解答

(A)4
(B)3
(C)1
(D)1
(E)
【解答例①】作家が書いた文字列の素材を、読者が読み、創造する営みこそが小説であるということ。(40字/三木)
【解答例②】作家が素材を提供し、読者が言語能力と想像力を駆使して小説を作り上げるということ。(40字/赤本)
(F)4
(G)イ:1 ロ:2 ハ:1 ニ:2 ホ:1

解説

(A)
「作家になるために小説を書く」。一見するとややレトリカルにも見えて、この文章を読んでいない人からしたら何を言っているのか分からない言い方になっています。だからこそ、前後の文脈から「どのような態度」なのかを補充させる問題がここで設置されているわけです。
まず直接的には、直前に「だとすれば」という順接表現があることを押さえてください。これまで述べてきたことを踏まえて結論づけるような文脈になっているのですから、直前文脈を整理していくことが基本作業になります。
そうすると、「では、何故書くのか」と冒頭から問題提起があり、さらに「起源においてはどうだったのか」「では何故書いたのか(わたしは何故小説を書いたのか)」という第二の問題提起が来ています。前者は「現在」、後者は「過去」にベクトルが向いていますね。こうした自問自答を繰り返す中で傍線部が結論として出てきていることが分かります。
そして、二度出てきた問題提起の答えを拾ってみると、それぞれ
  • 現在:「職業だから」「書いたものが貨幣と交換されうるから」(「自分の書いたものが換金されうる」という相同表現もあります)
  • 過去(起源):「いずれ自分の書いたものが商品になるだろうという期待」
と答えてきます。両者に共通するのは一言で言えば「お金」です。お金になるから書いたわけです。
以上を踏まえて選択肢を見れば、「商品」「対価」という内容が入っている4が目につきます。
他の選択肢に関して、本文不在で消えるのは2(「有名」)と5(「憧れ」)です。
1と3は、上記のポイントが曖昧だと選びかねない選択肢です。しかし、
  • 1➡「作家」に「社会的影響力」があるかどうかについて、本文中では一切触れられていない
  • さらに、「肩書を得たい」という内容は本文不在
  • 3➡「世間に認めてもらう」という内容は本文不在
です。1と3は結局、周囲の評価を意識した内容になっていますが、小説を書いた動機はシンプルに「お金」です。もちろん、お金が得られている以上は誰かの役に立っているのは間違いないでしょう。そして、誰かが評価してくれないとお金はついてこないでしょう。では、仮にそこまで深読みするとして、その「誰か」(=評価してくれる人たち)は誰でしょう? それは、本文後半に出てきた、「読者」の経験によって小説が成立する、という内容を押さえるならば、「読者」です。つまり、「読者が読みたい内容を書いたことで、その対価としてお金をもらう」と説明してあげるならば問題ありません。しかし、選択肢の1と3は、評価の主体が「周囲・世間」であり、広すぎます。一般的評価、ということではありませんから、やはり選べないでしょう。
文句なしに答えは4です。

(B)
根拠がきわめて明確な良問です。
まず、マクロな文脈として、この段落内の構成を先に捉えていくと、
「作家であり続けるために小説を書き続けている」➡「とはいえ」➡「一般に」「しばしば」【 a 】【 b 】➡「しかし」「少なくとも現在」「わたしは作家であるがゆえに小説を書いているのは間違いない」
という、逆接が二度出てくる文脈になっており、「主張➡一般論➡主張」という構成になっていることを押さえてください。
そして、もう少し解像度を上げるならば、この段落は同時に、「現在➡過去➡現在」という構成にもなっています。
つまり、【 a 】【 b 】に入る内容は一般論なのですから、一般論の書かれている範囲内から言い換えを探してくるか、主張の部分を裏返して考えるかのどちらかの方向で解答を出してやればよいわけです。

