に注目でき、先ほど同様、書き換えてみると「書きことばが
世界を構成する」となる。これで言いかえ完了。
【C】:「その」という指示語に注目し、「その世界」を言い換えると、当然、傍線部の 1 行前の「書きことば
によって構成される世界」となる。「そりゃそうだろ!」という感じだろう。これ以上に大事なのが、
「拡大します」という部分である。傍線部の後ろでは「士人がその世界を支えた」とは書かれているが、
これは「拡大」とは言えない。第 7~9 段落の中に「拡大」の説明があるか探してみると、少なくとも第
7・8 段落の具体例の部分にはなく、第 9 段落に目を移すと「科挙は、士大夫を制度的に再生産するシス
テムであった」とあり、ここでようやく「士大夫を再生産=士大夫が増大=士大夫の支える世界も拡
大」と解釈できるのである。また、「士大夫の思考や感覚の型の継承」という部分も「拡大」とギリギ
リとれるだろう。よって、「その世界は拡大します」の具体的内容は「科挙により士大夫が再生産され、
彼らの思考や感覚の型も継承されていく」ということである。
④以上を踏まえ、各選択肢を見てみよう。上記の 3 ポイントをすべて踏まえているものを正答とすればよいのだ。
①:「一方で」の前後の対比構造に注目。そもそも「道家のことばに導かれ」の時点で【A】のポイントを外し
ているし、思想家の 1 つである「道家」に限定しているのも謎。一発で消去できるオイシイ選択肢だ。
②:「とともに」の前後の対比構造に注目。「~人々の意欲が高まる」はよくわからないので「?」としておき
保留。「中国古典文が書きことばの規範となり」は【B】の根拠とだいたい一致。今回、傍線部の後ろに
「古典世界」という表現があるので、「書きことばが世界を構成する」=「書きことばが古典世界を支え
る」と言い換えれば、選択肢の表現も問題ないと判断できる。そして、「やがて~科挙制度を通して統治シ
ステムが行き渡っていった」が完璧に正しい。【C】の言い換えに成功した人は、この選択肢は見た瞬間に
正答の匂いが感じられたと思う。
③:「士大夫が~中国古典文の世界を支える」は完全に【A】とほぼ一致。しかし、「儒家の教えが社会規範と
して流布」は、「儒家」に限定しているのが謎。本文において「儒家」とは、「書きことばの世界」の中の
「思想」という領域の一部に属する存在。しかも、第 7 段落 2 行目に「儒家ばかりではありません」とある
ことからも明らかに×。この時点でこの選択肢は消去できるだろう。ちなみに、「伝統的な身分秩序を固定
化する」という部分は実は×ではない。「伝統的な身分秩序」=「士大夫」とすれば、【C】のポイントの
「士大夫が再生産される」というのは「士大夫という身分の固定化」とも置き換えても問題はないだろう。
④:「人々が~志や情を詩にする」は【A】のポイントを具体化しているだけで、問題ない。しかし、「経書の
中に~ものが出現し」というのは、「経書に新しいタイプが登場した」という、【B】とは全く無関係な話。
しかも、最後の「身分秩序が流動化」は、③の「固定化」と逆であり、明らかに×だと言える。
⑤:まず、「~科挙が導入され、」で始まっている時点で謎。傍線部では「人がことばを得、ことばが人を得て
➡その世界は拡大」という流れで書かれているのに、この選択肢では「世界の拡大」の内容がはじめに書か
れているのだ。また、「書きことばの規範が大衆化(=一般の人々にも広まる)」という部分も、「書きこ
とばは士人のものだ」という本文の主張と大きく矛盾する。
以上より、3 ポイントの大部分を踏まえられている②が正解。ちなみに②の「リテラシーの獲得に対する人々」と
は、第 6 段落を読解すれば分かるように「士人」のこと。第 6 段落から「士人がその世界を支える」のだと読み取
れる。この「士人(=リテラシーによって社会に地位を占める階層)」というのが第 6 段落 1 行目の「特定の階層
の人々」の言い換えだと考えれば、【A】のポイントもばっちり含まれていることが納得できるだろう。
問 4
講評:「それによって…はどういうことが可能になったか」という異例の問い方であり、典型的な問題とは
言えないだろう。しかし、だからといって雑に解いてはいけない。この問い方に注意を払った上で、
解く際の最大のルールである「本文中から根拠を拾う」ことが徹底して行えていれば確実に得点出来
る問題であったと言える。
※以下の解法のプロセスについてだが、実際は②からスタートする。①は②の説明を補うものとして考えること。
①傍線部自体はそのまま理解できる内容だが、この内容が本文でどう位置づけられているかは踏まえる必要がある。
第 14 段落冒頭に「しかし」とあるから、前後で話の内容が逆転している(対比構造が隠れている)。ここに注目す
ると、第 13 段落最後では「文と武、それは越えがたい対立のように見えます」、第 14 段落冒頭では「武を文に対
立するものとしてでなく、忠の現れと見なしていく」とあるから、「武≠文」と「武=文」という対比構造を容易
