全体講評

中央大は100点満点(一部の学部は150点満点)のうち50点が現代文、30点が古文、20点が漢文となっていますが、他の大問と比べてみても、現代文の難度が高いのが特徴です。
とすれば、読解問題(今回で言えば後半の問五〜八)でいかに不正解を外し、正解に目をつけられるかが合否の分かれ目となります。
ですが、全体で60分の試験時間であることを考えると、現代文に充てられる時間は最長で30分です。文章を解く前に当たり前ですが「読む」時間があります。そういうことも考えると、消去法は有効ではありません。
本文をよく読み込み、正解の基準・尺度を得て、できるだけ即答法で答えを選び出す視点が鍵になってきます。
今回も、そういう視点で解説していきます。

解答

問一 (2)恣意 (3)痩 (6)鑑 (8)明澄
問二 E
問三 しっくりく〜努める責任
問四 警鐘
問五 A
問六 C
問七 B
問八 A

解説

問一
(3)「痩」と(6)「鑑」はできて当然です。
(2)の「恣意」は、現代文の重要単語です。「恣意的」で「勝手」という意味で、読んだことは誰しもあると思いますが(ない人は現代文単語の勉強が足りなさすぎます)、書くことはあまりないかもしれません。それでも目に触れた回数が多い人なら、そんなに難しくはなかったでしょうね。
(8)は正直難問です。僕も分かりませんでした。文脈的にも、「陶酔」とは逆の概念になることは分かるので、モヤモヤしておらずはっきりと判断ができる状態である、というのは分かるのですが、「チョウ=澄」を一瞬で連想できる人はなかなかいないでしょう。これがすぐに連想できた人は漢字のセンスがめちゃくちゃあります。

問二
読解問題ですが、これは出来てください。非常に基準が明確な問題です。
まず、設問の要求を強く押さえてください。「ヒトラーの時代の例」を「日本」に当てはめて考えるとどうなるか、と問うているのですから、「ヒトラー」の話をよく確認する必要があります。
そして、忘れてはいけないのが傍線部です。「言語の多義性が切り詰められることの弊害」という内容に合わせて、ヒトラーの話を追っていく必要があります。
すると「多面性を徹底的に排除」という内容が出てきます。これだと傍線部とほぼ同じです。同じことを拾っても基準としては薄すぎますから、より具体的に考えるべきです。
そうすればかなり盛り沢山にポイントを拾うことができます。
  • 「感情に訴えかける強い言葉」を使った
  • 「レッテル貼り」、「敵味方の構図を単純化すること」
  • 「極悪な敵に対する怒りと憎悪の念を高める」
  • 「繰り返す」、「常套句の氾濫」、「決まり文句の洪水」
  • 「人々を・・・思考を停止させ、単一の方向に誘導していく」
  • 「闘争に勝利する」という「目的」
単語だけ引っ張るならば、「感情」、「レッテル・構図」、「憎悪」、「繰り返す」、「単一」、「勝利」などが拾えます。これらをすべて繋げると「戦いの構図を単純化して繰り返し感情的に伝え、国民の戦意を高め、勝利に持っていこうとした」といったところでしょうか。
以上を踏まえて選択肢を見ます。一瞬で消せるのはA・B・Cです。
A:「壮大な理想」とありますが、理想が大きいかどうかはポイントではありません。多義性が切り詰められる、つまり「単一」であるという傍線部と全くリンクしません。
B:「戦果」「戦況」という箇所が既に怪しいです。国民に伝えるのはあくまで戦いの「構図」です。
C:「外国語を禁止」とありますが、どの言語を使うかという問題ではありません。ある意味一番切りやすい選択肢です。
迷うならDとEでしょう。Dは「贅沢」、Eは「アメリカ人やイギリス人」と、どちらも「敵」が登場しているので、迷ってしまいます。
そこでDとEを比較検討すると、Dが選べない理由が2つ見つかります。
まず1つは、敵の対象が「贅沢」というのは戦いの構図としてはおかしいということ。本文でも「国籍、人種、民族」などに「レッテル貼り」をするとあります。世界史の知識がある人は、ドイツがユダヤ人をいじめたことが具体例として容易に連想できるはずです。敵の対象とはそういう、別の国籍や別の人種であるべきです。
そしてもう1つ、「物資不足への不満を封じた」とありますが、これだと「不満」がまず前提としてあってそれを「封じる」ということになるわけですが、ドイツ国民の不満、それも「物資不足」などといった国内の軍政下における体制や生活に対する不満は一切出てきていません。
それと比べるなら、Eは敵の対象が「アメリカ人やイギリス人」という明確な「人種」になっていますし、「戦意を高揚」に関しても、感情的に煽っていき闘争への勝利に繋げようとしたという、ヒトラーの戦略とマッチします。
ですから、Eを差し置いてDを選ぶというのは難しいでしょう。答えはどう見てもEです。

