【設問の特徴】
問1=3問中2問が「文脈判断」を要するもので、(ウ)は相同性の発見が鍵。
問2=「事実上の指示語」を把握する、平易な評論型問題。
問3=根拠が薄く、選択肢が作りすぎであるセンター小説至上最強の「悪問」。
問4=1ポイントで決まるが、解答の方針をやや定めにくい問題。
問5=実質1ポイントで決まる易問。
問6=いつも通りの問題。
※この年度のセンター試験は非難轟々だった。
【解説】
問1
(ア)「固唾を呑む=事の成り行きが心配で、緊張していること」なので、以下のように選択肢チェックが出来、③が答え。
①:「声も出ないほど」○、「恐怖」×
②:「何もできない無力さ」×
③:「張りつめた様子」○、「心配」○
④:「驚き」×、「期待」×
⑤:「緊張した面持ち」○、「不快」×
(イ)選択肢を見ても分かるように、これは文脈把握を要する問題である。前の文に「糊は、いつも乾かさないように(=ラベルが完全に剥がれないように)注意している」とあるのだから、「不都合を察知」したときに取る行動は、当然、「ラベルを剥がすことをやめる」ことである。それを踏まえれば以下のように選択肢チェックが出来、④が答え。
①:「威厳を奪いとる」×
②&③:「互いを」×
④:「復帰させる」○
⑤:「級友に認知させる」×
(ウ)「現在進行形=物事が現在行われていること」なので、1つ前の文の「現在は、現在【のために】だけ存在する」(ポイントa)という箇所と対応するはずである。それを踏まえれば以下のように選択肢チェックが出来、②が答え。
①:「未来のために」×
②:「現在を生きること自体が【目的】である」○
③:「現在が現在のままであり続ける」× (「のために」のニュアンスがない。「現在進行形」を文脈抜きでそのまま解釈した、引っかけの選択肢。)
④:「未来に向けて」×
⑤:「未来が現在の困難を癒してくれる」×
問2
まず「賢い子供たち」を置き換えるが、これは、「ラベルの扱い方を知っている人」のこと。そして、事実上の指示語とも言える「前者」と「後者」の内容を拾えば、それぞれ「鈍感さ」と「依怙地さ」に対応することが分かる。「鈍感さ」とは、ラベルの扱い方を「知らない」こと、もっと言えば、「先生に好かれるか嫌われるかということに対して無頓着」であることである。一方、「依怙地さ」とは、「威厳のある教師に逆らうほどの意地を持っているために、ラベルの扱い方を知ろうとしないこと」である。以上を踏まえれば、以下のように選択肢チェックが出来、⑤が答え。
①:「教師を喜ばせるための秘訣を知っている子供たち」○、「クラス内で自分の地位を向上させようとしない子供」×(意識的な行為の選択であるという含意を伴うものなので「鈍感さ」とは矛盾する)、「教師の言うことを聞かない意地っ張りな子供」○
②:「クラス内で安定した地位を占めることができた子供たち」○、「自分たちに媚びる子供」×、「頑に自分たちに反抗する態度をとり続ける子供」× (教師との関係について触れていないからダメ)
③:「自分が教師よりも利口だと思っている子供たち」×、「無神経に教師の領域を犯してしまう子供」×、「いつまでも子供らしいままでいようとする人間」×
④:「学校での生活を快適にするための術を心得ている子供たち」○、「表立って教師に逆らうような子供」と「クラスの連帯意識の重要性に気がつかない子供」の順番が逆。
⑤「教室の中でうまく立ち回るための知恵を身につけている子供たち」○、「教師との関係に対して不器用な子供」○、「自己主張を曲げない子供」○
問二、事実上の指示語の問題なのでここは落としちゃダメ、と強調したうえで解説してあげると良いのではと思っています。選択肢については若干切りにくい気もするのですが、①の「自分の地位を向上させようとしない」は、意識的な行為の選択であるという含意を伴うものなので「鈍感さ」とは矛盾するように思います。そこで切れますね。④は「表立って教師に逆らうような子供」がbで、「クラスの連帯意識の重要性に気がつかない子供」がaなので、実はポイントは押さえているのですが、述部の「見下し」と「排斥」とが逆、つまり選択肢全体として「前者」と「後者」の内容が逆になっているため切れる選択肢です。
問3
「本文全体の内容を踏まえて」とあるので、本文を読み終えてから解くのが確実であるが、この傍線部周辺でもチェック出来ることがいくつかあるので、その点を確認する。そもそも、「彼が何を証明したいのか」という疑問を子供たちが持つに至ったのは、どうしてだろうか?それは当然、その直前までで述べられているように、「秀美」が「教師に逆らう」という「事件」を起こし、その中で「何の役にも立たない勇気を意味なく誇示しているように思われた」からだ。このことから、傍線部は「彼は、何のために勇気を誇示し、教師(担任の奥村)に逆らうのか」とも変換可能である。