に見抜くことができる。以上を前提に、問いに答えていこう。
②今回は、「それ[=傍線部]によって近世後期の武士はどういうことが可能になったのか」という問い方である。
「~になった」という変化を表す表現が使われており、傍線部でも「~となる」という表現が使われているので、
「武≠文」➡「武=文」という変化が起こっていることが改めて確認できる。大事なのは、「何が可能になった
か」である。傍線部周辺から、新たに「可能になった」と言えるような内容を探していけばよいのだ。
③各選択肢の共通構造に注目することも大事である。今回は、どの選択肢も「近世後期の武士は、~ことで、…でき
るようになった」という構造になっている。「~ことで」というのは因果関係を表す表現であり、設問文の「それ
[=傍線部]によって~」という部分と対応する。ということは、「~ことで」の部分には傍線部を言い換えた内容
が入ることが分かる。今回、傍線部の内容は分析するまでもない(そのまま理解できる!)ので、別の表現で一生
懸命言い換える必要がない。つまり、「~ことで」の部分はそんなに大きく問われてはいないと思ってよい。結局、
「どういうことが可能になったか」を本文からしっかり調べることが大事だということである。
④あとは、4 つの道具を使いながら根拠を拾えばよい。今回は探し方がたくさんあるので、人それぞれ目の付け所が
違ってよいと思う。以下、4 つの道具を駆使した解法をいくつか紹介する。
(i)傍線部の次の文に「これは、…」とあり、下線部の内容を指示語で受けて、後ろで詳しい説明があり、ここに
根拠がありそうだと思いながら先を読むと、「…と同時に、そうした武に支えられてこその文であるという意
識が生まれる契機にもなります」とある。この傍線部を「原因」としたときの「結果」に当たる部分がここに
明確に書かれている(「契機」という言葉から分かる)。よって、「武に支えられてこその文であるという意
識を持つことができるようになった」という内容を根拠として用意できる。
(ii)次の段落に目を移すと、第 15 段落 1 行目で「文」「武」という語が見受けられ、「文=行政能力」、「武=
忠義の心」という図式になるから、(i)の内容は「忠義の心に支えられてこその行政能力であるという意識を
持つことができるようになった」とも置き換え可能。
(iii)傍線部の前の文に「ことで」という因果関係を表す表現がある。選択肢にも「ことで」という共通構造が
あったので、関係がありそうな予感がするわけだ。すると、「ことで」の前の内容はまさに傍線部と同内容
なので、やはり今回の設問と関係があることが確認できた。したがって、「ことで」の後ろの内容をチェッ
クすればよい。「平時における自己確認も容易になります」という内容を根拠として用意すればよい。
(「容易」は「可能」とも置き換えることができるし、根拠としてはかなり拾いやすいのではないか。)
(iv)第 15・16 段落は傍線部と同じ内容が繰り返されている[武(武芸)=忠義の心=精神修養=精神の領域に属す
る行為]。第 17 段落冒頭に目を移すと、「そして」という接続語があり、それまでの話からつながっている
ことが分かる。だから先を読むと、「学問は士族が身を立てるために必須の要件となりました」とあり、
「~となりました」という表現もあるので、この部分を「新たに可能になったこと」として拾ってもよいだ
ろう。「学問によって身を立てることが可能になった」を根拠として用意しておけばよい。(なお、第 18 段
落は「儒学が治国・平天下に連なっている」という内容つまり「儒学の影響」について書かれている内容で
あり、今回の設問の内容からは少し離れてしまうので、根拠を探す必要はない。)
⑤以上の根拠[(i)(ii)(iii)(iv)]を踏まえて、選択肢を見ていこう。「ことで」の前をA、後ろをBとする。
①A:まったく問題なし。
B:ポイントが含まれていない。「中国の…単なる模倣ではない、日本独自の…」という対比構造も謎。
②A:「単なる武芸の道具であった刀」はOK、「漢文学習によって得られた吏僚としての資格」は傍線部と一
致せず×、「武士に必須な忠義心…を象徴するものと見なす」はOK。
B:「学問」の話が入っているので(iv)と関係がありそうなので、×にはしにくい。
③A:「本来意味していた忠義の精神」が×。「忠義の象徴となる[=忠義の象徴に変わった]」という内容が正
しく反映されていない。
B:ポイントがまったく含まれていない。しかも本文にも書かれていないので、絶対に選んではいけない。
④A:「武芸の典型としての刀を~と見なす」は傍線部と完全に同内容でありOK。「その[=忠義の]精神を…
行政能力の土台と位置づける」は(ii)と完全に一致していてOK。(本当はBに入れるべき内容であり、
「~と見なすことでその精神を…」という書き方をすべきなのだが、今回は後ろの「学問」の話につなげ
