第1問(評論)
まず問1の漢字ですが、例年より少し難易度が上がったかもしれません。アやオの「訓読み」する漢字が書けたかどうかが点差を分けることになるでしょう。解答は、
(ア)「垂れる」 → 答えは⑤(懸垂)
(イ)「大概」 → 答えは⑤(概要)
(ウ)「潤沢」 → 答えは②(湿潤)
(エ)「端的」 → 答えは④(発端)
(オ)「奏で」 → 答えは④(奏上)
といった形になります。4問は当てたいところです。
さて、では傍線問題に移りましょう。まずは問2ですが、設問の要求が「なぜか」となっているので、傍線部A直前の「だから」という接続語に注目しない手はありません。この説明を外している予備校の解説は、大変危険ですから、信用しないほうがいいでしょう。というわけで、「だから」の直前に書かれた「ツイッター」の具体例を参照します。内容は簡単ですね。「教えて君」が本当は知っているようなことであるにもかかわらず「ご存知ですか?」というリプライを飛ばし、それに対して「教えてあげる君」が真面目に回答してしまうという流れですから、「教えてあげる君」のやっている作業が非常に無駄な作業であるということが分かります。大事なのは、この具体例から何を言いたいかということです。この具体例の直前に「両者が一緒になって、…よりものを知らない人へ知らない人へと向かってしまうという現象」は「ナンセンス」だという一般化された説明があり、傍線部の直後でも「持っていない方に向かうよりも、…」という形で、「ネット上」における「啓蒙」を否定的に見ていることが窺えます。以上の分析を踏まえて、選択肢チェックに入ります。ポイントを分かりやすく単純化してしまえば、「知的な向上が阻まれる」ということですから、これを文末表現としている①③④に絞り、「両者が一緒」を踏まえている③を答えにすればいいでしょう。①や④も、主観を挟まずに文章を読んでいれば簡単に消去出来るでしょう。
そして問3ですが、これが今回、最も簡単な問題だったのではないでしょうか?筆者の主張が明確で理解しやすいので、細かい分析をせずとも答えは出てしまうと思います。まず、傍線部の最低限の分析として、「これ」の指示内容を確認しておくと、「これ」は「音楽家にとって」の「厳しい問題」なわけですから、少し前に書かれている「新しいメロディがなかなか出てこない」という問題を受けていると考えられます。では、なぜ「新しいメロディ」が「出てこない」のかと言われれば、「過去に素晴らしいメロディが数多く紡ぎ出された」からですね。この表現は2行前の「誰かがふと思いついたメロディが過去に前例がある」と同内容の表現であり、二度繰り返されている以上、筆者の主張としても重要で、根拠としては必ず押さえたいところです。ここまでの作業が出来れば一発で正解の②が選べたことでしょう。
では次に問4です。傍線部を言い換える問題ですが、当然ながら、傍線部中の「歴史」に鍵括弧が付されていることから、筆者が独特の意味を添えていると考えられます。鍵括弧付きの「歴史」の説明は第8段落からされており、第9段落内で何度も出てくる「物語」というワードが重要になってきます。そして第9段落の最後で「物語」とは「因果性の別名」と述べられ、このあたりで筆者の主張が明確に呑み込めてきます。ではそのような「歴史」が「崩壊」するとはどういう現象かと言えば、傍線部を含む文の主語=「これ」の内容を追っていけば、「ネット」発達以降、「「歴史」全体を「塊」のように捉える」「考え方」であると分かります。これを言い換えた「ホーリスティック」という語にわざわざ注が付してあり、そこを参照すれば、「全体的、包括的」というキーワードが得られます。ですから、早い人は「ネットの発達」「包括的」というキーワードだけ押さえて選択肢チェックに入れたと思います。これを踏まえると②と④に絞られ、②の「多様性」は関係ありませんから、素直に④が選べると思います。