そして、この段落では、「彼が、何を証明したいのかを理解する」ことは困難であるという結論になっている。従って、この先の内容を読んでいくことでポイントを拾っていく必要がある。その意味で「本文全体の内容を踏まえ」ないといけないのである。そうすると、第6段落以降、秀美にとって「素晴らしい教師」であった「白井教頭」の回想シーンが展開され、その中で、白井教頭から「死」の意味を教わっている。こうした「素晴らしい」教師のイメージが秀美の頭の中に残されているのだ。
このことを踏まえれば、秀美は、奥村と白井がどう違うのかを確認しようとして、奥村に反発したと言える。
問三について、実はこの問題、林先生のセンター対策(冬期)で問二だけ扱われたことがあるのですよね。そのとき問三については悪問とコメントしていたことがあり、まあこれについては落としても仕方がないかな、という部類の問題だと思います。じっさいこの問題について言及している本を二冊ほど見たことがありますが、選択肢を見ずに解こうと思ったら多少の飛躍が必要ですし、見ながら消去法で解かざるをえない部分があると考えています。
まず、何かについて「証明したい」わけで、今どういう場面かといえば、秀美と奥村の対峙です。この対決を通してなんらか「証明したい」ことがあるわけで、それはまあ、あくまで「奥村について」、何かを「証明したい」と考えていると捉えるのが妥当だと思います。(もちろん④の選択肢などのように、具体的な対決を通して、抽象的な原理原則を証明したいと考えることもできなくはないと思うのですが、そう読むよりは具体的な対決を通して、具体的な事例についての何かを証明したい、と考えるほうが、「飛躍」は小さいと考えます)
そのうえで、奥村についての話題を含んでいる選択肢は、②③⑤に絞られます。ここから、後半の回想を踏まえて②の「血の通った人間として」は恐らく白井教頭との「血」のエピソードを踏まえた選択肢の書き方なので、それで選べなくもない気がしますが、一応消去法的に見ていくと、③は「都合のいいときだけ〔…〕歩み寄ろうとする」が?or× 「正当な行為だということ」を証明しようとしたばあい、「奥村についてのこと」を証明したいわけではなくなるため、× ⑤の「わざと自分を見くびらせて」は、第七段落の叙述と矛盾します。「自分の考え方を浸透させるため」程度の「うわべのたくらみ」であれば、子どもたちは見抜けてしまいますし。万が一「うわべのたくらみ」でありながら見抜けない程度に「見くびらせている」とすればそれは白井教頭と同じような教師ということになり、物語に強く通底していると思われる対比と整合性が保てなくなるので。(もう少し上手い説明があるかもしれません)
問4
まず、傍線部前後の文脈として、
秀美が「先生は、(生死の違いを)どう思うんですか?」ともどかしそうに尋ねた
↓
白井が、「微笑を浮かべ」、「腕を出した」
↓
「生きてる人間の血」が「味がある」「あったかい」ものであることを秀美に伝え、生死の意味を理解してもらった
という流れは最低限把握する必要がある。
その上で、この問題は心情を問う問題なのだから、なぜ白井が「微笑を浮かべ」たのかということについて考える必要がある。直前に「すると」という順接の接続語があることを考慮すれば、根拠として拾えるのは、秀美が「もどかしそうに」(ポイントa)尋ねた、という箇所のみである。そこから論理的に考えていけば、「もどかしそうに尋ねてきた秀美の気持ちに答えてあげる」ために「微笑を浮かべ」たということになる。このことを根拠にすれば、以下のように選択肢チェックが出来、①が答え。
(「a○」とした箇所がポイントと合致の箇所であり、その他の「○」は単に「本文内容と一致している」箇所である。)
①:「秀美には自分の中に興味や疑問が生じると性急に答えを求めたがる傾向がある」a○(=「もどかしそう」)、「好ましく思いながらも」○(=微笑)、「秀美のこころのはやりをなだめ」a○(はやり=もどかしさ)、「一緒にみんなで考えるきっかけをつくろうとする」○(傍線部以降の流れからOK)
②:「心臓や呼吸が止まっただけでは人間の死とはいえないという話をした」○、「子供たちの表情はそれまでにない真剣なものに変わった」×(それまでとの比較・差異が明示されていない)、「そこで」×、「子供たちに人間の生命の大切さを理解させようとする」△(「大切さ」は読み取りづらい) 〔「秀美」についての記述がない〕
③:「子供たち自身でものを考えるように会話をしむける」○(「きみたちは、どう違うと思う?」以降の流れよりOK)、「とりあえず」×(白井が「子供たちと同じ視線でものを見てみたいという、純粋な欲望」を持っていることと矛盾)、「秀美だけは納得がいかない表情」△(「だけ」かどうかは判断しかねる)、「わざと彼の勇気を試すようなものの言い方をして挑発する」×(「微笑」の意味を捉え間違えている)