るために、その書き方ができなかったのだろう。因果関係を表す表現を 1 つの文で 2 回も明示すると、さ
すがに日本語として不自然だ。)
B:「学問」の話があり(iv)とだいたい一致する。しかも「自らの生き方を正当化」という部分は、(ii)の
「自己確認」と一致する。ポイントをうまく詰め込んでおり、正答に匂いが感じられる。
⑤A:傍線部内の肝心なキーワードである「忠義の象徴」の言い換えが存在せず、しかも「常に」という 100%
表現も怪しい。この時点で十分に×にできる。
B:「忠義」というワードが入っていて一見よさそうに見えるかもしれないが、「忠義で結ばれた関係」とい
う書き方は意味不明。「精神の修養に専念」という内容は良さそうだが、この部分を修飾している「出世
のための~風潮に流されず」が明らかに本文にない。しかも、一番大事なのは、「精神の修養[=武]が文
を支えた」という内容であり、「文」とか「行政能力」といったキーワードを入れていない以上、正答に
はできない。
問 5
講評:設問文に「本文全体の内容に照らして」とあるように、傍線部周辺のみならず他の複数の段落の内容
も踏まえないといけない点では難しい。しかし、すべての段落にしっかり目を通し、大まかな内容を
要約して読めていれば、この問題の根拠が書かれている場所はすぐ探せるだろう。
①「それはどういうことか」とあるので、傍線部の内容をただ言い換えればよい「換言」の問題。しかし、「本文全
体の内容に照らして」とあるので、根拠を探す際には傍線部周辺のみならず、かなり前の段落に目を向けたりする
ことも必要なのだろうと推測する。とはいえ傍線部内の不明瞭な部分は「道理と天下」という部分ぐらいしかない
と思われるので、ここにしっかり焦点を当てていけば、答えを探すのも容易なはず。
②各選択肢の共通構造に注目。どの選択肢も「武士の子弟たちは、漢文を学ぶことを通して、Aとともに、Bになっ
たということ。」という書き方になっている。AとBという 2 つの内容が並列されているが、これは傍線部でいう
とどこに対応するだろうか。実はここで、解釈が 2 つに分かれてしまうのだ。1 つは、傍線部内の「道理と天下」
が「AとB」に対応するという考え(つまり、A=道理、B=天下)。しかし、もう 1 つの解釈もある。傍線部で
は「~ことでもあった」という書き方がされており、この「も」という語に注目する。「も」を使っている以上、
2 つの事柄を並列させていることが前提にあるので、傍線部は「漢文で読み書きすることは、(Aするだけでな
く)Bすることでもあった」と捉えることができる。「Aするだけでなく」の部分を補うことが出来るわけである。
この考え方の場合、「B=道理と天下」であり、「A=別の何か」という形になる。以上の 2 つの解釈があり、結
果的にはどちらでも正解できる。以下、前者を(i)、後者を(ii)として解説していく。(結局この 2 つは、解釈のズ
レに過ぎないのであり、根拠として引っ張ってくる箇所は結果的に同じ。)
(i) (ii)
③まず「天下」という語は第 18 段落の 1 行目にも見られ、
根拠が見つけやすそうなので、ここから考える。「治
国・平天下に連なっている」という部分だ。この述部
に対する主語は「教化のための儒学」であり、ここに
は当然「漢文を読み書きする行為」も含まれているは
ずだ(リード文でも「幕府の教学制度が整備され、~
していくことに伴って、漢文を読み書きする行為が…
全国に広まった」とあるから)。よって、傍線部の
「天下」と第 18 段落 1 行目の「天下」は完全に文脈が
一致する。
③「道理と天下」について書かれている部分を探すと、
「天下」という語が見られる第 18 段落を参照するこ
とができる。この述部に対する主語は「教化のための
儒学」であり、ここには当然「漢文を読み書きする行
為」も含まれているはずだ(理由は左参照)。また、
「教化のための儒学」という部分も、「道理」という
語と関連がある(道理というのは「人として行うべき
正しい道」であり、道徳を学ぶ「儒学」と関連があり
そうだから)。とすれば、この部分は傍線部と完全に
文脈が一致すると言える。
④第 18 段落 1 行目以降を精読していこう。2 行目「つまり」以下を見ると「統治への意識」という言葉でコンパク
トにまとめられている。さらにその 1 行後で「経世の志と言い換えることもできる」とある。よって、「統治へ
の意識」または「経世の志」を根拠として拾っておけばよい。これがBに当たる内容だ。
⑤次に、「道理」の説明を探す。傍線部では「道理と天
下」とあるので、「天下」の説明の前に「道理」の説
明があると考えるのが自然。つまり、第 18 段落より
前にあるのではないかと推測。
⑤次に、Aに当たる内容を探す。Bに当たる内容が第 18
段落にあったのだから、Aに当たる内容はそれよりも
前にあるのではないかと推測。
すると、第 18 段落冒頭には「もう一つ」ともあるし、見事に「第 17 段落と第 18 段落」が並列関係にあることが
