全体講評
いかがでしたか。
文章量も問題数も少なく、問われている知識も基本的なものばかりでしたから、点数が取りやすかったのではないでしょうか。
個人的には、物凄く簡単でした。余裕で満点だったのですが、採点し終えてから「注」があったことに気付いてしまったくらいです。
とはいえ、ここまで簡単となると、高得点をとっても差はほぼつかないと言えます。
満点レベルの人が少し有利なくらいです。
逆に、ほぼ0点の人や、1問しか取れていないレベルの人は、しっかり勉強したほうがいいです。
解答
問一 ひととなり
問二 E
問三 A
問四 非レ 欲レ 禍二 子 反一 也。
問五 C
解説
さて、読んでいきましょう。
「楚の恭王は鄢陵で戦った」、これは問題ないですね。登場人物として楚の王が出てきていることを押さえます。
次の文ですが、「酣(たけなは)」が分かりません。ですが、「恭王は傷ついて休んだ」。これは分かりますね。
そして次。末尾の「これに進む」はよく分かりませんが、そこを除けば、「司馬の子反は、のどが渇いて、何かを飲みたいと思っていたところ、豎の陽穀が酒を持ってきてくれて・・・」と、意味はとれますね。
「司馬子反」がはじめ四字熟語っぽく見えていた人でも、その次の文で「子反」と出てきますから、「子反」という人物だと分かります。
そして、傍線部(1)が出てきますが、これを「ひととなり」と読むこと、そして「人柄・性格」という意味を表すことは基本中の基本です。
「子反は性格上、酒を嗜むのが好きで」と言っているのでしょう。
「之を甘しとし」「口に絶つこと能はざれば」と来ますが、まず「能」=「can」は知っておきましょう。そして、「絶つ」は「断絶」という熟語をイメージして理解しましょう。今飲んでいるお酒を口から離すことができないので、と言っています。
そして「そのまま酔って寝てしまう」というわけです。「遂に」は「ついに/最終的には」よりも「そのまま」で訳した方がうまくいくことが多いです。
そして、休んでいた恭王が復活します。
「恭王はまた戦おうとして、人に子反を連れさせた(呼んでもらった)のだが、」と来ました。なぜ逆接になるかは、この後すぐ説明しますが、それよりも、使役の句法、しっかり訳せましたか。王が、使者に、子反を連れてこいって頼んだのです。
「心痛」と来ますから、子反は戦いたくなかったのでしょう。となると、「使むるに」の「に」は逆接だと逆算できますよね。
ここは厳密には「以」という方法・手段もしくは原因・理由を表す表現があります。
例えば「描以墨」とあれば「描ヒテ墨を以テス」となり、「墨で描いた」となります。
つまり今回は、「胸の痛みを理由に( )」となります。
「王駕(が)して」はピンと来ませんが、「これを見ようとし」とありますから、子反の様子をチェックしに来たんだろうということは分かります。
そして「酒の( )聞く」、です。面白いですね。戦うように指示を受けたのに、それを無視してお酒を飲みだす始末。面白すぎます。
これは直後の「恭王はとても怒って」と綺麗に繋がります。
さて問二ですが、最初の空欄は、①王に戦うよう指示を受けた直後であること、②「心痛」を理由とする行為であること、の2点を押さえれば、「(胸の痛みを理由に)戦うことを辞退した」で「辞」が入ることは文脈上明らかです。
この段階でDとEの2択ですから、次の空欄に関しては「声/臭」のどちらが入るかを考えればいいことになります。「酒の」という修飾語で繋がることを意識すれば、「酒の声を聞いた」は変です。酒という飲み物が音を発するのは意味が分かりません。となれば、「酒の臭いを聞いた」でいいでしょう。「聞く」という言葉を聴覚以外のもので使うのは正直違和感があるかと思いますが、融通を聞かせてください。この「聞く」をlistenの意味ではなく、もう少し広く、「catch」の意味でとらえ、融通をきかせましょう。実際には、「匂いをかぐ」という意味で「聞く」という言葉を使う用法が現代語にもあったりしますが、知っている必要はありません。
さて次。「怒りて曰く」ですから、怒りながら言っているセリフであることをイメージしてください。そして、どこまでがセリフなのかを意識してください。
すると、「今日の戦いでは」「私自身が傷を負ったのだ」、「だから頼れる者はお前しかいないのだ」と来ます。
「而るに」は逆接で、「それなのにお前は→傍線部(4)」と続きます。
問三・傍線部(4)ですが、「若」には「ごとシ」と読む用法がありますから、ここは「かくのごとし」と読めます。指示語が入っていると分かれば問題ありません。