あとは、具体的に解答の手がかりを探しにいくというミクロな作業に徹するのみです。
【 a 】は正直、「『現在』を『過去』に」だけではいろんな表現が入りうると思います。視点が過去に「移る」という、逆向きの矢印のイメージが頭に浮かびますが、それを成立させる言葉は沢山あるような気がします。
しかし、【 b 】に関しては「起源」という表現が直前に主語として出てきています。「起源」は一行前にも出てきていました。そこでは「一般に起源は隠蔽される性質を持つから」とあり、ここが直接的なヒントとして使えます。
ここはいろんなイメージの仕方があると思いますが、「昔自分がなぜそれをしようとしたのかを思い出すのって難しいよなあ」くらいのイメージでいいと思います。過去のことは時が経てばぼんやりしてしまうこともありますし、現在の自分の解釈によって作り替えられてしまうこともあります。そんなイメージです。
いずれにせよ、【 b 】には、「隠蔽」に類する否定的な表現が入ることは明確です。
そこで選択肢を見ていくと、直接的には4の「秘匿」が「隠す」という意味では類義表現ですが、これは「情報」を隠すときに使われやすい表現で、ここで使うのはなんだかなあ、という感じがします。
そこで3でどうだろう、と考えてみると、「捏造」(でっちあげる)はもちろん問題ないですし、aの「遡及」(さかのぼる)というのも「現在を過去に」という修飾語に綺麗にリンクし、問題ありません。現在から過去に戻っていくイメージをうまく表現することに成功しています。
一方で、4の「累積」だと、「現在」を「過去」に「累積」する、となるわけですが、イメージしてみるとおかしなことになります。今のことで頭がいっぱいで昔のことなんて考えられないよ、というニュアンスになりますが、そもそも「現在」が「累積」されていくってどんな現象なのでしょうか。そんな独特な現象をここでわざわざ表現する理由がありませんし、変に深読みをする必然性もありません。余計なことは考えず、素直に3を答えにしてしまえばいいのです。
(自分の選んだ答えには根拠をもつという、至極当然のことを普段から徹底してください。)

(C)
「なぜか」と理由を聞いていますが、まずは傍線部に指示語が入っているのでそれを押さえるところからです。
「そうではない」というのは、直前の「倒錯であろうか」に対する解答ですから、「倒錯ではない」ということです。つまり、具体的に言えば、
「小説を書くから作家なのではなく、作家だから小説を書く」というのは「決して倒錯ではない」
ということになります。
ここで、「ではなく」という否定表現を境目にして2つの要素が対比的に並んでいることに誰しもが注目できます。そして、「倒錯」とは「ひっくり返る(転じる)」ということですから、そのニュアンスも出して言い換えるならb,
「小説を書くから作家」という考えだったのが「作家だから小説を書く」という考えに転じたわけではない
と筆者は言っているのです。
これだけだとまだ意味が判然としません。そこで、傍線部直後を見てみると、
「もし倒錯にみえるとしたら、作家と小説の関係こそが倒錯しているからです。作家は・・・。小説とは・・・」
と展開されており、「作家」と「小説」の定義が始まっています。
ここを読めば、筆者が「小説ははじめからあるのではなく、読者との共同作業で創造されていく出来事だ」と小説を定義していることに気付きます。
つまり、「小説」ははじめから存在するのではなく、あとから出来るものなのです。
もし「倒錯」と捉えてしまうと、「小説を書くから作家だ」という、「小説」が先天的に存在しているという考えがもともと存在していることを認めてしまうことになります。
しかし、筆者としてみれば、「小説」なんていうものは先天的には存在していない➡だから「倒錯」もくそもない、ということになるわけです。
この論理を押さえるのは難しかったかもしれませんし、僕はこの問題は最後に回しました。
(曖昧な理解・解像度で選択肢を見てもろくに判別できないからです。他の問題も解いて、総合的な理解を深めてからあたったほうがこういう問題は正解しやすいです。)

さて選択肢です。
まず消去できるものはないかと見てやると、2の「芸術作品」、3の「特殊な才能」、4の「能力を証明」、このあたりは上記で押さえたポイントからは外れるので真っ先に落としていいでしょう。
一方で、1と5に関しては、「小説」が本来「読者」との経験によって成立するものである、という筆者の定義を踏まえた説明になっているので、その点で残せます。
あとは細かく吟味するのみです。
1は、「小説」ははじめから存在していて、「書きたいこと」さえ書けばいい、という考えを否定的に見ているのは本文の文脈通りであり、大きな傷はありません。「小説が何なのか、という根本を分かっていないから」という書き方です。
一方、5も、大きな方向性は1と一緒ですが、気になることが2つあります。
  • 「自らの内面に閉じこもっている」がよくわからないし、これに対応する表現も本文にない
  • 「その点を誤解した作家」とあるが、「誤解」の主語は一般の人でいいはずで、「作家」と限定する必要はない
こうした理由で5は正解にできません。
5の末尾の「・・・こそ、倒錯と呼ばれる」という表現は、傍線部直後の一文と非常に類似していますが、これは出題者が意図的に引っ掛けるために仕組んだことであって、こういうのに引っ掛かってしまうとなかなか高得点は狙えません。
答えは1です。

(D)
マクロに見てみると、空欄を含む文は、一般論を否定する文脈となっています。筆者の明確な主張・定義が表れるのは傍線部(3)の文からであって、そこまではずっと否定続きになっています。