分かるので、第 18 段落を参照する。この段落の内容は結局は 1 行目ですべて要約されており、つまり「学問は
士族が身を立てるために必須の要件となりました」ということだ。これをさらに一言でまとめると「学問が必須
となった」。これをAの説明としてキャッチしておけばよい。
⑥以上を踏まえて選択肢を見る。
①A:「学問を修める」ことの言い換えだと考えられるし、大きなキズはない。
B:「統治」に関するキーワードがない。「エリートとしての内面性」も本文にないから一瞬で×だし、「科
挙制度が形成した士人意識」というのも本文と矛盾。第 9 段落で「科挙は士人意識を継承した」という内
容があり、科挙が生まれた時点で既に士人意識は形成されてたことは明白。
②A:「文と武の調和」については、本文における筆者の主張である「文=武」と一致していて問題ないかもし
れないが、肝心な「学問」関係のキーワードがない。
B:「統治」関係のキーワードがない。しかも「幕吏として登用されるために不可欠な資格を獲得」も×。第
17 段落で「幕吏として任用されるさいの履歴に残す」とあり、せいぜいこの程度。資格の獲得まではいか
ない。
③A:「知識の獲得」は「学問を修める」ことなので、問題ない。「身を立てる」という表現も第 17 段落 1 行
目にあったし、簡単に×にはできない。
B:「統治者としてのあり方を体得」という部分が「統治」というキーワードを踏まえており問題なし。「あ
り方」も「意識」と近い表現。ポイントを完全に反映させている内容だ。
④A:「修身」は第 18 段落 1 行目で「儒学はまず修身から始まる」とあることからも、「学問」の一部として
解釈でき、問題ない。
B:「経世の志」というキーワードが見事に反映されており、正答だと一瞬思うのだが、「士人としての生き
方を超えた」が言い過ぎ。典型的な「大げさな表現」であり、誰が見ても×である。現代文の選択肢では
「~を超えた」という表現がよく×になりやすい。「~を超えた」というのはある意味「否定表現」だ。
⑤A:一応、「中国の士人の考え方を学ぶ」と解釈できるので、「学問を修める」ことだと考えてよい。
B:「統治」の話があり問題なさそうだが、「~役割を天命として引き受ける気になった」が×。「天命」と
いうのは大げさすぎだし、「~気になった」というのも「意欲的」であることを示唆する表現であり傍線
部の「背負ってしまう」(非意欲的)という表現とズレてしまう。いろんな点で×の内容だ。
問 6 (i)
講評:意外と正答率の低い問題。問題量が多いこと、そして消去しにくい選択肢があったことなどが原因だ
ろう。しかも、どの選択肢も「この段落では…」という方向性で書かれており、いちいちその段落を
参照しなくてはならない。この点でも非常に手間のかかる問題である。しかし、時間を回せば絶対に
解けるので、この手の問題に時間を充ててしっかり取り組めるほどの訓練を徹底してほしいと思う。
① 4 つの選択肢をざっと眺めると、この文章の一部分を引用し、その部分の表現の「役割」について聞いている問題
であることが把握できる。そして、各引用部分に対して「第〇段落」というように、「本文のどこにあるか」も示
してくれている。従って、地道な作業ではあるが、各引用部分を段落番号を参考にして本文中から見つけ出した上
で、選択肢の内容が正しいかどうかを判断する必要がある。確実に「消去法」で解くことが要求されている問題だ。
②各選択肢を消去していこう。微妙なものは「△」としておけばよい。
①:「読み手に問いかける」が正しいかどうかチェックしよう。第 2 段落の一文は文末が「~でしょうか」とい
う形になっており、まだマシだが、第 5 段落の「もう少し広く考えてみましょう。」という文にはどこにも
「問いかける」要素がない。そして第 9 段落だとなおさらだ。第 9 段落は、科挙の意義を淡々と説明してい
るだけであり、「問いかける」要素がゼロ。だからこの選択肢は容易に×できるであろう。今回の 4 つの選
択肢の中で最も裁きやすかったのではないだろうか。
②:「前の部分と、それに続く部分との関係があらかじめ示され」が正しいかどうか調べよう。「やや極端な言
い方ですが」は、言葉通り、前の内容を後ろでは「異学の禁があればこそ、…」という形で大げさに言い換
えており、問題ない。「逆に言えば」も、この前では「人々によって…」、後ろでは「書きことばによって
…」となっており対比がキレイに見られるし、関係性がはっきりしていると言える。「正直に言えば」につ
いても、後ろで「ままごとのようなものなのかもしれません」とあり、「ままごと」という皮肉めいた言い
方をしているので「正直に言っている」ことが読み取れるし、前後の関係性が明確。「内容が読み取りやす
くなっている」というのは正直「そんなの人それぞれでしょ!」と突っ込みたくなるような内容であるから、
ここは「?」にしておこう。 主観的な内容は、〇にも ×にもできないのだ。よって、この選択肢はひとまず