となれば、直前の内容を押さえればいいわけです。直前に出てきた子反の行為は、「酒を飲んだ」でした。ですから素直にAを選べば問題ないでしょう。
Eにも「酒」が入っていますが、「悲痛」が引っ掛けです。何か悲しいことがあったんですか? たしかに「心痛」という表現はありましたが、戦いを辞退する口実として出てきた心情に過ぎません。「悲しい」となると、それに対応する出来事が本文中に記述されている必要がありますが、全くそんなの出てきていません。こういう考え方は、小説や物語を読むときの基本中の基本です。
直後に「亡れて」とありますが、これは問三の選択肢Aの「本分を忘れて」とは無関係です。滅亡の「亡」の字が使われているのですから、「お前がこんなんだと、国が滅亡するではないか!」と怒っているのです。そして、「吾が衆を率ゐざる」は、軍隊をイメージしてしまった人も多いかもしれませんが、国が滅亡することで率いなくなるのは国民・民衆です。「国も滅亡してしまうし、人民も統治できなくなってしまうではないか。(ふざけんな!)」という感じです。セリフはここまでになります。
そして「二度と一緒に戦うことはなかった」とあります。つまり子反はあてにならん、と言っているのです。
「於是」は重要な接続語で、「ここにおいて」=「そこで」「こういうわけで」。順接・因果だと分かっていればいいです。
「師を罷めて」は注を参照すれば「軍隊を解散・撤退させて」、と意味がとれます。
そしてここから話が急転換します。
「子反を斬った」。つまり殺したわけです。「僇」は「殺戮」の「戮」とも似ていて、殺害に関係する言葉で、注を見ると「さらしもの」とあります。
いやあ、楚王が激怒するのは分かっていたのですが、処刑してさらしものにしまうとは、さすが中国、という感じです。
そして「もとから陽穀が酒をすすめていたのだが」と、冒頭のシーンを振り返る内容がここに出てきました。
嬉しいことに、冒頭2行目に出てきた「之に進む」は、「酒をすすめる」という意味だったんだとここで理解できます。
漢文でも古文でもそうですが、「に」という助詞が「を」と置き換えないと理解できないことはよくあります。
いずれにせよ、助詞を絶対視しない姿勢は非常に重要です。
そして、傍線部(5)。
問四は返り点をつける問題ですが、中学校レベルの問題です。解説は不要だと思いますが、設問条件にもあるように、返り点だけを打てばいいのですから、くれぐれも送り仮名を書かないようにしてください。
そして、設問文に書き下し文が出ていますから、それを利用して意味をとってください。
「禍(わざわい)」は現代語通りで、「災難」という意味ですから、「陽穀は、決して子反に災難を起こしてやろうとは思っていなかったのである」と理解してあげればいいでしょう。
この流れ、理解できますか。
子反が殺されたのは、もちろん楚王の指示を破って戦いに出なかったからです。そして、指示を受ける直前で子反は酒を飲んでいるわけです。酒を飲ませたのは陽穀です。となると、一見、陽穀が酒を飲ませたことに起因して今回の事件が起こった、という解釈ができてしまいます。しかし、決してそうではないよ、という文脈です。「彼が酒を飲ませたのは事実ではあるが、別に子反を陥れようとしたわけではない」と言っているわけです。
そして「心から子反のことを愛して、気持ちよくしてあげようとしたのだ」と解説されます。悪意がないことを裏付けています。
最終文は「而して」は「そして」(順接)で、「そしてたまたま殺されてしまったのだ」で締めくくられます。
最後の問五ですが、こういう最終問ではたいてい本文の結論部が問われます。
案の定、選択肢はすべて「陽穀は子反」で始まっていますから、「陽穀が子反を決して陥れようとしたわけではないのだが、子反は楚王に殺されてしまった」、と解答をつくることができます。
これに合致しているのはCで、他の選択肢は、主述関係が謝っていたり、シンプルに本文の内容と大きく矛盾していたりします。
以上となりますが、大枠を外さなければ満点以外取りようがありません。
大枠というのは、「子反が酒で酔っ払い、戦いに出なかった」「楚王が激怒して、殺した」「酒をすすめた陽穀に悪意はなかった」、この3点です。
これ以外の細部に関しては、多少誤読したとしても、解答に大きくは影響しません。
是非、漢字と最低限の句法を駆使して、大筋が捉えられるようになってください。
最終更新:2024年01月08日 12:34