問三
「重要な倫理」という名詞語句の言い換えですから、できれば語尾が名詞であることが望ましいです。「倫理」で終わってくれればもっとありがたいです。
そして、前提としては言葉の「多義性」を失ったらまずいよ、と主張している文脈です。そして、「倫理」という言葉はここで初めて出てきました。となれば、参照するのはここより後ろです。
そして、問二で確認したように、ヒトラーの具体例は、これとは真逆である「単一性」を重視した文脈なのでそこはすっ飛ばします。すると、傍線部(7)で「道徳的な贈り物」と出てきます。倫理≒道徳、ですから、ここは非常に内容が近いところです。
するとこの次の段落にこう出てきます。
つまり、ここで求められているのは、醒め続けることであり、しっくりくる言葉を見出すまでは妥協しないよう努める責任どこまでも自分を欺くまいとする倫理である。
ここに、名詞形で抜き出せる箇所が3箇所あり、あとは字数に合うところを探せばおしまいです。
答えは、「しっくりく〜努める責任」ですね。
たしかに、道徳的に正しい言葉を選ぶというのが「倫理」だとすれば、そういう言葉を選ぶ「責任」、という内容は「倫理」の言い換えとして成立しても問題なさそうです。

問四
空欄の直前に、「最も軽視されてしまっている」というネガティブな価値判断が出てきています。その文脈で、「(  )を鳴らし」と出てきたら、これはもう「注意する」という意味の「警鐘を鳴らす」以外に出てきようがありません。
逆に、ここを読んだときに「警鐘」が出てこなかった人は、「警鐘」という言葉に出会ったことが少ないはずです。シンプルに読解の訓練が足りなさすぎるとしか言いようがありません。
このレベルの語彙を知らない人が、中央大レベルの読解問題に対応しようとするとキャパオーバーになるはずです。
そういう意味で、これが出来ても不合格になる可能性はあるでしょうが、これが出来なかった人が合格になる可能性は相当低いだろうと思わざるを得ない、そんな問題だと個人的には思います。