「△」にしておけばよい。
③:「~のです」という表現が「そこまでの内容についての確認・念押し」であるかどうかをチェックしよう。
具体的には、「確認」というのは、今まで言ってきた内容を「もう1度繰り返す」ことによって行うことな
ので、「~のです」という文がその前の文の「言い換え」になっていることをチェックすればいい。第 1 段
落の場合、「やや極端な言い方ですが」が換言を表す表現なので問題ない。第 3 段落も、「しかし、…、漢
学は知的世界への入り口として機能しました。」という文をほぼ言い換えていて問題ない。第 4 段落も、
「通俗的な道徳を説く書物なら、漢籍を待たずとも、巷に溢れていました」の言い換えとなっており問題な
い。第 7 段落も、「乱暴な言い方ですが」が換言を表す表現だと見れるので問題ない。ここまでで×にでき
る要素はあまりないので、次に「次の話題に移ることが明らかになっている」のかどうかをチェックする。
第 1 段落の場合、その次の段落冒頭が「このように」という指示語で始まっていることから、まだ新しい話
題には移っていない。しかし第 3 段落からは、「さて」とあることから分かるように、新しい話題に移って
いる。だから微妙なところだ。第 3 段落の場合も、その次の段落冒頭が「となると[=そうなると]」となっ
ており、新しい話題には移っていない(ただ、「ある特定の思考や感覚の型が形成」というのは新しい情
報)。しかし第 4 段落では中国の話から「日本」の話に話題が転換しているので、微妙なところだ。第 4 段
落は、その次の段落で「もう少し広く考えてみましょう」とあり、話題が切り替わるような印象も受けるが、
「広く考える」ということは今までの話を「深く掘り下げる」のであり、話題の中心自体は変わっていない
と言える。だからここも微妙なところだ。第 7 段落の場合は、次の段落で「文学」の話に切り替わっている
ので、新たな話題と言ってもよいだろう(ただし、具体例の中身が切り替わっただけで、筆者の主張[=書き
ことばは士人のもの]自体は同じである)。このように見てみると、この選択肢は「微妙」と判断せざるを得
ないものが多いので、×にはしにくいものの、②の選択肢と比べれば②のほうが「より適切」と言えるので、
この時点で、②が答えなのではないかと的を絞るべきだ。
④:「学術的な言い回し」という部分が正しいかどうかをまずチェックする。「~せずとも」や「~なるもの」
という言い方は確かに日常ではそんなに使わないかもしれないが、「学術的」な言い回し[=専門の学問分野
でしか使わないような言い回し]であるかと言われれば、微妙だろう。別に、我々が文章を書くときにも普通
に使って問題ないような表現だ。次に、「観念的スタイルが確保されている」という部分が正しいかどうか
をチェックする。観念的というのは「抽象的」という語に意味が近く、具体的な形が頭に浮かんでいない状
態のことだ。しかし、「漢籍をまたずとも」「文武両道なるものは」という表現に観念的な要素であるとい
う根拠はどこにもない。ここで完全に×になるだろう。ちなみに、ついついチェックし忘れがちだが、
「「です・ます」という優しい調子の書き方」という部分も地味に微妙な内容。「優しい調子」と感じるか
は人それぞれだろう。
③以上の解釈より、最もキズの少ない②を答えにしておくのが無難。
問 6 (ii)
講評:(i)とは違い、正答率が高いと思われる問題。時間さえかけて取り組めば必ず正答が導ける。誤答の選
択肢については確実に不適切な部分が含まれており、解きやすい問題であったと思う。ただし、文章
を読む段階で「段落の構成」を意識して読んだか否かによって解くスピードに差がつく問題であると
も言える。以上より、ある意味「良問」であるという見方もできた問題であったと思う。
①まず、すべての選択肢にざっと目を通すと、「第〇段落~第△段落」という形が見られている。つまり、複数の段
落をセットにしてまとめ、そのまとまった部分がどういう役割を果たしているかということが書かれているのであ
る。とすると、この問題は消去法を使わなくてもよさそうである。まずは自分で、今回の文章を区切ってみて、
「この段落からこの段落まではセットだ」というような形で、いくつかのセットを作ってみればよい。そして、そ
の「セット」を分断している選択肢があれば真っ先に×にすればよい。
②それでは、具体的に「セット」を作ってみよう。まず、第 2 段落冒頭に「このように」という指示語があることか
ら、第 1 段落と第 2 段落は必ずセットだ。第 3 段落冒頭には「さて」とあり、話題転換として考える。そして第 4
段落冒頭に「となると[=そうなると]」という表現があり、第 3 段落と話がつながっているので、第 3 段落と第 4
段落もセットだ。そして第 5 段落で「もう少し広く考えてみましょう」と言ってからは、中国の話を持ってきてい