④:「いいかげんな理屈ではぐらかすわけにはいかない」×(ここまでの責任感は読み取れない) 〔「秀美」についての記述がない〕
⑤:「好奇心が旺盛なくせに、普段は子供たちの仲間に入っていけない秀美」×(これは現在の奥村先生の学級での話)、「人と人とが深く関わっていくことの楽しさを教えようとする」×
問5
文脈を確認すると、「白井の腕に噛みついた」「秀美」が、「あったかく」「変な味がする」「血」を感じ、そんな中「白井」から血には「味があ」りかつ「あったかい」という話を聞き、さらに「あったかい血はいいけど、温度を上げ過ぎると、血が沸騰して、血管が破裂しちゃうんだぞ」という言葉を受けて、それに「曖昧に頷い」ている。また、「血の味を何度も反芻」しながら、「味のある血」という言葉の重みを改めて感じた。そうしているうちに、その血の「あたたかさ」を「いとおしくさえ思っ」たのだ。
以上の把握を踏まえれば、「いとおしさ」について、少なくとも、
①「味のある血」に対する心情である
②「生死の違い」(=「味のある血」が象徴しているもの)を感じたことが「いとおし」い
といった情報は掴めるはずであり、それを踏まえれば以下のように選択肢チェックが出来、⑤が答え。
①:「自分はいままで親しみを持てる教師と出会うことがなかった」△(明示されていない)、「いつも孤独だった」×(明示されていない)、「白井によってはじめて生きるということの意味を教えられた」○、「素晴らしい先生との出会いの感動をいつまでも忘れたくない」×(「生死」「命」に関わる内容になっていない)
②:「はじめて自分がいかに学校内で先走った態度をとっていたかを思い知らされた」×(飛躍しすぎ)、「こうして新たに成長した自分を大切にしようとする」×
③:「人間はみな平等なのだということを悟った」×、「その感動を、記憶にとどめたい」×
④:「白井だけは」×(限定)、「そんな白井の存在をいつまでも身近なものとして感じていたいと思慮する」
⑤:「しだいに生きていることを実感させる味へと変化してきた」○(「生涯、忘れることはないのではないか」とも直前で言っているので問題ない)、「生命のもっているあたたかさにふれた喜びを大切にしたい」○
問五、自分は文脈的にこれが秀美のなかで血に対する感覚・心情が変化した箇所に傍線部が設置されていることから、「血」についての内容が含まれていて、「変化」を押さえている、という二段階でチェックして⑤を選びましたが、それでも間違いではないのかな、という気もします。
問6
①:「教師にうまく対応できる微妙なバランス感覚にすぐれた子供が優越感を抱き」○、「子供本来のあり方から逸脱するものとして批判的にとらえる」×(そもそも、そういう自分が疎外されている状況に対する批判的なコメントは本文中にない。周囲との差異を「自覚」していた、とは書かれていたが。)
②:「くだらない教師たちとの出会いを身の不運と考え、教室の中ではそれを甘んじて受け入れようとしながらも」○(=6段落目「それまでは、どのような困難も甘受するのが、子供の義務だと、彼は思った」、「思わず血を沸騰させて(激怒して)」○、「回想場面を交えながら」○
③:「大人のやり方をまねて」×
④:「教師の権威に屈服しつつ集団の連帯意識を強めようとする子供たちの世界」○、「未来のために越えていかなければならない堤防のようなものと考えていた」○、「周囲の人々の愛情に支えられて」×(時系列がおかしい。本文の6段落目では、母親に「過去は、どんな内容にせよ、笑うことが出来る」と言われ、「自分の現在は、常に未来のためのものだ」と考えるに至っているのであるが、この選択肢では「愛情」が後に来ているので誤り)
⑤:「子供たちの連帯意識からはじきだされる孤独感には無頓着」×(5段落目より、秀美は「孤独」であることを「自覚」していた)、「自分自身の信念にもとづいて独自の立場を堅持していこうとする」○(6段落目の途中の「彼は、そう自分に言い聞かせる」)、「具体的なエピソードを通して」×(白井の話は、あくまで「素晴らしい教師」の例として出てきたもの)
【生徒の反応】(授業後のコメントです)
◎牛乳プリンさん
誤答について感想戦
問い1(う)まだ現在だと思ったので2。実際は予感の続きだった。
問い2 機嫌とれる・とれないの対比だと思ったので2。
問い3 全くわからなかった。5・6段落を無理矢理根拠として4を選んだ。
問い4 1の赤マーカーがいまいち。もどかしさがはやり等と一致しなかった。3でもつじつまが合うと判断。3のとりあえず はわからなかった。
問5 正解できた。
問い6 5を選んだ。選択肢の最初の「孤独感には無頓着」が切れなかった。
最終更新:2023年11月27日 02:40