問五
さて、ここから本格的な読解問題が展開します。
この問題は「理由」の問題ですが、評論文の理由説明問題で最頻出と言ってもいい、2つの要素間の「因果の不足」を埋めていく問題です。これは理由説明問題の王様と言ってもいいくらい、よく出てくるんです。
今回は、「この『迷い』」がなぜ「道徳的な贈り物」なのか、と考えていきます。
「迷い」に指示語がついていますが、正直な話、「迷い」の内容それ自体はあまり気にしなくてもいいんです。それよりも、迷いがもたらす「結果」に注目すべきなんです。
直後で「これにはいくつかの意味合いが含まれている」とありますが、「迷い、ためらうことを可能にする言語を贈られている」んだ、というのは理由としては採用できません。これは「贈り物」という表現について説明しているだけで、なぜ「道徳的」なのかは分かりません。
そう思っていると次の段落の冒頭に「この迷いの感覚がとりわけ道徳的な贈り物であるのは」とあり、明確な理由説明がここで展開しています。となれば、「常套句の催眠術にかからないためのわずかな拠り所であるからだ」が押さえられます。ですが、「常套句の催眠術」はやや比喩的な内容です。「常套句の催眠術にかからない」ってどういう状態なんでしょう。そう思いながら読み進めていくと、「陶酔⇔覚醒」という対比が明確に見えてきます。また、漢字の問題で問われた「明澄」な意識、というのも大きなヒントになります。
もう少し明快な説明がほしいなあ、と思っていると、結局、最も直結する説明は問三でも拾った箇所と合致します。改めて抜き出すと、
つまり、ここで求められているのは、醒め続けることであり、しっくりくる言葉を見出すまでは妥協しないよう努める責任どこまでも自分を欺くまいとする倫理である。
という記述です。「醒め続ける」、「妥協しない」、「どこまでも」という継続のニュアンスを表す表現が3連発しています。正直言って、ポイントは明確に分かってきたもののベストな表現はないなあと感じました。(記述問題として解くなら、この箇所をそのまま抜き出して解答をつくるのは困難なように思います。)
そこで、対比を利用してください。つまり、「常套句の催眠術」や「陶酔」の状態ってどんな状態だったっけ、と、問二で拾ったヒトラーの戦略を改めて思い出してやればいいのです。感情で人に訴え、思考を停止させて単一の方向に持っていく・・・そう、「思考停止」というのが「催眠」「陶酔」の類義語として押さえられます。人によっては、洗脳とかマインドコントロールといった言葉が出てきた人もいるでしょう。要するに、そういう思考停止状態にならない=冷静に思考する、というのが覚醒状態の中身なのですから、理由説明としては、
「無数の多義語の中からしっくりくる言葉を迷うことは、覚醒している状態、すなわち、妥協しないよう思考し続けることを意味するから。」
こんな感じでしょうか。「思考」と書きましたが、「吟味」と置き換えても差し支えありません。
そして、そこまで押さえれば、「道徳的」の理由としても申し分ないことが分かるでしょう。皆さんが小学校の頃に習った「道徳」を思い出してください。「他の人がどんな気持ちになるか考えよう」、なんて課題が出されたことはありませんか。このように善悪を自分で「思考」し判断するというのがまさに「道徳」でしたよね。
さて、選択肢を見ていきますが、実は「思考」という内容を押さえているのはAしかありません。しかも、「得心がいくまで」と、継続のニュアンスまでしっかり出してくれています。
正直、この問題を消去法で解くのはナンセンスです。明確な矛盾で切れるのはBのみです。傍線部(4)の文で「表現の繊細さや豊かさを失うだけではなく、重要な倫理も失う」とありました。ですから「繊細さ」と「倫理」を筆者は区別しているので、Bは落とせます。
ですが、C・D・Eは内容的にはあまり切れません。CやEに入っている「慎重」は、「迷い」の具体的説明としては問題ありません(Eの「人を傷つけない」は、「自分を欺くまい」という本文の記述とはズレますが、それでも道徳性に直結する内容のように読むことは出来ます)。Dだって、「唯一のものでない」というのは単一化しないという観点からは問題ありません。
それでもC・D・Eが絶対答えに出来ないのは、筆者のいう「道徳的」の定義を押さえていないからです。それは間違いなく「妥協せずに」「考え続ける」ことだったはずです。「慎重」だけだとニュアンスとして足りません。よく「マークシートを慎重に塗りつぶす」と言ったりしますが、違う欄にマークしないようにと注意深く確認する時間はほんの数秒なわけで、「どこまでも」考え「続ける」という本文のニュアンスには反します。
というわけで、C・D・E(特にC)に引っかかった人を責めるつもりはありませんが、間違えてしまった人は、本文や選択肢をだらだら読むのではなくて、筆者の主張をえぐり出すために比喩表現と対比を手がかりに考えるという、攻めの姿勢が欲しかったところです。そういう読解ができないと、与えられたものをただ読んでいる、それこそただの「思考停止」人間になってしまいますよ。