る。この「中国」の話は、第 6 段落から始まり、科挙の意義が述べられている第 9 段落まで続くので、第 6~9 段落
も 1 つのまとまり(絶対に途中で切り離せない)。第 10 段落で「日本」の話に戻り、第 11 段落の最後に「もう一
度、近世日本に戻って考えてみましょう。」とあり、新たな思考がここで始まりかけており、第 12 段落で「中国の
士大夫と日本の武士が漢文を介してどのように繋がるのか、見ておく必要があります。」とある。この話が第 13 段
落から始まる。第 14 段落冒頭には「しかしそれも」とあり、指示語があるので話はつながっており、第 15 段落冒
頭では「やや誇張して言えば」という換言を表す表現があるので前の段落の言い換えが続いており、第 16 段落でも、
第 15 段落における「忠義の心=武」という内容が繰り返し述べられており、第 17 段落冒頭では「そして」とあり
話がつながっており、第 18 段落冒頭では「もう一つ」とあるから第 17 段落と並列になっており、第 19 段落冒頭で
は「細かく言えば」とあり第 18 段落で書かれたことに対して「予想される反論」を述べており[=譲歩]、第 20 段
落冒頭では「しかし」という逆接を用いることで改めて第 17・18 段落で述べた主張を繰り返している。このように
見ていくと、第 13~20 段落は必ずセットであり、この間のどこかで区切りを入れては絶対にいけない。
③まとめると、【1・2】【3・4】【6・7・8・9】【13・14・15・16・17・18・19・20】というこの 4 つのセットに関
しては、絶対に「分断」してはいけないということになる。この上で選択肢を見ていき、このセットを踏まえてい
ないものを探す。すると、②の選択肢は「第 3 段落~第 16 段落」というセットが×。第 16 段落の後ろで分断され
ている。しかも「中心」と「補足」という関係もおかしい。なぜ「中心」の部分に中国の話などの具体例が入って
いるのか、という突っ込みが入ってしまう。そして、④の選択肢は「そして第 20 段落」が×。第 20 段落は、第 13
段落以降の段落とずっとつながっているのだ。しかも「起承転結」はどこにも見られない。
④残った選択肢である①と③を絞っていこう。①の選択肢は、一概に「ここが×だ!」と言える箇所がないのでおい
ておく。第 5 段落で「もう少し広く考えてみましょう」と言うまでの内容は、当然「全体的な内容」のはずだから、
第 1~4 段落を「全体の骨子」としているのは問題ないし、第 5~10 段落・第 11~第 20 段落という分け方も問題な
い。一方、③の選択肢は、「前半=概略」「後半=詳細」という捉え方が×。②の選択肢同様、「なぜ概略の部分
に中国の具体的な話を入れるのか」という突っ込みが入る。以上より、①を答えにしておくのがよい。
各設問のチェックポイント
この解説を十分に理解した皆さんは、ぜひともこの解き方を「他の問題を解くとき」にも活かしてもらいたい。そのためにはやはり、
解説の内容を「抽象化」し、パターンや公式のような形にしてチェックしておくべきだろう。ということで、今後この問題を復習する
機会がなかったとしても、以下のチェックポイントだけはこまめにチェックしてほしい。この内容で不明点があれば、再び解説を参照
したり、あるいは「質問」するなどして、解消しておくこと。
設問 チェック事項 check
問 1 分からない漢字が出てきたら「文脈」を参照し、「意味」「用法」から選択肢を絞っていく
問 2 まずはじめに各選択肢の「共通構造」に注目することで、根拠拾いの効率化を図る
問 3
「同義反復」を利用して傍線部の言い換えを探していく
傍線部内の「対比」構造に注目して、傍線部の外に同構造を探していく
傍線部の言い換えが遠い段落に存在することもよくある
問 4
普段と違う問い方をしていたらその部分をしっかりチェックすることで、根拠拾いの効率化を図る
「変化」を表す表現(例:~となる)に注目することで根拠拾いが容易になることがある
問 5
「並列構造」に着目することで根拠拾いが容易になることがある
「換言」の接続詞(例:つまり)に注目することで、コンパクトな形で根拠を拾うことができる
問 6 (i)
問題によっては「消去法」を使わざるを得ない問題もある
本文の特定箇所について説明されている選択肢においては、面倒くさがらずにその箇所を参照する
消去法を使う際、「ここは矛盾している」と明確に判断できない選択肢は「△」にとどめておく
問 6 (ii) 段落構成の問題では、まず自分で複数の段落の「セット」を作った上で選択肢をチェックしていく
その他
リード文が付いている場合は、本文をラクに読むための「ヒント」だと思ってちゃんと読む
現代文の文章では、1 つの段落の中で筆者が伝えたいことはたった 1 つであることが多い
「もちろんA、しかしB」「AではなくB」という構造を見たら、AよりもBを重要視して読む
「たしかに」「もちろん」「~かもしれない」などはすべて譲歩を表す表現である