あとはミクロに見ていきましょう。
  • 「作家は自分の書いた小説の【 c 】ではもちろんない」
  • 「実は【 d 】ですらない」
と書かれており、どちらの空欄にも「作家」の捉え方に関する一般論が入りますが、細かく見ると、【 c 】は、「もちろんない」という表現があることから「否定されるのも理解できる(否定されうる)一般論」が入ります。一方で【 d 】は「ですらない」という表現があることから、「かなり誰もが信じているような一般論」が入ります。「そう思って当然、それが絶対だと思っているかもしれないけど、実はそれも違うんだよ」、という感じです。
このように一般論の中のレベル感が両者で異なっていることをイメージしてください。

そして、2つの空欄のうち圧倒的に答えが決まりやすいのが【 d 】です。なぜなら同じ空欄がもう一度出てきているからです。
  • 「小説と呼ばれる文字の集積をどこかに書き記したのはたしかに作家である。その意味で作家を【 d 】と呼ぶのは慣用的には間違っていないが・・・」
と書いてあります。
「その意味で」という順接文脈になっているので、直前が大ヒントです。そこには、作家のやったこととして「文字の集積をどこかに書き記した」という内容が明記されていますから、これを踏まえて選択肢を見てやれば、1の「作者」か2の「書き手」の2択で、それ以外は選びようがありません。
そして、両選択肢ともにcは「所有者」で確定されているので、もうcを検討する余地はありませんし、作家が小説の所有者であるというのは一般論としては納得できます(しかも否定されうる一般論であるというのも分かります)。
そこで、「作者」と「書き手」のどちらが正解なんだろう、というのを考える基準を本文の別の箇所から手に入れてくる必要があります。すると、この文章では「作者」という言葉はほぼ出てこないのですが「書き手」という言葉については何度も出てきます。この段落の末尾で、
  • 「小説は書き手と読みての共同作業として成立する」
とあり、筆者は「書き手」を、小説を成立させる要員としてここに漏れなく入れているのですから、それを「ですらない」と否定してしまうのはアウトです。
よって、答えは1です。
人によっては、「慣用的には間違っていない」という箇所だけ見て、慣用的な言い方としてはどっちだろう、と考えた人もいると思いますが、それだときわめて脆弱で曖昧な手がかりをもとに判断してしまっていると言わざるを得ませんし、そういう解き方をする人って、言ってみれば「どうせはっきりと答えなんて決まらないようになっている。現代文なんて所詮そんな科目だ」という諦めの声を発しているようなものなんです。そんなんで高得点は取れません。本当にその大学に入りたいと思うのであれば、出題者=大学教授を信用すべきですし、客観的な手がかりによって答えが得られるように作られていると「信じる」姿勢が大事だと思います。

(E)
記述問題です。
出題者の意図は分かりやすく、指定字数もそんなに厳しいわけではなく、書きやすいほうだとは思いますが、設問の要求が少し分かりにくかったという人もいるかもしれません。
設問の要求は、「『わたし』が『出来事』と言っているのはどのようなことか」となっており、主語は「小説とは」です。したがって、「小説」というのがどんな「出来事」なのかを押さえて、「〜こと。」とまとめてあげればいいのです。(もちろん、「〜する。」という用言止めでまとめても「出来事」の説明になっているのであればそんなに大きな減点にはならないとは思いますが。)

そこでポイントを探していくわけですが、ここで大事なのはどう見ても「対比」です。
小説を「文字の集積」であるとする一般論と、小説は「読者(読み手)」との「共同作業」であるとする主張が対決している文脈になっています。
これを踏まえていれば基本的には問題ありません。

ですが、ベストな表現を引っ張ってくることを考えるならば、ここからさらなる吟味が必要です。
例えば、
「文字の集積そのものではなく、書き手(作家)と読み手(読者)との共同作業こそが小説であるということ。」
このように「共同作業」という言葉を入れて解答を作った人もいると思いますが、それが具体的にどんな作業なのかを明記したほうが、「出来事」の説明としてはよりよい説明になると思いませんか。

では具体的にそれを入れよう、ということで、
「文字の集積そのものではなく、読者がそれを読み、作り上げたものが小説だということ。」
とした場合、どうでしょうか? たしかに、小説が「誰かの読書の経験のなかで」「作られる」ものであることに間違いはありませんが、これだけでは「書き手は何をするの?」となってしまいます。
あくまで「共同作業」なのですから、書き手も読みても対等になにかを作業していなければなりません。