問六
問五と似ていて、本文をざっくり読んでいる人からするとどの選択肢も正解に見えてしまう、そんな問題です。
例えば、「誰かですらない」という傍線部の内容を基準に、「情報の送り手を気にしない」と書かれたEを選んだ人はいませんか。他にも、「空気や雰囲気や流れ」という表現から、「その場その場の感情に流される」と書かれたAを選んだ人もいたかもしれません。ですが、核となるポイントを強く押さえ、深く理解することで、それこそズレた選択肢に「流され」ないで済みますよ。
それでは、まず文脈から確認しましょう。段落冒頭に「現在のマス・メディア」とあり、話は現代です。そして、現代においても、ヒトラーの時代のように「他者の言葉をそのまま反復する」ような場面があると言っています。そのことをうまくまとめたのが「迷いなき同調と一体化」という表現です。傍線部の「融け込み」という表現はまさにそのことを言っています。
そして、「空気や雰囲気や流れといった曖昧な何か」とは、本文の表現で言えば「重量を増した言葉」「常套句」「重量と勢いと熱量のある超え」です。つまり、誰が言っているのかよく分からないしそれが正しいかどうかも分からないけれどもとりあえず発信量が多いもの、という感じです。
とんでもない重量で我々を支配してくる。だから迷うこともなく自然とそこに同調してしまう。
そういうことを述べている選択肢はどれか、という視点で選択肢を見ます。
前半はヒトラー時代の説明なので一旦差し置き、後半の「現代」の説明だけ横に並べて見てみましょう。
A:「安直な世論が形成されつつある」
B:「人々の価値観をコントロールしつつある」
C:「いつでも煽動される状態が作られつつある」
D:「誰でもが人々を思う方向に動かせる状態になりつつある」
E:「情報の送り手を気にしない雰囲気が浸透しつつある」
実はこれだけでも答えがCなんだろうなあというのは直感的に分かります。なぜか説明しましょう。まず、述部はすべて「〜つつある」という表現で統一されています。これが傍線部の「融け込みつつある」とかぶっているのは偶然ではないですよね。そして、「融け込む」とは先ほど解説した時の表現で言えば「同調(一体化)」です。
もちろんそれを押さえたとしても一発でCに目はいかないと思いますが、それでも、A・Eがまず外せます。Aですが、そもそも「世論」がどうなるかに本文では一切触れていないことに気付きましたか。世論というのは「世間一般の意見」のことです。たしかに傍線部の主語は「我々は」となっていますが、我々が他者の意見に支配されてしまう現象そのものを強調しているのが本文であって、我々の意見がどういうものになるか、までは踏み込んでいません。そしてEは、情報の送り手を気にするかどうか、というのはここでは関係ありません。たしかにそういう雰囲気は浸透しているのでしょう。ですが何度も言います。傍線部は「融け込みつつある」ですよ。発信者を気にしない、という述部にしてどうするんですか。
残ったB・C・Dは、どれも「同調」というニュアンスを反映している点では合っています。ですが、よく見ると微差がうかがえます。BとDはどちらも能動態、Cだけ受動態で書いてあることに気付きませんか。
もちろん、文法的形式だけで答えが決まるとは言いません。ですが、少なくとも、本文の文脈的には、「重量」が支配し、そこに飲み込まれて「融け込」んでしまうという、かなり受け身なニュアンスです。従おうという意思があるのではなく、勝手に支配されてしまう、そんな匂いを感じる文脈です。
あとは、しっかりと根拠を持ってBとDを消すのみです。Bの「コントロール」ですが、主語を押さえてください。誰がコントロールするんですか? 傍線部では、「誰かですらないような」と言っています。ですが、この選択肢では、「ソーシャル・メディア・サービスが」となっています。しかもそれが、ヒトラーの時代における「宣伝省」にあたる存在として出てきています。たしかにヒトラーの時代では、宣伝省がその名の通り明確な意図を持って「宣伝(プロパガンダ)」していました。ですが、現代ではそういう明確な主体はいないのですから、選択肢Bはアウトです。
ではDはどうでしょうか。「誰でもが」自由に表現できる時代になったのは間違いありませんが、そうやって表現されたものに「支配」され、自分の意見を持てなくなってしまうというのが本文の趣旨でした。
このように本文の趣旨との厳密な照合ができれば、答えはCのみに絞られます。ですが、BやDを選ばないためには、選択肢同士を比較してターゲットを見定めるというような「比較法」の観点も外せないとなると、簡単な問題とは言いにくいなと思います。