「主張➡譲歩➡主張(繰り返す)」という流れになることがある
解説パート2
問一は漢字の問題。アの正解の選択肢「痛棒」は難しいかもしれませんね。「痛棒を食らわす」なんて使ったりします。まあ分からなくても消去法で選べたとは思いますが。ウの「軍功」は分かりづらいかもしれませんが文脈的に「功」の字かなと見当がついて欲しいところ。あとは自力で書けて欲しいですね。
問二。正直「とんでもないところに傍線部が引かれたな.....」と思いました。これは文脈的に「テーマ設定」にあたるところです。この設問は「どうしてここでこのようにテーマを設定したのか」と聞いているようなもので、言ってみれば論の展開に対する理解が問われた面があります。(内容理解の方が中心的ですが)自分はここでこの問題は飛ばしました。ここまでの段落からどうしてこういうふうに設定するのかは、まだ判断できないのではないかと思ったからです。ここで慌ててしまうと後々の問題に影響を与えかねないなという気がしますし、センター試験の平均点が下がったのはこの間二のせいなのではないかとすら思います。
ただここで一応選択肢だけ見ておきますと、どれも「〇〇することで、xxが把握できるから」という構造で、どうにもそんなに「広い」把握が求められているようでもないことがわかります。まず何が把握できるのか、つまり「ここでは何が話題になっていて、何を広く考えるのか」から押さえることにします。すると第四段落冒頭で、「士族階級にある特定の感覚や思考の型が形成されていったこと」に「注意を向ける必要」があると述べられていることに気づきます。これをポイントaとして、選択肢チェックしてみますと、即座に④に絞られます。
また、ちょうどいいので論旨を理しておくと、リード文からも分かるように、ここまでの段落(第一段落~第四段落)は「日本」の話であるのに対して、次の段落では「そもそも中国では」と始めています。そして、どの選択肢にも「中国に目を転じて時代をさかのぼる」という内容があることからも、そうした説明が始まることが分かります。さらに、④が正解であるならば、ここから「中国古典文と土大夫の意識の関係」についての考察が始まることも見当がつきます。見方を変えれば、こういうことが一気に把握できる、ある種のサービス問題だったとも言えるのかもしれません。
問三。傍線部を分解して「人」「ことば」「世界の拡大」の三つが主なポイントになるだろうと見当つけたうえで、まずは傍線部中の「人」が何かを押さえます。すると直後の「土人もしくは土大夫」が「高度なリテラシー」を獲得し「世界を支え」た、という内容(ポイントa)が把握できます。また、「ことば」が「中国古典文」であることも押さえられます(ポイントb)。ここで一旦選択肢チェックすると
①→aなし
②→a.bあり
③→a.bあり
また、④⑤もa.bともに含んでいるのですが、選択肢の構造からして「~ようになると」の前後でa.bが分かれてしまっていて、ちょっとどうなんだろうな、というぐらいの見当はつけておきます。
直後の第七段落では「土人もしくは土大夫」が実際に
「世界を支え」ていた具体例が思想という視点から示され、続く第八段落では思想だけではなく、文学についてもそうである、と述べられ、また具体例が示されています。そうして第九段落で「こうした観点からすれば」というまとめから「世界の拡大」の内容、すなわち「科挙」というシステムの内容として「土大夫を制度的に再生産するシステム」「思考や感覚の型を継承するシステム」がといった内容を押さえます。
こうした「科挙」を押さえているのは②④⑤ですが、
④の「流動化」と⑤の「変容」が明確に誤りであることは、ここの論旨、すなわち「土大夫を制度的に再生産する」という内容と照合すれば分かるので、結局答えは②になります。
また、先ほどの間二は1ポイントだけで決めてしまって、どうにも危ない感じがするなと思った場合はここで見直しをすればちょうどいいと思います。案の定、④の選択肢にあるように、「中国古典文と土大夫の意識」について押さえたのですから、問二は④がほぼ確実に正しいであろうことが分かります。また、それが正解であるのなら、やはり問三で「中国古典文と土大夫の意識」について押さえたことも正しいであろうことが推測できますので、結局間二、三両方の妥当性に確が得られる結果となります。逆に言えば、問二を間違えると間三も落としかねないため、これもまた平均点を下げる結果を招いた原因であったのではないかと憶測しています。
問四。「どういうことが可能になったのか」という設問からも、直後に説明があるだろうと見当をつけます。
直後の指示語「これ」が傍線部を受けると考え、「これは」以下の内容を押さえます。すると、「武への価値づけの転換であると同時に、そうした武に支えられてこその文であるという意識」を生み出す「契機」になる、ということから、この価値づけと意識が生まれることでどうなったのか、を押さえていくことになります。
次の段落で「やや誇張して言えば」で、強調的に「行政