さて、今回は傍線問題はここまでです。次の問5では、「啓蒙」にまつわる筆者の主張が問われており、「この文章全体を踏まえ」という付帯条件がありますから、若干根拠広いが大変そうに思えますが、「啓蒙」の話は最終段落を中心にまとめて書かれており、ここの内容だけで十分根拠はそろうはずです。最終段落に書かれていたことは、要するに、「啓蒙」は確かに「必要」だけど、それは「できれば」「他の人に任せておきたい」のであり、筆者は「未知なるものへの好奇心/関心/興味を刺激することの方」を優先的にやっていきたいと言っているのです。啓蒙を完全に否定しているわけではないので、そこに注意することが肝要です。以上の解釈のもと、選択肢を見てみると、「啓蒙」が「必要」だという内容はほとんどの選択肢にあるものの、「好奇心」というワードをちゃんと入れているものは②しかありません。なにも「文章全体」を愚直に振り返る必要はなかったのです。
最後に、問6です。8つの選択肢から誤りを2つ選ぶという、ここ数年では見られなかった形式ではありますが、問2~問5が異常なほど平易であることを考えれば、この程度の負担のかかる問題は受け入れるべきです。では、1つ1つ見ていきます。
①→筆者はネット上での教え合いを問題視していますから、「軽いからかい」があるという解釈で問題ありません。
②→「しかし」の前は読者への「譲歩」的な内容であり、それを「読み手に対する」「気配り」と言っています。そして、「しかし」の後ろで言いたいことを持ってくるわけで、そこにおいては読み手に気を遣うことなく自分の意見を単刀直入に言ってしまうわけです。問題ありません。
③→指示語を使わずに書くことで「次の段落への接続」を「滑らかに」するという解釈は理解不能ですね。消去法以前に、この③が解答の第一候補とここで決まるでしょう。迷いようがありません。
④→第5段落での筆者の主張は、問3で確認した通り、「新しいメロディ」をせっかく思いついたとしても「過去に前例がある」場合がある、という内容でした。この段落では、このことをひたすら繰り返しているだけであり、否定的な立場に転じているという解釈には無理があります。「ない」という語を含む文のほとんどが、この段落での筆者の主張と方向性が一致する内容になっています。よって、これが2つ目の答えになりますが、判断が厳しい場合は、⑤以降をすべて消去すれば良いでしょう。
⑤→第7段落の第2文で「目の前にたちはだかってくるもの」が、「あまりにも多過ぎてげんなりしてしまう」とあります。第3文ではそれを「無視」「できない」と言っていますから、第2文と第3文は「げんなりしてしまう(≒無視したくなる)←→無視できない」という逆接関係です。そして、第4文では、「一気に現れたわけではない」と言っており、これは「無視できない」と同じ立場ですね。ですから、この選択肢は問題ありません。
⑥→問4で確認した通り、鍵括弧付きの「歴史」は、「歴史」=「物語」=「因果性の別名」であり、それがネット社会の中で捻じ曲げられて「崩壊」してきた、というのが本文での文脈でしたね。そのことを踏まえれば、鍵括弧付きの「歴史」は「従来」の捉え方と言えます。問題ありませんね。
⑦→ここは、表現を分かりやすいものに言い換えただけですね。「「歴史」の崩壊」というレトリカルな書き方をしたいがゆえに「ある意味では」と言っているわけですから、この選択肢も問題ありません。
⑧→「なさって」という表現が尊敬語であるのは問題ないですし、筆者の立場からしてみれば「啓蒙を得意とする」人たちというのは筆者とは「異なる次元」にいる人たちなわけですから、「距離を置」いているという解釈は当然、成り立ちます。
というわけで、3番は確実に選べるでしょうが、4番が突っかかるかもしれません。結局は、すべての選択肢の正誤判定をしっかり行うために、問5までの問題を油断することなく素早く正確に片づけられたかが点差につながったと思います。問6にしっかり時間を充てて解けていれば、満点が取れて当然ですね。ただし、漢字が難しかったこともありますから、45点までは許容範囲でしょう。
最終更新:2023年12月07日 09:59