問七
短い選択肢で構成されていますが、レトリカルな表現で書かれた選択肢も多く、やや思考を要する問題です。ある意味で今回の大問の中で一番の難問と言ってもいいでしょう。
まず、設問の要求を強く押さえてください。「クラウスの言語観」とはなんでしたか。それは最終段落で、
「誰しも自分の話す言葉に耳を傾け、自分の言葉について思いを凝らし始めなければならない(というクラウスの呼びかけ)」
と明示されています。ここを押さえずに選択肢を選ぼうとするのは愚かです。
内容的には問五・六と一緒です。他人の言葉に振り回されずに、自分で自分の言葉を吟味せよ、という話です。
その観点で選択肢を見ても、正直ピンと来るものはありません。
ですが、消去できるものはあります。まず明確に、Dは傍線部(7)の直前段落における「ヒトラー」の話で出てきた表現ですから、クラウスの重視している言語観とは逆です。まずこれを切ってください。
そして、残った選択肢は大きく二分できます。まずA・Cは「言葉」に対してネガティブな判断を下しています。一方、B・Eは「言葉」をプラス評価しています。
どちらがいいでしょうか? クラウスは言葉を吟味することの重要性を説いていました。ということは、考え続けることによって「よりよい」言葉に洗練されていくわけですから、ここはプラス評価すべきでしょう。ですから、BとDを切ってください。
残ったのがBとEですが、現実的には、消去法でEを落とすのも悪くはないと思います。Eの「灰色の現実」ってなんでしょう。これに対応するものが本文中に出てきていません。たしかに、言葉を吟味していけば、言葉の言い方一つでそれが表す現実の印象を「変える」ことはあるでしょうが、「自分の言葉を」、という内容が本文で強調されていることを考えると、クラウスが重視しているのは、言葉が「何を」表現するか、ではなく、「誰の」言葉で表現するか、です。
さて、Bの選択肢中にある「思想の母」と「召使い」の意味が分かりますか。
これが最後の関門です。
これを理解するには、本文冒頭からたどり、クラウスの言語観を俯瞰的に把握し直す必要があります。
すると、前書きに既にヒントがあります。
「言葉には思考内容などを伝達する働きと、それ自体が『かたちを成す』働きがある」
と書いてあります。ここで、「思考内容」は「思想」と同義です。となれば、前者は「思想」が先にあってそれを「言葉」が運ぶんだ、という考えです。一方、後者は、「言葉それ自体」に意味があるので、前者と対比させるなら「思想は言葉から派生するもの」となります。ここでやっと、選択肢Bの「言葉は思想の母」との繋がりを見出すことがでいました。
逆に「召使い」というのは、雑用をする人のことですから、ここでは「思想」を運ぶ手伝いをする人、ということになります。そういう手段として言葉を捉えるのって──そう、まさにそれはヒトラー的な考え方にほかなりません。本文でも、「ナチスのプロパガンダの言葉は」「『目的のための手段』以外の何ものでもない」とありました。
ここで「目的」と「手段」という対義語を使って押さえることもできることに気付きます。
つまり、言葉を思想伝達の「手段」とする見方と、言葉それ自体を「目的」とする見方があり、クラウスが肯定しているのが後者だと理解できれば、Bが答えであることも納得しやすいでしょう。
実際にこのBの内容は、クラウスが自著で述べていた言葉ですから正解であることには間違いないのですが、今回の切り取られた狭い本文の内容から直接結びつけて理解することは難しく、出題者が用意した前書きを利用するのが最も効率的だったというわけです。

問八
では最終問題です。
これまでの問題をしっかり理解して乗り越えてきた人にとっては、易しい問題です。
まず「趣旨」が問われていることを押さえてください。趣旨とは、文章の「中心」的な内容であり、その文章の中で「最も」筆者が言いたかったことです。
ですから、もう説明は要りませんよね。問五・六・七で理解してきたことをフル活用して、選択肢を判断すればいいのです。
B:「政治家に好都合な状況が生まれる」
C:「均一な社会を作り出す」
E:「昔からある言葉を大事にする」
この3つは本文の趣旨とは無関係だとすぐ分かったはずです。
残ったAとDはどちらも方向性としては同じです。そこでAとDを比較すると、Aは「多義性を切り詰める」ことの問題点を指摘して終わっているのに対して、Dはそれにプラスして「多義性」を大事にすることのメリットにも触れています。
AとDのどちらかが間違いであるならば、過剰に述べたDを間違いとしてとがめるしかないことはこの時点でも分かってしまいますが、Dの後半をよく読んでください。「独自の言葉」を大切にすることの重要性は本文中で述べられていましたが、「物事の真偽や価値をきちんと捉えられる」はなんだかありきたりな一般論な感じがしませんか。そういう情報リテラシーを論じた文章ではなかったはずです。
これって結構よくあるパターンで、本文の内容の延長上にありそうなことを出題者が捏造して作ってしまったのが選択肢Dだったのです。
粗っぽく言えば、「思考しろ、吟味しろ」が主張であり、その結果どうすべきか、どうしてほしいかについては全く述べられていない、ということです。

解説は以上です。
問五・六・七・八を完答した人はかなり精密な読解力があると言えます。ですが、実際には一問落として、プラスで漢字の問題を一問落とす──ここまでは許容範囲でしょうね。
とはいえ、第2問(古文)、第3問(漢文)がかなり易しいことを考えると、この現代文の問題はある意味一番油断してはいけない大問です。
ということは、中央大を第一志望とする受験生はみんなここをガッツリ対策して臨むはずです。
ですから、彼らに負けないように、速く正確に読解し、選択肢を処理する能力をつけるように過去問演習を徹底して行うことが重要です。
特に、抜き出し問題は正解を出すまでのスピード感が問題によっても変わりやすいので、最後に回すというのも一つの手です。
そういう「戦略的に解く」観点も忘れないようにしましょう。

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最終更新:2024年01月08日 08:15