とすれば、小説が「文字の集積」であるという一般論を否定形で書くのではなくて、「文字の集積」を「提供しつつも」、という並列・追加型にしてやり、「文字の集積」を書き手が提供したことを「出来事」の一部として構成するような書き方にしてあげたほうが、共同作業であることを示すにはいいわけです。
そこで、解答には「作家」と「読者」を両方必ず入れることが必要条件になってきます。
「作家」の営みとしては、長く言えば「文字の集積それ自体」ですが、「インクの染み」「活字の列」「文字の列」「素材」など、相同表現がいくつも出てきているのでうまく選択して、端的にまとめて使ってください。
そして、「読者」の営みとしては、「経験」によって小説を「作り上げる」ということが言えていれば十分ですが、字数に余裕があれば「言語能力と想像力を駆使」という内容も入れていいでしょう。
このあたり、「作家」の説明とどうバランスをとるかによって使う表現も変わってくるところですが、どちらでやるにしても、「読みて」が行うのはそこから何かを「作り上げる」ことなわけですから、そこは絶対外さないことがポイントです。
解答例は2つ載っており、両者の間で解答の構文が異なっていますが、ポイントは押さえられていることが分かると思います。解答の構文にこのような差が生じるのは設問要求の分かりにくさや解答条件が少ないことに起因しますが、それでもポイントを押さえていればある程度一定方向に解答は収束されていくわけで、だからこそ客観的な基準での採点も可能になるわけです。
どう書けばいいか、どうまとめればいいかが難しかった人も、細かな構文にとらわれすぎず、本質を押さえて最低限のポイントをベストな表現で盛り込もうという意識で取り組んでみることで、試験時間内でしっかりと点数のとれる解答を着実につくることができるようになるかと思います。

(F)
「正当な態度」に傍線が引かれており、理由が問われていますが、そもそも「何が」正当な態度なのでしょうか。主語を補っていくことがこの問題を解くうえでの出発点になります。
すると、「自分が読みたいと思うものを自分で書く」ことが「正当な態度」だ、ということになります。
そして、ここには一見すると飛躍を感じます。
なぜなら、読み手の存在を意識していないように見えるからです。
しかし、そこを、筆者の定義・主張に即して説明することで、飛躍の解消を図るわけですが、この段落を改めて読めば、そんなに難しいことではないでしょう。
  • 「誰かが読みたいと思うものを書く」のが「作家」だ
  • 「誰かとは作家本人でもよい」(=読み手は自分でもいい)
と言っています。この2つが合わさることによって、三段論法のように傍線部が説明できていきます。
つまり、「自分のために書くとはいえ、自分を読み手として意識するならば、書き手と読み手の共同作業であるという小説の条件を踏まえていることになるから、正当であると言える」というわけです。

こうした論理を踏まえている選択肢はどれだろう、と見てやれば4しかありません。特に末尾の「読み手を兼ねることが可能」という箇所が非常にいいですね。「書きたいことを書く」だけだと「読者」を意識していないことになるが、「読みたいと思うことを書く」ならば「読者」を意識することになるよね、と言っているのです。
他の選択肢は、「成功」「最大限の満足」「他者の読みたいこと」「納得の行くまで追求」など、とんちんかんなことばかり書いてあります。消去するまでもありません。

(G)
内容一致問題です。
非常に平易で判断しやすい選択肢ばかりで、本文に戻らずとも判断できるものばかりでした。
一応、順番に見ていきます。

イ。「動機に関しては明言をためらっている」というのはその通りで、【 a 】の直前あたりで「断言を避けるのが無難」という内容がありましたね。1。

ロ。「小説は読者のうちでしか完成しない」、この時点でバツです。「しか」という限定表現が出てきたら立ち止まる癖をつけるといいでしょう。筆者は、小説を「書き手と読み手の共同作業」だと主張していましたよね。2。

ハ。漱石の具体例になっていますが、なんであれ小説は読者とともに作り上げていくものであり、そういう趣旨になっている以上、問題のない内容です。1。

ニ。「労苦」と「喜び」の比較がまず本文不在ですし、「対等とはいえない」なんて一言も言っていませんでした。2。

ホ。「書きたいことを」書く、というのは筆者がまさに否定していた内容です。「怠慢の謗りを免れない」というのが言い過ぎなんじゃないか、と思った人もいたかもしれませんが、「怠慢は到底許されるものではない」と明確に言及されています。そこをチェックせずとも、筆者の定義から外れる現象を「怠慢」と攻撃することにはなんの問題もありません。1。

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最終更新:2024年01月16日 15:10