能力が文」(ポイントa)「忠義の心が武」(ポイントb)という図式にまとめられます。これが「武に支えられてこその文である」という関係に留意して、選択肢チェックすると、
①→bのみただし、そもそも内容と何も一致していないことに注意。
②→bのみ「刀を(...〕官僚の資格」という内容も不一致
③→abともにあるが、「刀を持つことが本来意味していた忠義の精神」という内容や「知力」「胆力」という表現も不適切。
④→a.bあり「土台」という表現からも「「武に支えられてこその文」と一致。
⑤→a,bなし「常に刀を携えることで」の時点で不適。
という時点でほぼ答えは④に確定なのですが、一応その後の「引用文→解説とまとめ」という構造から、筆者が「注意したいのは」で強調している「武芸が精神の領域に属する行為となっていた」ことなども把握しておきます。
問五。「本文全体の内容と照らし合わせて」とありますが、単に全文把握が要求されているわけではなく、まずは傍線部に留意したうえで近辺を精査します。傍線部を分解すると「漢文を読み書きすること」「道理」「天下を背負う」の三つポイントの把握が必要かなと見当つけます。
ただ、「読み書きすることについては近辺からはポイントが得られず、また選択肢においても「漢文を学ぶこと」とされていますから、これは意識しなくても良いということで、「道理」もしくは「天下」を押さえようとします。すると、「天下」は「治国・平天下」「経世の志」といった「統治の意識」につながったこと(ポイントa)が把握できますので、これで一旦選択肢チェックすると、
③④⑤が残ります。ただ、確かに⑤はポイントa「国家を統治するという役割」が含まれていますが、これを「天命として引き受ける気になった」という箇所が「天下を背負う」を取り違えていると思われるため、ここで切ることができます。
「道理」の内容は、とりあえず「治国・平天下」と並列して語られることから「修身」の内容は把握できると思います。ただ、ここで選択肢チェックすると、④が残るのですが、修身が「幕府の教化政策の根幹」にあったかどうかはちょっと判断しかねます。第十八段落冒頭「まず修身から始まる」という表現は「根幹にあった」と読めなくもないのでここは4。「土人としての生き方を超えた」「人としての生き方にかなう」にいたっては本文にない内容ですから、ここで切ってしまってもいいかもしれません。
ここで「本文全体の内容と照らし合わせて」という付帯
条件から、本文全体のテーマ、とりわけ問ニを思い出します。すると、「士族階級にある特定の感覚や思考の型が形成されていったこと」が話題として設定されていたこと(ポイントb)が分かります。このポイントを含むのは③「思考と心構え」と⑤「継承してきた伝統的な思考法」になり、⑤は不適切であるため、③を選ぶことができます。
問六。これは消去法で考えるのがいいと思われます。
(1)について、①は「問いかける」がx②は「内容が読み取りやすくなっている」かどうかは判断しかねますが保留③は「文末」が「確認・念押し」といったことがx④は「学術的な言い回し」「観念的なスタイル」が✕よって②
(ii)について、①は全体の骨子から中国と日本の対比的な文脈という構成が合致しているので保留。②は「第3~第16段落が中心」とありますが、ちょっと微妙。その後の「第17~第20段落が補足」は明確に誤りだと分かると思います。③は段落の大きな区切り方が誤り。
④は区切り方にも無理があるのですが、そこに「起承転結」という意味を持たせようとすると明確に誤りとして切れると思います。したがって①以上で解説は終わりになりますが、問題を解いたのが結構前ですので、ちょっと時の思考を再現しきれていなかったりとか、選択肢の切り方がどうにも中心的な書き方になってしまったかもしれません。
先生の解説は基本的に読みながら(内容を理解しながら)、設問に当たったら、そこまでの理解に基づいて指示語、接続語、相同表現、対比表現、因果関係というツールを用いて文脈を精査してポイントを拾い、選択肢を本文と照らし合わせながらチェックする、という「オーソドックス」なものです。ただ、読みながら解説といっても、別に本文を最初に読む段階で完全に把握することを想定しているわけではなく、問題を解く作業を通じて深く理解することを念頭に置いていることには注意してください。
あと先生であれば、各設問の記述想定解答も配るのでしょうが如何せんそこまでつくる気力もないので、先生が重視しており、想定解答のプリントにも書いている「各設問の意味(方針)」を書くに留めておきます。
問二:第一段落~第四段落から第六段落以降への文脈の移行を踏まえた話題の把握
問三:第六段落〜第九段落における「中国古典文と土大
夫の意識の関係」の考察の内容把握
問四:第十四段落〜第十六段落の内容把握
問五:第十七段落~第二十段落を中心に全体の話題を踏まえた内容把握
問六:本文の表現(i)と構成(i)の把握
最終更新:2023年12月08日 23:16